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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第5章 会議は踊り歌いて進む
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第97話 尋問

ミサキへの尋問が開始されるが、やはり彼女は喋ることができず、ミアネイラに記憶を読み取らせることもできなかった。そして痺れを切らしたドゥーマがミサキの元へと歩を進める。

 まもなく会議室にてミサキの尋問が始まった。出席者は裏世界のナンバーズのほぼ全員であったが、No.14レイザーは例によって不在、No.15スラ・アクィナスは連絡がつかずこちらも不在であった。


 アリーアとミサキ以外はそれぞれの座席に着席している。アリーアは立ち尽くすミサキの傍らに立ち、あれやこれやと質問を始める。あなたは本当に意思疎通ができないのか?父親ハルトに関して知っていることはあるか?無論ダメ元であった。やはりというか、ミサキは一切言葉を返さず、無表情のまま固まっていた。


 次にアリーアはミアネイラを呼び寄せる。彼女は記憶の神ムネモシュネーの能力者。ミサキの記憶を直接読み取れるかどうかの試みであった。


 ミアネイラはミサキの頭に触れる。しかし彼女は顔をしかめ始め、周囲は芳しくない結果を予感した。


「どうかしら、ミアネイラ」

 アリーアが問う。


「ダメね、こいつ記憶にプロテクトでもかけられてるんじゃないの?真っ白で何も見えないったらありゃしない」


「詳細は分からないけれど、おそらく人為的な理由によるものでしょうね。普通ではこんな状況ありえないもの。今のところこの()からアタナシアに関する情報は得られていないけれども、この娘がアタナシアの関係者であろうということはより濃厚になりましたね」


 そこでしばしの沈黙が生まれた。


 ミサキは自ら話すことも身振り手振りで伝えることもできない。そしてミアネイラの能力で記憶を読み取ることも敵わなかった。打つ手がなくなったのだ。


 アリーアがどうしたものかと思案を巡らせていると、突如ドゥーマが立ち上がった。ズシズシと歩を進めてミサキの元へと近づく。その場の全員が何か嫌な予感を肌で感じた。


 ドゥーマは一切容赦のない力加減で、ミサキを払いのけるように腕で殴り飛ばした。


 (よわい)十程度の少女の小さな体は木の葉の如くにたやすく吹き飛んだ。ドゥーマはミサキに再び近づくと、今度は執拗に蹴り始める。こちらも手加減というものがまるで感じられなかった。意思疎通を封じられている少女は泣くことも許されず、ただひたすらに耐えているようだった。出血が絨毯を赤く染めていく。それでもドゥーマは加虐の脚を止めなかった。


 裏世界のほとんど全員がバツの悪い顔をしていた。普段は冷静な表情のバズやムファラド、マルクスも顔をしかめていたし、あまり善良な人柄とはいえないグレーデン、カルロ、ミアネイラでさえその凄惨な所業には引いているような様子であった(一切表情に変化がないのはバジュラくらいだ)。


「ドゥーマ!何をしているのですか!」

 たまらずアリーアは抗議の声を上げた。


「はあ?情報を吐かせるために決まっているでしょう?」

「彼女は口がきけない状況にあると、それはご存じのことかと思いますが」

「あのねえ、こいつが類まれなる演技力で唖者(あしゃ)を装っているって線を何故考えないのよぉ?それに記憶にプロテクトだかがかかっているのも、命を危険に晒せば変化がある可能性もあるでしょう?」


 そう言ってドゥーマは再びミサキを鋭く蹴り飛ばして踏みつけた。少女は既にぐったりしていた。


「ドゥーマ!お止め下さい!その娘が本当に己の意思で情報を黙秘していると、その様子を見てもそう思えるのですか?」

「目で見たものすべてが真実とは限らないわぁ。アリーア、あんたは情報整理は得意だけど真実を見通す力は別にずば抜けているわけじゃないでしょう?貴方は保証できるの?この娘が己の意思で黙秘しているわけではないという、その保証を」

「そ、それは」

 アリーアは口ごもった。


 ミサキは明らかに何らかの理由で、意思疎通の一切合切が封じられている。しかしその手段がつまびらかでない以上、それは状況からの推測の域を出ないのだ。


 ドゥーマは虐待をなおも続行した。裏世界の他メンバーはみな押し黙っていた。分かり切っているからだ、ドゥーマに止めろと諭したところで彼女が聞く耳を持つわけがないと。そして力ずくで止めることはなおさら難しいことであった。



 しかし加虐の不愉快な音の中で、鋭い制止の声が放たれる。


「いい加減にしてよ!!!」


 皆の目線が声のした方に向く。トリエネであった。裏世界最弱の彼女は、最強の神に毅然と抗議の声を上げていた。ドゥーマは不愉快そうに脚を止め、目線をトリエネに向けた。


「何?なんか文句あるの、トリエネ」

「その娘は自分で話したくても話せないの!何で今までのやり取りでそれが分からないのよ!」

 トリエネは普段の能天気さからは考えられない程に激昂していた。


「アンタも馬鹿?それが保証できるのかって、さっきアリーアにも言ったんだけど」

「どうして?どうして、そんなひどいことが平気でできるの?貴女には人の心が無いの?」

 トリエネは目に涙を溜めながら、振り絞るような声で言った。


 彼女の発言がドゥーマの癇に障ったのだろうか。

 ドゥーマがミサキの虐待を止めたかと思えば、突如足元の床が盛り上がるように膨らみ、土砂が宙に浮かんだ。土砂が押し固められて大きな(つぶて)に変わる。それがミサイルのような速度でトリエネに向かって飛んでいった。彼女は避けきれず、吹き飛ばされて壁に激突した。ドゥーマは間髪入れずに近づくとトリエネの顔面を鷲掴みにして持ち上げる。


「人の心が無い?アンタ、ホンットになんにも分かっていないのねぇ。アンタはつくづく私を苛つかせることに関しては天才的よねぇ」


 トリエネは血を流しながら苦しそうに顔を歪める。それを見つめるドゥーマの形相は普段通りの邪悪な笑みであったが、多分に怒気を孕んでいることが感じられた。


「トリエネ、アンタは私のことを理解できないと、そう思っているのでしょうけど、今その原因が分かったわぁ。アンタは人間を測る物差しで私を見ているのよぉ。でなければ、人の心が無いのかなんて寝ぼけたこと抜かすわけないわよねぇ」


 ドゥーマはそう言って、トリエネを床に叩き下ろす。


「人の心?有るわけがないでしょう。私はこの世界そのもの。人間なんかを測る物差しでこの私を正しく推し量れるはずがないでしょう」


 ドゥーマは再び歩を戻し、ミサキの虐待を再開する。

 今度は耐えかねたリピアーが口を開いた。


「……ドゥーマ、本当にいい加減にしなさい。貴女はその娘から情報が得たくてやっているのでしょう?それでは仮に話せたとしても話せないわ。もしかしたら内臓が潰れているかもしれない」

「アンタは虐待のコツを分かっていないわねぇ、リピアー。重要なのはいかに生命を危険に晒すかよ。生存本能に働きかけ、それのみによって動く様にするの。お願いします、助けてください、知っていることは全部話しますと、こちらが聞いていないことまで自分からベラベラと喋る程度に追い込むのよぅ」


 その言葉には一切の迷いや慈悲は感じられなかった。

 トリエネの問い、貴女に人の心は無いのか?答えは確かめるまでもない。リピアーは顔をしかめる。


「放っておいたら確実に死ぬわ、その娘。私の回復をアテにして容赦の無い尋問をしているのでしょうけれども、少しは自重して頂きたいわね」


「……アンタもなにか勘違いをしているようねぇ」

 ドゥーマは不愉快そうな視線を今度はリピアーの方に送る。


「私の目的はアタナシアに到達すること。それさえ達成されればよく、途中経過なんてどうでもいいのよぅ。この小娘が死のうが生きようが私にとっては至極どうでもいい。仮にリピアー、アンタがこの小娘の回復を放棄して死んでしまったとしても、自ら重要な情報源を放棄したのは貴女自身。貴女が責任を持って、他に代わる情報源を見つけてくればよいだけ。それが嫌なら回復すればいいんだわ。私は結果さえ望み通りならそれでよく、そこに至るまでの過程には興味がない」


「…………」


「勘違いしているようだから言っておくわね、リピアー。私はアンタにこの娘を治してもらいたいわけじゃあないの。ただ治してもいいと思っているだけなの。それが嫌なら見殺しにでもすればぁ?」


「…………」


 リピアーは押し黙っていた。言い返す言葉がなかったというよりも、ただただ文字通りに閉口していた。それに何か指摘したところで、この暴虐の権化は聞く耳など持たないであろうことは目に見えていた。


 ◇


 結局、アタナシアに関する重要な情報をミサキから得ることはできなかった。あの場は終始ドゥーマによる情け容赦の無い虐待で終わってしまった。


 ミサキをとうに気を失っていた。しかしリピアーの死から遠ざかる力で肉体を修復したので、命に別状はなかった。ミサキはアジト内の、会議室からは隔たった冷たい檻の中に入れられた。やがて目を覚ましたが、泣くことすらもできず、ただ無表情のまま茫然と天井を見上げ続けていた。


 別室ではトリエネとリピアーが話をしている。


「信じられない!ドゥーマのやつ!リピアー、ミサキちゃんをどうにか逃がしてあげられないかな?」

 トリエネは不安に満ちた声音で問う。


「……無理よ。鍵はドゥーマが管理しているし、力ずくで開けようものならすぐにバレるわ。それに仮に逃がせたとしても、今度はドゥーマの魔の手が逃がした者へと伸びるだけ。そうなれば命を諦めるより他無いわね。アイツには裏世界の他の神が、全員がかりで挑んでも勝てやしないのだから」


 リピアーは感情を押し殺したようにつぶやいた。リピアーは無駄な行いも、無意味な発言もしないと、トリエネは彼女に全幅の信頼を寄せていた。そのリピアーが無理だというのだからやはり無理なのだろう。バズたち長老勢ですら何も言わないところがなおのことその事実を裏打ちしているようであったし、なによりトリエネ自身もドゥーマの強大さをはっきりと認識していた。


 ミサキへの虐待をドゥーマに止めさせる妙案は残念ながら思い浮かびそうになかった。



 ……明くる日、ミサキの檻が空いていた。加えてトリエネの姿もアジトのどこにもなくなっていた。ドゥーマは激怒した。

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