表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

君は私の操り人形

 今日、私に彼氏ができる。

 身長は170cm以上、線が細く、薄い色素の髪をした超の付くイケメンである。

 実のところ彼はかなりの有名人だ。

 彼はアイドル活動もしている。

 実年齢は30代に突入しようというところだけど、とても若々しくて20代半ばのような印象を受ける。

 だからか、私みたいな中高生のファンが大勢いるのだ。

 そのため、外で会うのは色々とまずかった。

 なので、初めてのデートは家デートとなった。

 ご足労してもらうのは悪いから、彼氏のもとへと私が出向き、彼氏の代わりに私が歩いて、私の家まで連れていく。

 私の案内に従い、部屋に来た彼を出して、お話ができるように準備をしてあげた。

 すると彼氏は、


「ど、どういうつもりだ! なんでこんなことをする!?」


 とても緊張していた。

 ファンには絶対に見せない顔を見せてくれて嬉しいと思った。

 でも、


「突然大声を出すなんて、びっくりするじゃない……」


「……っ!」


 私と目があった彼氏が一瞬怯んだ。

 彼氏に惚れた辺りから、私の顔を直視できる人はいなくなった。

 それは彼氏も例外ではないらしい。

 恋する私って、そんなに綺麗なのかな?

 彼に背を向けて、鈍色に顔を写してみる。

 自分では分からなかった。


「お前……! こんなことをしてただで済むと思ってるのか!?」


 なぜか彼氏は混乱しているようだ。

 言うことが支離滅裂になっていて、かわいいと思った。


「どうしちゃったの、ヒロくん? お前じゃなくて名前で呼ぶって約束したでしょ?」


「そんな約束はしていない!」


 ショックを受けた。


「もしかして私のこと、忘れてしまったの?」


 彼の目がすぅっと細められた。

 改めて私を見回す。

 少しくすぐったい。

 特に私の手元に視線が集中した。

 そんなに綺麗な指しているのかな?

 彼好みだったりして。

 ややあって、彼がおそるおそる質問をしてきた。


「……高校生か?」


「ううん、まだ中学生」


「……なに?」


 とそこで、私と彼の視線が噛み合う。

 彼は慌てたように再び目を逸らした。


「私を見て」


 私は鈍色を彼に見せる。

 彼は魔法が掛かったように、私を見た。

 キッチンには便利な道具がいっぱいだ。


「本当に私のこと知らない?」


「……俺は知らない。誰だ?」


「私だよ私、さっきあなたの彼女になった」


「覚えがない。なにを言っているんだ…?」


「もしかして……」


 今、彼氏の視界に私は入っていないということだろうか。

 そういえば、さっきも誰かとゲームをしていたようだった。いくら彼氏とはいえ、プライバシーに関わるからと切ってしまったのだが。

 確認しなくてはならない。

 ノートパソコンを開く。

 USBを差し込む。


「……俺のパソコンのデータ……」


 彼氏には悪いけど、主要なデータはすべてコピーさせてもらった。


「ヒロくんを疑うわけじゃないの。でもどうしても気になっちゃって、このままじゃあ不安なの。だからヒロくんのことを信じさせて。本当はこういうことしちゃいけないんだろうけど、ヒロくんの前で見るんだからこれは良いことだよね?」


「……」


「じゃあ見るね」


 彼氏のパソコンのデータを見ると、チャットのログに“しぃちゃん”。


「ねえ、しぃちゃんって誰? 女の子なの?」


「……」


 じっと黙っているので、「答えなさい」と鈍色を見せる。


「……その子はただのゲーム友達だよ。見逃してくれ」


「そんなの嘘。信じられない。ああそうか、最近活動が激減したと思ったら、この子と遊んでいたんだね」


「違う! 確かにゲームはしていたが俺としぃちゃんはそんな関係じゃ……!!」


「――みぐるしい!! しぃちゃんへの愛を囁いた口で喋るな!!」


 張り裂けるような声が出た。

 同時に、私は空いている手で壁を殴り付けていた。

 淀んだ赤色がしぶいてしまう。


「嘘つき……、嘘つきだ」


「……」


 彼氏は黙秘状態だ。


「もうヒロくんのこと信用できない。お前が彼女だって言ってたのに。……ずっと嘘をついていたんだね。私のことを裏切って他の女と……」


「……違う、違うんだ」


 彼氏の弁明に私は首を振る。


「……もうセックスもしたの?」


「……してない。本当だ」


「――したんだろうが!!」


 怒りを壁に叩き付けた。もう彼氏が何を言おうと信じられない。


「――あり得ない!! あり得ないから!!」


 パソコンの画面――“しぃちゃん”との会話が脳裏に浮かぶ。

 一気に過呼吸になってしまった。

 しばらくすると落ち着いた。


「心配もしてくれないんだね……」


「それは……」


「……ヒロくん、気持ち悪い。気持ち悪いよ。ねえ、どうして? どうして? ねえ? ――答えてよ!!」


「………………………………」


「……答えてくれないんだ」


 なら彼女である私が罰を与えよう。


「心の穢れを取り除かなきゃ……」


 私は鈍色を彼の胸元へと向けた。




 謎の少女にナイフを突きつけられるという、危機的な状況に陥った俺。

 ここにきて、意識が途切れ、この状況になる直前の記憶がよみがえった。

 そうだ――、




 ――ピンポーン。


 友人とゲームをしていたら、チャイムが鳴った。


『来客?』


「ごめん。そうみたいだ。出てくるわ」


『いってらー!』


 席を外す。


「んだよ」


 何者であれ、楽しい時間を過ごしているときに来られたら苛立ってしまう。


「なんか宅配頼んだっけか……?」


 玄関へ。

 防犯のためチェーンは外さず、ドアを開けると、


「みぃつけた♡」


 居たのは謎の少女だ。

 途端に、全身にゾワッとしたものが駆け抜けた。

 ――コイツはヤバい!!

 反応しようとしたときには既にチェーンが断ち切られていた。

 見た目にそぐわぬ力で壁に押し付けられる。

 と思ったら、唇を塞がれてしまい、前が見えない。


 ――バチバチバチ!!


 急激に薄れる意識、最後に狂気に歪んだ笑みが見えて……。




 イカれてる。コイツはイカれてる。

 俺の彼女を名乗るヤツの行動が欠片も理解できない。俺はおそらくヤツの手によって、縄で四肢を縛られているのだ。どうして俺はこんなヤツに弁明してたんだ。おかしいだろ。

 ヤツは、俺が女と関わりがあったという事実がどうしても許せないようだ。

 しぃちゃんとは本当に何にもないというのに、ヤツは狂っていて何を言っても聞き入れてくれない。

 俺も活動上、似たようなことはままあってなれているつもりだった。

 けれど、こうして直接対面してしまうと、もう抑えきれない。

 息が荒くなってきていた。

 これまでの活動で浴びてきた全ての理不尽な言動に対する怒りと憎しみを思い起こしてしまう。

 するとヤツこそが理不尽の権化な気がしてきて、いよいよ俺はぶちギレる。


「――ふざけるなよ!! クソガキがあああ!!」


 俺の渾身の頭突きをまともに受けても、ヤツは、


「……違う。ヒロくんはそんなこと言わない。あなたはヒロくんじゃない」


 割れた頭から血を流しながらのたまった。

 蹴り飛ばされる。


「――どこまでも裏切りやがって!! あなたには軽蔑した!! 私のヒロくんを返して!!」


 罵倒に合わせて、強烈な蹴りを入れられる。

 蹴り倒された俺は完全にマウントを取られた。

 不健康そうな痩せた身体で、実際の体重は40kgもないのだろう。

 しかし、ヤツの俺に対する狂った愛の重さに比例するかのようにとても重く感じた。


「あっ、ごめん。ごめんね、ヒロくんっ! でもヒロくんが悪いんだよ。ヒロくんが浮気したせいだから、その罰を今から下すの」


 改めてナイフが向けられて、鈍色の先に、ヤツの狂った顔付きが、


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――!」


 ヤツの有り様のおぞましさに俺のメンタルがいよいよ限界を迎えてしまった。




 急に抵抗を見せた彼氏だったが、今は見るのが嫌になるほどにみっともない有り様だった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――!!」


 今頃になって、泣き喚く。

 彼氏は泣き落としというのをしたいのだろうが、


「泣いて誤魔化そうとしても駄目。しっかりその罪を清算してもらうから」


 裏切られた私は、決して聞き入れるつもりはなかった。


「次は裏切らないように――」




 病気になってしまったようだった彼氏を特殊な機器の中に入れた。

 今日から私が看病するんだ。


「ねえ」


『……』


「もしかして喋れないの? 喉も悪いようね。今治してあげるから……」


 手を加えて、彼の喉の調子を整えた。


『好きだ』


「もう他の女には手を出さないでね」


『ああ、もちろんだ……』




 少しずつ少しずつ俺を掌握し直した俺は、怪力使いの化け物になっていた。

 どうやらヤツはおとぎ話やゲームに出てくるような存在だったらしい。

 そんなヤツの首に手を掛ける。


「今日はどうしちゃったの、ヒロくん?」


「地獄に墜ちろ!!」


 喉へと力を込めると、旨そうな鮮血が飛び散った。


「ああ、もったいない!!」


 なぜか俺は必死になって血を啜っていた。

 そうして、窓へと向かう。

 窓を破壊し、翼を広げて飛び立った。

 曇っていたので、太陽が隠れているのを残念に思いながら、叫ぶ。


「ようやく自由だ!!」


 俺の咆哮で雲が吹き飛び、出てきた太陽。

 日光を浴びた途端、俺の意識が消滅した。




 ゆっくりゆっくりとナイフが迫ってくる中、錯乱し我を忘れた俺はそんな白昼夢を見て、ゾッとし我を取り戻した。


「化け物にするのだけは勘弁してくれ!!」


 そう懇願すると、ヤツがぱちくりと目をしばたたかせた。

 一旦ナイフが引っ込められる。

 その隙に何か打開策を見出だそうとすると、はっと気付く。縄の結びが甘かったのか俺の手足が自由になっている。

 ならば、


「今こそが運動のゲームで鍛えた身体能力を見せるとき!!」


 俺は全力で動き、ヤツを振り落とし、即座に押し倒す。その手からナイフを取り上げ、遠くへ投げやった。学生のときに覚えた柔道の寝技できっちり抑え込む。


「ヒロくん……そんな情熱的……」


 そうだ。勘違いしているヤツには勘違いさせとけばいい。


「好きだ。もう君しか見えない」


 情熱的なキスをして、俺とヤツは歪な恋人関係になった。

 ヤツ……彼女は、俺の思うがままでとても楽しかった。

 思えば最初から彼女は俺にメロメロ。

 だから簡単に、俺は彼女をものにすることができた。

 想定外だったのは、うっかり俺が彼女に惚れてしまったことだ。

 しかしながら、悪いことばかりではない。

 だって今、俺は人生の絶頂期にいる。

 なんてったって彼女ができたんだから。

 なによりも彼女を誑らし込めたことが嬉しかった。

 ははは、バカめ、お前はちんぽに負けたんだよ。




 ちんぽに負けたバカと思われているのは甚だ遺憾だけど、ここまで織り込み済みである。

 ヒロくんを追い詰めれば、こうなるのは計算通りだ。計算から外れたのは、私の感情のコントロールが効かずにうっかりヒロくんを殺しかけたことだ。

 ともあれ、全ては、ヒロくんを私のものにするための策謀だった。

 私は痩せぎすで女の子としての魅力が足りないかもしれないけれど、ヒロくんを好きな気持ちは誰にだって負けちゃいない、だから時間を掛けて、少しずつ少しずつ少しずつヒロくんの気持ちを掌握して、遂にヒロくんをものにすることができた。

 ヒロくんは私の思うがままの操り人形と化した。

 私の完全勝利だ。

 唯一の誤算はどこからか情報が漏れてヒロくんが捕まったことカナ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ