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episode.10



「ふっほー……」


リディオが持ってきてくれた蒸し芋を口に詰めたは良いものの、まだ思ったよりも熱くて、ソフィアからは何語かも分からない言葉が漏れた。


言いたかった言葉は「出張」である。


「ああ。北地のフォード騎士団までな」


「何かあるんですか?」


「腕のいい奴がいるか見に行くだけだ。俺がフォードの出だから毎年視察に行かされるんだ」


「へぇ…」


「移動も合わせて約1ヶ月といったところか」


リディオは1ヶ月間、この王都を離れると言う。理由は先の通り。


「大変ですね」


「大変なのはお前だ」


「………?」


「…………いや、何でもない」


なんだよ気になるじゃないかと思ったけれど、フーフーと冷ました蒸し芋が適温になったので冷めすぎないうちにとソフィアは口いっぱいに頬張った。


「カストは熱心なようだな」


「そうですね。お母さんが喜んでくれるのが嬉しいみたいで、こちらも助かっています。力だけで言ったら私より強いかもしれません」


「お前は筋力よりも先にもう少し肉をつけろ」


「そんなには痩せてませんよ」


普通よりちょっと痩せ型かもしれないけれど、背丈もそれ程大きいわけでもないし、普通と言えば普通だろうと思う。


「食事と睡眠はきちんと摂れ。買ったものでもいい。物を食べなければ体力も落ちる」


外では冷酷無慈悲と噂の騎士様も、ソフィアの前ではただの心配性星人へと成り下がる。


ソフィアだってリディオがいなくてもお腹が空いたら何か適当に摘むくらいはしているのだが、1人の時は何も食べてないとでも思われているのだろうか。


「心配しなくても大丈夫ですよ。私も大人ですよ?」


「見るからに、多忙を理由に食事を疎かにしそうな大人だ」


「…………そんなバカな」


そんな風に見えているのか?とソフィアは自分の手元に視線を向けた。手首の細さで言えばリディオの半分より少し太いくらいだろうか。


でも袖から覗くリディオの手首は鍛えている人のそれなので、やはり普通では無いだろうか。


そう思っていると、リディオは何やらポケットから取り出すとソフィアに差し出してきた。


「腹の足しにはならないだろうが、甘いものは疲れを癒すと言う。疲れた時に食べると良い」


「……何ですか?」


「金平糖と言う砂糖菓子だ」


「コンペイトウ」


ソフィアが意味もなく繰り返したその貢ぎ物は、小指の爪程のカラフルで可愛らしい見た目をしている。透明な瓶詰めにしてあるおかげで、置いておくだけでも癒されそうだ。


「ありがとうございます。リディオさんは甘い物食べないからな………」


「全く食べないわけでは無いが、さほど必要だとも思わない」


貰った金平糖を片手に、ソフィアはハテ…と少し考えて、やはりあれが良いかと思い至る。


「ちょっと待っててください」


ソフィアは表の薬棚の引き出しを開けると、目的のものをいくつか取り出して、紙袋は普段薬を受け渡すのに使っている物しか持ち合わせていなかったのでそれに詰めた。


「これ、良かったらどうぞ。コンペイトウのお礼です」


「なんだ?」


「お茶です。リラックス効果があるやつ、疲れた時に飲んでみてください。水出しでもいけるので!」


「…そうか。貰っておく」


「はい」と返事をしたところでカランカランとベルが鳴る。


「ソフィちゃん!いるかい??階段を踏み外して足を挫いちまったみたいなんだよ」


「はーい!」


ソフィアが表まで聞こえるように返事をして立ち上がると、合わせてリディオも立ち上がった。帰るのだろう。


「無理はするなよ」


「リディオさんこそ、お気をつけて」


「ああ。土産を買ってこよう」


別にお土産を強請った訳では無いのだが、その約束は、必ず無事に帰ってくるとの約束のようだったのでソフィアは素直に頷く事にした。


「じゃあ、楽しみにしています」


「ああ」


その後2人揃って奥の部屋から出て来ると、リディオはそのまま振り向く事なく店を出ていった。


足を挫いたと言う旦那さんと付き添いの奥さんに見られて「邪魔しちゃったねえ」なんて言われて、またしてもソフィアは「違うから!」と弁明祭りが始まったのだった。






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