馬車
ドラツーは順調に空を飛び、次の日の明け方前にはアリアさんの居るという村が見えるところまで来た。
私が寝ててもイメージ通りの空路で飛んでいくから、村が見える辺りまで来たら自然と目が覚める。
この魔力体って、私の分身の様なものだけど、自我をもって動いたりはしない。
あくまで私がイメージして動かすだけ。
その辺がティーとの大きな違いかな。
ティーは自我もあれば感情もある。
それは分体一つ一つも変わらないみたい。
ただ、実体のある本体に一番リソースを割いている感じ。
その事を考えてて思いついたのが、私自身が魔力体のドラツーへ意識をリンクさせてしまえるんじゃないか?って事。
試してみたらあっさり成功。
自在に動かせるし、ドラツーの目で外も見れる。
自由に空を飛べるってこんな感じなんだ。
ただ…私の身体が放ったらかしになるから、安全な場所でしか出来ないけど。
これ、もしかしたらティーも操作できるのでは?私と魔力波長同じだし。
魔王の頃は召喚獣に乗って移動するとか、身体能力で跳び、翔けるだったからね。
あの時に、魔力体をこんな使い方が出来るって分かってたら色々楽だったんじゃないかな?
…今更だね。 魔力体でも無意識に人型の形態にしかなれないって思い込んでたし。
リアと出会ったおかげでこんな事が出来るようになった。
ドラゴンの人化への訓練が私自身の訓練にもなったわけだね。
あ、あの森なら良さそう。
人が入らないみたいで間伐もされてないし、探索かけて確認したけど強力な魔獣もいない。
小さな魔力反応しかないもの。
ここへ降りて木材素材を集めて馬車を作ろう。
降りるなら…あの辺かな、森のそばの平原。
周りに村とかもないし、人気もないから大丈夫。まぁドラツーは隠蔽されてて見えないけど。
そこへ降りるようイメージをして…。
リンクを切って本来の身体へ戻る。
聞いたことあるんだよ、着陸が一番難しいとかって…。
だから私が下手に操作しない方がいいって判断だね。
オートパイロット様々。
ティーはまだ私の腕を枕にして寝てる。
起こさないようにしないと…。
「んぁ…?」
起きちゃったかな?寝転がってる私の上によじ登られちゃうと困るのだけど…可愛いなぁもぅ。
「ママ…ー?」
「まだ寝てていいよ、少し用事済ませてくるだけだから」
「あーい…」
そっとベッドへ降ろし、寝かせて撫ぜてあげたらまた眠った。
「よしっ…ひと仕事してきますか」
着替えて、まだ薄暗い森の中へ入ってきた。
切りすぎないよう、間伐をする感じに何本かの木を水魔法を使って切り倒し、風魔法で倒れる木を受け止めて静かに下ろす。
10本ほど倒したところで、近くに小さな魔獣の魔力を感じる。
3匹か…襲ってこないなら、こちらから手を出す気はないけど…。
うーん、寄ってきてるな。 一応警戒。
魔力反応のある方を見ていたら…低木の影から顔を出す生き物が。
「かわいい…なにあれ」
まんまるなウサギ?耳は長くないから違うか…。
驚かせちゃったのかな。音は極力立てない様にしてたのだけど。
ぴょっこぴょっこ歩いてくる姿は、ウサギカフェで見たウサギその物。
「おいでー」
しゃがんで手を差し出す。
警戒されてるかな。 そうでもない?他の二匹より、体の大きい子が寄ってきた。
私の手の匂いを嗅いでる。
「大丈夫だよ。攻撃したりしないからね」
ウサギっぽいし、野菜食べるかな?
ストレージからキャベツを取り出して渡してあげる。
匂いを嗅いだ後、食べだした。それを見た二匹も寄ってきて食べ始める。
「かわいい…」
しばらく食べてる可愛い姿を眺めてたらキュッって鳴いて森へ戻っていった。
「あぁ…行っちゃった。可愛かったなぁー」
いや、私はやることがあって森に来たのに、時間使いすぎてしまった。
可愛かったから仕方ないよね。
切り倒した木を一旦ストレージへ。
森を出たら日が昇りかけて少し明るくなってきてた。
作業しやすいから有り難いや。
木材を取り出して魔力ドームで包み、風や水の魔法を使い加工してゆく。
足りない金属などの素材も放り込んで、街で見かけた輸送用の馬車をイメージして作ってゆく。
荷物を乗せるのはこれでいいとして…王妃様が乗るのにこれじゃダメだよね。
こっちは牽引することにして、豪華な馬車を作りますか。
金とか銀の金属、布や綿などのクッション素材も魔力ドームへ入れて、
私が乗せてもらった来賓用の馬車より豪華に。でも下品にならないよう気をつけて装飾もした。
ここから村へは多少距離もあるから揺れ対策をしておこう。
サスペンションとかつけるのかって? まさか。そんな高度なもの仕組みも知らないよ。
私は魔道具職人だよ?自称だけど…。だから魔道具で解決します。
前に馬車に乗っててお尻が痛かった時は、乗ってる”人“を浮かせて解決させたけど…。
あれって緊急時に踏ん張れないから危ないんだよ。だから御者はお尻が痛いままだし。
なので、馬車のキャビン部分全部を浮かせてしまうことに。
車輪のあるフレーム部分とキャビンは魔道具を介して魔力でつなげて、キャビンは常に地面から一定の高さで浮いてる。
磁石の反発で浮いてるようなイメージをしてもらえたらわかりやすいかも。
平行も崩れないから傾いたりもしない。
外から見ても浮いてるなんてわからない様に、馬車の装飾で隠しておいた。
当然、魔法防壁で覆うのと、隠蔽の術式を刻んだ魔石も仕込んである。
中の音が外に漏れないようにもしたから安心。私が外出時にいつも使ってる魔法だね。
後はこの馬車全体の管理をする魔石に王妃様の魔力波長を刻めばいい。
王妃様に見てもらってOKが出たら魔力波長の登録をしてもらおう。
乗って確かめてみよ。
うん、大丈夫だね。乗った重みで傾いたりもしない。
次は内部を空間拡張させて広くして、明かりの魔道具や、保冷庫、空調、簡易のトイレも付けた。
ドラツーとかもそうだけど、排水は魔道具で完全に分解処理される。
座席はリクライニングで、倒せばベッドにもなる。
テーブルは畳んで壁に収まるから広くなるよ。
座席の下は定番の収納スペース。
これ…もうキャンピングカーだな。
最後に仕上げ。
馬車を作るって話をしたときに、王妃様から王家の紋章を馬車の側面へ入れるように言われてる。
王妃様の指輪から浮かび上がった紋章を覚えてあるから、その紋章をキャビンと、輸送用の馬車両方につけないとね。
まずは木の板に紋章を魔刻刀を使って太く深めに彫り込む。
その板を魔力ドームで覆って、彫り込んだラインに沿わせて、黄色の魔石を紋章型に加工して嵌め込む。
仕上げに明かりの術式を魔刻刀で刻めば、紋章がネオンの様に光る。
4枚作って王妃様用の馬車と荷物用の馬車、両方につけた。
これなら王族って分かるでしょ?
明かりの魔道具と同じように明るさも自在。
こんな物かな?
完全に日が昇ってしまったよ。体感的には7時過ぎくらいかな?
そろそろ朝ごはんの用意しなきゃね。