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婚約破棄の代償  作者: ぐぅ
第一章 前世
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 ミリアムは平民街でも時々見かける着飾った貴族令嬢に憧れていた。自分も半分は貴族なのに、どうして自分は平民として、貴族に見下げられて生きて行かなければいけないのかと常々不満に思っていた。

 母親の言う貴族の常識など、聞いても耳に入らなかった。

 ミリアムは養子にと言う父親の申し出に、夢を抱いて一も二もなく乗った。






 父親に連れられて伯爵家の邸の門をくぐった時に、建物の豪華さ、広大な敷地、美しい庭園にあっけにとられた。

 自分は本当はこんな邸のお嬢様だったのか。何故今まで平民街で暮らしていたのかとー歯ぎしりするほど悔しかった。

 伯爵家に引き取られても、本邸に入れてもらう事は無く、離邸での生活だったが、今までの生活と比べて満足だった。


 貴族令嬢らしい知識を身につけるために、父親に数人の家庭教師を付けられた。


 貴族の子女が通う学園に編入するためには、ある程度の学力が必要だが、ミリアムは家庭教師が躍起になって詰め込んでも、次の日には頭の中から溢れ落ちていた。

 ミリアムの好きな事は楽しいことなのだ。コツコツとか、真面目にとか言う家庭教師とは反りが合わない。


 貴族子女の優雅な立ち居振る舞いも、性に合わない。したい事はすぐしたいし、我慢は大嫌いだ。カーテシーも不自然だから転がってしまう。


 それでもさすがに、乱暴な言葉使いはなりを潜めた。が、甘えた語尾を伸ばす話し方は家庭教師が何を言っても直らない。ミリアムは今までもこの口の利き方で、周りに甘やかしてもらっていたのだ。


 父親は女伯爵との間に設けた息子達が賢く育ってるので、慎み深く弁えのあるサリーとの間の子のミリアムも賢いものだと思っていたので当惑したが、これはこれで手駒にしやすいとほくそ笑んだ。

 学園に入れて、男好きのする肉感的な身体、男を誘う表情を浮かべる美しい顔で、身分の高い男を捕まえさせればいいのだ。

 その男の妻にさせて、自分は女伯爵の婿などと言う好き勝手に振る舞えない身分から抜け出て、邸をもらい女達と好きに暮らすのだと野望を抱いていた。




 ミリアムの編入の成績は壊滅的だったが、庶子からだからと寄付金を積んでなんとか編入を認めてもらった。


 編入してミリアムは歓喜した。平民街と違って、学園にいる貴族令息達の麗しい事。そして初めて見た第一王子のコンラートの気品ある振る舞い、輝く美貌、深い湖の様な碧い瞳。スラリと背が高く、細いのにしっかりと筋肉の付いた身体。溢れ出る気高さ、全てがミリアムの夢見る王子様そのものだった。


 どうにかしてコンラートに近づきたいが、コンラートの周りには婚約者の公爵令嬢のアネット、側近候補の高位貴族の子息とその婚約者。そして護衛を兼ねた乳兄弟の伯爵令息。最低クラスにいるミリアムと最高のクラスにいる王子達には接点がない。ミリアムの入り込む隙もなかった。考えあぐねて、父親に相談した。

 父親はにやりと笑って、これを飲ませるようにと何やら薬包を渡して来た。

 『これは何』と聞けば『これを飲ませれば、相手は言いなりだ。そのまま身体で落としてこい』と言われた。


 その薬がどんな効き目なのかも確認せずに、自分の言う通りになるなんて、なんて素敵と飲ませるための策を練った。


 いきなり王子には近づけないので、ガードが弱そうな侯爵令息に狙いを定めた。侯爵令息が立ち回る場所に身を潜めて、行動をうかがった。

 ある日侯爵令息が婚約者と二人で何か話していた。


「マーカス様、このまま見過ごされるのですか」


「ライラ……私はまだ側近候補でしか無い。殿下に意見などできない」


「マーカス様、殿下に意見をするのは、側近だけではありませんよね。臣下として殿下が間違っていると思ったら、意見するのは臣下としての務めではありませんか」


「そうは言っても、どうしてこんな状況になっているのか、わからないのに表面的に諫言しても何の意味もない」


「それではマーカス様はアネット様が意味もなく蔑ろにされて、将来の国王夫妻が遺恨を残してもいいとお思いなのですか」


「そうではない。そうではないが……」


「もう、よろしいですわ。マーカス様は長い物には巻かれろという精神なのですね」


 強く言い捨てて婚約者は去っていく。なんの話かはさっぱりだが、第一王子が婚約者と上手くいってないらしい。そしてこの侯爵令息も。これはチャンスだとミリアムは、マーカスに近づいた。マーカスの前でわざとらしく転び、自分の脚をドレスをめくりあげて、見せたのだ。貴族令息は女に免疫のある者はごく一部だけ。身体で落とせと父親に言われている。


 可愛らしく悲鳴を上げたミリアムに、女子は助けるものとしているマーカスは手を出した。普通に手を引き上げて、立ち上がらせるつもりだったのに、ミリアムはわざとらしくよろめいて、マーカスの胸の中に飛び込んだ。


「ごめんなさい。足を挫いたみたいなの」


 そう言ってベッタリと抱きついて、自分の豊満な乳房をマーカスの腕に押し付けた。真っ赤になりながら、保健室に運んでくれたマーカスにお礼だと言って、薬を入れたケーキを食べさせるのは容易だった。

 薬入りのクッキーやケーキで、すっかり言いなりになったマーカスにミリアムの次の標的ライムントを紹介させるのは容易かった。


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