召喚被害者の日常
現代日本で魔法陣が〜召喚が〜と話すこの姉弟。普通の人が聞いたら正気を疑うだろう。
だがこの姉弟には当たり前なくらい日常なのだ。
あれは今から3年ほど前。アスカが13歳、ユウキは11歳の時にそれは起こった。
この時まだ未亜はいなかった。未亜が家に来たのはアスカが15の時。
両親が養子として引き取った義理の妹。大切な家族なのはその時から何も変わらない。
共働きで父親の仕事に同行するため母親も不在。
しょっちゅうと言うかほぼ家にいない両親の事なので慣れてたし、
隣に住む父親の親友一家が気にかけてくれてたので不自由はなかった。
その日も夜ご飯を隣でご馳走になり、泊まっていっても良いのよ?
と言うおばさんの誘いを、いつものように断り自宅へ帰って寛いでいた。
一緒にゲームをしていた二人の頭上に魔法陣が出現、次の瞬間には知らない場所に二人はいた。
「ようこそ勇者様。悪い魔神を倒し私達の世界を助けては頂けませんか?」
これが初めての召喚。二人で力を合わせ勇者として3年以上戦った。
適正があったのはアスカは魔法剣士、ユウキは剣士。
最初はゲームみたいだ!
とはしゃいでいた二人も旅するうちに色々なものを見、そして経験し
随分落ち着き、勇者としての責務を全うした。
その後、地球へ召喚された時の年齢、姿で送還してもらえた。記憶やスキルなどはそのままに……。
地球では一日しか経ってなかった。
2週間後ユウキにだけ魔法陣が展開され目の前から消える。
待つこと3日後ユウキ帰還。
4日後アスカだけ召喚…
そんな事が何度もあった。
二人同時だったり、別々だったり…。
勇者だったり、くだらない理由だったり…。
15歳になってすぐの頃アスカだけが呼び出された。
「我々を救ってくださる新たな魔王様の召喚に成功だ!! 魔族を虐げる人族から我々を守ってください!」
魔王として何百年、理不尽に攻めてくる人族を追い返すために戦ったか……
魔力体になってたから歳は取らなかったけど。
並行して魔道具の開発をして魔族の生活などの底上げをした。
逆に攻める事しかしなかった人族が生活もままならなくなり衰退。
平和になった後、魔族の中から強く思慮深い相手数人と魔力を重ね、その魔力から跡継ぎを作りすべてを託したと思ったら帰ってきた。
薄れてきていた地球の記憶もしっかり戻ってきた。
ユウキに聞くと、こっちにいなかったのは数時間らしい。魔法陣が見えたから察していたと。
この魔王時代にありとあらゆる魔法や魔道具の知識を蓄積した。
その次はまた二人で食事中に呼ばれた。
「私と契約して! あなたは私の召喚精霊よ!」
「僕と契約するのだ。従え!」
どうやら魔法学園の召喚の授業に呼び出されたらしい。
イラッとして学園の一角を吹き飛ばした。後悔はしてない。
「魔王が出た!」と大騒ぎだった。あながち間違ってない。
自ら送還魔法陣を展開しユウキと帰還。
いい加減おかしいだろと思いつつも受け入れてた。
嫌な召喚だったときは無視して自力で帰ってきたりもした。
でも何だかんだ楽しんでたし楽観視してたんだと思う。
あの時まではーーー。
それはアスカが15歳になってしばらくたったころ。魔王召喚から帰ってきて数度目の召喚のときだ。
また魔法陣が出現、今回はアスカ一人。
「ちょっといってくる」
「いってらっしゃ〜い」
慣れたものである。向こうでどれだけ過ごしてもこっちに戻る時は長くても一週間ほど。早ければ数時間。
年齢も元のままだし不都合はあまりない。知識や覚えた魔法やスキル以外は……。
自分もユウキも自らを守るだけの力は既に充分あるのだから不安はなかった。
でも今回だけは違ったのだ。目の前にはいかにも危ない感じの男がいた。
それに…身体がない!?
「うひょ〜成功したのである。コレで我が野望が達成できるのである。ん? 魂のまま? 理想に近いものを呼ぶはずであるが…なんと、オマエ男だったであるか……性転換の術式入れておいて正解だったのである。幸いこんな事もあろうかと魔法陣に書き込んでおいたのであるしな。すぐに変わるはずなのである」
「ちょ……くぁぁぁぁぁー!」
魔法陣が光に包まれ……その光が消えたときには美少女が。
服だけは地球にいた時のままで。
「うひょひょひょ。サイコーの美少女である! ではでは、お願いなのである。我のお友達になってください!」
そう言って頭を下げるコイツは律儀なのか、バカなのか…
で? お願い……? それがお友達になって欲しい?そもそもコイツはなにをしやがった。
「おい、何だこれは。美少女ってどういう事だ? 元に戻せ」
「無理なのである。召喚魔法陣に書き込んで起動するようにしてあったものであるから、打ち消したら消滅するかもしれないのである」
ふざけんなよ! 取り敢えずこいつ殴る。そう思い魔法陣から出ようとすると
「無理に出たら危ないのである、お友達になってくれると約束してくれれば出れるのである」
別にこんな魔法陣くらい破壊して出れるけど…、今回は慎重になった方がいいかもしれない。
それでお友達だって?
う〜ん……友達が悪いことしたら殴るのもありか……。
「わかった。友達になる」
「うひょ〜やったのである! これで我もお友達が! しかも美少女の! みんなに自慢するのであっぶふぅー」
魔法陣から出ると同時に顔面へパンチをお見舞いしてやった。
すごい音とともに吹っ飛んで壁に刺さった。
「お友達になにをするであるか!」
「友達だろうが間違ったことしたら止めなきゃなぁ?」
「え? ちょっと待つのである。美少女がしちゃいけない顔してるのである」
「あるあるうるせー!」
アッパーパンチ。今度は天井に突き刺さるあるある男。
と言うかこいつも大概頑丈だな。加減してるとはいえ、こちとら元勇者で元魔王だぞ?
あー体にすごい違和感あって、めちゃくちゃ動きづらい……。
あるある男がぴんぴんしてるのはそのせいか?
そう言えばアイツ美少女だとか言ってたな。
お、ちょうど鏡あるじゃん。
「うわっ! なんだこれ……元の面影もあるけど本当に美少女だ。少し母さんに似てるか?銀髪のロングヘアーに紫色の瞳。スタイルもバランスがいい」
アイツの理想像だけはマトモだったのが救いか……
「うひょひょ。美少女であろう?」
コイツ……ほんっと復活早いな。
もう一度殴ろうかと考えてたらドタガチャと音がしてさっきコイツが刺さってた壁にあるドアが開く。
「なんの音ですか!? 王子様ご無事ですか?」
そういいながら鎧姿の人が部屋に入ってくる。ヘルムで顔が見えないが声からして女性か?
「なっ、何があったのですか王子様。と言うかまた何をやらかしたのですか!」
またって言ったな。と言うかコイツ王子かよ!
どう見てもマッドサイエンティストだろう。魔法だけど。
「うひょひょ。我にお友達ができたのである!」
「はい?」
顔が見えなくてもわかる、この女騎士絶対にコイツ何言ってんだ? って顔してるわ。首かしげてるし。
「見るのである、この美少女を!」
そこでようやくアスカに気がついた女騎士は一瞬固まり直後にヘルムを脱いで目の前に跪いた。
「なんと美しい……私と結婚してください」
「……はい?」
もう訳がわからない。今は自分で言うのもなんだけど美少女になっている。
うん、鏡見たし間違いない。
跪いて突然求婚してきたこの騎士も女性だよな? うん、美人というよりは可愛らしい感じの。
「待つのである! それは我が言いたかったのである。お友達から始めてゆくゆくは我と!」
「「ないわ〜」」
女騎士とハモった。