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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第11章 世界大戦
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第253話 世界大戦⑧

舞台は西方戦線へ。グレーデンとカルロは正義の神の為、各々の戦いを始める。

 ――西方戦線。


 ユクイラト大陸の西方では、フランチャイカ共和国とポルッカ公国がそれぞれ南に接するヴェネストリア州への侵攻を開始していた。それぞれの軍にはブリスタル王国からの援軍も参加している。


 現在、ヴェネストリア州全土に正義の神マグナの力が及んでいた。

 覚醒した彼の力の一つ――秩序(エウノミア)は悪の力を制限する効果だが、それによってヴェネストリア州を支配していた獣将部隊の兵士たちは随分と脆弱になっていた。


 人間の一般兵単独でもたやすく勝てる有り様で、兵士たちは数に物を言わせて進撃を続けていた。着々と都市が制圧され、人民が解放されてゆく。


 北方から攻めているので、まずは北東のヴェネルーサ王国と北西のアンドローナ王国の解放であった。ヴェネルーサ領内ではポルッカ公国軍が、アンドローナ領内ではフランチャイカ共和国軍が主体となって戦っている。雄々しく馬を駆り、猛々しい鬨の声が響いている。敵兵も逃散の姿が目立ち始めた。


 ヴェネルーサとアンドローナの境に広がるパラータ平野。

 ちょうど先のヴェネストリア解放戦で主戦場となった場所であるが、そこにグレーデンとカルロの姿があった。


 グレーデンはアルテミスの力で狼を二匹召喚すると、片方に自分が乗り、もう片方にカルロを跨らせた。


「それじゃあアンドローナ王国の方は頼んだぜ、カルロ。俺はヴェネルーサ王国の方に向かう」

「ああ、分かったよ」

「ウァラクの情報では獣将部隊の将軍級(コマンダー)三体の内、師団長のマルコシアスが中央のストラータ王国に陣取っていて、残り二体がヴェネルーサとアンドローナを支配しているらしい。一番南に位置していて海が多いリゼロッタ王国には覇海部隊とやらが駐屯しているんだと」


 ちなみにラグナレーク王国との決戦で、獣将部隊の将軍級(コマンダー)はナベリウスを欠いた状態である。覇海部隊もボティスとアンドロマリウスを失っており、将軍級(コマンダー)は二体しか残されていない。


「マルコシアスは正義の神が対応する予定だし、海方面もアーツの奴がやるから、俺たちは北の二国のどっちかってことだな?」

「ああ、その通りだ」


 言いながら、グレーデンは東の方角、ヴェネルーサの港町のある方に向く。

 カルロもそれを見て、西側に体を向けた。


「死ぬなよ」

「お前こそ……生きて必ず此処で落ち合おう」


 月は東へ陽は西へ、二人の男は駆け出して行った。


 それからニ時間以上経って、グレーデンはヴェネルーサの港町に到着する。スレイプニルほどではないにせよ、彼の召喚する狼たちもかなりの駿足であった。


 港町にはまだポルッカ・ブリスタルの連合軍は到着していなかった。

 それでも正義の神の力は此処にも及んでいる。街は武装した地元の市民たちが、駐屯していた獣将部隊の兵士たちを相手に懸命に抗戦を続けている状態だった。


 本来ならば圧倒的な力の差だっただろう。しかし戦況は充分すぎるほど拮抗していた。


 いくら負けそうではなくても、連合軍の到着を悠長に待つ必要は無い。

 グレーデンは神力を迸らせ大勢の狼を呼び出すと、街中に散開を始めさせた。


「往け!この港町に蔓延(はびこ)る獣人を残らず仕留めるんだ!」


 狼たちが散って往く。そしてそこかしこで獣人たちの憐れな叫び声が響き始めた。



 グレーデンが辺りを観察していた時のことだった。

 突然風の刃が飛んで来た。


 彼はそれを躱しつつ、おそらく将軍級(コマンダー)が来たなと思った。現れたのは戦装束に身を包み、刀を携えた豹の獣人である。


「やれやれ、まさか正義の神にこれほどの力があるとはな。世界を結集させ我らに歯向かうばかりか、我ら獣将部隊の力をここまで制限するとは……」

「お前が獣将部隊とやらの将軍級(コマンダー)だな?」

「左様、我が名はサブナック。して貴殿は何者だ?」

「月と狩りの神アルテミスの力を持つ男、グレーデン・アンテロってモンだ。昔は(ワル)だったが今では正義の神の信奉者よ!」


 グレーデンは金色の装飾の付いた弓を出現させると、同時に矢を出現させて狙いを定める。


「お前たちの暴虐もここまでだ。これからお前たちは(けだもの)らしく、狩人によって狩られて死ぬのさ。覚悟するといいぜ!」

「貴殿らの実力は認めよう……だが簡単にいくと思うな!」


 サブナックは刀を振るい、風の刃を幾つも飛ばした。グレーデンはそれを飛び退けて躱しながら、その勢いのままに駆け付けてくれた狼の背に乗った。狼の背に跨りながら、流鏑馬(やぶさめ)の要領でサブナック目掛けて矢を連射する。彼の背に矢筒はない。能力で次から次へと手元に矢を生み出して、それを絶え間なく射っているのだ。


 周囲に暴風を巻き起こして、サブナックは迫り来る矢のほとんどを弾き返していた。しかしグレーデンの絶え間ない射撃のすべてを弾くことは至難の業であり、何発かはサブナックの体に掠っていた。彼は顔をしかめ、血を流しながら立っている。


「ぐぬぬ……」

「おたく、なかなかやりなさんな。正義の神に力の制限をかけられながら、ここまで戦えるとはよ」


 グレーデンは射撃を止めていた。それどころか狼も立ち止まらせ、余裕のある表情でサブナックを見つめている。別に油断をしているワケではなかった。


 ――勝負は既に着いていたのだ。


「なにゆえ動きを止める?まさかもう決着がついた気でいるのか?痴れ者めが!」

「いいや、着いているさ。おたくの体をよーく見てみるんだな」

「なに?」


 サブナックは言われた通りに自身の体に目を落とす。

 なんということか、鋭利な爪の生えた彼の腕は、何故だか鹿のような草食動物特有の(ひづめ)に変わりつつあったのだ!


「な、なんだこれは……!」

「俺特製の毒矢だよ。神力を振り絞って生み出す特製の毒さ。”獲物化(アクタイオン)”っつってな、相手を無力な草食動物に変えちまう」


 説明している内に、サブナックの体はみるみる豹から平凡な鹿の姿へと変わってゆく。


「こんな……こんなことが……!」


 さしもの彼も普段の冷静さは消え失せ、完全に取り乱した状態にあった。

 一方グレーデンは、落ち着いた心境で静かに弓を引き始める。


「かなり神力を使うんで三本しか作ってなかったんだが、まあ一発で当たってくれてよかったよ」


 さきほどまでの矢の連撃は、実はそのほとんどが本命である獲物化(アクタイオン)の矢を命中させる為のブラフであった。大量の矢をそもそも命中させる必要などなかったのだ。これさえ当たれば、勝負は決まるのだから……


「覚悟はできたか?今日お前は狩られる側の恐怖を知るんだ……」


 戦装束もはだけ、刀も落とし、もはやただの鹿に成り下がった存在に鋭い矢が命中した。



 同じ頃、アンドローナ領内アレッサ近郊の荒野で、カルロは獣将部隊のヴァレフォルと対峙していた。


「キシシシ……調子に乗りやがって!ぶっ殺してやるよぉ、人間共が!」

(コイツはたいしたことないな……)


 カルロは荒野を駆けながら思っていた。

 正義の神によって敵が弱体化させられているというのもあるが、彼は裏世界でバズやドゥーマといった強者も見てきている。眼前の存在は油断さえしなければ自分でもたやすく撃破できるだろうと、そのように考えていた。


 ヴァレフォルが迫る。しかし彼は咄嗟に爆発現象を起こして、相手の片腕を吹き飛ばした。


「ぐああ……!なんだと……」

「へへ……」


 カルロは二つの点で成長していた。

 一つは慢心しなくなったこと。もう一つは力の規模をコントロールできるようになったことだ。


 そしてこれらの成長は、どちらも正義の神の眷属にこっぴどく痛めつけられたことがきっかけであった。王都アースガルズを襲撃し、レイシオ・デシデンダイに叩きのめされて、無様に敗走した夜のことだ。あの日彼のプライドは粉々に打ち砕かれ、それ以来かつてのような慢心はしなくなってしまった。


 それに加えて力を行使する際、周囲を巻き込んでしまい、再び正義の神に制裁されることがないようにとの恐れが、それまで粗雑であった彼の力のコントロールを促した。


 今までは遠巻きで規模の大きな爆発を起こすような戦いしかできなかった男が、上記の成長を経て至近距離での戦闘を可能としていたのだ。


 熱と光を操るアポローンの能力は、相手の位置が近いと自身も巻き込みかねない。しかし随分と力のコントロールができるようになった彼は、再び小さな爆発を起こすと、ヴァレフォルの片足をも吹き飛ばした。


 腕と脚を一本ずつ失って、ヴァレフォルは無様に地に倒れ伏した。


「ちくしょう!こんなことが……なぜ……」

「終わりだな、安らかに眠れ」


 静かに呟いたあと、またしても爆発を起こしてヴァレフォルの頭を吹き飛ばした。

 そこにかつてのカルロならば覚えていたであろう破壊の愉悦はなかった。ただ純粋に、己の成長への喜びと、敵兵の無残な最期への憐憫の情を感じていた。

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