お散歩
「失礼致します。アスカ様、謁見の準備が整いましたのでお迎えに上がりまし…何事ですか、この状況は…」
私が知りたいよ…。 シルフィ様とティアねえ様が言い合いをしてて、ユリネさんは止めてると見せかけてちゃっかり意見は言ってるし。
言い合いの内容から、おおよそを把握したのかアリアさんが三人を止めてくれる。
よかった…アリアさんまで参戦したらもう誰も止められなかったよ。
「申し訳ありませんアスカ様。 私は騎士として国へ仕える事を誓った身です。それを投げ捨ててアスカ様の元へ行く事はできません…。 ですが、想いは誰にも負けません! それだけは覚えておいて頂けると嬉しいです」
「は、はい…?」
…え?あれ? (参戦したー!)
「ありがとうございます。それではご案内致します」
「アリア! 今のは聞き捨てなりませんよ?」
「そうだよ! 私だって負けてない!」
アリアさんはシルフィ様とティアねえ様の抗議を、”謁見の間で陛下がお待ちですので…“って強制的に話をぶった切った。
なおも抗議を続ける二人を部屋へ残し、アリアさんの案内で謁見の間へ向かう。
「あの、アリアさん?さっきのは…」
「はい。紛れもない本心です」
そうですか…。 (知ってたの!)
ティーは何でも知ってるね? (ママよりは…)
……違いないわ。
謁見は、陛下から王妃様の里帰りに関するお礼に始まり、試練を終えて王妃様を無事に連れ帰った事のお礼も言われ…
「此度も本当に世話になった。いくら礼を言っても足りぬくらいだ。アスカ殿の家族へも礼を伝えたかったのだが、もう帰るのだと聞いたのでな…」
「そうなのよね…また絶対に来てね?待ってるから」
「はい。またお邪魔させていただきます」
せめてこれくらいは貰ってほしいと、特産のフルーツを沢山頂いた。
うちの子達にも食べさせてあげられるからこれは素直に嬉しい。
「ふふっ、やっぱり正解だったでしょ?」
「そうだな…セルフィの助言に従って良かった」
陛下は最初、現金やら王国に屋敷やらを私に…と考えていたらしく、王妃様が止めてくれたみたい。
良かった…。ただでさえアキナさんに意味のわからない額の現金を貰ってるのに。
アクシリアス王国では使えないから関係ないといえばそうなんだけど、使い道のないお金を沢山抱え込むのは良くないから。 (貯金しないの?)
投資がある訳でもない世界で、個人が貯め込んでしまってお金が動かないのも良くないんだよ。 (ほぇーそうなんだ!)
だからティー達もしっかり街でお金を使っておいで。 (わかったの!)
陛下と王妃様はこの後すぐにアキナさんと通信で会議らしい。
なのでここでお別れ。
また遊びに来る事と、3国間での会議になった場合の送迎のお願いを改めて陛下からもされて謁見は終わり、アリアさんの案内で部屋へ戻ってきた。
シルフィ様とアリアさん、ユリネさんともここでお別れ。
「アスカ様、私は本気ですから。いつでもお待ちしています」
「またお邪魔するとは思います…」
近い…シルフィ様近いから。 (わぁ…)
「アスカ様、今回の旅でも本当にお世話になりました。またお会いできる日をお待ちしております」
「はい。 もし何かありましたらティーに伝言をください」
「はっ、わかりました」
部屋のベッドで丸まってる、ドラゴン姿のティーの分体にみんなの視線が集まる。 (照れるの…)
手間かけちゃうけどよろしくね。 (ううん! 任せて)
「アスカ様、メイドが必要ならいつでも」
「…ありがとうございます。でも間に合ってますから」
「残念です…」
メイドが必要な状況ってどんな時よ…。 (大きなお屋敷?)
アキナさんに頂いたお屋敷にはもう専属のケモミミメイドさんがいるから。
「じゃあ、ティアねえ様行くよ?」
「うん! まずはドラゴライナ王国へ行くんだよね?」
「そうだね、その後みんなの帰り仕度が出来次第、私の生まれた世界へいくよ」
「楽しみだよー。ずっとこの時を待ってたんだから」
「…ルナティア様ズルいです」
「抜け駆けしたシルフィ様もだからね?」
「うぐっ…」
魔力ドームにティアねえ様が入ったのを確認、ドラゴライナ王国へ。
ーーー
ーー
ー
シルフィSide
「行ってしまわれました…」
「はい…」
「やっぱりもっと積極的に行かなくてはダメですね」
「ですが、アスカ様が相手ですから、無茶をされますと逆効果になりますよ?」
「そうかしら…やはりこういう事はお母様に相談しなくてはダメですね」
「はい。しかし…王妃様も大切なお身体ですから」
「そうよね…いいなぁお母様」
「そう、ですね。 私もアスカ様となら…」
「アリア!?」
「…いえ」
「私もいますから!」
「ユリネまで…もう。本当にライバルが多すぎますよアスカ様!!」
アスカSide
「到着したよ。だからもう離れていいよ? ティアねえ様?」
「もうちょっと…」
転移の直前に抱きつかれてそのままなんだけど…。まぁいっか。
心配かけたのもあるし。
「それよりティアねえ様、すごい荷物だけど…大丈夫?」
大きなリュックと、ショルダーバッグを下げてるから…。
「私はストレージも、自分用のマジックバッグもないもん!」
「前に使ってたのは借り物だったの? 言ってくれれば作るのに」
「いいの? 前は支援のためって王国の備品を借りてたんだよ」
「リア達とお揃いのならすぐに渡せるけど、鞄はある?」
「うん、ずっと使ってるお気に入りのが」
そう言って肩から下げてるショルダーバッグをぱしぱしと叩くティアねえ様。
そういう事ならと、ワッペンタイプの魔道具を渡してショルダーバッグをマジックバッグ化。
「ありがとうアスカ! これなら随分楽になるよ」
「早く渡せばよかったね」
マジックバッグへ荷物を整理するティアねえ様を見守る。
「借りてた備品のより、容量が多い気がするんだけど…これって魔力量依存だよね?」
「そうだよ。 ただ、魔道具側の効率次第でも差はあると思うよ」
「なるほど、そういう事かぁ」
私のは多分、魔力量に対して100%に近い効率で容量があるはず。 (ママの魔道具はやっぱり世界一!)
ありがとうティー。 お買い物は出来てる? (うん! いま寄り道しつつ帰り道)
わかったよ。
少し外へ出てみたいって言うティアねえ様と、王族エリアをお散歩。
「すごいね、建物の雰囲気とかがアクシリアス王国とはまた違うよー」
「うん、こちらは実質剛健って感じで飾り気は少ないからね」
「やっぱりこっちは危険なの?」
「そうみたいだよ、魔獣とかも強いって聞いたから」
「まぁアスカがいれば平気だよね!」
お祖母ちゃんクラスの相手が出てこなければね。 (そんな魔獣がいたらこの世界が危ない…)
確かに…。 魔獣とは意思の疎通とかできないし。
街へぬける門まで行った所でティアねえ様が振り返る。
「ねえ、これから少しでいいからデートしよ?」
「うん?でも私、街へは出てないから案内とかできないよ?」
「そんなのいいよ! こういう街はね?何処へ行ってもだいたい似てるものなの」
そう言って腕を組んできたティアねえ様に引かれて街へ。
出てくる時に魔力隠蔽をオンにしてきてよかった…。 (まだティー達も帰るのにかかるから行ってらっしゃい!)
そういう事なら行きましょうか。
いくつかお店を覗いたりしつつ歩き、屋台でミノウシが売ってたから数本買ってティアねえ様へ渡した。
「何これ! めちゃくちゃ美味しい…こんな串焼き初めてだよー!」
美味しそうに食べるティアねえ様をみてお店の人も嬉しそう。
「そうだろう?女王様のおかげで、今回は安く大量に仕入れる事ができたが、普段はこの何倍もするんだぞ」
お店のおっちゃんにそう言われて、ティアねえ様がびっくりしてる。
これアレか、ギルド試験の時に渡したやつ。まだ売ってたんだね。
ティアねえ様はミノウシがよほど美味しかったのか更に数本買い足してた。
自分で店主へ支払いをしたティアねえ様曰く、アクシリアス王国と貨幣は違っても貨幣価値は同じくらいみたい。
アクシリアス王国は、金貨、銀貨、銅貨の基本三種類で、四角銅貨10枚分の価値のある八角銅貨、それが10枚で四角銀貨…四角銀貨10枚で八角銀貨…とかだった筈。
今、ミノウシの串焼きに払ったのは一本につき大銅貨一枚。この大銅貨が八角銅貨相当なんだろう。
「もしかして、それを知るためにあちこちのお店を覗いてたの?」
「そうだよ、せっかくアスカがこちらのお金を渡してくれたのに、無駄にしたくないからね」
一緒に街へ行くならと、リア達と同じようにお金を渡しただけなのにそこまで考えてくれるんだね。
「気をつけないと、ぼったくる様なお店もあるから。 私も初めて街へ行った時に、騙されそうになって…それから気をつけてるよ」
「そうなんだ」
あちこち食べ歩きしてたみたいだし、その時に色々あったのかも知れない。
「むっ…リアの魔力反応が近いなぁ。デートもお終いかー」
「そうだね、みんな近くまで来てる」 (ティーがこっちへ誘導してきました!)
ありがとねー。
「ティアねえ様、デートなら私の生まれた世界でも出来るから。心配かけたお詫びもしたいし」
「ホント?じゃあ約束!」
「うん、行きたい所を探すのも楽しいと思うから」
「そうだね、新しい街へ行く時はワクワクするね」
街では無いけど…まぁいいか。
その後、合流したティー達とお屋敷への帰り道。
デートしてたって自慢するティアねえ様のセリフに未亜とリアがピクッてしててちょっと怖かった…。
「姉ちゃんは相変わらずだよな」
「言い返せない…。 それより、レウィと父さんは?」
「二人なら留守番してるはずだけど。会わなかったの?」
「気が付かなかった。探索も切ってたし…」
「まさか家にいない…?」
「母さん落ち着いて! えっと…王族エリアをレウィと走ってるみたいだから、お散歩かランニングでもしてるんだと思うよ」
「そう…ならいいけど」
つぅ…無理に広範囲へ探索を拡げて父さん達を探したから負荷が凄い…。 (ママ無理しないで…)
母さんがまた暴れるよりはマシだから。 (そうだけど!)
「アスカ、また無理したのね?」
「え?リアちゃんどういう事? お姉ちゃんなにしたの!?」
「探索よ。広範囲に使ったんだと思うわ」
「姉ちゃんは街の中なのに、父さんを探して探索範囲を拡げたんでしょ?母さんがまた暴れるかもしれないし」
「アスカ、ごめんね…」
「いいよ。少し負荷があるだけだから。この街は大きいし、魔力の大きな人も多いからね」
「お姉様、無理はダメなの」
「ありがとうシエル」
よろけた私をシエルが支えてくれる。
よし、落ち着いた。 (復活は早い!)
これくらいならね。一応魔王だし…。
「え…なに?私の知らないところで何があったの!?」
「ティアねえ様、それより口元のソース…拭いてあげるから動かないで」
肉串かじってたもんね。
「んっ…ありがと!」
「…ねぇ未亜アレ…」
「あれは仕方ないかも…?」
「ティー達も食べたよー」
「他の所にも売ってたんだね」
「ええ。結構あちこちで売ってたわ。私はアスカが焼いてくれたのが一番美味しかったけど!」
「そう?ありがとねリア」
まだ沢山あるし、また焼こうかな。 (楽しみー!)
「それより、ホントなにがあったの!?」
「僕が説明するよ。 この前うちの父さんが色街へくりだしてさ、キレた母さんが店を破壊したんだよ」
「えー…色街くらい誰でも行くでしょ」
こっちだと割とそんな認識なんだ? (アクシリアス王国にもあるの)
なんでそれを知ってる? (あぅ…フラフラしてたら見つけたー。でも入ってはないの!)
それならいいけど。 (ふぅ…)
「言わないでよユウキ! 私も反省したから…」
「どうだか…さっき姉ちゃんが父さんを見つけなかったら、また飛び出して行ったでしょ」
「そんなことは…」ふいっ…
「目を逸らしても無駄だからな。証拠はあがってるんだよ母さん」
「えっ!?」
「そうね…言い逃れはできないわ」
「うん。だってお義母さん…」
「なの…」
「無意識なんだろうけど、母さんドラゴンハーフ化してるからな?」
「はっ…いやこれは…」
「言い訳しない。だから姉ちゃんが無茶してまで探したんだから」
「…ごめんなさい」
ドラゴンハーフ化を解いて俯いてしまう母さん。
「いいよ、何もなかったんだし」
「姉ちゃんは、もう少し怒るべきだと思うよ?」
「いや、こんなに落ち込んでる母さんにそれ以上言える?」
しょんぼりと俯いて元気のない母さんなんて私は見たくないよ…。
何とか母さんを元気付けて王族エリアへ帰ってきた所で父さんとレウィとも合流。
やっぱりお散歩兼ランニングしてたね。
「わう! 主様だー!」
「お、買い物はすんだのか?」
「うん。夕夜、疑ってごめんね…」
「ん?なんの話だ?」
「気にしなくていいよ」
首を傾げる父さんと、母さんを残して私達はお屋敷へ帰る。
イチャイチャしだしたら見たくはないからね…。




