クリスマス番外編 2
「空を飛んで雪を降らせたりできない?」
突然の無茶振り! まぁなんとかなるけど…。
「出来ますけど、うちの召喚獣の子達を出しても良いのなら楽なんですが…」
「それは見てみたいけど、街が騒ぎにならないかしら?」
「そうですね…。でしたら後は魔道具に頼るしかないです」
「魔石ならだせるからお願い」
「わかりました。でしたらなるべく容量の大きなものをお願いします」
「ええ。ありがとう。用意するわ! 陛下にも報告してくるわね!」
王妃様は陛下の元へ向かうため足早に去っていった。
「アスカ、雪を降らせるの?」
「そうだね。氷系の魔法を応用すれば降らせるくらいはできるよ。街全体へ積もらせるってなるとある程度の時間がかかるけどね」
「へぇー本物は見たことないから楽しみだわ」
一時間ほどで薄っすらと積もらせるくらいならなんとかなるかな。
日が昇ればとけちゃうけどね。 (こっちは冬もそこまで寒くないから…)
そうそう。それでも夜から朝にかけては多少冷え込むし、夜に降らせればしばらくは残ると思う。
うちの子達と王妃様、警備担当のアリアさん達騎士様と協議の結果、日が沈んだら王妃様の用意したソリを私の魔力体トナカイで引っ張ってアクシリアス王国の上空へ。
ソリに仕込むのは私の作った降雪魔道具。
ソリにはもう一つ王妃様が仕掛けをしてた。ちゃんと鈴の音がなるよう魔道具を作って予めつけてあるらしい。
「がんばったのよ?」と王妃様は得意げ。
「じゃあアスカはこれに着替えるのよ!」
リアが持っているのはミニスカサンタ服。
「…なんで私が?」
「お姉ちゃんがソリを飛ばすならサンタクロースにならないとダメだよ?」
未亜まで…。
「それはわかったけど…なんでそんなセクシーなのよ!」
「シエルが”お姉様のために“って作ってくれたのに…嫌かしら?」
くっ…卑怯な。 (ママにそういうのは殺し文句…)
シエルもそんな顔で見ないで…。
そんな事があって、魔術師の訓練場から飛び立った私は、現在サンタクロースのコスプレをしてアクシリアス王国の上空を飛んでいる訳なんだけど…。 (ティーも一緒!)
隣に座る、赤地に白のファーのついたポンチョをきたティーが可愛いから、まぁいっか…。 (♪)
「ママースカート短いから気をつけてね?」
「…わかってるけど! どう気をつけろっていうの?」
「脚開かないように?」
「ソリに乗ってる時にそれは難しい気がする…」
まぁどうせ上空を飛んでるんだから大丈夫よね。 (…そうだといいのー)
飛びながら魔道具が降らす雪は街へ降り積もる。
王妃様の要望で魔道具の出力を上げて、数も20個ほどソリの裏につけてあるから、明日一日くらいは雪景色が見られるはず。
おかげで魔力はごっそり持っていかれたけど。 (それでも2割程度…)
王妃様やシルフィ様も魔力の充填を手伝ってくれたからね。
ニ時間ほどかけて街の上空を回れば見下ろす景色は雪化粧された街並み。
「こんなものかな?」
「後はお城ー!」
「そっか、そっちもあったね」
街の中心にそびえるお城。そのお城も今日はライトアップがされて夜空に浮かび上がっている。
「ここから見るお城もきれいなのー!」
「だねぇ。 ティー、スマホで写真撮っておいて。後でみんなにも見せてあげよう」
「わかったの! スマホどこ…?ストレージ?」
「……谷間」
この服ポケットがないからとっさに入れたんだよ…。ストレージに入れても良かったんだけど、私も色々写真撮りたかったし。
「おおぅ… ちょっと失礼するのー」
「そっとね? ひゃうっ…ティーの手冷たっ」
「仕方ないのー」
確かに上空は少し冷えてきたしなぁ。
私の谷間に手を突っ込んでスマホを回収したティーは、街並みや、お城を撮影してゆく。
さながら航空写真ってとこだろうか。
「ママー」
「うん? あっ…ちょっと今撮ったでしょ!」
「ふふっ、ママのサンタ姿!」
まぁ後で消せばいっか…。 (…!)
ライトアップされたお城も雪化粧で白くなってゆく。
「リアたちもママの雪見えてるかなー?」
「うん。街のツリーのところにアリアさんの護衛付きで待ってるって言ってたからね」
「みんなもシエルの服着てるのー」
「サンタ?」
「そうそう!」
ティーと話しながらお城にも雪化粧を施した私達は魔術師の訓練場へ降り、街へ向かった。
リア、未亜、ユウキ、シエルSide
コンコンと降り続く雪。空を見上げると、シャンシャンシャンシャンと鈴の音を響かせてソリが飛ぶ。
「すごいわ…街が白く染められていくのよ」
「うん、お姉ちゃん本当にサンタさんみたい…」
「まぁサンタの格好させられてたしなぁ…」
「なによ、ユウキは不満なの? アスカは可愛かったでしょ! 私達だって可愛いでしょ?」
「いや…姉ちゃんのセクシーサンタ姿を見て弟の僕はどう思えばいいのさ」
「可愛かったんだから可愛いって言ってあげればいいじゃない」
「ヤダよ!!」
「リアちゃん、見て! 今度はお城まで」
「あっ! 本当だわ! でもこれアスカと見れないのが悔しいわね…」
「お姉ちゃんのお陰で見れてる景色だし、仕方ないよ」
「わかってるわよ、でも…ほら」
リアが指差す先では、絵本に感化されたのか、街のクリスマスツリーの元ではたくさんのカップルが。
同じように跪いてプロポーズする者、腕を組んで空を見上げる者。
そんな人達で溢れている。
「カップルだらけ!?」
「絵本の影響だろうな、絶対」
「そうだよね。いいなぁ…」
「あぁもう! アスカ早く来て!」
「うん?呼んだ?」
「ひぁっ! ビックリした…急に現れないでよ!」
「いや、せっかく急いできたのに…」
ティーを抱いて、隠密スキルマックスで、身体強化までして街の屋根の上を駆けてきたのに。 (速すぎるの…)
「ちょっと、ティーが真っ青よ?どうしたのよティー!」
「…ママが速すぎて、目が回ったの〜」
「ごめん…みんなを待たせてるからって急いできたから」
「大丈夫、びっくりしただけだから!」
下ろしてあげたら少しフラフラした後、何事もなかったようにしてるから大丈夫かな? (へーきー!)
よかった…。
「姉ちゃん、どんな速度で来たのさ」
「最速?」
「また目立ちそうなことを…。 街の建物とか壊してないよね?」
「隠密してきたし、その辺は気をつけたよ」
「お姉様はサンタ姿も素敵なの」
「…シエルが頑張って作ってくれたんだもんね。ありがと」
「うんっ」
この笑顔を守るためなら、恥ずかしいのくらい…くっ…。 (ママが耐えてる…)
うちの子達と一緒に見上げるクリスマスツリー。
ファンタジー世界でまさかこんな素敵なツリーを見れるとは思わなかった。
「ママ、写真撮るの!」
「そうだね。みんなで撮ろうか」
「いや、写真はいいけどさ…姉ちゃんその格好でいいの?」
「っ! …忘れてたぁ」
「お姉ちゃん可愛いよ?」
「うぅ…」
「ほらティー早く! 今のうちよ」
「はーい! アリアさんお願いなのー。これをみんなに向けて、ここをタッチするだけ!」
「はっ…わ、わかりました」
アリアさんが慣れないスマホで撮ってくれた写真をみんなで確認。
きれいに撮れてる。さすがオートフォーカス。
「ティーちゃん、データ頂戴ね」
「うん! ユウキは帰ったら印刷ー」
「はいはい。りょーかい」
ティーは未亜にデータを送った後、スマホを…
「ひゃんっ…冷たっ…! 急に入れないでよティー」
「元の場所に返しただけなのー」
「…お姉ちゃん?どこにスマホ入れてるの!」
「ティー! ズルいわよ!」
「お兄様?」
「…何かなシエル?」
「顔赤いの」
「そ、そんなことは…」
リアまで手を突っ込もうとしない! ってリアは手温かいな?
ドラゴンって体温高いのだろうか…。
翌日、雪遊びをする子どもたちを見守る親の間でとある噂が流れる。
「サンタクロースって白ひげのお爺さんじゃなくて、雪のような白銀の髪の女の子らしい」
「それ、私も聞いたわ。遠見の魔道具で確認した人が何人かいたみたいよ。小さな妖精も連れてたとか」
「ああ。なんでもとんでもない美脚だったらしいぜ」
「くーっ…いいな。そんな魔道具持てるやつはよぉ」
「いや、あれそんな高くないぜ?」
「マジか。それなら来年に備えて買っとくか…」
「…俺、そんな感じの娘を雪が止んだ後にツリーのところで見かけたぞ?綺麗な白銀の髪ですっごい美人の…」
「あぁ…貴方が見とれてたから私が殴ったわよね?確かに小さな可愛い子を抱いてたわ。あの子が妖精かしら?」
「それは…すまん。でも傍に近衛騎士様もいたんだよな」
「てことは、サンタクロースは王宮に?」
「どうだろうな。まぁでも絵本によるとクリスマスが終われば遠い雪国へ帰るらしいし」
「来年また会えるのかねぇ…」
「どうかしら。今年はクリスマスを伝えるために雪と共に来てくれたって王宮からの御触れだったじゃない」
「あぁ…ならこの雪も今年だけかもな」
初めての雪で遊ぶ子供たちには、それがもうステキなクリスマスプレゼントになってるのを親である彼らはよくわかっている。
「クリスマスの奇跡、か…」
「ええ。ステキよね」
そんな感じの噂を街で聞いたとティアに報告されて、アスカが悶絶するのは翌日のことだった。
「確かにあるよね遠見の魔道具。簡単な部類だから安いし! 見られてたのね…」
「ママ、ドンマイ!」
「なんで雪じゃなくて私を見てるのよーーー!!」
「…ドンマイ!」
「ティーは可愛い妖精らしいよ?」
「ふふんっ♪」
アクシリアス王国ではサンタクロースは白ひげのお爺さんはではなく、白銀の髪をした女の子で描かれていく事になる。
絵本等も徐々に改訂されて、そのまま根付いていく。
それを知ったアスカがまた悶絶するのは来年のクリスマス…。
明日からは本編に戻ります。
メリークリスマス!




