経験する事
「お母さん、セルナはどう?」
「大丈夫よ、そろそろ起きると思うわ」
ボス待機部屋へ戻ると、真っ先にアキナさんがお祖母ちゃんへ王妃様の確認をした。
立場上なのか、そんな雰囲気は出してなかったけど、やっぱり心配だったんだよね。
未亜達は…戻ってるね。
シエルもレウィも少し元気なさそうだけど、ダンジョンツアーは上手くいかなかったかな? (まぁ…)
ティーが報告してこなかったくらいだから危険な事は無かったんだろうけど。 (それはママの魔道具とレウィがいるし!)
そっか、少し話を聞く必要がありそうね。 (うん、直接聞いてあげてほしいの)
わかったよ。
「未亜、シエル、レウィおかえり」
「おかえりなさい、お姉様」
「主様!」
「…お姉ちゃん、お疲れ様。もうボスも終わり?」
「うん、だから話があるなら聞くよ?」
俯いて、ソファに座る未亜の隣へ座る。
「……失敗しちゃった」
「そっか」
「うん…上手くできなかった。お姉ちゃんに魔法教えてもらったのに…」
「そっか、頑張ったんだね」
未亜を抱きしめてあげる。
初めてのダンジョン、初めての実践。上手く行く方がおかしい。
私が教えたのなんて魔法の扱い方だけだもの。戦い方なんて教えてない。
それでも行かせた私に責任がある。
「うっ…私、戦闘は無理だよ。 怖かった…すっごく怖かった」
「そっかぁー。それなのに頑張ったね」
「ううん、何も…できなかったの」
「魔法は使ってみたんでしょ?」
「うん、でも倒せなくて…怖くて震えて二回目の魔法が使えなかった。 レウィちゃんが助けてくれて…」
「最初はそんなものだよ。私が未亜に教えたのは魔法の扱い方。 戦い方は教えてないでしょう?」
「そう、だけど…」
「だから未亜は悪くないし、頑張ったんだよ」
「でも私のわがままで行ったのに、シエルちゃんやレウィちゃんまで巻き込んで…」
「それがどうかしたの?」
「…え?」
「未亜はシエルやレウィを無理やり連れて行ったの?」
「お姉様、違うの! うちがついていきたいっていったの」
「わぅ! ついていくってボクが決めたから!」
「ほら、でしょ? それに、三人が行く事を許可したのは私、未亜に実践での戦い方を教えていないのに、許可をしたの」
「それでも!」
「…未亜のわがままだったって言いたいんだよね?」
「そうだよ!」
「じゃあ、許可したのも私の勝手なわがままなんだよ。戦い方を教えてないのに、行かせたんだよ?」
「お姉様はどうして許可したの…?」
「幾つか理由はあるけど、取り敢えず体験してほしかったから。かな」
「わぅ?」
「ダンジョンがどんなものか知らないと、知りたいでしょ? だから実際に見て、体験してほしかったんだよ」
まぁ後は、ずっとここでお手伝いさせちゃってたから、出かけさせてあげたかったのもあるし…。
未亜が自分で積極的に言い出したことだから、やらせてあげたかったってのもある。
「だからね?結果はどうでもいいんだよ。 行ってみて、怖かった、失敗したって感じるのも経験なの」
「じゃあ、うち達が行くことに意味があったの…?」
「そうだよー。うまくいかなかったかもしれないけど、行くときはワクワクしなかった?」
「わう! 入り口から入るときは興奮したよ!」
「でしょー? 新しい事をやってみるのは楽しいし、大切なんだよ。成功も失敗もやってみなきゃ味わえない事でしょう?」
「…うん、じゃあ行ってよかったの?」
「私はそう思ってるよ。ましてや未亜やシエルが自分で行ってみたいって思って行動した、それが大切なの。経験した事は絶対に無駄にはならないからね」
うまく行けばそれが一番良かったのかもしれないけど、そんなのは結果論だ。
私自身あちこちに召喚されて戦って…経験した事が無駄になってるなんて事は無いんだから。
まぁ、地球で平和に暮らすのなら、必要ないのかもしれないけどね。
それでも、こないだのひったくりみたいな事もある。積み重ねてきた経験は決して裏切らないし、無駄にはならない。
「シエルもレウィもおいで?」
「お姉様…」
「主様!」
「三人ともお疲れ様、よく頑張ったよ」
そう言って三人を抱きしめてあげる。今の私にできるのはこれくらい。
後はそうだなぁ…多分、未亜が夢でしばらくはうなされるだろうから傍にいてあげないとね。
「優しい魔王がいるよー。さっきはあんなに怖かったのに…」
「ママはいつも優しいよ?」
「そうよ、アスカはちゃんと私達の事を見て、考えてくれてるわ」
そうなれてるといいのだけどね…。大切な家族だからちゃんと見ててあげたいし、やりたい事はさせてあげたい。守るだけじゃなくてね。
「うちの孫は娘達よりしっかりしてるわー」
「お母さん、それはひどくない?」
「だって、現にほら、この子…」
「うっ…だって! セルナは勝手にいなくなったんだもん」
「今回もアスカちゃんが傍にいなかったら危なかったのよ?」
「それは…ありがとうアスカちゃん」
「いえ、私は本当に眠らせただけですから」
むしろ暴走させた原因が私かもしれないし…。 (考えすぎ?)
いや、無理させたのは事実だからね。 (むー)
「うぅ…ん…」
「あら、起きたみたいね」
「王妃様! ご無事で…」
「セルナ! 大丈夫?」
「…あれ、私…戦ってて… はっ! アリア! 試験は?どうなったの?」
「まず気にするのそこなの?セルナ…」
「だってお祖母様! やっとアスカちゃんと戦えたのに!」
「王妃様、申し訳ありません…力及ばず…」
「そう…アリアは悪くないわ。 私も気を失ってたんだから。 …それで何があったの?」
覚えてないんだね。 (あれは仕方ないと思うのー)
レウィは意外と覚えてたから、或いはと思ったのよ。 (あぁー)




