閑話 決意の先に
え!?
「アスカちゃん!」
どうして貴女が今ここに!
「はい、お邪魔してます」
「王妃様! 危のう御座います。お下がりください!」
「そんなことはいいの! 大丈夫?」
「騎士達よ! もう、大丈夫だ。王妃様に失礼のないようにお通ししろ!」
「大丈夫です。荒らされた畑も直しました」
「はっ隊長!」
「そうじゃないわよ。アスカちゃんよ! どうして泣いてるの…」
そんな…辛そうに。何があったのよ…。
そして今回も貴女が救ってくれたの?
その結果、どんな辛さを抱えこんだの?
「う…うぁぁぁ…」
「アスカちゃん…」
泣き崩れたアスカちゃんを思わず抱きしめる。
大丈夫。大丈夫だから…また無茶したの?こんなに泣くほど心を傷つけて…。
少し落ち着いたアスカちゃんをアリアに任せ、騎士や兵士に事のあらましを聞いた。
「凄かったです。暴れまわるドラゴンを叱りつけてました」
「空を覆う無数の氷の槍が…ドラゴンでさえ怯えてました」
「人化して隊長や私達に詰め寄ったドラゴンを氷漬けに…」
「ドラゴンが荒らしまわった畑が…一瞬で元の姿に…」
「あの方は私達の国とそこに住む私達を大切に想って泣いてくださったんです!」
「そうなのです! 私聞きました。
”私の大好きな国をどうして?何故私の大切な人達を脅すの?“って…
それはもう、悲しそうに…」
「救国の英雄は、私達や、この国を想い泣いてくれてたの!?」
「なんと…御優しい。うぉぉぉ! 全兵士に伝達だ!」
「おーーーーー!」
ちょっとアスカちゃん…これは私収拾できないわよ?
でも、そっか…そんなに想ってくれてたんだね。
ありがとう、アスカちゃん。
アリアにも謝らないと…そう思ってアスカちゃんの部屋へ向かう。
そこに居るはずだから。
やっぱり。
「アリア…」
突然跪くアリアに驚く。
「王妃様申し訳ありませんでした」
「え?謝るのは私のほうなのよ?」
「私は騎士です…なのにドラゴンの驚異に何もできず…」
「アリア、それは違うわ。貴女は今日私にとって誰よりも立派な騎士でした。私の思いをあれ程汲み取ってくれるのは貴女しかいないわ。 ありがとう。アリア、貴女が騎士として傍にいてくれて本当に良かったわ」
「っ! もったいないお言葉です!」
「ふふっ、ありがとうアリア」
「失礼致します」
今度は副隊長?何かしら
「王妃様、急ぎではないとの事ですが…国王陛下がお話があると」
「そう…、わかったわ。すぐに行きます」
「はい」
「アスカちゃんの様子を見たかったけど、ここはアリアに任せるわね」
「はっ」
呼び出しかぁ…よくてお叱り。はたまた離縁…。最悪投獄かな…。
国王命令無視したんだものね。
謁見の間へ入るのに緊張するのなんていつ以来かしら…。
扉を開けて陛下の前へ。そして跪く。
「セルフィ、出頭致しました…」
「何をしておるだ…セルフィよ」
「陛下?」
「話があると呼んだはずなのだが…?」
「しかし陛下。私は国王命令を…」
「ん?わしが出した国王命令は、騎士へお前たち家族を避難させろ。だけのはずだが…」
「お母様、お父様は避難場所から出るなとも、騎士に見張れとも命じてないって事です」
「そういうことだな。シルフィは賢いの」
そんな、言葉遊びみたいな…。
「母上は頭が少々堅いのである。まるで拳骨なのである」
ジルス…その拳が欲しいのかしら。
「ジルス、お母様に謝りなさい。貴方はいつも一言多いのです! でないと…」
「申し訳ありませんでした…」
「それよりセルフィ、これからワシと緊急に非公式の謁見じゃ。準備を」
「は、はいっ」
謁見って相手は誰かと思ったらドラゴンの赤ちゃんを抱いた女性?
ルナティアのお母様で、今回襲撃してきて、アスカちゃんに氷漬けにされてるドラゴンの奥様…。
「この度は本当に申し訳ありませんでした。ドラゴンを代表して謝罪に伺いました」
ドラゴンとはいえ赤ちゃん抱いてるし取り敢えず座って貰いたい。陛下、気がついて…。
「取り敢えず掛けて話そうかの。とある少女のおかげで脅威は去っておる」
「…はい」
良かった…。
「セルフィよ、ワシよりも直接現場を見てきたであろう?意見を聞かせてくれ」
「はい。わかりました。今回の事、止めたのはアスカちゃんです。この国のこと、そしてドラゴンのことを想い、泣いてくれた。 そんな優しいアスカちゃんにお礼を言ってあげてください。私からはそれだけです」
「…はい。お会いできますか?」
「ルナティアちゃんが知り合いですからあの子なら直ぐに取次できます」
「わかりました」
「ワシからはそう…多分一番心配しておられる事について。ドラゴンへの報復など一切するつもりはない。 せっかくアスカ殿が紡いでくれた絆のおかげで、ルナリア殿にドラゴンの話を聞くことができ、ルナティア殿が今やこの城のアドバイザー。それを無駄にするようなことはせんよ。絶対にな」
「ありがとうございます…」
「それに街への被害もないからの。唯一の被害といえば優しい少女の涙かのぅ…。まぁそれもあの氷漬けで報復も終わっておるであろうて」
「はい…」
「他に懸案事項はあるかの?」
「…いえ。ありがとうございます。後日正式な謝罪が長老衆からありますので、お時間を頂きたく…」
「わかった。覚えておく。それと今日はここに泊まっていかれると良いだろう。ルナティア殿の部屋があるからの。必要なものは準備させる」
「重ね重ねありがとうございます」
非公式の謁見も終わったし。陛下とのお話も済んだ。
自分で考えて行動したのなら咎めることなどないって、特にお叱りもなかった。
ただ心配はさせてほしい、ですって。もぅ…///
私はアスカちゃんにお礼を言いに行かないとね。