試験開始
ギルド試験が開始する当日。
街から塔へ向かう道には、左右に壁が出来ていて、道沿いにはいろいろなお店が出てる。
あの壁は、塔を試験会場にするって決めたときに作ったもので、普段は地下へ収納されてるらしい。
アキナさんから聞いてはいたけど実際に見ると規模がすごいな…。
まぁでも、王族の居住エリアがあるんだから当然の処置だよね。
試験というか、ダンジョンに挑みたいって理由で近隣の国からも冒険者は来るらしいし。
街の方にあるギルドでは昨日から受付を開始してて、参加者が多いから、今日からは広場とかもいくつか受付会場になってるみたいだけど。
朝にユウキと父さんにも会った。
「姉ちゃんは…参加しないよなぁ。 久しぶりに一緒に組みたかったけど」
「ごめんね、さすがに私が混ざるのはね?」
「まぁ仕方ないか。申請だけはしたんだけど…」
「ユウキ、俺じゃ不満か?」
「いや、この数日で父さんも強くなったし、連携が取れそうだから楽しみだよ」
「だよな! アスカ達は応援しててくれ」
そう言って二人は手続きをしに行った。 (ママがボロを出さなくてよかった…)
気をつけたよ! ナイショって言われてるし。 (うん。ナイショー)
「お姉ちゃん、そろそろ準備しないと」
「そうだね」
今回、未亜とシエルは私のサポート役。ボスをする階層毎に着替えたり…ってしなきゃいけないし。
任せてほしいって二人とも張り切ってたから頼らせてもらう。
塔の1階に、私達用に準備室が用意されてるからそこへ向かう。
ここは毎回ボスを頼まれた人が集まるらしい。ボス専用の転移魔法陣もここにある。
転移魔法陣が設置される前は、各ボス部屋の隣に待機部屋があったらしく、今はそこが転移魔法陣の設置場所になっているみたい。
ボス部屋以外は迷路のようになってて、毎回組み替えて雰囲気を変えているって言ってた。
ここはかなり広めの楽屋みたいなもので、中も個室とかがちゃんとあって休憩もできる。
ボス部屋前の待機エリアへ人が来ると、壁にある魔道具が反応して、ボスが必要な階層を知らせてくれる。
階層が表示される見た目はエレベーターを彷彿とさせる…。 なんて便利な。
初日はうちの子が担当する一番低階層、レウィの20階層まで人が来るかも怪しいけど…。
一応、評価するための仕度だけはしておく。
目立たない様に髪は黒に。服もシエルが目立たないのを作ってくれた。
うん、これ忍者だわ。 見た目は着物風。なんだけど…脱ぎ着はしやすい様に工夫がされてるのはさすがシエル。
「パレードの本にのってたの。あっちはもっと派手だったけど…」
私のは紺色で統一されてるもんね。 遊園地では和風なイベントでもやってるのかもしれない。
そして、相変わらず丈が短く、脚は出すデザインなのね。 タイツがあるのが救い。
髪は未亜がポニーテールにまとめてくれた。行く時は顔にしっかりフェイスマスクのように布を巻く。
頭には巻いてないから頭巾とは違う気がする。
「お姉ちゃん、黒髪でも美人だね。なんていうか…和風美人?」
「それは褒めてる? これなら私だってわかりにくいかな?」
「うん、勿論褒めてるよ! 目立ちにくくなったから大丈夫だと思う。でもユウキ君は見破る気がするよ…」
確かに…。魔力は完全に隠蔽するから確率は下がるとは思うけど、何度も会ったら無理だろうな。
お祖母ちゃん達に渡した魔道具とは違い、私のは魔力の完全隠蔽。これで気配を消せば、普通の人にはまず認識さえできない。
「あ、いたいた! みんなに渡しておく物があったから」
アキナさんが数十人の女性をつれて待機室に入ってきた。
え…お嫁さん? 多っ!! (数人混ざってるけどー全部じゃないの)
あ、親衛隊か。ボス役をするならここへ来るよね。 (うん、リアたちも連れてくる?)
お願いするよ。ティーの本体を含めて屋台を見に行ってるもんね。 (お肉いっぱい…)
買っていいから。お金渡してあるでしょ? (わーい!)
アキナさんからミノウシとか肉の代金ってかなりの額をもらったから、それをうちの子達へお小遣いって言って幾らか渡してある。
折角、屋台が出てることだし、今回みんなには頑張ってもらわなきゃいけないからね。
「アスカちゃん?変装すごいね! ハイこれ」
手渡されたのは、銀、金、それと数枚の、めちゃくちゃ豪華な白銀のカード。
あぁ、クリアした人へ渡す証明か。
「アスカちゃんが認めた人にはそれを渡してあげて。銀が40階層、金が…ってわかるよね?」
「はい。50階層のはすごく豪華ですね?」
「今までいなかったからね。 まぁ、今回も難しそうだけど!」
そういってアキナさんは楽しそうに笑ってる。それでいいのかな…。
「50階層の時は召喚獣も出しておいてね。かなり広いから出せると思うし」
「いいんですか?」
「うん! お願いね。好きにしていいから。 他のボス役の子達は?」
「すみません、屋台へ行ってて。 今こちらへ向かってます」
「なるほどー。いいよいいよ。 みんなの出番が今日はあるかわからないし、楽しんでほしいからね」
しばらくして到着したうちの子達もアキナさんからカードを受け取ってる。
母さんがいないなーと思ったけど、多分ギリギリまで父さんの傍にいる気がするな。
ティーは銅色、リアは赤色、レウィは青色。それぞれのカードを貰ってた。ちなみに母さんのは黄色になるんだとか。
「じゃあ私は開催の挨拶とかもあるからもう行くね」
そういってアキナさんは親衛隊の人達数人とハグをして部屋を出ていった。お嫁さんかな? (当たり!)
やっぱり…。
そうだ、一つ確認と周知させておかないと。
「リア、レウィちょっといいかな?」
「何かしら? って…アスカは黒髪も似合うわね。一瞬びっくりしたけど」
「主様かっこいい!」
「そう?ありがと。 あのね、今から私の魔力を完全に隠蔽するから確認してもらえる?」
多分知らせずに隠蔽したら、この二人は気がつくし、下手したら私に何かあったかもってパニックになりかねない。 (おーママが学習した)
心配かけないようにって思ったの! (えらいのー!)
「わかったわ。 理由は大体わかるけど…不安になるわ」
「(一応、抜け道はあるから。リアもレウィも、渡してある通信魔道具、ファミリンはつけてる?)」
「(ええ。当然よね)」
「(わう! ばっちり)」
「(ならリンクされてて普段道りにわかるはずだよ。 だから今だけ、一度外してもらうけどね)」
「(なら安心ね。 でもそれだとユウキにはバレないかしら?)」
「(ダンジョンアタック中は、私の渡した魔道具は全部使用禁止にするってアキナさんが言ってたから大丈夫)」
「(そうよね、アスカの魔道具があったらアスカ以上の強さがないとダメージ入らないもの)」
「(主様すごい!)」
だから父さんも、傷が癒えてからの感覚を体に叩き込むために、毎日ユウキと特訓してた訳だし。
一応、ダンジョン専用魔道具で致命傷は避けられるみたいだけど、多少の怪我は普通にするでしょうから。
魔獣も放たれるし、罠もわんさか有るって、悪い笑顔でアキナさんが言ってた…。
地下に魔獣の待機檻がいっぱいあるらしい。
「じゃあ確認してもらいたいけどいいかな?」
二人がファミリンを外して、テーブルへ置くのを確認してから、自身の魔道具を使い隠蔽。
「アスカの魔力が消えたわ…」
「主様が…」
成功だね。これで私も普通の一般人! (それはない!)
なんでよぉ。 (ママに一般人はムリだよ?)
むぅ…。
「あれ?部屋にあった魔力のすっごい圧がきえた!?」
「どういう事よ?」
「わからない…何だったの?」
親衛隊の人達にも獣人の人や、多分ドラゴンの血を引く人もいそうだもんな。 (うん、お嫁さんにもいるの)
そうなんだ。怯えたりしないのはやっぱり親衛隊っていう役職ゆえかな。
「シエルちゃんはわかる?」
「うーん?なんとなく…未亜姉様は…?」
「私もなんとなくしか…」
二人は一応、一般人の括りだからなぁ。
「すまない、皆さんは陛下のご親戚の方であっているだろうか?」
突然話しかけられてびっくりした…。って背高っ! 獣人の人だとはわかるけど…。
耳から判断すると猫系かな?かっこいい感じのお姉さんだね。
黒い髪に耳…。ブラックジャガーとかをイメージしちゃう。
もう一人、後ろに控えてる人は普通の人族っぽい。外見上は、だけど…。
「はい、私の母が女王陛下の姉にあたります」
「おぉ…陛下の姉上の! 挨拶が遅れてすまない。 陛下の親衛隊、隊長のサージェだ。よろしく頼む」
「はい、私はアスカです、こっちが…」
「ティーだよー」
「ルナドラゴンのルナリアよ」
「エルフのシエルです…」
「アスカの妹、未亜です」
「フェンリルのレウィ!」
親衛隊の人達からも挨拶と自己紹介をしてもらって、さっき魔力の圧が消えた事も聞かれた。
「こっそり、冒険者達の評価をするようにと、女王陛下から依頼されてまして…」
「なるほど…確かにそれ程の魔力だと、それだけで心が折れるものもいそうだ」
今は隠蔽はしてないんだけど、そこまでかなぁ…。 (……)
「隊長、それ程ですか?」
「ああ、陛下でも比較にならんほどだ」
「ええっ!! 我が国最強ですよ?陛下って」
「ああ。 信じられなかったら他にも気がついている者もいるから確認してみるといい」
「はーい」
そう言って隊長と話していた親衛隊の人は他の人のところへ戻っていった。
魔力に敏感じゃないなら、ドラゴンでもないっぽいね。
「すまない、失礼だったな」
「いえ。慣れてますから…」
それに今、ここの国にはもう一人、お祖母ちゃんもいるし。 (あっちのがやべーの、違う意味で…)
ティーにお祖母ちゃんがめちゃくちゃ言われてるな。 (ヤンデレ怖い ティー覚えた)
それは確かに…。
「そろそろだな…」
隊長のサージェさんがそう言うと、ちょうどアキナさんの声が聞こえてきた。 (拡声魔法で国中へ聞こえてるみたいー)
へぇー。開会式の挨拶かな…。
”よく集まってくれたな。 いよいよ今日からドラゴライナ王国恒例、ギルド試験が始まる! 皆の物、冒険者として恥ずかしくないよう行動し、精一杯頑張ってくれ! 今回はサプライズもあるからな? なんと…50層を突破したらSランクを渡すぞ“
「え? 隊長! 初耳ですよ私」
「私も聞かされた時は驚いたが…まぁ、納得だな」
そう言って隊長さんは私を見る。 うん、もうわかってるね。ラスボスが誰か…。
”みな盛り上がるのはわかるが落ち着け! それだけ今年は難易度が高いという事だからな?油断するなよ。 それと手続きを済ませた者は知っているだろうが、今年から新しい魔道具が配備された。 それによって、以前より公平な試験となるだろう! みな全力で力を示せ! そして、この祭りを楽しめ!“
楽しめ、かぁ。私もチョコ達と一緒に戦うのは久しぶりだし、ちょっと楽しみかも。 (相手が可哀想…)
なぁに、ティー? (なんでもないのー。ティーも楽しむ!)
うん! ティーとも一緒に戦えるかもだし。 (それは心躍るの!)
さぁ、ユウキと父さんはどこまで来るかな?




