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「国のために、器は王族を長持ちさせるための道具で、それが国の意思だと。私達は道具でしか無かった。国を守るために仕方の無いことだから、代々の王族と高位貴族達はそれを飲み込んできたのに、あなたは、なにを今更青臭い事を言うのだとローゼンベルガーに叱責された」
ギルバートは魔術庁長官の言い分に唖然とした。確かに自分達は高位貴族として国を守るために、代々政略結婚をし、娘を器として差し出して来た。
それが高位貴族として、上に立つ者としての義務であると親から言い聞かせられてきたのだ。
幸福な結婚生活ではない者も少なくは無かった。現にギルバートも妻とは仮面夫婦だ。
自分達は恋する人や愛する人を諦めて、器となる娘を生み出すためだけに、高位貴族同士で政略結婚をして来た。それを使い捨ての道具と言われては、何のための我慢、節制だったのだろう。
「ギル…いや、ギーセヘルト公爵、婚姻は?」
コンラートが息を吐きながら聞く。
「…していますよ。私達の義務ですから。小さい頃からの婚約者と。子供も設けています」
「そうか、おめでとうと言うべき…かな」
ギルバートと婚約者の仲は思春期に差し掛かった頃に破綻していた。それはコンラートも覚えていた。
ギルバートは皮肉げに薄く笑った。
「妻とはすでに仮面夫婦です。彼女は子供を二人産んでくれましたので、今は好きにしていますよ。公式の場でのエスコート以外に、出会うこともまれですが、それでいいとお互い割り切っています」
「そうか、そう言う義務を果たした人の話を聞くと、私は酷くわがままだったと思える。私情を殺して国のためだけに生きているべきだったのかとも思う。が、あの頃の自分はアネットを助けたい。それしか見えていなかった」
「生命が助かっても、アネットの心が壊れてしまっては、あなたがやったことは暴挙でしかありません。あなたを無くしてアネットが幸せになっていると思うのですか」
コンラートはその言葉に驚いて上半身をあげようとして、力が足りずにすべり落ちてベッドから転落しそうになった。
ギルバートは近寄り、コンラートをベッドに戻した。
「ギルバート!それはどういうことだ!アネットは私では無い誰かと、婚姻して幸せに暮らしていてくれと願ったのに」
「そんな手前勝手な望みが叶っていると思っていたのですか?」
「アネットはどうしているんだ」
血を吐くようなコンラートの言葉にギルバートは冷たい顔で答えた。
「それでは、アネットの所にお連れします。衛兵、扉の前にいる我が家の護衛を入れてくれ」
ギルバートが振り返って、扉の外の衛兵に声を掛けると、剣を腰に下げた騎士の姿の者が二人入ってきた。
「閣下、参上いたしました」
「この方を負ぶってさしあげろ。アネットの所にいく」
と、命じた。
コンラートはその言葉に、アネットに会えると言う期待と恐れを持った。
一人の公爵家の護衛はコンラートのベッドの脇に背を向けて座った。
「さあ、殿下、アネットの所に参りましょう。国王陛下の許可も取ってあります」
冷たい顔でそう言うギルバートに、自分では身動きもできないコンラートは従うしか無かった。
それに、なによりもアネットに会いたかった。




