役割
「準備は?」
「滞りなく…」
「よし、今から降りてくるのは我の母上を含む身内ばかりだが、対応を間違えぬよう通達しておけ。敏感な者には魔力量でわかるとは思うが、事と次第によっては国が消し飛んでもおかしくないからな」
「はっ」
窓から外を見たら、兵士さんやメイドさんを含めて百人規模の人達が並んで出迎える体制になってて、アキナさんが何やら指示を出してるみたい。
すごい光景だよ…。ここに出ていくの? (王族やべーの)
うん、アクシリアス王国なら必要最低限の人ですませてくれるから…。この人数は想定外だよ。
指示を出し終わったらしいアキナさんがドラツー内へ戻ってくる。
「みんな降りて大丈夫だよ、このままパーティーだから! 楽しんでね」
「おー、アキナのとこは、ご飯が美味しいから嬉しいよー。 ほらーみんな行くよ!」
母さんは軽い感じに言うけど、大丈夫かな。
「お姉ちゃん、私達って着替えたりしくていいのかな?」
「ドレスなら、うちがもってるの…みんなの分あるの」
「私は翼とか出しておいたほうがいいのかしら…」
「どうなんだろ? 母さんはすぐ降りていきそうだし、大丈夫なんじゃない?」
確かにユウキの言うとおりで、母さんはお祖母ちゃんと搭乗口へ向かっていってる。
父さんはお祖父ちゃんと一緒。変な組み合わせだなぁとかちょっと現実逃避。
「みんなどうしたの?」
「王妃様…。 えっと、服とかこのままでいいのかな?とか…外のすごい人の数に不安になってしまって」
「あぁ〜。大丈夫よ、ここではお祖母様がトップなのよ? その身内なんだから何も問題はないわよ」
それで済ませていいのかな…。
「アスカー?お姉ちゃんなんだから、ちゃんとみんなを連れて、早くおいで!」
母さんが搭乗口から叫んでるし。
「ほら、行くわよアスカちゃん」
アリアさんを伴った王妃様に促されるまま私達もドラツーを降りた。
ティーはレウィと手を繋いでくれてるし、未亜とリアは私の腕にしがみついてる。
お陰で私もちょっと安心する。
ユウキに至っては全く平気そうにしてるし…。
シエルもこういう時は意外と平気みたい。
どちらかと言うと好奇心の方が勝っててキョロキョロしてる感じだけど。
普通なら服飾のデザインには関係ないって思うようなモノからでもヒントを見つけるからねあの子。
服飾に関しての観察力、洞察力がすごい。
王妃様はいつも通りアリアさんを連れて堂々としてる。さすが根っからの王族…。
…てことは、あのキャラ崩壊は元々なのかな。 (問題児…)
あぁ…アキナさんが言ってたね。
「ようこそ、我がドラゴライナ王国へ。女王として歓迎する!」
アキナさんのその言葉と共に周りの人たちがみんな跪く。
「へぇ〜。アキナはちゃんと国をまとめているのね?」
「前に私が来たときより大きくなってるもんねー」
そんな話をしながらどんどん歩いていく母さん達に私達はついていくので気分的に精一杯。
だって道の両脇に跪いた人がズラーっと…。
お祖父ちゃんと父さんも、お祖母ちゃんと母さんに並ぶようにして行っちゃうし。
距離は大したことないんだけど体感ではすごく長く感じた。
歩くこと数分、ようやく大きな門に到着。ドラツーからここまで跪いた人で道ができてたよ…。
門をくぐるとやっと人が減って落ち着く。
これがお城なのかな? 中へ入ると、そこはアクシリアス王国とは違い無骨で堅牢。
装飾品もなく、どちらかと言うと前線の砦のよう。石造りだし。
「相変わらずここは殺風景だねー」
「前にもお姉ちゃんにそう言われて、客間とかはある程度装飾はしたよー」
「そうなの? それはちょっと楽しみ」
転送用の魔法陣で上階へ上がるらしい。
魔法陣でどれくらい上がったんだろ?体感的にはかなりの高さな気がする。
アキナさんに案内されて到着したのは大きなホール。
一面ガラス張りになってるホールの正面には屋外テラスも見える。その向こうにはどこまでも続くかの様な王都の街並み。
ホールのテーブルには美味しそうなお料理もたくさん並べてある。
それはいいんだ。素敵な眺めだし、美味しそうないい香りもしてる。 でもさ…。
室内の装飾の方向性がおかしいよ! (ホラーハウス…)
まさにそれ!
魔獣の骨で作った燭台や家具類。
魔獣の剥製がすごい迫力で周囲に飾られてて、未亜が震えてるのが腕から伝わってきたし、シエルも私に抱きついてきた。
「お姉様ぁ…」
流石のシエルも好奇心より恐怖心のが勝ったらしい。
リアも腕を掴む力が強い。
「アスカ…アレ動かないわよね?」
「それは大丈夫。 魔力は感じないでしょ?」
「ええ。でも気持ちの問題よ!」
うん、リアの言うとおりだね。
ティーは平気? (うん! レウィも大丈夫!)
うちの子強いわ…。
例えるなら邪悪な魔王城? または…気合いの入りすぎたハロウィンパーティーの会場。
「どう?装飾頑張ったんだよ?」
アキナさんはめっちゃいい笑顔。
「そうだった…。 アキナってこういう子だったよ」
母さんはゲンナリしてるし、王妃様も頭を抱えてる。
「アキナもなかなかやるわね。私は好きよ…こういうの」
あー…お祖母ちゃんのセンスを受け継いでるのね…。
この状況でも相変わらずニコニコしてるお子ちゃまなお祖父ちゃんが背景と相まって一番怖い!
「給仕の者以外、出入りはないからみんな安心して食事を楽しんでね」
そうは言われても…。魔獣に取り囲まれてるような場所で食事はしにくいよ!?
「(姉ちゃん、めちゃくちゃ落ち着かないんだけど…)」
「(それは私もだよ。魔獣の巣の中にいる気分だし)」
「(でも料理は美味しそうだよなー)」
ユウキは言うほど気にしてないよね!?
「お祖母様、これはお客様をお招きする場所ではありません!」
「えー。頑張ったのに。 ほら、アレなんかキレイに倒すの大変だったんだよ」
いかにもヤバそうな魔獣を指差すアキナさん。
全身棘だらけだから…倒すだけなら何とでもなるけど剥製にしようとするなら派手な魔法は使えないもんなぁ…。
って私はなんの分析してるんだよ。 (ママが遠い目をしてるの…)
「ここは魔獣の博物館ですか! こんな場所で落ち着いて食事なんて出来ませんよ!」
「そうなの?みんなも…?」
私達は全力で頷く。 お祖母ちゃんと、相変わらずニコニコしてるお祖父ちゃん以外が、だけど。
多分アレだ、お祖父ちゃんは色々ありすぎて感覚がぶっ壊れてるんだよ。そう思っておこう…。
「アキナ、そこのテラスに普通のテーブルを置いてそっちへ移動しない?せっかく眺めがいいんだし」
「あっ。 そうだね、うちの王国を見渡せるもんね。 流石お姉ちゃん」
母さんの提案を受け入れたアキナさんの指示でメイドさん達がテラスへ再準備。
私達も移動する。 (ホラーハウスを脱出!)
うん、さすがにアレは…。
テラスから見える、区画整理された街並みはすごくキレイだし、程よい風が吹いてて心地良い。
後ろの室内を振り返らなければ、だけど。
料理は見たことないものばかりだったけど、どれも本当に美味しかった。
肉料理が多いからボリュームがすごかったけどね。
リアやティー、レウィは大喜びだし、ユウキと父さんもすごい食欲だね。
シエルはいつも通りおとなしく食べてる。まだ緊張してるみたい。まぁ私もだけど…。
早々にお腹いっぱいになった私は、テラスの縁に寄りかかって街並みを眺めながら休憩。
ここはドラツーで飛ぶときに目印にした塔の中だったのか。
入ってきた入り口はお城の城門って感じだったからてっきりお城かと思ってた。
と言うか歓迎のすごい人の数に気を取られてて、見上げなかったから気が付かなかった、が正しいかも。
塔の周りは私達が降りた発着場以外は、ぐるっと庭園になってる。それを囲むように大きなお屋敷が並ぶ。
あの辺は王族の人達が住んでるエリアかな?そこを囲む城壁があって、その外が街並みになってるもの。
「ここの王国もすごい眺めだね」
「そうだねー。すごくキレイだよ。 未亜も食事は終わり?」
「うん。美味しかったけど、もうお腹いっぱい」
「そっか。私と一緒だね。 魔獣の剥製は大丈夫だった?」
「すごく怖かったよ。 あんな近くで初めて見たから…動かないってわかっててもあれは怖いよ」
未亜が間近で見たのって私の召喚獣くらいだっけか。
「お姉ちゃんとユウキ君はあんなのと当たり前に戦ってたの?」
「そうだね。数え切れないくらい倒してきてるよ」
「怖くなかったの?」
「まさか…。 最初は怖かったし、夢でうなされたりもしたよ」
「そうなんだ…。 今は平気なんだよね?」
「うん、スキルのお陰だけどね。何度か戦ううちに恐怖への耐性とかそういうのを手に入れるから」
「私もそういうスキルを手に入れたら怖くなくなるのかな?」
「そうだね、ただ、それまでは夢でうなされたり、トラウマレベルでキツイよ」
「それはヤダなぁ…」
「未亜がどうしても戦いたい、冒険者みたいになりたいって言うなら鍛えてあげるし、力になるよ。でも、そうじゃないなら私達が守るから。 戦えない事は悪いことじゃないんだし」
本人が望まないのなら、無理して戦闘に身を晒す必要はないと思うからね。
「…戦いは怖いよ、あんなのを相手にするなんて。 でも、お姉ちゃん達の力になれないのはもっとヤダ」
「うん? 未亜はなにか勘違いしてるね」
「え?」
「ん〜そうだねぇ、例えば…ユリネさんはメイドさんだよね?」
「うん、お姉ちゃんを襲わなかったらすごいメイドさんだよ」
「…そうね。 ユリネさんは戦えないけど、お城で何の貢献もできてない人かな?」
「ううん。そんなことない! すごいメイドさんだよ」
「だよね。 適材適所、向き不向きなんだよ」
戦闘員しかいなかったらそれはそれで立ち行かない。
こんな世界なら、その逆も然り。
「いろいろな仕事、役割。 皆それぞれ出来る事をする。それが大切じゃないかな?」
「私は何をしたらいいのかな…? お料理も家事もお姉ちゃんには敵わない。戦闘なんて言うまでもないし。役に立てることが思い浮かばないよ…」
「未亜は難しく考えすぎなのよ」
こういう時、リアはいいタイミングで来てくれるから助かるよ。
「でも…。 戦えるリアちゃんにはわからないよ…シエルちゃんは戦えなくても服が作れるんだよ?私は…」
「アスカが役に立つか立たないか、そんな事で家族を判断すると思う?」
「思わないよ。これは私のわがままなのもわかってる。何か役に立てるようになりたいって、そういうわがまま」
「だったらそれは自分で見つけなきゃダメよ」
わがままかぁ…。今でも充分に支えてもらってるんだけどね。今それを言っても…。 (納得しなさそう…)
だよね。私にとって心の支えである家族は、居てくれるだけでみんなかけがえのない存在なんだけど。
多分、未亜が納得しなきゃ意味がない。
「自分で見つける…か。 難しいね」
「そうでもないわよ?」
「え?でも…」
「バカね、未亜は一人じゃないでしょ?私やティー、シエルにユウキ、レウィもいる。今はお母様達もいるわ。頼ればいいじゃない。見つけるのは未亜だけど、手助けはするわよ?」
「リアちゃん…。うん! ありがとう。頼りにしてるね!」
この二人ってあれだね、戦う時の私とユウキみたいに支え合ってる感じがする。 (おーなんかいいの)
うん。私が言うより、リアの言葉のがしっかり未亜に届いてそう。




