フェンリル
「「ドラゴン様!」」
エルフの二人が見たら、まぁそうなるよね。
ドラツーの扉を開いて…。 それを見たエルフ二人が騒いでるけど今はいい。
「リア、二人をドラツーで休ませてあげて。空いてる部屋わかるよね?」
「大丈夫よ、二人は任せて、説明しておくから。そっちも説得お願いね?」
「うん、なんとかするよ」
リアと別れて馬車へ向かう。
ルニアさんとセナさんは周囲の警戒してるね。
「戻りました」
「アスカ様! 王妃様がお待ちです」
「ママ!」
馬車の扉を開ける前にティーが飛び出してきた。
「ただいま、ありがとね、ティー」
「うんっ」
その後ティーはなぜかドラゴンの姿になって私の頭に乗ってる。
馬車へ乗り込むとティーからおおよそを聞いている王妃様から提案がされた。
「私はアリア達とこのまま村を周るわ、アスカちゃん達はエルフの救援に行ってあげて」
これは受け入れられない。フェンリルが一匹とはいってないし、突然現れたってのが気になる。だから…。
「王妃様、それはできません。私は王妃様を守ると約束しました。なので離れることはできません」
「でも…助けに行かないとでしょ?」
「はい。なので、ドラツーに乗ってください。そのまま全速力でエルフの救助へ向かいます」
「それだと、支援物資の輸送ができないわ…」
話すしかないか。怖がらせたくないけど…。
「王妃様、敵はフェンリルです、数は不明。この意味わかりますか?」
「……間違いないの?」
「ユウキが、ギルドからの情報として報告してくれました」
「待って…シルフィから連絡。 シルフィ?」
”お母様、無事ですか!?ギルドからの緊急連絡です、フェンリルが出たと。お母様の向かっている方向に…”
「…ええ、今私もアスカちゃんから聞いたわ」
”目撃されてから情報が王都へ届くまでに二週間以上はたっていますが、まさか…戦ってるのですか!?”
「いいえ、でも被害の出た村があるから救援にアスカちゃんが向かってくれるわ」
”わかりました、お父様へもそう伝えます、お気をつけて…お母様”
「大丈夫よ、アスカちゃんがいるんだから」
”はい、アスカ様にもよろしくお伝えください”
「わかったわ」
「アスカちゃん、行きましょう。私はアスカちゃんの指示に従うわ」
「ありがとうございます、ドラツーの中なら安全なので、中にいてくだされば寛いでても大丈夫なので」
「…一気に緊張感なくなったわね」
「お姉ちゃん…フェンリルってなに?」
「後で話してあげるから、取り敢えずドラツーへいくよ」
ルニアさん達に頼んで馬車ごとドラツーの倉庫へ直接乗りこむ。
私は倉庫への直通扉を開くだけ。
王妃様とアリアさん達騎士様もユリネさんも馬車を降りて、倉庫からリビングへ行っててもらう。
ティー、全速力でエルフの森へ。 (らじゃー!)
馬車を降りたあとも不安そうに私の傍にいる未亜に説明しないとね。
「未亜、フェンリルっていうのは大きな狼みたいなものよ。ものによってはドラゴンにも匹敵する魔獣だよ」
「そんな…お姉ちゃん大丈夫なの!?」
「うん?問題ないよー」
「……軽いよお姉ちゃん」
そう言われても…。どちらかと言ったら燃えた森とエルフのがヤバそうだよ。
リビングでエルフ二人と王妃様が対面してた。
リアが間に入って話をしてるみたいだね。
エルフ二人が頭下げてるな…。
リアが二人を部屋へ案内してるから休ませるみたいね。
二人で一部屋なの?遠慮しなくていいのに。
走って戻ってきたリアが飛びつくような勢いで詰め寄ってくる。
「アスカ! 今どうなってるの?」
「全速力でエルフの森へ向かってるよ、だから落ち着いて」
「…そう。ありがとう」
探索範囲をできるだけ広げてみたけど…。
それらしいのはあの一匹だけ。あそこがエルフの森かな?
まだかなり距離がある。
他にはいないね。いくつかの村や街も大丈夫そう…。
っ痛ぅ……流石に情報量が多すぎる…。
頭痛が酷くてよろけてしまう。
こないだの腹痛といい、何でこういうのには耐性効かないの?
「アスカ! 大丈夫?どうしたのよ!」
「大丈夫、探索範囲を広げ過ぎたから情報量が凄いのよ。近くにはそれらしいのはいないし、他の村や街も無事だよ」
「無茶しないで!」
「そうだよ、お姉ちゃん!」
そうはいっても…。 (ママ、だめだよ! 見えたらティーが言うから魔法切って!)
わかったよ、任せるね。 (うん! ママは休んでて!)
はぁ…流石にきつかった。少しソファーへ座って休もう。
「アスカちゃん、ありがたいけど無茶はしたらダメよ…。そんな事、誰も望まないわ」
「はい…」
心配した未亜とリアに挟まれてるし…。
ティーの本体も頭から降りないのね。 (ママ心配)
ごめんね。
「取り敢えず情報をまとめましょう、アスカちゃんお願い」
「わかりました」
今わかる限りの情報を伝える。
ティーが偵察してくれた情報もね。 (うん! 情報大事)
だね。
「…そう、わかったわ。 アスカちゃんはどう動くつもりなの?」
「現場へついてみないと順序はわかりませんが、やる事は4つです。
1つ、フェンリルの討伐。フェンリルが移動していなければこれを最優先します。
2つ、エルフの救助。怪我人とかの治療ですね。
3つ、森の消火。これはそのままです。
4つ、森の再生。これもそのまま。もしフェンリルが移動していた場合、2と3を先にしてから追います」
「簡単に言うけど…本当に大丈夫なのね?無茶はしないでね?」
「…はい」
多分無茶しなきゃ怪我人の治療と森の再生は無理だろうな…魔力がもつといいけど。 (……)
「王妃様、フェンリルって突然現れるような物なんですか?」
「今までフェンリルが確認されたのって過去に数回、しかもかなり昔だから…情報も多くないのよ。ただ…魔獣が上位種に変異する条件はいくつかはっきりしてるわ」
王妃様が言うには、まず大量の魔力を少しずつ摂取して成長していく場合。次が突然変異で産まれるもの。
最後が外的要因で急激に大量の魔力を一度に摂取して変異する場合。この場合暴走する確率が高いと。
私の知ってる情報とほぼ同じだね。
「そうなると、今回のは…」
「ええ…突然変異、或いは急激な変異での暴走。どちらかというと後者の確率が高いわね」
「私もそう思います。その場合何から魔力を得たかが気になります」
「ええ、それがわからないと同じ事がまた起こりかねないわ」
そうなるといきなり倒すのもよくないな。対話…できるかなぁ。
フェンリルくらいになるとドラゴンと同じで知性があったりするから。 (見てくる?)
危なくない? (うん、遠くから話しかけてみる)
気をつけて、危なかったらすぐ戻るのよ。 (はーい)
取り敢えずは解散してそれぞれの部屋で休むことに。
私はティーのくれる情報を待とう。