決着
戦闘開始から5分程経ったところで、前衛を受け持っていたエルフの人がクッキーの急降下攻撃を受け止めきれず転がって気を失う。
「ジータ!」
前衛エルフさんの名前初めて聞いたよ。 誰かジータさん回収できる? (ティーは今無理ー!)
あの場所で倒れてると流石に危ないよね…。
「ますたぁ〜持ってきたわよ」
キャンディが小脇に抱えて玉座(仮)まで連れてきてくれた。
「怪我してるかもしれないんだからもうちょっと丁寧に扱いさない、キャンディ」
「は〜い。ますたぁ以外は抱き上げたくないんだけど〜」
ジータさんは、擦り傷とかはあるけど…ひどい怪我はないね。よかった…。
目を覚ましたら復帰してもらえばいい。
「陛下! ジータを人質に取られました!」
え!?いやそんなつもりは無いんだけど…。
「大丈夫! 流石にそんな事はしないと思う。それに、あそこなら…」
その先はラムネのブレスで聞き取れなかった。 誤解されてないならいいや。
「アスカ、いいの? 目の前に敵を連れてきて」
「そうなんだけど、あの激戦地に置いておいたら流石に危ないかな?って…」
「甘すぎる魔王ね、まったく…。起きて襲われたらどうするのよ」
「え?その時は対応するよ」
そんな話をしていたらジータさんが目を覚ました。
「んっ…あれ?ここは…」
「目が覚めました?大丈夫ですか?」
「え? えぇ!? くっ、魔王!! 覚悟ー!」
腰の短剣を抜いて斬りかかってきた。
その剣が私へ届くより前に、ふわっ〜と現れたキャンディが剣を叩き落とす。
「甘いわ〜。させるわけ無いでしょう?」
「くっ…どうして私をここに連れてきたの!?」
「そんなの決まってるじゃない〜。ますたぁの優しさよ〜。前線で転がってたらあぶないでしょ〜?」
「はー!? 今は敵ですよ?戦闘中です!」
「それでもよ〜。それが私達のますたぁなの。ほら〜起きたのなら仲間の救援に行きなさいよ〜」
キャンディはシッシッと追い払うような仕草をする。失礼だからそれ…。
「はっ、陛下は!? わかりました! ありがとうございます」
それだけ言うとジータさんは剣を拾うと前線へ戻っていった。
キャンディもまた姿を消す。
「すごいわね、魔力で居たのはわかってたから手を出さなかったけど…不意打ちさえ許さないのね」
「まぁ、長い付き合いだしね」
私もわかってたから焦りもなかった。
「むーなんか妬けるわね…」
ぷくーっとほっぺを膨らませて、リアが不貞腐れてしまった。
そのほっぺをつついてたら笑い出したから大丈夫ね。
それからしばらくして魔法使い二人が魔力の限界らしく、アキナさんがギブアップ。
話がしたいって事だから玉座(仮)から降りてアキナさんたちパーティの元へ。
「はぁ〜、もう少し行けるかと思ったけど甘かったね。 本当に加減してくれてたー?」
そこを疑われちゃうとなぁ。 仕方ない…。
「チョコ、クッキー、ラムネ、上空へ全力ブレス! 2秒」 (おぉーきれーなの!)
炎と氷と水のぶっとい柱が立ち昇る。キッチリ2秒。 みんな流石だよ。 (完璧ー)
「疑ってごめん…。 うん、アレ向けられてたら生きてないわ。それに指示もしっかり理解してくれてるね」
「はい。わかって頂けて良かったです」
「ますたぁの事を疑うなんて許せないわ〜」
霧から実体になったキャンディが私の横に現れる。
「キャンディ、ストップ。ちゃんとわかってもらえたんだからもういいの」
「は〜い。 ほんと、ますたぁは優しすぎるわ〜」
そう言ってキャンディはトコトコ歩いてチョコ達の所へ行ってしまった。
「ごめんね、怒らせちゃったかな…」
「いえ、キャンディはちゃんとわかってくれてるので」
「そう…信頼してるんだね」
「はい、それはもう。みんな大切な家族なので」
いつも自由に出してあげられないのだけが心苦しいけど…。
魔法使いの人たちの魔力回復も兼ねて、反省会というか…今後の改善点などを話し合う。
「やっぱり、明確なクリア条件を決めたほうがいいと思います」
「それは確かに…。階層ごとにバラバラだったもんね」
「はい、結構悩みましたから。 今までは、どうしてたのですか?」
「捕まえてきた魔獣に魔道具つけて配置したり、後はそれなりの強さのある人に頼んでたよ」
「クリア条件はどうしてたのですか?」
「それはもちろん低階層の親衛隊以外は倒されてたよ。アスカちゃんたちが強すぎるんだよ?」
なるほど…今までは倒してクリアってなってたのか。
うちの子達だと条件を出してたもんね、当然倒されて戻ってきた事なんて無い。 (それはありえないの)
「今集まってる情報でも、今回のダンジョンアタックは好評なんだよー。ボス戦が単調じゃなくて勉強になったーってのとか、単純にボスがみんな可愛かった! とか…」
「そうなんですか?」
まぁ確かにうちの子達はみんな可愛いからな! (ふふーん♪)
「だからね?これからもやってくれない?ボス役」
「ええっ! さすがにそれは無理です!」
「だよねぇ…、うちはこっちに移住してくれたら嬉しいけど、多分お姉ちゃんが許さないよね…」
私達としてもすぐに移住は考えてはいない。学校もあるし…。
ただ、王妃様の言ってた様にいずれは考えなきゃいけない時は来ると思うけど。
「せめて年に一回。それでもだめかな?」
「…転移するための座標登録を許してもらえるなら…。その為の場所も確保しておいて頂けると飛んでこれるので、何とかなるかもしれませんが…」
「そんな事ならお安い御用だよ! 今使ってる屋敷をそのままあげる!」
「それは流石にいただけませんよ!」
「いいのいいの。元々お姉ちゃんや家族のためにって用意してある物だからね。それにあれ一軒って訳じゃないから心配しなくていいよ」
結局、アキナさんに押し切られる形でお屋敷を貰うことに。
そこへ座標登録できるなら、フィアの確認をするために飛んだ後も戻ってきやすいからありがたいけれど。
まさかお屋敷を丸々貰うことになるとは。
アキナさんはこの後数日間、集められたレポートを元に今後の試験内容の見直しなどをギルドと協議したりと色々忙しくなるって言ってた。
それと当然だけど王妃様の事も伝えた。
お祖母ちゃんが見てるなら安心だから、後で確認に行くって。
なんとなくこうなる事をわかってた感じだったのが気になる…。
私達はもう一つのパーティとの試験が待ってる。
え?また、あの配置で待ち構えるの?
そうですか…。
リアが、そこはどうしても譲れないらしい。




