受験者
ユウキSide
ー試験開始日、数日前ー
試験に備えて父さんと訓練をすることにした。折角母さんから許可がもらえたんだからと、父さんも張り切ってる。
本当は姉ちゃんにも協力してほしかったけど、魔道具作りをアキナさんから頼まれてるらしいから無理は言えない。
それに、父さんと一緒に戦うのも楽しみなんだよね。
ただ、アキナさんからダンジョンアタックする時は姉ちゃんの魔道具は使用禁止と言われた。
理由は…うん。言われなくてもわかる。
母さんと模擬戦をして、一切アキナさんの攻撃が通らなかった事が原因らしい。
それはそうだろうなぁ。
姉ちゃんの魔道具の守りを超えてダメージ入れれるのは姉ちゃん本人か、お祖母ちゃんくらいだろう。
特訓を始めてわかったのは、やっぱり父さんも勇者なんだなってこと。飲み込みは早いし、どんどん成長してる。
試験の日までにどこまで伸びるか楽しみだ。
母さんも協力してくれてる。 心配はするけど、過剰な反応はしなくなった。
父さんも僕もかなり殴られたし…。しかもドラゴンハーフ姿で。
姉ちゃんはアレを容易く返り討ちにしたんだよなぁ…。
ドラゴンハーフの母さんは、戦闘力が億を軽く超えてた。
僕は母さんがドラゴンハーフじゃなきゃ余裕で勝てる。だから母さんはドラゴンハーフ姿で戦ってくれたんだけど…。
ドラゴンになったルナリアとどっちが強いんだろ?
まぁ、ルナリアはまず戦わないと思う。
姉ちゃんにべったりだし、昼寝をしたり美味しそうに食事をしてる普段の姿からはドラゴンだと忘れそうになるくらいだからな。
毎日、午前中は特訓。午後は街への散策。 父さんが行きたがるからね。
ギルドへも欠かさず顔を出している。雰囲気とかを知っておきたかったし、ダンジョンのことも聞けるかもって思ってね。
ただ、ダンジョンの事でわかったのは毎回、内容も何もかも変わる。って事だけ。
人工のダンジョンですごいよな。手間のかけ方が本気だ。
国を上げてのイベントだからこそ、なのかもしれない。
一方、父さんが街へ出るのは息抜きが必要だーとか言ってるだけなんだよね。
それはわかるけどさ…。
未成年をいかがわしい店へ誘うな! 異世界だから大丈夫とかそういう問題じゃないんだよ。
興味ない訳じゃないけど…。 姉ちゃん達に知られたらって考えたら怖すぎる。
みんなに冷たい目をされたら心が折れる自信がある。
父さんを止めるために”母さんに言うよ?“って言ったら真っ青になって諦めてたから今回は黙っておこう。
そんな感じで特訓とかをしつつ4日目。 母さん曰く、今日が試験日の発表らしい。
そう言えば昨日ギルドで掲示板に人だかりが出来てたっけ…。
例の店へ行こうとする、父さんに急かされたせいで見そびれたのがそれだったっぽいな。
大事な情報を見逃した事で、父さんも反省してくれるといいけど、無理そうだな。
母さんは詳細までは教えてはくれなかったから、父さんと一緒にギルドへ確認に行かないと。
街はかなりの人で混み合ってて、ギルドへ行くにも、いつもより時間がかかった。
「やっぱりここも混んでるよな」
ギルド内は街中の比じゃない。
「それはそうだよ。お祭りみたいなものらしいし」
国がバックアップしてるとは言え、冒険者ギルドが中心のイベントなんだから。
街は広いからギルドはいくつかあるらしいけど、ここが本部。混むのは当然。
「試験日の発表をするぞ!」
ギルドのカウンターの方からそんな声が聞こえる。
「試験は明後日からはじまる! 受付は明日からギルドで開始するぞ。 当日は早朝から街の各広場に受付が設置されるから焦らなくてもいいからな、 おい! 焦るな! 明日からだって言ってるだろ。 お前、参加させんぞ!」
ギルド内が大騒ぎだ…。こうなるから今日からやらないのかも。
明日もここで受付は無理そうだな。めちゃくちゃ混みそう。
「ユウキ、試験日はわかったし、当日空いてるところで受付しようぜ」
「そうだね、ここでは無理そうだ」
帰り道でも聞こえてくるのはギルド試験の話ばかり。街中がお祭り騒ぎになるって言ってたっけ。
屋台とかも並ぶらしいし、試験前に腹ごしらえも出来そう。
魔力の高すぎる姉ちゃんは街へ出られないらしいから、ちょっと可哀想だけど…。逆に安心でもある。
絶対なんかやらかすし…。
翌々日、試験当日。姉ちゃん達に挨拶だけして受付へ。母さんもついてくる。
「ナツハも参加するのか?」
「まさか、ただの付き添いだよ!」
母さんとも一緒に戦ってみたかったけど…仕方ないか。
姉ちゃんにも断られた。昔みたいに背中を任せて戦うっての、ちょっとやりたかったけど…。
今回は父さんで我慢する。 かなり強くなった事で、連携もできそうだから楽しみだし。
せっかく家族全員分の申請を出しておいたのに。無駄になったな…。
まぁ仕方ないか。
受付で、魔道具へ手をかざすように指示された。
これ、姉ちゃんの作った魔道具だよなぁ。戦闘力が数字で表示されたから間違いない。
受付をして、番号の書かれたバッヂの様な物を渡された頃に、アキナさんの開会式の演説が始まった。
渡されたバッヂは目立つところへ付けるように言われてる。これがダンジョン専用の魔道具になってると。
致命傷から守ってくれるし、どこからでもギブアップすれば1階層へ転送してくれるんだとか…。
切り上げる時も、好きなタイミングで戻れるけど、次にダンジョンへ入る時は、通過できたボスの次階層だけになる。
演説を聞いてた街中が大盛り上がり。
それはそうだろう…今まで出さなかったSランクを出すっていうんだから。
それに合わせて各ランクがもらえる階層も変わるはず。
前より低い階層でも一つ上のランクがもらえるんだろう。
ただ、これを聞いてとてつもなく嫌な予感がする。
「父さん、喜んでるところ悪いけどさ、多分Sランクはムリだよ」
さっき屋台で買った、ミノウシの串焼きを齧りながら興奮してる父さんに注意しておく。
「やる前から弱気になるなよ! やってみなきゃわからんだろう?」
「…ラスボスが、お祖母ちゃんと同レベルの姉ちゃんでも? 同じこと言える?」
「……は? いやまさか。 そうなのか?」
「確証はないけど、姉ちゃんはこういうの嫌がるし…」
「なら考えすぎだろ?」
だけど今までは出さなかったSランク、しかも姉ちゃんとお祖母ちゃんがいるタイミングで、だ。
お祖母ちゃんは絶対参加しないよな?それだけは間違いない。こういう事への干渉を嫌いそうだし。
アクシリアス王国での謁見でさえ、母さんが口添えしなきゃ受けなかったって言ってたくらいだ。
でも姉ちゃんなら僕や父さんの事もあって頼まれたら…? それなら断らないよな。
てことは母さんもグルか。下手したら母さんも敵として出てくると思ったほうがいい。
いや、母さんだけじゃない! うちの最強メンバーが全員敵に回るぞこれ…。
ティー、ルナリア、レウィ。この三人は姉ちゃんがやるなら確実に協力する!
アキナさんが言ってた難易度が上がるって…これか!
のんきに串焼き食べてる場合じゃないぞ…。
「父さん、頑張ろう。 多分とんでもない事になるから…」
「はぁ? まぁ全力でやるだけだな! 楽しみだぜ。強くなった実感もあるからな」
気楽だなぁ…。プライドをへし折られないといいけど。
まぁでも、自分の強さを確かめるいい機会だと思おう。
姉ちゃんには敵わないまでも、認めさせてやる!




