完全勝利
アキナさん達パーティとの戦闘が終わり、ちょっとした反省会も済んだ。
このままアキナさん達は戻るのかと思ったら、今後の運営のためにもテストケースとして、ユウキ達との戦闘を隠れて見学していくらしい。
「それなら、魔力ドームで隠蔽します?」
「どういう事?」
魔王の玉座(仮)の隣へ隠蔽術式を織り込んだ魔力ドームを展開。
「この中へ入っていて頂ければ、外からは見えませんし、万が一魔法等の流れ弾が飛んできても安全です」
「はぁー。本当に規格外だね! 助かるけどいいの?こんな魔力維持してたら大変じゃない?」
「いえ、私はまた守られているのが仕事になりそうなので…」
「そっかぁ。 じゃあ、甘えちゃうね」
「はい」
アキナさん達パーティは魔力ドームの中へ。 (VIP席?)
そんな豪華なものじゃないけどね。安全だけは保証するよ。 (確かに!)
「アスカ、早く座って! 間に合わなくなってしまうわ」
「わかったよ」
リアに急かされて玉座(仮)に座ってティーを抱える。 (〜♪)
ユウキ達がなかなかこなくて、待ってる時間が暇だったから、さっきティーが撮ってくれた写真をみんなで確認したりしてた。
キャンディが半目になってたのがあってリアが爆笑。不貞腐れたキャンディが撮り直しを要求してきたりと、ボス戦の前とは思えない状態。
アキナさん達にもストレージからお茶とお菓子を出したりして、もうなんか昼下がりの魔王城(仮)みたいになってる場所で、優雅な午後のティータイムを過ごした。
だって、景色がすごくいいんだもの。アキナさん曰く、王族のリゾート地で森の奥にはコテージもあるらしい。
「あ。やっと来たよ」 (待ちくたびれたのー)
随分待ったけど、探索範囲にユウキ達が入った。
だいぶ疲弊してるけど大丈夫なのかな。
「アスカちゃん、ちょっといい?」
「はい?」
出したお菓子のおかわりを取りに、魔力ドームから出てたアキナさんがこそっと話しかけてくる。
「お姉ちゃんやユウキ君達を戦闘前に回復してあげてくれる?このままじゃデータが取れないまま終わりそうだし…」
「わかりました、そういう事なら」
今回はあくまでも試験的な物って事だし、主催者でもある女王陛下がそう言うなら問題ない。
ゲームとかでよくあるよね。 (あぁ! ラスボスの前に回復してくれるやつ!)
そうそう。 そんなんじゃバトルを楽しめないだろう! とかいって回復してくれるラスボス。 (変に親切なの)
まぁあれはゲームだし。 (同じことをママがするのは、ちょっとおもしろいの)
だねぇ、まさか自分がアレをする事になるとは思いもしなかった。
「嘘だろ…フルメンバーじゃん。絶対勝てないやつ…」
「アスカ! 来たよ! 約束守って」
約束? (魔法防壁の)
あぁ…。そんなに気になるのね。
「……俺、出来る事あるのかこれ」
父さんはすでに心折れてるな。
「ここは50階層。ようこそ魔王の住まう最上階へ」
リアがまた口上を変えてきたな。楽しそうで何より。それなら私も乗っかりますか。
「…これは私からの慈悲だ。存分に戦って力を示せ!」 (ママかっけぇーー!)
そう伝え、魔力ドームでユウキ達を包み疲労回復、怪我や魔力も回復させる。
「…有り難いけど、なんか納得行かない!」
「まぁまぁ、母さん。せっかく万全で戦えるんだからいいじゃん」
「むー。娘に舐められてるよ!」
「仕方ないんじゃないか…? だってあの布陣だぞ?」
「……そうだけど!」
何が不満なのよ母さんは…。 (さぁ…?)
「魔王様の慈悲に感謝して存分に楽しませてみせなさい?」
リアが一番、悪役っぷりが板についてるな? (リアこう言うの好きだから…)
アニメとか? (そうそう!)
「時間は無制限、魔王様へ一撃でも当てられたら合格よ。せいぜい足掻きなさい!」
めっちゃ楽しそうだなリア。 (盛り上がってきたのー)
チョコ、クッキー、ラムネ、キャンディよろしくね。
それぞれ配置へつく。
「私は、しばらく様子見かしら〜」
「それでもいいよ。判断は任せるから」
「いいわ〜。信頼されてるの感じちゃう〜」
なんだか言い方がねっとりしてるのは気にしないでおこう…。 (ちょっと活躍したからって…)
ティーが対抗心を燃やしてる!? (ママ、ティー出ます!)
わかったよ、気をつけてね。 (あいあいさー)
聖剣を抱えて飛び出してったなティー。
今回は最初から母さんはドラゴンハーフ姿で全員へバフをかけた。
戦闘力で言うなら全員が三、四割ほど上がってる。
何を思ったのか母さんは真っ直ぐに私へ向かってくる。
あぁ、魔法防壁の威力を知りたいのね…、まぁ約束だし。 みんな、母さんは通過させて。 (ほーい)
「いいの〜?」
「うん、破れないのが分かれば納得するでしょ」
「アスカのお母様も結構脳筋よね」
「まぁ、格闘系のブレス巫女らしいし…」
「なんだか響きが物騒よ…」
約束だから玉座(仮)を覆う様に一時的に全力の魔法防壁を張る。
真っ直ぐ飛んできた母さんは見えない魔法防壁に阻まれて弾かれる。
「くっ…痛ったぁ…何これ!」
そう言いつつも魔法防壁に殴りかかる母さん。
「…ますたぁ、アレ何してるの?」
キャンディに素で聞かれてしまった。
「破ろうとしてる、かな?」
「無理に決まってるじゃない〜。 …諦めないのかしら〜」
ガンガンガンガン音だけは響いてる。
「…煩いわ〜もういいわよね?」
「うん、多分ほっといたらずっと続けそうだし…」
「…とめてくるわ〜」
そう言って消えたキャンディは、母さんの背後に現れて、気配に気がついて振り向いた母さんを…。
いや、投げるんかい! チョコとクッキーの攻撃を何とか凌いでるユウキ達の真ん中へ放り投げた。
そこへラムネのブレスが直撃。 ちょっと、母さん大丈夫!?
「当然加減してるわよ〜」
いつの間にか戻ってきたキャンディがそう言う。
そこは疑ってないけど、絵面的に心配にはなるよ。
翼を盾にしてブレスを凌いだのか。さすがドラゴンハーフ…。
父さんはクッキーに捕まり上空へ連れ去られ、ラムネのいる湖に放り込まれ…。
チョコのブレスで母さんの翼がボロボロになったり…。
ユウキは突然現れたキャンディに誘惑されて、オロオロして攻撃が止まったところへ、ティーの聖剣アタックが決まってぶっ飛んだりと、もう見てるのが可哀想になってきたんだけど…。
「降参しないわね?」
「うん。だってみんな戦闘を楽しんでない?アレ」
「確かに…ティーはいつも通り、はしゃいでるけど、お母様達も笑ってるわね」
「まぁもうしばらく見守るよ」
「そうね。足掻いてる姿を眺めるわ」
「リアは悪役好きなの?」
「…ドラゴンがいっつも悪役で倒されてたりするんだもの! たまには勝つ側になったっていいじゃない!」
「それ、アニメやゲームの話だよね?」
「そうよ?」
それ、もう八つ当たりじゃん…。 (アニメでもドラゴン応援してて負けると悔しそうだから)
まぁ気持ちはわからなくもないけど。魔王も大体悪役で倒されるから…。 (ママに負けはないの!)
ふふっ、頼もしいかぎりだよ。 (ふふーん)
いくら母さんがバフをかけてても、加減してるとはいえチョコ達相手には手も足も出ないようで…。
更にそこへティーが遊撃を繰り返すものだから、さすがのユウキも凌げていない。
翼の使えなくなった母さんは、機動力が一気に低下するから防戦一方になってる。
父さん?なんとか泳ぎついた湖の岸辺で、ラムネに尻尾でペシッてやられて気絶してるよ。 (戦力外…)
あれでも前に比べたらかなり強くなってるけどね。
まぁそれでも個人の戦闘力で言うなら、精々レウィの受け持ってた階層でギリギリくらいだろうけど。
「姉ちゃーん! もう無理! ギブアップー!」
「ちょっとユウキ!? まだやれるよ!」
「なら母さん一人でやって! もう無理!!」
「わかったよ…もう!」
みんなありがとう、お疲れ様。戦闘終了だよ!
クーー!
グォ?
………
「意外と頑張ったわね〜」
「楽しかったのー! ママ、ティー頑張ったよ!」
「ん、ありがとね。お疲れ様ー」
駆け寄ってきたティーを抱きとめる。
「はぁ…もうマジ無理。姉ちゃん相手にもうちょっとやれるとか思ったけど甘かった。あのメイド姿の時でさえ、手も足も出なかったのに、なんで行けると思ったんだろ…」
「私なんてまた翼焼かれたんだけど!」
「ふっ…我が魔王軍は最強なのよ」
「なんでルナリアがドヤ顔なのさ…何もしてないじゃん」
「バカね、私が出るまでもなかったのよ?」
「くっそ…言い返せねぇ」
「アスカー翼痛いー!」
あーもぅ! ラムネ、気絶してる父さんも持ってきて貰える?
父さんを頭の角に引っ掛けて、ふよふよとラムネが飛んでくる。
ありがとね。 うん?まだしばらく湖で遊んでていいよ。
帰りはぴゅーっとすごい速さ。父さんを運んでたから気を使ってくれたのね。
取り敢えず、ユウキ達をまた魔力ドームで包んで回復させる。
「魔王様の慈悲に感謝しなさい!」
リアはいつまでなりきってるのだろうか…。 (そのうち飽きると思うから)
まぁいいけど。
「んあ?戦闘は?」
「もう終わったよ。父さんが寝てる間にね」
「…なんかすまん」
ずぶ濡れのままの父さんは風邪ひきそうだから乾かしておいたけど…一切活躍できなかった事で落ち込んでる。
見学してたアキナさん達も魔力ドームから出てきて、もう一度反省会。
の、はずだったんだけど…見られてた事に驚きつつ、勝手に見てた事に怒る母さんと、運営のためだって言い返すアキナさんの口論が終わるまで待たなきゃいけないみたいね。 (今日はママのママがイライラしてるの)
多分、不完全燃焼なんじゃないかな? (あぁー…)




