繋がる運命
シエルには、この支援活動が終わったら一度、魔力循環を試してみるって事で落ち着いた。
もし魔力循環がうまくいかなかった時はお城でお世話になるしかない。
「あーそうだったわね、アスカちゃん達は異世界に帰らなきゃなんだものね。 ずっとこっちにいて欲しいのに…。わかったわ、その時は何とかするから安心して」
「ありがとうございます」
取り敢えずシエルの事はこれでいいとして…。
「王妃様、少し内密なお話が…」
「…?わかったわ。私の部屋に行きましょう」
ドラツーの、今やVIPルームになった王妃様の部屋へ。
「内密って、何かまたヤバそうな話しかしら?」
「どうでしょう…取り敢えず聞いてから判断していただくしか…」
「そうね…幸いまだ村まではもう少し時間がかかるし、ちょうどいいわね」
「実は…」
グリシア王国の魔法学校で召喚された魔王が自分かもしれない事。
王妃様が討伐した魔王が私が魔王をしていた時の世界、そこの子孫かもしれない事。
それらを話した。
「…ちょっと待ってね? まず魔法学校のね。 召喚されて、あまりに理不尽で話も聞かないから、イラってして校舎の一部を破壊して、自分で送還魔法陣を出して帰った…?」
「はい」
「アスカちゃん、魔法陣使えるんじゃない!」
「はい。一応は…。 それにあれは、呼ばれた魔法陣を解析して、反転させて帰っただけなので」
「はぁぁ!?反転って…どういう事?」
「えっと…そのままなのですが、召喚魔法陣って二箇所を繋ぎますよね?」
「そうね、呼ばれた側の場所と出現場所ね」
「はい、それを逆にして元の場所に戻っただけです」
「…だけって。簡単に言うわね。普通そんな事一瞬で出来ないわよ…。そうなると、それがアスカちゃんだった可能性が大きくなるわね」
「現地を見てみないことには断言できませんが…」
「ええ…それは一度行ってみるしかないわね。もし行くのなら連絡入れるからしばらく待ってね?」
「わかりました。でも、取り敢えず今はそのつもりはないです。可能性として王妃様に報告しておきたかっただけですから」
「ありがとう、ホント律儀ね、助かるわ」
「お世話になってますから」
「後は魔王ね。子孫って…アスカちゃん本当に子持ちだったのね」
「いえ…私は魔力体でしたから。部下の子孫かもってことです。跡継ぎは、部下との魔力から作り上げた、魔力体を残してきただけなので」
「それが子孫なんじゃないの?」
「そう言われたらそうですが…子作りしたつもりは…」
「アスカちゃん、言い方。そういう話はシルフィとしなさい」
なんでシルフィ様と!?
「アスカちゃん、私は魔王討伐の旅の過程でコチラへ投降してきた魔族の人達と会って話もしたし、魔道具を貰ったりもしたから、ある程度は相手方の事情とかも把握してるわ。 なんて名乗ってた?魔王時代に」
「えっと…ディアスです。部下につけられました」
「間違いないわね。善政を敷いて、魔道具で魔族を復興させた。自ら攻め入ることは決してなく、攻めてきても追い返すだけだったのよね?」
「そうですね、その間に人族は衰退して攻めてくることもできないくらいになってました」
支援しようかとも思ったのだけど…。
衰退してもなお傲慢で、魔道具をよこせだの、あまりに酷い態度だったから見捨てざるをえなかったのよね。
「アスカちゃんに渡した転移の魔道具ね、その投降してきた人に貰ったものなのよ?」
「ええっ! でも、私は作ってませんよ?それに術式も私が作り上げた基本とは随分違いましたし」
「長い年月で魔道具の知識も随分失われたらしいから…転移は割と最近の物らしいわ。それを使ってあの魔王は攻めてきた訳だし」
「すみません。子孫がご迷惑を…」
「アスカちゃんが謝ることではないし、魔王を名乗ってたのは関係ないやつよ?」
「え?」
「多分投降してきた人達が子孫じゃないかしら。ディアス様の意志を継ぐ者って言ってたし。 私達が戦った魔王は、元は幼い魔王様の側近だったらしいの。それでこちらで魔王を名乗りだしたと聞いたわ。 元々は衰退した世界を捨てて異世界へ渡るって事で来たみたい。魔族の殆どか移動したらしいのだけど、それでも千人ほどだったらしいわ」
「なんて迷惑な側近ですか! 幼い魔王は?」
「投降してきた人がつれてたわ。可愛い子だったわよ?今も無事のはずよ。バサルア共和国で投降してきた三百人程の魔族の人達は生活してるからね。
あの国は獣人や、多種族国家だから目立たないし」
「そうですか、安心しました…。魔王の親に当たる人は?」
「力を受け渡した後に消えたらしいわ」
「私みたいな召喚者…?」
「話しぶりからは、そんな感じはしなかったけど…。長く魔王をしてて世界の衰退と共に力も弱ってきてたとか。 だから新しい魔王様を作って力を受け渡したと聞いたわね…」
弱ってたから幼い魔王しか出来なかったのね。
私が引き継ぎした相手は普通に大人サイズだったし。
私はちょっと特殊で、先代魔王が人族との戦いで消耗して消滅、その魔力の残滓から召喚したらしい。
だからか私も先代魔王の魔力と、記憶を少しだけ引き継いだ。
「幼い魔王様の力が弱かったのもあってか、こっちへ来た後に意見が割れたらしいわ。 交渉して、住む許可をもらおうって人達。この人達が投降してきた派閥。 もう一つが場所を奪い取るって奴らね。これが魔王派閥ね。 その他は戦うことができない人達で、魔王派閥に利用されて…何百人かは突然居なくなってしまったと」
王妃様は俯いてしまう。それで察しはつく。 おそらく無理がたたって魔力が尽きたのだろう…。
「ひどい…戦えない人達を…」
「投降してきた人達も無事な仲間をできる限り助けてはきたらしいのだけどね…」
魔力電池の魔道具を魔王時代に作れていたら…もしかしたら。
今後悔しても何もならないけど、そう思わずにいられなかった。
ここまでの話は推測の確認。
話の本題はここから。
「この2つ、それと私がここへ呼ばれた事、これって偶然だと思いますか?」
「どういう事かしら?」
「すべてが私に繋がっているような気がして…」
「………そうだったのならアスカちゃんと出会うのは素敵な運命だったのかもしれないわね?」
「そんな好意的に解釈してくれるんですか!?」
もっと…こう…ね?ありそうな物だけど。
「魔法学校のは聞いた話でしかないし、魔王討伐の旅は楽しかったもの。大変だったりもしたけど、仲間に出会えて、魔族の人達とも出会えたし。 魔道具の知識を得たり、その結果がアスカちゃんとの出会いにつながってたのなら…それって素敵なことじゃないかしら?」
「そうなんですかね…」
「これを運命と言わずになんて言うのよ。他にもなにかあるかもってワクワクしてきたわ」
「これ以上は流石に…私だけでも迷惑かけてるのに子孫までって発覚して、どうしたらいいか…」
「まだそんなこと言ってるの!?迷惑どころか助けてもらってばかりよ。
自己評価が低すぎるのよ、アスカちゃんは」
「そうでしょうか…」
「そうよ! 迷惑に思ったことなんて思いつかないけど、感謝してることなら幾つもでてくるわよ?」
そう言って王妃様にあれやこれや感謝され、恥ずかしくなって私が限界になる迄それは続いた。