40階層
リアがレウィと一緒にボス戦へ行ってる。
そろそろ私のボスとしての出番がくるだろうって親衛隊の人が評価役を変わってくれた。
低階層は、ようやく暇になってきたらしい。
隊長の予想通り、ボス部屋で待機していたら、すぐに40階層のボス部屋へ挑戦者が来たとの表示が。
思ったより早いな。
「お姉様、着替えないと…」
「うん、ちょっと待ってね」
魔力体を作らないと。
魔力を分離して、私より少しだけ背の低い女の子を作る。
「お姉ちゃん、この子誰!?」
「私の魔力体だよ」
「それより、なんで下着姿なの!?」
未亜が慌ててタオルで隠してくれた。
あー、しまった。シエルの作ってくれた服を着るつもりだったから、服までは魔力で作らなかったから…。
顔は魔王当時、たまたま保護した女の子をモデルにして、少し変えた当時のままの見た目。
あの子は、最期までずっとメイドをしてくれてたね…。魔王時代に唯一、看取った家族。
髪は金髪、瞳はブルー。優しくて気の利く人だった。 まぁその話は今はいっか…。
今回、体型だけは今の私を基準にした。シエルが私に合わせて服を作ってくれたからね。
「未亜、シエル、私が魔力体へリンクしてる間、本体が無防備になるからよろしくね?」
「よくわからないけど、わかったよ」
「うん?わかったの…」
「ティーもいるから大丈夫なのー」
「うん、お願いね」
ソファーへ座り、魔力体へリンク。
「よしっ、違和感もないね。 シエル、衣装をお願い」
「「ええっ!?」」
未亜とシエルがびっくりしてるな。無理もないか…。 (仕方ないのー)
「お姉ちゃん…?」
「お姉様なの…?」
「今はこっちがママなのー」
二人へ簡単に説明して着替える。急いでるから仕方ない。
なんで衣装がメイド服なのかな?前よりスカートが長いからまだいいけど益々あの子を思い出すよ…。
あぁ…もういいや、早く行かなきゃだし。
40階層のボス部屋へ。
「あっ、扉が開いたよ。 みんな気合い入れていくよー!!」
扉の向こうからアキナさんの声がする。一番乗りはアキナさんたちのパーティーか。
「ようこそ、40階層へ」
「…あれ?アスカちゃんは?」
アキナさんは階層ボスを把握してるもんなぁ…。隠しても仕方ないか。
「変装してるだけだと思ってください。 突破条件は、5分後に全員が意識を持って立っていること。もしくは私へ、一撃でいいのでいれてください。どちらか一方でも満たせたのなら証をお渡しします」
「わかったよ。よろしくね!」
「…はい」
二人ずつ左右に別れて、どっちもが一人は魔法を放つ。
どちらもファイアボールか。その影に隠れてアキナさんとエルフの人が剣を構えてつっこんでくる。
連携がうまいなぁ。
この階層でやることは決めている。魔法は使わないで剣だけで戦う。
剣もストレージに入ってた普通の剣。ただし二刀流。 聖剣と魔剣はティーに貸してあるしね。
取り敢えず、魔法を使う二人を無力化する為に移動…と。
まぁ、普通はそうするだろうから…このまま迎え撃つ。
飛んできたファイアボールを魔力を纏わせた剣で、左右それぞれ斬り消し、近接攻撃に突っ込んできた二人の剣戟も受け止め、弾き返す。
「そうくるかー」
「…うそ…」
弾かれた反動で距離を取らざるを得なくなった二人。アキナさんは油断なく構えてるけど、エルフの人は驚いたのかスキだらけ。
それなら…。
エルフの人へ的を絞り太ももに仕込まれてる短剣を投げる。リアの趣味らしい…
「ちっ…」
ドラゴンハーフ姿になったアキナさんが無防備なエルフを守るために移動。
そのスキに私は魔法使いを無力化する為に動く。
「こっちも囮!? 早く魔法で牽制しなさい!」
短剣からエルフを守ったアキナさんが叫ぶ。
「はい!」
いいなぁ、パーティー。私も誰かついてきてもらえばよかった。 (行きたかったのー)
でもこの姿でそれをしたらバレてしまう。 折角姿を変えているのに。 (むー)
今回はアキナさん相手だから隠す意味がなかったけど…。 (わかってたら行ったのにー)
まぁそれは今度のお楽しみにしておくよ。 (はーい!)
飛んでくる魔法をジグザグに躱しながら、魔法使いへ接近を試みる。
「させないよ!」
左右からアキナさんとエルフが追ってくる。 (ママは本気のスピードじゃないから…)
まぁそうなんだけど。ここで本気の移動をしたら試験の意味がなくなっちゃうし。 (それもそっか)
魔法使いへ辿り着く前に、近接二人の攻撃で足止めされて、そのスキに魔法使いにはまた距離を取られる。
役割分担も完璧。流石としか言いようがない。
二人の剣戟をいなしつつ、魔法使いからは狙いにくい位置取りを心がける。
味方を巻き込むような魔法使いはいないからね。 (それしたら失格!)
だね。フレンドリーファイアはご法度。
「私達の攻撃を受け止めながら位置取りまで…まったく! やってくれるね」
「魔法の援護がないのはっ…っく…」
「そう! 撃てないように私達を盾にしてるの」
人聞き悪いなぁ。1対4なんだから仕方がないじゃない。 (うん!)
連携も、役割分担も戦力も充分。時間もそろそろだね。 (あと少しー)
ありがと。
二人の攻撃のスキをついて後ろへ下がる。
「合格です、証を渡すので攻撃を止めてもらっていいですか?」
「何でそんな余裕なの!?」
「…っはぁはぁ…」
エルフの人はだいぶ疲弊してるな。身体強化してたんだろうけど、それも切れたか。
援護をしてた魔法使い二人も寄ってくる。
「お疲れ様です。証をお渡ししますね」
四人へ40階層突破の証、銀色のカードを渡す。
「それにしても私達四人相手に無傷とか…流石お姉ちゃんの娘だね」
「蒼白の巫女様の!?」
「そうだよ」
「でも似てませんね…」
「変装してますので…45階層では本来の姿をお見せしますから」
「それは楽しみだね!」
「…私は、もう勝てる気がしないのですが…」
エルフの人はへこたれてしまったらしい。
「大丈夫! 私達がついてるんだから」
「そうよ。王国最強のパーティーがここでへこたれてるんじゃないわよ!」
「そうよね、うん! がんばるわ」
ケモミミの魔法使いに励まされてやる気を取り戻したエルフの人を連れてアキナさん達はボス部屋を出ていった。
ふぅ…。 (ママお疲れ様ー)
うん、ありがと。 それにしても… (うん?)
なんでメイド服なの? (リアが前に着てくれなかったからーって)
そんな理由!? (また見れなかったって今も凹んでるのー)
…そう。 多分ユウキと父さんも来るだろうから私はここで待つよ。 (はーい)
懐かしい人を思い出してしまって、ちょっと一人になりたいのもあるから…。 (……)




