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episode.04



「お前は、甘いものはほとんど食べない奴だったよなぁ?」


おん?とニヤケ面をこちらに向けてくる同僚のバルトロに、リディオは真顔のまま、キッと鋭い視線だけを向けた。


「また例の薬師さんに差し入れか?なんでまた。まさか、半年以上も経つのにまだ腕の傷が癒えないのか?まさかな」


「よく喋る口だな」


「こんなにお前に声をかけてやるのは俺くらいなもんだろ?」


まるで気を遣って声をかけてやっているとでも言いたげなバルトロからリディオは呆れがちに視線を外した。


「王宮の侍女達も噂してたぜ?お前が結婚間近だってな」


「そんなんじゃない。ただ仕事に真面目で忙しい奴だから腹の足しになればと思って渡しているだけだ。」


決して下心なんかではない。


リディオはソフィアに渡そうと思って買った飴玉入りのケースをポケットに仕舞った。


「仕事に真面目な子かぁ。まさにお前好みじゃないか?俺も時間作って会いに行こうかな」


「やめろ。手を煩わせるだけだ」


ソフィアはきっと、バルトロが自分の友人だと言って訪ねたところで煩わしいとは思わないだろう。


出来うる限りを尽くしてもてなすに違いない。


冷酷で無慈悲と王宮外でも噂になっているリディオを、ソフィアは恐れないどころか、そんな事は無いと言う。


基本的に恐れられる事が多いリディオは、部下に気を遣って仕事以外の時間を共に過ごす事は無い。


食事を一緒に摂ろうものなら、その部下の食事は一瞬にして味の無いものに変わってしまうだろう。


だがソフィアは違う。


いい意味で遠慮が無く、パーソナルスペースが狭い彼女の事だから、バルトロの事も何の疑いもなく招き入れるだろう。


それは少し、気に食わない。


ソフィアと初めて会った日、傷口の手当をしながら感謝の意を述べたソフィアの顔は実に印象的だった。


少しやつれた顔でリディオを労り、心配する裏に、感銘、称賛、恍惚…そんなものを隠しているようで、傷口を恐れる事なく穏やかな顔で見ていた。


単にそういったことに慣れているだけなのかもしれないが、それでも目を奪われるものだった。


早く仕事を終えた日と予定のない休日はソフィアの薬屋に足を運ぶのが日課となりつつある。


この半年で、彼女が頑張りすぎる頑張り屋だとよくわかった。


足早に向かった目的の場所は、既に陽が沈もうとしていると言うのにまだ絶えず人々が出入りしていた。


店から出てきた客の話し声がリディオの耳にも届く。


「大丈夫だろうかねぇ、随分青い顔をしていたようだけど」

「もう1ヶ月近く働き詰めだろう?」

「患者から風邪を貰ったのかもしれないよ」

「でもソフィちゃんが倒れたら、一番近くの薬師でも歩いて2時間はかかるよ」


「困ったねえ」と言いながらリディオの横をご婦人が通り過ぎて行った。


仕事の邪魔をしないように、患者がいなくなるまで外で待っていようかとも思ったが、中に入る事にした。


「いらっしゃいませー……って、リディオさん」


「気にするな。続けてくれ」


今日の患者は残り3人といったところだった。リディオはなるべく邪魔にならないように壁に寄りかかってソフィアの事を観察していた。


いつもに比べて口調がゆったり、もったりしている気がする。


「お大事にー……」


ソフィアが最後の患者を診終えたのを確認して、リディオは寄りかかっていた壁から背を離した。


「すみませんリディオさん、お待たせしてしまって」


ソフィアはへへへっと笑った。体調不良を隠そうとしているのがあからさまだ。


「お前、少し休め」


「…大丈夫ですよ」


「どこが大丈夫なんだ」


掴んだ腕からソフィアの体温が伝わってくる。自分より高いのは明らかだった。


「眠れていないだろう。少し休んでくれ」


「でも、急患があるかもしれないし…」


「………ではその時は俺が起こすから、それまで眠れ」


「でも、リディオさんに迷惑が」


「俺の事はいい。明日は非番なんだ」


「ひばん………」


「休みと言う意味だ」


「知ってます、それくらい」


熱で頭がぼんやりしてきているのかもしれない。これまで気力だけでなんとか乗り切ってきたのが、患者が途切れて張り詰めていた緊張が解けたようだった。


「すみません、リディオさん……私、薬師なのに」


「病に薬師も騎士も関係ない。体調管理も仕事のうちだと言いたいところだが…疲れが溜まって免疫が落ちたんだろう」


「すみません…」


「いい、それより休め。部屋に上がるからな」


「はいぃ…」


暖簾の奥はソフィアの居住スペースになっている。リディオはソフィアの体を支えながら暖簾をくぐった。


布団を敷いてソフィアを横にしてやると「情けないです」とソフィアはぽつりと呟いてすぐに眠った。


相当眠れていなかったに違いない。


「よく頑張ったな」


こんなに健気な娘を放っておけるはずがない。


リディオは眠るソフィアの頭を、子供にするように優しく撫でた。





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