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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第5章 会議は踊り歌いて進む
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第91話 革命騒動の後に

話は再びフランチャイカ王国へと戻る。傷心のマグナはマルローの家に厄介になっていたが、そこに謎の女が来訪する。

 フランチャイカ王国での革命騒動の後、ラグナレーク王国とアレクサンドロス大帝国との間で戦争が勃発しました。きっかけはラグナレーク側からの奇襲であったとされていますが、ツィシェンドさんがそんなことを許可するでしょうか?疑問は尽きません。

 迫り来るアレクサンドロスの軍をなんとか打ち倒し、ひとまずはラグナレーク側の勝利に終わりました。ですが向こうからしてみれば小手調べ用の部隊が潰されただけであり、戦争はまだまだ継続する見込みのようです。フリーレさん、ご武運を!

 そして私、ラヴィア・クローヴィアは今、紆余曲折を経て盗賊なんぞに身をやつしています……

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 フランチャイカ王国は革命騒動からひと月余りが経過したこともあり、次第に落ち着きを取り戻していた。革命直後の国の混乱ぶりは目に余るものがあった。突如無くされた身分制度。対等となった貴族と平民、そして賤民。対立は度々諍いや事件と化して表沙汰となり、国は混迷を極めていた。

 この状況をもたらした革命勢力、そして正義の神に対する不信感も国中に満ちていた。


 しかしそれがもののひと月ほどで収まり始めている。自由と平等、博愛の元に皆が手を取り合うことが大切だと、そう主張する者が増えているように感じるし、正義の神に畏敬の念を表する者も続々と現れ始めた。

 自分の眷属が裏で何やら行動していて、それに()るものであろうことはなんとなく察していた。やり口があまり感心できるものではないことも想像に(かた)くなかった。しかしそれを咎める気にはなれなかった。曲がりなりにも国が立ち往き出しているのは事実であり、何よりすべて不甲斐ない自分が悪いのであった。



 とある日の午前のこと。

 マグナ・カルタは行きつけのパン屋で、三人分のバゲットとスープを購入すると帰途に着いた。

 彼はひと月以上、王都ミストレルの旧ギュールズ区域にあるロベール・マルローの家に厄介になっている。彼は正義の神であり、世界を平和にすることを目標としているが、次なる目的地を探すことから逃避してしまっていた。自身の行動が国を混迷に導いた、そのことを未だに引きずっているのだった。最近は幾ばくか立ち直りつつあったが、それでも思考するという行為自体をどこか忌避し続けていた。


 憂いを帯びた瞳で、河沿いの通りを行き過ぎる。通りがかりの人々が行儀よく挨拶をしてくる。パン屋の主人も、行きずりの街の人々も、ひと月前に比べれば随分と恭しくなってしまった。刺すような冷たい眼を向けられることに比べればマシではあったが、この状況もこれはこれで気味が悪かった。

 マグナはこの国を混乱させてしまったことを痛烈なまでに猛省していた。それでいて具体的な解決方法なぞ思い浮かばず、自分の眷属のおそらく手放しには褒められないであろうやり口に甘えてしまっている現状を殊更に恥じていた。どうすれば良かったのか?今後自分はどうするべきなのか?彼を帯びる憂いは、きっと答えが出るまで消えはしないであろう。


 マルローの家は旧ギュールズ区域の、河沿いから離れた周縁部に程近い場所に有る。敷地はそこそこ広い、というのも彼は火と鍛冶の神ヘーパイストスの力を持つ男であり、住居が彼の作業場も兼ねているからだった。正面に扉などはなく、シャッターが上げられ内部が丸見えの状態であった。ガレージのような造りになっているのである。


「……ただいま」

「おう、おかえり」

「パンとスープ買ってきたから、温めて食おう」

「ちょい待ってくれ、もうすぐ修繕作業もひと段落するんでな」


 マルローはガレージ内で巨大な乗り物のような物を修繕していた。手には槌が握られている。修繕されているそれは、かつてラグナレーク王国でマグナが直々に破壊した神器、レーヴァテインであった。

 ラグナレーク王国は現在アレクサンドロス大帝国と交戦中であり、当神器の修繕が急務であった。マグナはマルローという修繕のツテができたこともあり、ツィシェンド王に修繕を打診、目下修理中なのであった。しかしそれもほとんど完了しているように見受けられた。


「しかし面しれえ神器だなこれ、搭乗型の神器なんて俺は初めて見た。乗って空を飛べるし、攻撃力もなかなかのモンときた」

「ここ一週間、憑りつかれたかのようにレーヴァテインをいじくりまわしていたよな」


 マルローはレーヴァテインの修繕に着手してから一週間ほど、修繕作業に没頭するか、そうでない時は食事や睡眠を摂るだけの生活をしていたのだった。


「いやあ、我ながらここまで没頭しちまうなんてな。ムフフなお店にもう一週間以上行ってねえ、これってすごいことだぜ?」

「そうか」


 マルローの軽口をマグナはてきとうにあしらった。しかし傷心した彼にとって、マルローとの気の置けない会話はどこか有難かった。


「アイツを起こしておく」

「ああ、俺もすぐ終わるからよ」


 マグナは二階への階段を昇る。アイツとは、マグナが保護した元賤民の少女のことである。夜の闇のように黒い髪をしており、年齢は十歳ぐらいだろうか。彼女の名前は依然として判明していない。なにしろ口がきけず、読み書きもできない。それどころか、文字を指し示すだとか、表情や身振り手振りでコミュニケーションをとることもできないので、何らかの理由で意思疎通自体ができなくなっているのではないかと二人はにらんでいた。しかし何の手掛かりもないので、ひとまず保護を続けているのだった。


 簡易なテーブルに買ってきた食事を並べる。バゲットを切り、バターとハムを挟んでジャンボン・ブールにする。温め直したチーズ入りのタマネギスープを三人分の皿に取り分ける。

 マグナ、マルロー、名も知れぬ少女はそれぞれ小さなイスに腰掛けて食事を貪り始めた。


「立ち直って来たようで安心したぜ」


 マルローが思いやりのある声でぽつりと言った。


「……まあ、正直まだ引きずっちゃいるがな」


 マグナにはマルローの優しい言葉が嬉しかった。一か月以上、ずるずる彼の家に厄介になっているのも、その居心地の良さが原因の一つに違いなかった。


「なあに、なにもかも上手くいくことなんてそうそうねえよ。それに失敗は次に活かせばいい」

「……それもそうだな」

「よし!お前さんに元気になってもらう為にも、今夜は綺麗な姉ちゃんのいるお店で遊ぼうぜ!俺がおごってやるからよ」

「お前が行きたいだけだろ」


 マルローのいつもと変わらぬ調子も、マグナにはひどく有難かった。



 やがて会話がひと段落した二人は、黒髪の少女の方に目線を向ける。保護当時はボロを着ていたが、今では小綺麗な服を着せている。

 腹を空かしていたのか、少女はがっつくようにジャンボン・ブールにかぶりついていた。しかし終始無表情であった。彼女は表情を変えられないようなので、これがいつもの光景だった。彼女が笑ったり、怒ったり、泣いたりしているところを二人は一度も見たことがなかった。


「しかし、この嬢ちゃんはどうしたものかな」

「リュミエールに保護を依頼しようにも、コイツにはどうにもきな臭い事情がありそうだからな」


 マルローとマグナは思案気につぶやく。かつて賤民に対して炊き出しや職業斡旋をしていた慈善団体リュミエールは、現在孤児や浮浪者を保護する施設に生まれ変わっていた。しかしこの少女にはどうにも普通ではない事情が内在していそうであり、二人は少女を施設に委ねることをせずに傍に置き続けている。とはいえ、まるで情報が無く、正直持て余しているのも事実であった。


「何か手掛かりがあればいいんだがな」

「手掛かりか……なんとなく気になるのはコイツが、ラヴィアやフェグリナと同じような夜の闇のように黒い髪をしていることかな。西方では珍しい髪色だしな」

「ラヴィアってのは、お前さんが一緒に旅をしていた貴族令嬢だっけか。それにフェグリナってのはあの悪名高いラグナレーク王国の暴君……」

「正確には、それに成り済ましていた偽者だけどな」


 ――そんな会話をしている時だった。

 マルローの家屋に何者かが入り込んで来るのを三人は見る。男物のコートを羽織り、前に鍔の有る革製のハンチング帽子を被った、暗い赤銅色の髪の女だった。


「……ようやく見つけたわ。そこそこ手こずる調査だったわね」


 三人は表情は崩さず、しかし内心驚きながらその突如現れた女に視線を向けた。一方、女の目は黒髪の少女の方に向いていた。


「……何者だ?アンタ」


「名乗る必要は無いわね。単刀直入に用件だけ言うわ、その少女をこちらに引き渡しなさい」

 落ち着き払ったマグナの言葉に、女もまた落ち着きのある声で応えた。

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