冒険者セルナ
ユウキ達がクリアし、撤収した後、さらに数パーティーが私の所へたどり着いた。
だけど、みんなすでにボロボロで、ボス戦ができるかも怪しい状態。
それでも果敢に挑んでくるのはやっぱり冒険者なんだろう。
一つのパーティが何とか5分間耐えきって通過。
初めてBランクになれたらしく大喜びしてた。
そのしばらく後にボス部屋へ来たのは王妃様とアリアさんだった。
ちゃんと休憩も挟みつつ来ているようで、王妃様の魔力も充分。
遅かったのはペース配分をちゃんと考えているからなんだね。さすが賢者様。
通過条件を伝えて、戦闘開始。
相変わらず連携がうまい。
アリアさんが攻撃しやすいように、王妃様が援護。
当然フレンドリーファイアなんてあり得ない。
「アリア!」
「はいっ!」
飛び上がったアリアさんの後ろから2メートル程の巨大な氷塊が飛んでくる。
これは流石に当たりたくないなぁ。
ここでは魔法は使わないと決めた。 なら…剣で粉々に切り刻む。
冷たい…頭からかき氷をかぶった気分だよ。
「やっぱりダメかぁ…流石アスカちゃん」
「え?アスカ様? 姿が全然違いますよ!」
なんでバレた…。
「そうね、多分魔力体でしょ?」
そこまで見破りますか。
「なんでわかったんですか?ユウキさえ気がつかなかったのに…」
「教えたら証をくれるかしら?」
「それはダメです」
「ちぇー」
王妃様は可愛くふてくされてるけど、流石にそれはボスを任されてる身としてできない。
王妃様も冗談で言ってるだけみたいだし。
会話してる間もアリアさんは王妃様と私の射線を開けるように移動しつつ攻撃してくる。
二人なら、私もわざわざアリアさんを盾にするより、王妃様が見えていたほうが対応しやすいからそのままにする。
二人の攻撃のパターンは見切った。アリアさんが何度か攻撃した後に少し距離を取る。
その時に必ず王妃様から魔法が飛んでくる。
なら私はアリアさんから離れなければいい。
アリアさんが距離を取ろうとしたら追いかける。
案の定、王妃様は魔法が撃てなくなった。
王妃様の方を見るとタイミングを測れなくて焦れてる。
今までは受け身でいたけど、こっちからも少しは仕掛けよう。
アリアさんへ攻撃をしつつ誘導していく。王妃様の方へ…。
「くっ…捌ききれません! 援護を…」
アリアさんの守りが崩れたところで弾き飛ばして真後ろにいる王妃様も巻き込めれば…。
「きゃぁぁっ」
「くはっ…! 王妃様!?申し訳ありません!」
アリアさんは王妃様にぶつかり巻き込んで転がる。
怪我してないよね!?大丈夫だよね? 加減したんだけど…。
それにしても…
「可愛い悲鳴ですね?」
「…アスカちゃん、酷いわ」
立ち上がって服を払う王妃様。
「……こうなるように誘導されていた!?」
ようやく私の意図を理解したアリアさんも立ち上がる。
「ええ。 私へ直接魔法攻撃をしないのは、私が王妃だからかしら?」
「…いえ、ここでは魔法を使わないって縛りにしてるだけで…」
「ストレージから、剣の出し入れしてるじゃない!」
「攻撃魔法や魔法防壁を縛っているだけなので…」
そっかストレージでバレたのか。
「魔力のない人がそんなポンポンとストレージから出し入れできないのよ! 容量もないはずなのに!」
しまったなぁ。下手に魔力を完全に隠蔽してたからか…。
ユウキは多分、自分も当たり前に使うから気にしなかったんだろうな。
現に私もそうだったし…。
ってそんな事してるうちに5分たっちゃった…。
二人とも元気に立ってる。戦闘力としても問題はない。
「おめでとうございます、無事通過ですね」
「なんか納得行かないわ!」
「私は転かされただけでした…しかも王妃様を巻き込んで…」
「いいわよ、アリアは悪くないわ。アスカちゃんが意地悪なの!」
えー。ケガさせないように気を使ったのに…。
「アスカちゃん、私は冒険者セルナなの! お願いだから変な気を使わないで?」
あぁ…そういう事か。良かれと思ってした事がかえって失礼だったのね。
「すみません。それなら次はちゃんと戦います! なので来てくださいね?45階層へ」
「当たり前よ! ね?アリア!」
「はい! アスカ様との戦い楽しみにしてます!」
そこまで言われちゃったら私も頑張るしかない。
お二人に40階層突破の証を渡す。
「やっとこれで前と同じランク…。次は未踏のランクだわ」
アクシリアス王国とはランクの形式が違うから、以前こちらにいた時のランクなのだろう。
王妃様たちも今日はここ迄にするらしく撤収していった。
私もそろそろ戻るか。まだ時間はあるけど、すぐに次は来ないでしょ。
待機部屋へ戻ると、行く時にはボス戦へ行ってていなかった、母さんやリア達も戻ってきていた。
「みんな怪我はない?治療がいるなら私が見るよ」
「アスカなのよね?へぇー。 本人がそこにいるから意味がわからないのだけど…でもそっちのメイド姿もいいわね!」
「ティーちゃんから説明はされてたけど…うちのアスカが二人…?」
リアも母さんも、まだ納得いかないような顔をしてる。
そのティーは、ソファーに座る私本体の膝に乗ってる。 レウィもその隣で丸まってるし。
まさかティーを膝に載せてる自分を客観的に見るとは思わなくて。なんだこの感情は…。 (ママおかえり)
うん、ただいま。
ティーを抱きあげようとしたら45階層への呼び出し。
「ママ! 行こ!」
「そうだね。間違いなくアキナさん達だろうし」
急いで魔力体のリンクを切り、自分の体へ戻って用意してくれてる衣装に着替える。
今回はスカートでもなく、パンツルックな冒険者の様な姿。動きやすいしありがたい。
シエルと未亜も着替えを手伝ってくれた。
「お姉ちゃん、怪我しないでね」
「気をつけてなの…」
「わかったよ、ありがとね二人とも」
魔力体も一度消す。 なんとなくあのまま置いておく気にはなれなくて…。
ティーを抱いて転送魔法陣にのる。
「楽しみなのー。ティーがいっぱい戦うよ!」
「よろしくね、相棒」
「ふふー任されたの!」
45階層のボス部屋は今までより随分広い。
さて…本来の姿で戦う初めてのボス戦になる訳だね。
ここの方針は一応決めている。 (うんー?)
今回はティーがいるからね。好きに動いていいよ! (やったー)
戦いたいって言ってたでしょ?だから任せるね。 (ふふんーママはティーが守るの!)
頼もしいよ。
扉が開きアキナさん達が入ってくる。
「ようこそ45階層へ。 今回私から攻撃等の手出しはしません」
「え? どういう事!?」
「私がするのは一つだけ…」
魔力に威圧を込めて部屋中へ飛ばす。
「…くっ…な、なにこれ…」
「震えて…力が…」
「ひぃ…っ…」
「うっぅぅ…」
ちゃんと階層の戦闘力に合わせて加減はしてる。
「この環境の中で、ティーの攻撃を2分、凌いでください」
「…アスカちゃんへ攻撃を当てられたら…?」
「それでも大丈夫です」
私とリンクしてるティーには影響が無いように除外してある。 (動けそうなの女王様だけなのー)
そんなことはないと思うよー。 (でもー)
「みんな、行くよ!!」
「「「は…いっ…!!」」」




