閑話 揺れる王妃の心
王妃セルフィside
「陛下、物見から報告です、やはりドラゴンがこちらに向かってきているようです」
「そうか、西の町や村からの報告通りだな…。ルナティア殿を呼んでくれ」
「はっ」
一昨日から上がってくる報告にドラゴンの物が混ざりだした。
西から王都へ向かってドラゴンが移動してると。
何でも道中の町や村へ降りては食べ物を要求し、しばらく滞在しては好き放題しているらしい。
幸い、破壊活動はしていないとの事だけど…。
「陛下、どうなさるおつもりですか?」
「まずは、道中ドラゴンが立ち寄った町の調査。支援が必要なら直ぐに出す」
「そうですね」
「それから…万が一に備えねばならんだろう。ルナリア殿と話してドラゴンへの考えを改めた矢先にこの事態だからな…」
「はい…折角アスカちゃんが繋いでくれた縁で出会えたのに」
「おそらく今日中には王都に到着するだろうからな、すまんなセルフィ」
「陛下?」
「騎士に命ずる! セルフィ、シルフィ、ジルスを避難させろ! 国王命令だ!」
「「「「はっ!」」」」
「陛下!! 私もお傍に」
「ならぬ!」
「そんな…」
城で一番安全と言われる場所。地下の避難所。
まるで地下牢ね…設備はあるし過ごしやすくはしてあるけど。
「すみません、王妃様…」
「仕方がないわ、アリア。国王命令だもの…」
護衛として付いてくれているけど…ここから出さない見張りでもあるのよね。
「お母様、何事ですか?これは一体…」
「姉上、今は聞かないほうがいいのである」
ごめんなさいね、あなた達まで不安にさせて。
でも…私はこのままじっとしていていいの?
でも国王命令…。
後で陛下にお叱りを受ける…下手したら離縁?
でも…。国が、国民が危険なときに何もしないお飾りの王妃なんて私はイヤ!
そんな事のために王家へ嫁入りした訳じゃない。
魔王討伐で思い知った。 力がなきゃ、権力がなきゃ守れないものがあるって。
だから私は王家へ嫁いだ。 勿論愛もある。優しい陛下へも可愛い子供たちへも。
ただ、だからって…守られるだけの存在になるつもりもない。
アスカちゃんと出会って一層そう思った。
あの子は強い。守るべきものを、権力さえねじ伏せ、飛び越えて守れる程の強さが。
そしてあの子は優しい。躊躇わず手を差し伸べる、見返りも求めずに。
あぁ…私は羨ましかったんだ。
私の”なりたい“をあの子は体現してるから。
アスカちゃんならこんな時どうする?
大人しくしてる?
そんなはずないよね。きっと飛び出していくよ。
それで後からやらかしたーってへこむのよ。
ふふっ。そうよね、何もしない訳がないわ!
私はあの子にはなれない。でもなりたい自分にはなれる!
まずは準備しないと。幸いアスカちゃんのくれた魔刻刀も魔石もマジックバッグに持ち歩いてる。
鍵を開ける魔道具くらい作ってみせるわ。
「お母様?何を始めるのですか?」
「ジッとしてても仕方がないからアスカちゃんに教わった事を復習しようと思ってね」
嘘じゃないよ。あの子に教わった事が必ず役に立つから。
「そうですね、私もイメージの練習をします。とても大切な事ですから」
「であるな、しかし…姉上、それは極秘である」
「そうね、でもここにはアリアしかいないわ。だから大丈夫」
「それもそうであるな…では我も」
うちの子達もかなり影響受けてるわね。
いい先生に出会えたって事かしら。
よし、下書きはできた。
後はイメージ次第。よね?
魔石に彫り込む。細く鋭く…。
………
……
…
うん、魔力も充分残ってる。
ごめんなさいね、アリア。あなたを私は騙すことになるけど…。
「アリア、お願いがあるのだけどいいかしら?」
「はっ」
「私達はここを出られないのよね?」
「…はい。申し訳ありません」
「それなら私の代わりに陛下を助けてきて。お願い。きっとルナティアちゃんもいるはずだから」
「ですが…」
「お願いよ。アリア」
「…わかりました。この部屋の外の兵もすべて連れて救援に向かいます。それでよろしいですか?」
「…っ! ええ! お願い」
「はっ!」
アリアわかってたんだね。ありがとう。
絶対に責任をとらせたりしないからね。
部屋を出るアリアを見送る。
次は子供たちへ話さないと…
「シルフィ、ジルス。聞いて」
「はい、お母様。行かれるのですね?」
「であるな。ここは我と姉上に任せるのである」
「あなた達…! ありがとう。行ってくるわ」
「お気をつけて…お母様」
「母上、カッコイイのである」
魔道具で鍵を開ける。
アリアのお陰で誰もいない。
このまま門へ行ければ…。
人のいない廊下ってこんなに長く感じるのね。
メイド達もいない。避難してるのかしら。
あと少しで城門。誰にも見られてない。
? 何かしら…城門の方が騒がしい。まさか!!
もう構うもんですか、ここまで来たら見つかっても同じよ。
そこからは走っていく。 そして城門を開ける。