第63話 監獄襲撃
ついに始まったフランチャイカ王国での革命騒動。マグナとモンロー、そしてマルローは自動車に搭乗してセーブル監獄へと向かって行く。
セーブル監獄は賤民の居住区であるセーブル区域の中に在り、とりわけ政治犯の収容所といった趣が強い。位置としてはリュミエールがセーブル区域の周縁部にあるのに対して、監獄はアルジェント区域と繋がるプランタン門の近くに存在する。監獄の警備や管理は衛兵によって行われている為、便宜を考えてのことだろう。
時刻は深夜に程近い。監獄の衛兵たちは皆一様に妖しく白む南西の空を眺めていた。彼らは未だに革命勢力の新たな拠点を抑えられずにいたが、近いうちに大規模な蜂起を計画しているのではないか、それは常々肌で感じていたことだった。白く瞬く空の光は、そんな彼らの予感を実感へと変えていく。
「いったいなんだ、あの光は……?」
「さ、さあ……」
衛兵二人が話していると、遠くから何かが聞こえてくる。
聴き慣れない音だった。まるで空気を震わせるような振動を伴って、何か大きな物体が監獄に向かって一直線に近づいてくるのが見える。それは例えるならば、馬の無い馬車であった。本来、馬に引かせるべき車が独りでに動いているのだ。それも前面からは夜の闇を照らす眩い光を発し、後方からはがなるような音とともに煙を吐き散らしていた。
正体不明のそれは豪快に車輪を回しながら、高速で門に向かって突進していく。門番の衛兵たちは仰天した。
「何だ!?何か近づいて来るぞ!」
「馬車が独りでに動いている……?逃げろ!轢かれるぞ!」
衛兵たちが慌てて門の前を離れた直後、突進してきたそれは盛大に門をひしゃげると、そのまま監獄の敷地内へと突入していった。
衛兵たちは過ぎ往くそれを見送る。その独りでに動く車は屋根が無い造りとなっており、そこには三人ほどの姿が見えた。一人は逆立った栗毛色の髪の男、一人は長いバイオレットの髪の男、そして最後は藤色の髪の女性のように見えた。
◇
監獄の建屋を目指して走り続ける。豪快に地面を踏み鳴らす車輪の音と唸るようなエンジン音がまるで猛獣の威嚇のようであった。途中で異変を察知して出て来た衛兵たちもたまらず道を明け渡した。
「ははは!マルロー様、お手製の”自動車”よ!蒸気機関のように動力を生む仕組みを内蔵しているから馬やロバは要らねえ!それに蒸気機関は石炭を燃やす必要があるが、こいつのエンジンは俺の神力をエネルギー源としているからな、石炭なんざ要らねえしパワーもずっと出る!」
「まさかこんな物まで用意していたとはな……さすが鍛冶の神だ、恐れ入ったぜ」
自動車の運転席でアクセルを踏み、ハンドルを構えるマルロー。その隣でマグナは、初めて見る乗り物に搭乗して監獄へ突入するというこの状況に、妙な高揚感を感じていた。自動車の後部座席ではモンローが、とくにどうとも思っていない風に無表情のまま、髪と衣服が風にそよいでいた。
衛兵たちのほとんどはその見慣れぬ走る鉄の塊に驚愕し、たまらず道を開けるのだが、何人かは勇気を振り絞って槍を構え進行ルート上に立ちはだかる。
しかし彼らをそのまま轢き殺すことは正義の神が良しとはしない。マグナは右腕だけを金属硬化させるとそこから鎖を射出した。鎖が立ちはだかる衛兵たちに巻き付くと、彼は腕を振るい衛兵たちを無理やり進行ルート上から撥ね飛ばすようにどかした。目的はあくまで革命の達成であり、いたずらに人を殺したくないが故の対処であった。
直後、マグナが鎖を戻す前に新たな衛兵たちが今度は左右に分かれて、自動車の側面から槍での挟撃で食い止めようとする。
マグナは今度は左腕を金属硬化させるとそちらも手首が収納されていく。こちらからは鎖……ではなく銀色の細長く突出した造りがせり出してきた。ライフルの銃身に似ているが、腕から直接生えているため持ち手のようなものはなく、全体的に円柱的な構造をしていた。マグナは左腕から出現させたそれを、まずはそのまま向かって左側にいる衛兵の脚を狙って射撃し、すぐに右側の方にも向けてそちらの衛兵の脚も狙撃した。破裂音とと共に衛兵たちは脚から血を流して動きを止める。脚を狙うのもまた、マグナには彼らの命まで奪うつもりがないからであり、計画完了までの間邪魔立てしてこなければそれでよいのであった。
「体を鎧化させるだけじゃなく、鎖を飛ばしたり、銃まで出したりデきんのか。俺は鍛冶の神だから色々なからくりを作れるが、お前さんは自分自身がからくりみてーなモンだな」
自動車を走らせながらマルローが言う。
マグナもまた襲撃計画開始までの間に準備をしていたのだ。それまで彼の攻撃手段といえば殴るか鎖を射出するかしかなかった。何か新たな攻撃手段を持っておきたい、そう思ったマグナが新たに獲得したのが腕を銃砲化させるというものだった。遠距離攻撃手段は今までは鎖の射出くらいだったが、これは一旦射出すると引き戻すまでにタイムラグができるため次の攻撃に素早く繋げることが難しい。乱戦のような場ではあまり有用とは言えないのだ。腕の銃砲化は、遠距離かつ連続攻撃を可能とし、乱戦や今回のような突入時の攻撃手段として大いに便宜を供することとなった。
衛兵たちはあるいは退散し、あるいは立ちはだかっても負傷させられてしまい、彼らの猛進を止めることはできなかった。やがてマルローが大きくハンドルを回すと、自動車もそれにつられて大きく曲がり、監獄の建物に正面から向かって行く(入口ゲートから直進すれば監獄に到達するわけではなく、途中で右に折れる必要があった)。
「唸れモンスターエンジン!景気よくかっ飛ばしな、監獄は目前よ!」
ほどなくして自動車は監獄の正面入り口に到達した。
マルローとマグナは素早く飛び降りる。マルローは巨大な金属製の槌を出現させ、マグナは金属硬化した右腕を拳に戻して構えた。
二人は力任せに扉を殴りつけ、強引に監獄内への突入を達成した。




