懐かしい夢 前編
「二人とも泊まっていっていいのよ?」
「ううん。俺達二人で大丈夫! だよな?ユウキ」
「うん!」
隣のおばさんにそう言って夜ご飯のお礼を言って家に帰る。
いくらうちの両親の親友だとはいえ、あまりお世話になってばかりいるのは気が引ける。
俺もユウキもそれなりに成長したし、自分達の事は自分達でやらないと。
まだ、料理はインスタントくらいだけど…。少しずつはやってるから、そのうち上達するはず。
「アスカ兄ちゃん、早く続きやろ!」
ソファーに座ると、さっそくゲーム機を取り出すユウキ。
「そうだな。素材集めて装備作らないと…」
最近俺たち二人がハマってるゲームを始めることに。
前回母さん達が帰ってきた時に頼んで買ってもらったんだよな。
「まずは武器か?」
「防具でしょ! 攻撃に耐えられないと意味なくない?」
「いや、攻撃に当たらなければ良いだけだろ?」
「そんな無茶な事したくないよ」
ユウキと、どのクエストへ行くか相談していた時だ。突然、俺とユウキの下に変な紋様が浮かんで光りだした。
「何これ! 兄ちゃん!」
「ユウキ、落ち着け。大丈夫だから」
パニックになるユウキを見て逆に落ち着いた俺は、根拠もない”大丈夫“をユウキへ告げる。
内心は何が何やらわからず混乱していた。
だけど、俺はユウキを守らなきゃいけない。ユウキには今、俺しかいないんだから。
「兄ちゃん!」
泣きそうなユウキの手を掴んで、どうなるのか想像もできず、光る紋様の眩しさで咄嗟に目を瞑る。
「なんなんだよ! くそっ…」
ーーーー
ーーー
ーー
「申し訳ありません。突然お呼び立てして…。 ようこそ勇者様。 悪い魔神を倒し、私達の世界を助けてはいただけませんか…? えっ…そんな…」
なんか今、女の人の声がしなかったか?
眩しさから視力が回復して、最初に目に飛び込んできたのは…
「誰だよ!」
見慣れない服…ドレスか?フワッフワの服を着た…多分美人なんだろうけど今はどうでもいい。
そもそもピンク色の髪とか、ロックバンドかアニメくらいでしか見ねぇよ!
「…兄ちゃん?兄ちゃん! ここどこ!?家じゃないよ!」
「ユウキ、俺はここにいる。落ち着け」
泣き出しそうなユウキをとりあえず抱え込む。何なんだ…何処だよここ。
さっき声をかけてきた女の人以外にも数人いるけど、どいつもこいつも見たことのない服を着てるし、ゲームみたいな鎧を着て武器を持ってるやつまでいやがる。
どうなるんだよ俺達…。
「…ソレが勇者だと?ただの子供ではないか。 ハッ…異世界からの勇者召喚とやらも当てにはならんな。やはり相手にもならん。とっとと身を引いたほうがお前の為だぞ。 行くぞお前達!」
「はっ…」
今アイツはなんて言った?異世界?勇者召喚? というか感じワリぃ…なんだよアイツ。
金色の長髪をなびかせた、スカした男を先頭に数人が部屋を出ていった。
「兄がすみません…」
この人は悪い人ではなさそうか?本当に申し訳なさそうな顔をしてるし…。
「うわっ…すごい美人…」
たしかにそこは否定しないけど、さっきまで泣きそうだったのに立ち直り早いな。
それから例の美人さん…名前を名乗ってくれたけど、アルストロメリアって長くて…メリアと呼んでほしいと言われたからそうする事に。
俺たちも名乗る。
落ち着いて話せる場所へ行きましょう。と、案内されたのは、やたら豪華な部屋。成金趣味かよ…。
まぁそれはいいや。
「メリアさん。説明してもらってもいいですか?」
「はい…。 今、我が国は魔神の率いる魔族と魔獣の驚異にさらされています。それを阻止して頂く為に、古の儀式を行い、勇者様の召喚を行いました」
「それで、呼ばれたのが俺達だと…」
「はい。まさかこんな幼い子達を呼んでしまうとは思わず…本当に申し訳ありません…」
「幼いとか言うな。これでも俺は13だ」
日本人は海外だと幼く見られるとか聞いたことあるけど。異世界でもかよ…。
「やはり…まだ成人前でしたか…。本当に申し訳ありません…」
「それより、俺達は帰れるのか?」
「はい…ただ、儀式の準備に時間がかかりますので、それまではこの城に滞在していただく事になりますが…」
「城?」
「はい…ここはラナン帝国の帝都、その中心にある城です」
国の名前も聞いた事ないな。
いや待て…帝都の城?
「まさか、メリアさんはお姫様とかそんな感じの人?」
「はい…ラナン帝国、第一皇女です」
「えーっと…話し方とか失礼だったらすみません」
「え?いえ、お気になさらず! アスカ様とユウキ様はこちらが一方的にお呼び立てした勇者様ですから! 楽に話して頂いて結構です」
「そうならいいけど…後から怒られたりしない?」
「ふふっ、大丈夫です。この城で私に意見できるのは父上や兄上など数人くらいのものですから」
「兄ってさっきの感じワリぃやつか…」
「すみません…現皇帝である父上が床に臥せられてから、後継者争いでギクシャクしていまして…」
メリアさんが言うには、今回の魔神騒動…それを上手く収めた方へ皇帝の座を譲ると。
そのせいで、皇女派閥と皇子派閥に国そのものが真っ二つに割れてるらしい。
現皇帝、無能かよ…。魔神の驚異が迫る真っ最中に国を分断させるような事するなよ。
メリアさんの母親は、生まれ故郷の隣国へ帰ってる時にこの騒動で、無事かさえわからないと。
無事だといいな…。うちも両親とほぼ離ればなれだから、少しは気持ちがわかる。
「ですが…それが本当に父上の真意なのか私は疑っています」
「それはどういう?」
「父上が臥せられてから、私達はお会いする事も許されず、治癒師も兼ねている宰相のみが父上と面談して指示を仰いでいるのです」
「なるほど…だから真意かわからないと」
「はい…このような時に国を分断させる様な指示を、あの父上がなさるとはとても思えません…」
皇女はそこに違和感を感じているのか。
「病のせいで…とも考えられますが、私はあの宰相が信用できないんです…」
「兄の皇子様はなんと?」
「後継者は自分だ、さっさと身を引け、とだけ…。実際、兄の派閥のが規模は大きいので仕方のない事なのですが、父上の真意がわからないまま引いてしまえば取り返しのつかない事になりそうで…」
引くに引けないってことか…メリアさんも大変なんだな。
皇子の方は派閥の騎士団を強化して魔神へ対処するらしい。
メリアさんは魔剣士団が派閥にいるのだけど、そもそも数が少ないと。
「魔法と剣、両方扱える者は稀なんです。それに…トップがあの人ですから」
トップがやべぇヤツなのは、もうなんとなく分かった。
「兄ちゃん、どうするの…?」
出された異世界のお菓子をずっと食べてたユウキが心配そうに聞いてくる。
どうしたものか…皇女はこのまま返してくれる気でいるみたいだけど、そうなったらこの国は…。
あの皇子が魔神を倒すならそれでいいのかもだけど。
「…兄ちゃん。 僕、戦うよ。勇者になる」
「はぁ?マジで言ってんのか?」
「うん! ゲームみたいじゃない?」
それは確かに思ったけど…。いまいち現実味がないし。
「無理なさらないでください。幼い貴方達を戦わせるような事…私は…」
あぁ…もう! これ絶対、こっちの皇女が後を継いだ方がいいよな?
皇子が感じ悪かったのも勿論あるけど…。俺はこの人を信じたい。
「ユウキ、本当にやるか?」
「うん!」
「そういう事なんで、任せてください」
「…良いのですか?無理なさらないでくださいね?」
「こうやってこっちへ呼ばれたのも何かの縁だし、やれるだけやってみる。それでダメならその時は言うよ」
「わかりました…。ありがとうございます。 では、勇者様の適正とステータスのチェックを行いますので、ついてきてください」
「ステータス! 兄ちゃんすげー。本当にゲームだよ」
「ユウキ、落ち着け。 どうするんだよ…もしザコステータスだったら」
「…泣く」
「泣くなよ!」
メリアさんに連れられて、何やら薄暗い個室へ。
さっき話してた部屋にもいたけど、ずっとついてくる騎士が怖ぇんだよな…。あの槍とか本物だろ?
やたらピリピリしてるのが伝わってくるし…。顔は見えないけど、体型からして女の人だとは思う。
「こちらの石版に触れてください。ステータス、スキル、適性などが表示されますので…」
「やるー!」
まずはユウキが石版に触れる。
表示されるステータスはまんまゲーム。 ただ…数値を見ても高いのか低いのかわからないんだよな。
「適正は剣士ですね。スキルは翻訳スキル…称号に召喚者、勇者…間違いなく勇者様ですね! 良かった…」
「おぉ…勇者様…」
「これなら皇女様が!」
ついてきてた騎士が騒いでる。ピリピリした雰囲気もなくなったか?
翻訳スキルか…それのおかげで会話が成立してるのかもしれない。
いや…まてよ? これ…俺がザコのパターンじゃね? 確かにそれだったら泣きそうだ…。
恐る恐る石版へ手を乗せる…。頼む…せめてザコだけは回避してくれ!
「これは…!」
「ママー誤字報告きてるよー!」
「そうなの?じゃあ直しておくね」
「おねがいするのー! 報告ありがとうなの!」
「ありがとうございました。お礼は魔道具でいいかな?」
「バランス壊れるからダメー!」
「そっか…残念」




