氷の魔王
リアのお部屋を作ってあげたんだけど、結局昨夜も一緒に寝ることになった。
いつでも来ていいと言ったから良いのだけど…。
朝起きたら、また床で寝てるよこの子。
私の部屋のベッドを広げたほうがいいのかもしれない。
昨日はティーも人の姿のままで寝てたから、さすがに広げてあげないと可哀想だよね。
抱き上げてベッドへ戻してあげたらお弁当の準備しないとね。
昨日買ったソーセージとか残り物を使ってお弁当を用意した。
勿論、生ものは昨日使い切ったよ。
喜んでいっぱい食べてくれたからね。
ティーも、リアもお刺身とか平気だったからソーセージとかは足す必要がなかったのよね。
よく考えたらドラゴンって生で素材を丸かじりしてたわ…。
そのお弁当を今日もお留守番してくれる二人にちゃんと渡して登校した。
お昼休み、今日は未亜もユウキも一緒に屋上でお昼を食べてたんだけど、事件は起こった。
(ママ! たいへんー。お城が危ないー)
え、お城? それって私達がお世話になってるお城? (そうー。ちょびっとティーを置いてきてるの)
そうなの!? (なにかあったときのためー?)
なるほど、さすがだよティー。 (ドヤァ! じゃなくてママへるぷー)
お城へ飛べばいい? (うん、ママならなんとかなるー)
わかったよ。みんな傍にいるから話したらすぐに行くよ。 (はーい)
「ユウキ、未亜。ちょっと緊急事態だから私行ってくるね」
「え? 姉ちゃんどこへ…」
「緊急事態!?」
「この直後くらいに戻れるようにするから、その時に話すね」
流石にここで飛ぶわけにはいかない。 仕方ないトイレへ行こ。
「心配しなくていいからねー! じゃー」
「ちょ…姉ちゃん!」
屋上から階段への扉を出ていってしまうアスカを見送るしかない二人は…
「心配するに決まってるじゃないか、まったく姉ちゃんは!」
「何があったんだろ…時間を戻れるってことはあの世界だよね?」
「そうだろうね、何で緊急事態が姉ちゃんにわかったのかも不明だし…」
ガチャ…
「ただいまー。大変だったよ全く…」
「「………気持ち悪っ!」」
「二人してひどくない!?」
〜〜〜〜〜〜〜〜
トイレへ駆け込む姿は見られてないと思う。
急がないと…個室なら平気よね。このまま飛ぶっ!
個室からアスカの姿は消えた。
誰もいないのに内側から鍵のかかった個室の完成…。
見慣れたお城の部屋。
ティーついたよ。 (お城の門へきてー)
わかったよ。
部屋を出て廊下を足早に進む。おかしい…誰もいない。
いつもならメイドさんや騎士の人が必ず何人かいる筈なのに…。
門への道は記憶してるから大丈夫だけど、この状況はなに?
お城から外への扉に近づくにつれて何人もの魔力反応がある。
良かった。誰もいない訳じゃない。アリアさんとルニアさんもいる。
それと大きな魔力反応も2つ。1つは…これってルナティア?
急いで扉を開けて外へ出る。
「アスカ様!?」
「アリアさん! 何があったのですか?」
「それが…ドラゴンの襲撃です 今はルナティア様が牽制してくれていますが、このままでは…」
「わかりました、行ってきます」
「アスカ様!!」
ルナティアのいる場所へ向かい走る。
なんでドラゴン?温厚で襲われなきゃ何もしてこないんじゃ…。
怒るような何かがあった? それとも、少数の例外に当たっちゃった!?
赤黒いドラゴンが穀倉地帯の真ん中で暴れてる。なんてことを…。
「ルナティア! 大丈夫?」
「アナタは…!」
「何が起こってるの? 敵?」
「いえ…恥ずかしながら、とう様です」
「はい?」
「魔力を辿って私とリアを探しに来たみたい…」
「でも、お母様が止めてくれるって言ってなかった?」
「それが…子育てで疲れてるかあ様をほったらかして、そのスキをついて出てきたようなの」
「なにそれ…最低じゃない」
「ええ…しかもリアを出せって話も聞いてくれなくて…暴れてるの」
それでこの騒ぎかぁ…なんって迷惑な。
確かにちゃんと話していかなかった私達にも非はあるけど…こんな事する?
しかもリアだって小さな子供ではないのに。したい事する自由があるよね?
その為にあの子は自分で国王陛下にしっかり話をしたよ。架け橋繋いだんだよ。
なのに、親である貴方は何をしてるの?
キレイな穀倉地帯がめちゃくちゃに荒れちゃってるじゃない!
「ちょっと! そこのバカドラゴン!」
「あぁ? 人間無勢が…って何だその魔力量は…」
「何してるの?」
「いや、俺は娘を迎えに…」
「何をしているのか聞いてるのよ。 その足元!」
「これは… 娘を出さないから…」
「は? だから荒らしたと?」
「わざとでは…」
「でも、結果なってるよね?」
「俺は身体がでかいんだから仕方がないだろう!!」
「人化してこれば済むでしょう! わざとその姿でこの国の人を威嚇してるんじゃないの?」
「くそっ! ちょっと魔力が多いからって調子に乗るなよ! 何故俺が人間に合わせねばならん!」
「そう。 なら私も貴方に合わせる必要ないよね?」
突然アスカの頭上に数えるのも馬鹿らしいほど無数の氷の槍が現れ空を覆い尽くす。
それがすべてドラゴンを狙う。
「ちょ…まて! それは流石に俺でも死ぬ!」
「知らないよ。相手に合わせる必要ないのよね? 私、魔力多いのよ? そういう事でしょう?貴方が言ったのは」
「ルナティア、こいつ止めてくれ! パパ死ぬ!」
「一度くらえばいいと思うよ? それと絶対パパとか呼ばないから!」
かわいそうになるくらいショック受けてるんだけど…。
「どうするの? 謝る?それとも…」
「謝る! 謝るから!」
「わかったよ」
魔法を解除する。
「はぁ…何で俺がこんな目に…」
ブツブツ文句言ってるなぁ。
「取り敢えず人化しなさい。そこ直すから」
「命令するな!」
「あ?」
「わかった…」
リアが人化するときと同じように光る。
うわぁ、見た目がひと昔前のヤ◯◯ー…
まぁいいや。取り敢えず穀倉地帯を直さなきゃ。
ここから見る夕日、大好きだったのに…あのバカドラゴン!
いつもの様に聖剣を突き刺し魔力を送る。
土魔法を使い私の魔力を糧にして大地の力を借りる。そして再生。
バタバタ暴れたせいで、リアが落ちた森より被害の範囲が広いから魔力が減るのがわかる。
「ふぅ…まったく! キレイな所なのに…それにこの国の人達の大切な食料なんだよこれ…」
「あの、ありがとう。とう様止めてくれて」
「いいの。私もちょっと頭にきたから」
「おい! お前! リアは?ルナリアは何処だ。はやく出せ」
今度はアリアさんや騎士様に絡んでるよ…。
「ねぇルナティア、あのドラゴンちょっとシメていいかな?」
「やっちゃって!」
「任されたよ」
バカドラゴンの足元から少しずつ凍らせていく。
「な…なんだコレは!」
「私だよ」
「またお前か!」
「私ね、貴方がめちゃくちゃにした畑を直してたんだけど?迷惑かけたこの国の人へ謝りもせずに、貴方は何をしてるの?」
「お前に関係ないだろう!」
腰まで氷つかせていく。
「私がお世話になった大切な人達を脅して何をしてるのか聞いてるの」
「娘を出さないからだろ!」
胸まで凍らせる。
「普通に話せばいいことよね?」
「だから何故俺が人間と…」
学習能力ないの?首まで凍らせる。
「次の答えはよく考えなさい。頭まで凍らせたら貴方では二度と出られないから」
「…」
「リアを探しに来たのはわかったよ。でもどうして人化せずに来て畑を荒らしたの?私の大好きなこの国をどうして! 何故私の大切な人達を脅してるの? ここまでする必要ある?リアやルナティアがどんな思いで…」
「俺はドラゴンだぞ?それが何故人間に気を使うような…」
「そう、もういいわ。凍りついてなさい」
頭まで凍らせる。
「意識は残してあるから聞こえるよね?反省するまで貴方はそのままよ。私しかソレ解けないから。そのまま反省してなさい。永遠にね…」
「アスカちゃん!」
王妃様の声だ。騎士達に静止されてるけどアリアさんが騎士を止める。
「はい、お邪魔してます」
「そんなことはいいの! 大丈夫?」
「大丈夫です。荒らされた畑も直しました」
「そうじゃないわよ。アスカちゃんよ! どうして泣いてるの…」
あれ?私泣いてる? なんで…
…そっか、許せなかったんだ。
リアやルナティアに会ってドラゴンも戦うだけじゃない、笑ったり、喜んだり。
傷ついたりもするって知った。だからドラゴンの事好きになったのに。
なのに…私の大好きな国を、大好きな温かい人たちを傷つけたこのドラゴンが許せなかった。
ドラゴンの事をわかってもらう為に頑張ったリアとルナティアの努力を踏みにじった。
それが悲しくて…
「う…うぅぁぁぁ…」
「アスカちゃん…」
泣いて座り込んだアスカを優しく抱きしめる王妃様をルナティアと騎士は見守るのだった。