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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第5章 会議は踊り歌いて進む
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第92話 リピアー・クライナッズェ

突如現れた謎の女、リピアー。彼女は、マグナが保護していた元賤民の少女の身柄を要求するが……

 謎の女は黒髪の少女を見つめる。少女はやはり表情こそ(たが)えないが、ビクッと肩をすくませ、立ち上がるマグナとマルローの背に隠れた。マグナが毅然と口を開く。


「悪いが、どこの誰とも知れない輩に引き渡す道理はない。アンタの目的も知らないしな」


「……私はリピアー・クライナッズェ。秘密組織”裏世界”の一員。現在我々はとある聖域に到達するべく情報収集に奔走している。そこの少女はその手掛かりになりうる……これで満足かしら?」


「裏世界だと?」

 マルローがやや驚くような声を上げていた。


「知っているのか、マルロー?」

「聞いたことがある。たしか神の能力を持つ者が集まった組織だとかなんとか……何する組織かは知らねえがな」


「特段これといって定まった目的は無いわね。裏世界はあくまで神々の相互扶助組織という名目なのだから」

 リピアーが補足するように言った。


(秘密組織……要は裏社会の組織か。きな臭いってモンじゃないな)

(ああ、嬢ちゃんをここでほいほい引き渡したら、おそらく後悔することになるだろうぜ。それに……)


 顔を近づけ、ひそひそと会話を続ける二人を見て、リピアーの声音には若干の苛立ちが滲む。


「それで?早く引き渡して頂きたいのだけれど。安心しなさい、その()にひどいことをするつもりは毛頭無いから」


「……悪いが信用できねえなあ。引き渡すわけにゃあいかねえ」


 マルローは右手を掲げ、燃え盛る火炎を出現させた。彼の力は火と鍛冶の神ヘーパイストス。神器を作成・改造・修繕するだけでなく、炎を操り戦うこともできるのだ。


「アンタ、神の能力者だろう?裏世界を名乗っていたし、それに気配で分かる。それ以上近づいてみろ。近づけばこの燃え盛る炎をアンタに叩き込むぜ」


 マルローの声には普段の軽薄さとは打って変わって、決して冗談気を感じさせない凄みがあった。神の能力者、秘密組織”裏世界”、とある聖域……様々な情報がマルローの中の危険信号を増大せしめていた。


 しかしリピアーはためらうことなく歩を進め、近づいて来た。


「……!俺は警告したからな!アンタが能力者と分かっている以上、容赦はしねえ!」


 マルローはどこか自分に言い聞かせるように言った後、手のひらに出現させていた火炎をリピアー目掛けて投げつけた。巨大な火柱が上がり、リピアーの肉体は炎に包まれて見えなくなってしまった。思わず顔を覆うような熱気にマグナは顔をしかめた。


「……お前、これ火事になんねえのか?」

「心配要らねえよ、俺の作業スペースは防火仕様だからよお」


 二人が軽口を叩いてからしばらくして炎が収まり始める。やはりというか、リピアーは服も肉体も消し炭と化してしまったようで、炎が退()けた後に人の姿はどこにもなかった。

 これでいい。秘密組織を名乗る能力者を相手に、悠長に事を構えるのは愚策であるはずだった。そう考えた為、初めから全力の炎を叩き付けたのだ。


 二人は勝負が着いたかを確認するべく炎の跡をしげしげと眺めるが、やがて驚くべき現象が起きる。


 遺灰がひとりでに動いているのである……!まるで引力に引き寄せられるようにして、散らばった遺灰や消し炭と化した肉片が一か所に集まり始める。


 なんということか!そこには肉体を再生させたリピアーの姿があった。服については肉体ではないからか再生せず、一糸まとわぬ姿であった。二人は驚きで目を丸くした。


「ふふふ、残念ね。私は死の神タナトスの能力を持っている。私の肉体には常に”死から遠ざかる力”が働いているの。私の肉体は不死身。焼かれようが、バラバラに刻まれようが、粉々に潰されようが、私の肉体は決して死という結末には到達しないのよ」


 あろうことか、敵は不死の能力者であった。


 マグナは脳裏に焦りを感じながらも思考を巡らせる。しかし不死の相手なぞどうすればよいのだろうか?負けはしなくても、勝てるビジョンがまるで見えなかった。


「……やばいかもな」

「ああ、やべえな」

 マグナのつぶやきにマルローが返した。


「こんな時に限って、俺はカメラを持っていねえと来たもんだ……マグナ、持ってたりしねえか?」

「持ってるわけねーだろ、アホ」

「しょうがねえ。頑張って俺の脳裏に焼き付けておくとするか」


 マルローの視線はリピアーの裸体に注がれていた。上着の上からではよく分からなかったが、なかなかのプロポーションだった。マルローのマイペースに、マグナは自分だけ必死な思考になっていたことにバツの悪い気持ちになる。一方、リピアーは肉体に視線を注がれながらも、表情は平静のまま崩していない。


 やがてマグナは異変に気付いた。

 リピアーの両手だけがいつまで経っても再生されていない。


「おいマルロー、気づいているか?アイツの体おかしいぞ」

「へえ、なにかおかしいことに気付けるくらいジロジロ見てたんだな」

「茶化すんじゃねえ!アイツの両手がいつまで経っても再生されないのは妙だと思わないか?」


 マルローもマグナに言われてようやく異変に気が付く。


「まあ、手は複雑な部分だしな、再生に時間がかかっているだけとか?」

「いや、他の部位に比べて時間がかかり過ぎだ。なにか妙だ」


「……触れたわ」


 リピアーのつぶやきに、二人はようやくいつまでも彼女の手が再生されない理由を知った。いや、再生はされていたのだ。足元に違和感を感じて視線を落とす。そこにはリピアーの両手が転がっていて、それぞれマグナ、マルローの足首を掴んでいた。二人は驚き、その手を()退()けるようにして蹴飛ばした。


「ちょっと!人の手を足蹴にしないでもらえるかしら」


 リピアーは蹴飛ばされた両手に近づき、小手先の無い両腕を突き出す。地面に転がる両手は肉片と化し、腕へと戻って再び手の形を成した。


 先ほどリピアーは触れたわと言った。自分たちは何をされた?触れることが条件の能力でもあるのか?二人が考えを巡らせる前に、その答えが肉体の異変として現れ始めた。


 頭がぼうっとする。ひどく視界がぼやけてくる。立っていられないほどにふらついてしまい、たまらず床に倒れ込んだ。どうやらひどい高熱が出ているようだった。

 驚くべきことはそれだけではなかった。服が血染めになっているのである。体のあちこちが負傷していてそこから出血しているようだった。マルローも同じような状況だった。

 マグナの胴には深々と切り傷のようなものが発生し、そこからおびただしく出血していた。彼はこの傷にどこか既視感を覚えた。そうだ、フェグリナだ。フェグリナの草薙剣で受けた負傷がたしかこんな感じだった。思えば、他の傷や症状もどこかで患った覚えのあるものばかりであった。


 床に倒れ伏し、苦しみもがく二人を余所に、リピアーは黒髪の少女に近づいていく。裸で歩を進めながら、能力の仔細を述べる。


「私は死の神タナトスの能力を持つけれど、だからといって死んだ者を蘇生させたり、逆に他人を即死させるような芸当はできないわ。私が使える力は二つ……”死から遠ざかる力”と”死に近づける力”」


 少女の肩を掴み、引き寄せながら言葉を続ける。


「貴方たちには”死に近づける力”をかけた。怪我や病気――肉体が記憶している、最悪の状態が再現されているのよ。一度も怪我をしたことも病気を患ったこともない人には効かないのでしょうけど、まあそんな人は滅多にいないでしょうね」


 リピアーは少女の手を引いて、家屋から出ていこうとする。少女は抵抗しても無駄と悟っているのか、大人しく従っていた。


「私はこの少女を必要としているだけであり、特段貴方たちに恨みはないわ。私がフランチャイカ王国を脱出でき次第、能力は解除してあげるから、それまでは頑張って耐えて頂戴ね」


 リピアーは穏やかな声でそう言うと、苦しみもがく男二人を尻目に少女の手を引きその場から立ち去った。少女は、やはり表情こそ微動だにしないものの、どこか心配気な顔つきで後ろを振り返りつつ、やがていなくなってしまった。後にはうめき声だけが残された。

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