本気の母
突っ込んでくる勢いのまま殴りつけてくる母さんの腕を掴んで放り投げる。
「ちっ…」
空中で翼を使い体制を立て直してまた突っ込んでくる。
直線的過ぎてわかりやすい。
だから…避けつつ母さんが飛んでくる軌道上に私が足をおいておくだけで…
「ぐっ…つぅ…」
勝手にダメージ受ける事になる。
「舐めるなー!」
そう言いながら更に殴りかかってくる母さんを避けて背後へ。多分母さんには目で追えないよね?
「…えっ?」
やっぱり。 そのまま背後から軽く蹴りつける。
「うぐっ…いったいな!」
「直線的過ぎて読みやすいんだよ。それでよく父さんを守ってこれたね?」
「うるさいっ!」
そう言ってようやく不規則に飛びながら殴りかかってくるけど…今度は速度を出せないから遅い。
殴りつけてきた拳を払いのけた事でよろけた母さんの翼を飛べなくなる程度に火魔法でダメージを負わして距離を取る。
「うがぁっ! あっつぅ…。 っ! そんな…翼が…」
「もう飛べないよ?どうする?」
「っ…」
振り向きざまに母さんは私へブレスの構え。
飛べなくなって、機動力が落ちたならそうくるよね。ブレス使えるって言ってたし。
青白い光線が飛んでくる。
右手で魔法防壁を張って上空へブレスを反らせればそれでおしまい。
「そんな…嘘でしょ?」
「もう終わり? ならこっちから行くよ!」
母さんと同じように真正面から突っ込みそのまま殴りつける。
あえて同じ事をする。そうしたら差がはっきりわかるよね?
煽るのも殴るのも心が痛い…。だけど…今のままじゃダメなんだよ母さん。
当然反応なんて出来ない母さんは、まともにボディへ私の拳が入り、ぶっ飛んでいく。
もちろん加減はしてる。それでもドラツーの端に張ってある魔法防壁まで飛ばされ、叩きつけられることでようやく止まり、落ちる母さん。
「うぅ…くっ…なにこれ…」
「母さんがドラゴンハーフで強いっていってもこの程度なんだよ。 私とユウキはね、お互い信じて支え合って戦ってきたんだよ。この意味わかる?」
「……」
「助けるだけ…? そんな事してたら私達は生き残れなかったんだよ! 母さん達だってギリギリだったんじゃないの?」
「っ…」
「母さんは守って来たつもりかも知れないけど、結果的に父さんは成長出来ずに、今追い込まれてる。原因は母さんなんだよ?」
「違う! ちゃんと夕夜も戦ってたよ!」
「…母さん自身もそんなに成長してないでしょ?」
「……そんな事ないっ」
「そう。 ならもう言うことは無いね。 知ってる?私は魔法特化なんだよ?」
ドラツーの端でお腹を押さえて蹲る母さんへ向けて氷の槍を無数に展開。
「そん…な… 嫌…止めて! ユウキ、アスカを止めて!」
「………」
ユウキはわかってるから止めない。 これが信頼。 それを母さんは理解してない。
「嘘…でしょ?私は母親だよ?」
「…だからだよ」
更に氷の槍に雷を纏わせ見た目での威圧、さらに魔力による威圧もぶつける。
「あ…ぁ…」
限界のきた母さんはそのまま気を失った。
即座に魔法を消して母さんに駆け寄り、治癒をかける。
加減したとはいえ翼はボロボロだし、殴った所は当然ダメージがある。
「姉ちゃん、母さんは大丈夫そう?随分派手にやったね…」
「これくらいしないとわかってくれないよ…。 だよね?お祖母ちゃん」
「ええ。嫌な役目をさせちゃったわね。本来なら私がやるべき事だったのに…ごめんなさいね」
「いつの間に…姉ちゃん知ってたの?」
「うん。ユウキと父さんが戦ってた時からいたよ?」
「マジかよ…」
お祖母ちゃんも母さんと父さんの事が心配だったんだと思う。
戦いに身を置くのならこのままじゃ危ないって。
いくらもう召喚されるつもりはないと言ってても、何があるかわからない。
これから、この世界に住むにしたって危険はあるんだから…。
「守ってるだけじゃどちらも成長できないし、いずれ限界が来るわ。ユウキ君もそれはわかるでしょ?」
「うん、僕らはお互いの長所を活かして支え合ってきたからね。 母さん達は違ったんだね?」
「多分、母さんがずっと守ってたんだと思うよ。ドラゴンハーフだから持って生まれた強さがあるし」
「そうね。惚れた弱みってやつかしら…私も経験があるからわかるわ。それで危うく失うところだったから…」
お祖母ちゃんは経験者なんだね。失いかけたって言うのはお祖父ちゃんかな…。
「今までは母さんの強さでどうにかなってきてたんだと思うよ。勝てない相手に出会ってなかったってだけ」
「ええ、そんな相手に出会ってたら生きてないわ。足の引っ張り合いにしかならないもの」
「僕と姉ちゃんは勝てないと思うような相手でも、支え合い補ってたから…」
「そう。 だからギリギリだったとしても戦いながらその場で成長もしたし、そのお陰で勝ってこれた。でも一方に頼り切ってたら?」
「その相手が倒れたら終わりだね」
「そういう事よ。それをナツハは理解してないのよ。自分がなんとかすればいいって思ってるの」
結局それは戦えない相手を守ってるだけと同じ事になってしまう。
「私が未亜達みたいな戦えない子を守るのと変わらない。それが悪い事だとは言わないよ?誰もが戦える訳じゃないんだから。でも父さんは違う。戦う勇者なんだからそれじゃダメなんだよ」
「孫たちのがしっかりしてるんだから…参るわね」
「私達のが場数踏んでるから」
「だね。だから父さん達より強いし」
「そう…。苦労したのね」
お祖母ちゃんはそう言って私とユウキを抱きしめてくれた。
温かくて、優しいそれは母さん相手に戦うっていう事をした痛む心を癒やしてくれた。
世話の焼ける両親だよ。 でもこのまま母さんに恨まれたらどうしようかなぁ…。 (大丈夫なのー)
ティー…。ずっと見てた? (うん、なんか話しかけられる雰囲気じゃなかったのー)
ごめんね、私も精神的にきつかったし…。 (それはとうぜんなのー。お疲れ様)
ありがとね。ティーと話すとホッとするよ。 (ふふー♪)
その後、全然起きない母さんと父さんを私とユウキで、ドラツー内の両親の部屋へ運んだ。
「世話焼けすぎだろ! いつ起きるのさ」
「ごめん、どっちも私のせいだよ。父さんへユウキへ使うくらいの魔力込めてスリープかけたから…」
「それ、ちゃんと起きるの!?」
「それは大丈夫だよ!」
変に起きてまた無茶させたくなかったからね。回復しきるまで起きないようにした。でも、母さんは…
「ナツハのことは私に任せて。これ以上、孫達に任せてばかりいられないわ」
お祖母ちゃんなら経験者みたいだし、お願いしよう。
私とユウキは両親をお祖母ちゃんに任せて部屋を後にした。




