力の差
召喚獣のクッキーは空を堪能した後、小さくなって戻ってきた。
クー? 他の子達は流石に呼べないかな。みんなは小さくなれるわけじゃないからね。
クー… あと呼べそうなのはあの子くらいか。話もできるけど…。あの子はみんなの教育にあまり良くないから呼ぶときは気をつけないと…。
クー! だからごめんね。 呼べるような場所があったら呼ぶから。
クッキーはまだ暫く飛んでいたいらしいから、そのままにして、みんなでドラツー内へ戻って来た。
偵察もしてくれるし、クッキーならドラツーの速度にもついてこれる。
クッキーは小さくなってれば偵察ができるし、大きくなれば凄まじい戦力になる。
あの子の氷の壁で何度、人族の侵攻を食い止めてもらったかわからない。
みんなは他の召喚獣も気になるって言ってたけど、大きいからここでは無理って説明して諦めてもらった。 (ママをいつも載せてたグリフォンのチョコ、海竜のラムネ、後は…)
うん、姿を霧状に変えられるミストサキュバスのキャンディだね。 (あいつはヤバいの)
まぁそうだね。 姿を霧へ変えられるっていう所だけに惹かれて呼び出した当時の自分を叱りつけたい。
魔力体じゃなかったら本気でヤバかった。召喚獣なのに言う事聞かないし…。
一応、本当に大切な時はちゃんと聞いてくれるんだけど…基本自由なんだよな。悪い子ではないんだけど。
でも、ずっとキャンディだけ出してあげないなんて事はしたくないから考えなきゃなぁ。
今なら私が女の子になったし大丈夫かな…。 (どうだかー。ママにベッタリだったし)
だよね…。クッキーも性別が変わった事を気にしてなかったものね。 (うん。魔力は同じだからかも)
なるほど。それはそっか。
「母さん、父さんは?」
ユウキにそう言われて、食事時以外、父さんがあまりリビングにこない事に気がつく。
「お母さんにポンコツって言われたのがよっぽどショックだったのか部屋で筋トレしてるよ」
「だって、ちっとも成長してないじゃない。そんなんじゃ大事な娘や孫を任せられないわ…せめてユウキ君くらいにはなって欲しいわよ」
お祖母ちゃんは鑑定もつかえるらしいからその辺厳しい。 だから私は警戒されたのだけど…。
「異世界なら成長速度が早いからって、頑張ってるよ。 だからお母さんもあまりイジメないであげてよ」
「ナツハが甘やかしてるんじゃないのかしら?」
「そんなことは…」
そう言いつつ目を背ける母さんは多少の自覚があるらしい…。
ユウキは母さんからその話を聞いて、何か思うところがあったのか母さん達の部屋へ向かった。
その後、父さんと二人で倉庫へ向かったのだけど、まさか…発着場で模擬戦でもするつもり?
心配した母さんが向かったから大丈夫だと思うけど。
お祖母ちゃんも少し遅れて見に行った。
暫くしてクッキーから”大丈夫なの?“って意思がとんでくる。
空を飛んでてユウキ達の戦いを見てるのかな。 私も一応確認しておくか…。
倉庫からまた発着場へ。ハッチを開けた途端にすごい剣戟の音と、母さんの悲鳴。
「ユウキ! もう止めて!」
「…ナツハ、止めるな。俺が頼んだ…事だっ はぁ…うっ…」
「でも!」
「…手応えなさ過ぎ。もう息上がってるの? スタミナもなさ過ぎでしょ」
「だから、鍛えて欲しいって…頼んだんだろうが!」
「はぁ…加減するのも大変なんだからさ。そんなんじゃ姉ちゃんには到底かなわないよ?」
なにしてんの? (ユウキとスパーリング?)
いやそれは解るんだけど…母さんは半泣きだし、父さんは片膝ついて、もう限界だよねアレ…。 (うん)
対してユウキは息一つ上がらず余裕。
「ユウキ?」
「姉ちゃん。 父さんが望んだんだよ。別にいじめてるわけではないよ?」
ユウキがそんな事するはずないのはわかってるけど。
「アスカ、構うな。俺が頼んだ事だから」
「でも魔力も体力も限界でしょ。休まないと」
「そうだよ! 一度休んで!」
「…いや、まだだっ。父親として俺が皆を守らないと…」
はぁ…。無理しても何にもならないのに。焦り過ぎだよ。
問答無用で父さんへ魔法を放つ。 避けられるなら続けてもいいけど…。 まぁ無理だよね。
スリープの魔法が当たりバタっと倒れた父さんへ駆け寄る母さん。
「ありがとう、アスカ」
「それはいいのだけど、父さんは何をそんなに焦ってるの?」
「仕方ないの。 だって…子供の貴方達にさえ敵わない、それを身に沁みて解っちゃったから」
母さんが言うには…話を聞いただけだと、そこ迄の力量差に実感がなかったところへ、最強のドラゴンでもあるお祖母ちゃんが私を恐れて警戒したことや、私のドラツーを目の当たりにした事で現実を突きつけられたらしい。
「だからって、いきなりこんな無茶しても成長なんてしないでしょ」
「僕もそう言ったんだけどさ、聞かないんだよ」
「……ごめんね夕夜。私がいないとダメなのに…無茶して」
はぁ…何してんだか。 お祖母ちゃんの言ってた甘やかしてたってのが本当っぽいなぁ。
「母さん、私と戦って」
「え? なんで…アスカ本気なの?」
「いいから。 なにしてもいいよ」
「…舐めないでもらえる?いくらアスカでもドラゴンハーフの私を相手に…」
「そう思うのなら試してみたら? 母さんが良かれと思って父さんにしてきた事が本当に正しいかわかるよ」
私とユウキはお互いに背中を任せて戦ってきた。危ない時は庇った事も、庇って貰った事も当然ある。
だけど…それは本当に危ない時だけ。 信じてるから、背中を任せられる。
支え合うってそういう事だよね? 母さんのは単なる自己満足で、父さんの成長を邪魔しただけ。
だから今、父さんはこうやって追い詰められてる。それを母さんは理解していない。
なにか理由があるんだとは思うけど、それにしたって…。
ユウキもわかってるから私を止めない。
「早くして。それともそのまま父さんを巻き込んでもいいの?」
「…元魔王だからって調子に乗らないで! 私だって魔王は倒してきた。夕夜を巻き込む?それだけはさせないよ!」
あー…父さんの事になると周りが見えなくなるのか。 子供の私相手でも本気で殺気飛ばしてくるし。
「早くしてよ。待ってあげてるんだけど?」
「アスカ! いい加減に…しなさいよ!」
一気に魔力が膨れあがってドラゴンハーフ姿で飛び込んでくる母さんは、もう母親の顔はしていない。
それでいい。 その上で自信とプライドをへし折ってやらないと!
たぶんそれくらいしないと母さんも父さんも変われない。
このままだと更に父さんを追い詰める事になりかねない。 だから私は魔王になろう。
本当はこんな事はしたくないけど、損な役回りだよね…。




