閑話 家族の怒り
〜アスカが転移した直後、王城の一室〜
「お姉ちゃん! そんな…一人で帰っちゃったよ…」
「多分姉ちゃんは、もし戦闘になった時に、僕らやこの世界を巻き込むことになるって、考えたんだろうね。だから原因の自分がいなければいい。そう思ったんだと思うよ」
「だからって…それにお姉ちゃん泣いてたよ…?」
「うん、わかってる。 姉ちゃんだけが帰ったからってなんの解決にもならないこともね。でも、ほら姉ちゃんって少し考え無しなとこあるから」
「アスカならありえるわね…。まったく! いつも一人で抱え込むんだから!」
「お姉様…」
「主様において行かれた!! どうしよう…」
「レウィはちょっと落ち着きなさい」
リアが焦るレウィを撫ぜて嗜める。
「お母さん、私は今本気で怒ってるんだけど…」
「…そんな事言われても。 あの魔王はナツハやそこのポンコツ勇者でも倒せた魔王とはレベルが違うの! それがわからないの? 私でも勝てるかどうか…」
「ポンコツ…」
「お義父さん、落ち着いて…」
「…ありがとう、未亜ちゃん」
「魔王がどんなものかナツハならわかってるでしょう。少し前にいた魔王だってクズだったわ」
「アスカは違うよ!」
「どうかしら…。 戦えない仲間の種族を酷使して、今にも魔力の枯渇で何人もが死にそうだった。 危険な人達を私が運べるだけ連れて帰ったわ。もう一度迎えに行ったときには残りの人達はもういなかった!」
「……」
「あの時、ナツハの魔力に近い物を感じて、もしかして…と思って行った先で起こってた事よ? その魔力の持ち主本人には直接会えなかったけど…。 その後も何度か似た魔力を感じたわ。でも、ナツハじゃないってわかってたからもう来なかったし、感知からも外したわ。それがあの魔王だったんでしょ?」
「私の娘を魔王魔王言わないで! 何も知らないくせに…」
「知りたくもないわ、魔王のことなんて…。 私が唯一認めるとしたら、そのクズ魔王から助けてきた魔族のご先祖…異世界にいた、魔道具で魔族を復興したっていう魔王くらいよ。どれだけ年数がたっても語り継がれていたわ」
「「「「…………」」」」
「それ姉ちゃんなんだけど…」
「ユウキ、どういう事!?」
「母さん達にはまだ話してなかったっけ…。姉ちゃんが魔王をしてた世界が長い年月で衰退してさ。そこの魔族の人達がこちらの世界に転移して来たらしいんだよ」
「ユウキ君、そこからは私が話しましょうか。当事者だからね私は…。それにアスカちゃんから直接話も聞いているわ」
「王妃様いつの間に…」
「少し前にね。 口を挟める状態じゃなかったから」
「すみませんうちの母が…」
「いえ…。お気になさらず。 セイナ様、私はさっき仰っていた魔王を討伐したパーティーにいましたので、お話し致します」
「…その魔王を知っているのなら、魔王という存在の邪悪さもわかっているでしょう?」
「そうですね。直接戦いましたから。 それに私も魔王軍から逃げてきた魔族の方達からご先祖様にあたる魔王様のお話は聞いています」
「逃げてきた? じゃあ私が迎えに行った時に居なかったのって…」
「おそらくは…。 今は皆さん別の国で暮らしています」
「そう…良かったわ」
「その魔族の人達が話してくれた昔の魔王様のお名前は”ディアス”じゃありませんでしたか?」
「ええ! そうよ。攻めてくる人族を追い返したりはしてたけど、攻めることは決してしなかったって。 しかも、衰退した人族に助けの手を差し伸べようとまでしたとか…散々攻め込まれてたのに」
「その魔王ってアスカちゃんなんです」
「……え? そんなわけ無いでしょう。世界も違えば年数だってどれだけ経っていると…」
「僕とアスカ姉ちゃんは何度も何度も色々な世界に召喚されて、勇者として戦ったりしてきたんだよ。 しかも僕達が召喚される様になった発端って、母さんが父さんを召喚したからだよね?」
「…うん。そうなるのかな…。最初だったからきっかけを作ったんだと思う…」
「そのせいで僕と姉ちゃんはあちこちの異世界で戦った。 姉ちゃんが魔王をしてたのもその一つ」
「だからってその魔王とあの子が同じと、どうして言い切れるの?経過年数の説明は?」
「年数に関しては、僕も姉ちゃんも送還される時に、召喚時の姿に必ず戻されてたから。何年経っても時間も戻されてたんだよ、必ずね。 スキルやステータスはそのままに。それに行った世界と僕らの生まれた世界では時間の流れも違う」
「……」
「魔王がアスカちゃんだって事に関しては私が確認をとっています。証拠が必要ならアスカちゃんの作った魔道具があります。 魔道具を作るためにアスカちゃんが作った魔刻刀も私はもらっています」
「魔刻刀…聞いた気がするわね。 いいわ。そこまで言うなら、その証拠とやらを見せてもらえる?」
ユウキはブレスレットにピアス、未亜はネックレスに指輪。
リアはチョーカーと指輪、シエルはネックレスと指輪。
レウィは首輪。王妃もネックレスと魔刻刀を。
母親のナツハはネックレス、父親である夕夜はピアス。
それぞれテーブルに置いていく。
「何よ、この数は…。これ全部魔道具だっていうの!? ……待って、これ…なんの魔道具なの?私でも理解できない物が殆どだわ…」
「それ全部アスカちゃんが作ってみんなに渡したものなんです。全員の魔道具に身を守れるようにって効果が込められてます」
「……そんな…嘘でしょ…」
「敵意を向けてアンタが傷つけたのはそんな優しい僕の姉ちゃんなんだよ! どうしてくれるんだよ!」
「そうよ! 私の命の恩人なのに! 傷つけて泣かせて!」
「お姉ちゃんは本当に優しくて…それなのに…酷い!」
「うちはエルフの森も、たくさんのエルフも助けてもらって…それにうち自身も助けて貰ったの…」
「暴走してて自分を制御できなかったのを止めてもらった。 だから主様!」
「我が王国も、返しきれない恩がアスカちゃんにはあります。魔道具の知識もその一つなんです」
「………」
「お母さんは私の大切な娘を傷つけたの。この意味わかる? 孫なんだよ?お母さんの」
「……っ」
「ティー、いるよね?」
「うん、いるのー」
ベッドにドラゴン姿で何も言わず成り行きを見守るティーにユウキが話しかける。
「黙ってないで何か言っていいよ?」
「…何も言いたくないの。大切なママを泣かせたドラゴンなんて嫌い」
「そうだよね、ティーは姉ちゃんが魔王の時から一緒だったから…悪く言われたら許せないよな」
「うん。ママが魔王をしてた時のことならティーが話せるの。でも話を聞こうともしないでママを泣かせたドラゴンになんて話したくないの」
「……」
その後も伝説のドラゴンとまで言われたセイナはみんなからフルボッコに批判され…。
「ごめんなさい、知らなかったのよぉ…。それに私でも勝てるかわからない魔力の持ち主なんて出会ったことなくて…怖かったの!」
「それで姉ちゃんを傷つけたと…?」
「お母さん最低だよ。 怖かったって…そんな理由で私の娘を…」
「謝るからぁ…誰か私の味方はいないの!?」
「いる訳無いじゃない! ここにはアスカの味方しかいないわ!」
「アスカちゃんー! 謝るからぁ…戻ってきてー。お願いよ…」 (…まったくもー)




