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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第11章 世界大戦
240/270

第240話 対アレクサンドロス戦線結成会議①

聖都ピエロービカで、アレクサンドロス大帝国に対抗する為の戦線結成会議が開かれる。聖都には正義の神の名の下に各国の代表が集うのだった。

 ルードゥとウァラクのピエロービカ訪問、そして裏世界が白明団に生まれ変わってから更に一週間が経過した。


 この日、ピエロービカの大聖堂に世界各国の重鎮が集結していた。正義の神マグナが呼びかけたのだ。暴走する大地の神を打ち負かし、世界各国の信仰を集めるに至った彼だからこそ実現できたことであった。


 大聖堂内の大きな会議室にそうそうたる顔ぶれが並んでいる。

 具体的にはブリスタル国王ジョン、ラグナレーク国王ツィシェンド、フランチャイカ共和国臨時総統シモン、ポルッカ公ラインハルト、神聖ミハイル帝国聖女メレーナ・ミハエロブナ、五色(ウースー)同盟国盟主ラヴィア・クローヴィア。ユクイラト大陸の西方、北方、東方……アレクサンドロス大帝国の支配下である南方以外の地域の国家元首が勢揃いしている状況であった。


 更には白明団も参加していた。トリエネ、マルロー、アーツ、アリーア、グラストにバズ、ムファラド、マルクスの長老勢……座席に着いているのは代表であるトリエネと長老勢のみで他は背後に控えている。


 各国勢も着席しているのは国家元首の立場にある者のみで、お付きの者や護衛の兵士はすべて部屋の壁際に控えている。その中の例えばラグナレーク王国側にはルードゥとウァラクの姿があったし、五色(ウースー)同盟国側には雲花(ユンファ)伴桑(パンサン)の姿もあった。


 よって着席しているのは全部で十ニ名である。

 計六名の国家元首に白明団代表のトリエネ、かつて世界最強の傭兵として知られたバズ、世界最大の富豪として政財界に顔の利くムファラド、世界最高の商人として豊富な人脈を持つマルクス――そして最後の二人、今回の会議の提唱者である正義の神マグナ・カルタと、彼の相談役という触れ込みであるヤクモ・ヤエガキは円い会議卓に着席した全員の準備が終わるのを待っていた。


「みんな、今日はわざわざ集まって頂き感謝の言葉もない。心より御礼(おんれい)申し上げる」

 全員の準備が整ったと見るや、マグナは話を切り出した。


「それではこれから始めたいと思う。対アレクサンドロス戦線の結成会議を――」


 卓に着いている各国の元首たちはみな神妙な面持ちで視線を送っている。アレクサンドロス大帝国の脅威はこの場に居る誰にとっても他人事ではなかった。


 あらためてアレクサンドロス大帝国の地理情勢についても触れておく。

 この帝国はマッカドニア王国が国号を改めたものであり、ユクイラト大陸の南方全体を支配下に置いている。西から順に、ヴェネストリア連邦、マッカドニア王国、ザイーブ王国、ツァルトゥール王国、ヴェーダ王国……


「我々フランチャイカ共和国は南にヴェネストリア連邦と接しております。今にアレクサンドロスに攻められるかもしれないと軍備の増強は考えていましたが、やはり一国でできることとなるとどうにも限界があります。今回のマグナ様のお誘いは誠に渡りに船でした」とシモン。

「同じくだ。我らポルッカ公国も南方にヴェネストリアとマッカドニアが存在する地理上、常に脅威に晒されてきた。今回のお話は実に有難い」とラインハルト。

「我らラグナレーク王国は、西方諸国では一足先にアレクサンドロス大帝国に侵攻された。一時はヴェネストリアを奪還するなど善戦したが結局それも奪い返され、我が騎士団の戦闘部隊は壊滅という結果に陥ってしまった。もはや我が国だけではどうしようもないのが実情だ。此処で皆さんのお力をどうにかお借りできれば……」と周囲の者たちに目線を送りながらツィシェンド。


 ちなみに西方諸国でラグナレーク王国が真っ先に狙われたのは、この国がついこの間まで神聖ミハイル帝国と戦争しており元々疲弊していたこと、そしてその神聖ミハイル帝国からビフレストという旧マッカドニア王国の真北にある地域を押し付けられたからという事情があったが、それについてツィシェンドは何も言わなかった。当時は麻薬アガペーで廃人状態だった先王ミヴァコフの治世であり、今この場に居るメレーナに言っても仕方のないことである。


「我々ブリスタル王国は大陸のもっとも西方にある地理上、まだ直接かの国の脅威には晒されておりません。しかしマグナ様は他でもない我が国の出身であり、そのマグナ様が世界全体が力を合わせるべきだと危機感を抱いておられるのです。我が国も惜しみなく協力させて頂きましょう」とジョン。

「想いは我ら神聖ミハイル帝国も同じです。我が国と南のツァルトゥール王国は、アトラスタン山脈という険しい山脈で遮られているのですぐに侵攻される心配は薄かったのですが、それでもいつかは大帝国の魔の手が我が国にも伸びることでしょう。我らにとっても今回の事態は決して他人事ではありませんし、それにマグナ様は大地の神を打ち負かし我が国を救ってくださった御方……今回のお話、断る道理はどこにもございません。どうか協力させてください」とメレーナ。

「私たち五色(ウースー)同盟国も西南方向にヴェーダ王国が隣接しているので同じく他人事ではありません。それに私たちも皆様と同じ気持ちでおります。ずっと争っていた東方こそ一つにまとまりましたが、今度は世界全体が力を合わせて脅威を撥ね退けるべきなのでしょう。やれるだけのことはやらせて頂きます」とラヴィア。


 マグナは随分と不思議な気持ちでラヴィアを見ていた。

 当然だ、ブリスタル王国ヘキラルの街で彼女は箱入り娘としてクローヴィア男爵家で暮らしていた。およそ世間知らずで荒事にも縁遠く……それがラヴィアという少女のイメージであった。しかしアースガルズで袂を分かってから(大体のいきさつは既に聞き及んでいるのだが)、様々な紆余曲折を経て今に至っているらしい。まさか国を打ち立て一国の盟主になっているとは、マグナにしてみれば(いや、おそらくラヴィア本人からしても)かなり予想外なことであった。


 各国の元首たちの言葉から、アレクサンドロス大帝国に対抗する為の戦線結成――それについては反対意見はないようであった。


「マグナ、私たち白明団も協力するからね!少数精鋭だけど、色んな凄い人が集結している組織なんだからきっと頼りになるよ!」

「そうか、ありがとうトリエネ」


 元気よく発言するトリエネに彼は微笑みを添えて返した。厳粛さの欠片もない態度であったが、きっと彼女はこれでよいのだと思った。


 そして気さくに話している二人を見て、ラヴィアは少しムッとしていた。


「とにかくアレクサンドロス大帝国に対抗する世界規模の戦線結成――これに関してはどの国も前向きになってくれているようで安心した。ひとまず状況の共有に移らせてくれ。アレクサンドロス大帝国のこれまでの戦争と現在の領地、そして魔軍(レメゲトン)という皇帝リドルディフィードが戦の神アレースの力で生み出した軍団について、俺たちが知る限りの情報をまとめてある」


 そして座席に着く全員に資料が配布された。

 更にその内容はマルローが作った映像を映す神器(プロジェクターに似ているとヤクモは言っていた)によって会議室内に大きく映し出されていた。


 しばらく資料に記載された情報の説明と共有に時間が割かれた。

 ある時、ラインハルトが口を開いた。


「しかしこのリドルディフィードという男、何故これほどまでの力を持っているのだ?」


 その言葉はマグナとヤクモを除く全員の耳目を集めた。言われてみれば気にはなることであった。


「神の力を持つ者は他にも居る。だが世界全体に脅威を与えられるほどの存在となるとやはり限られるだろう。それこそ大地の神のような特別な存在にな。それに神は信心を多く集める程に力を発揮するというが、それでは何故あのような男にあれだけの力が有るのか――?」


 出席者はみな一様に頷いていた。リドルディフィードという男は世界に脅威を振りまくばかりでおよそ信仰などというものとは無縁であろう。では何故驚異的な力を有しているのか?


 事情を知っているのはこの場ではマグナとヤクモの二人だけである。

 彼はヤクモに目配せをしながら言った。


「……ヤクモ」

「かまわんぞ。お前が話したいなら話せ」


 とくに逡巡した様子もなく彼女はそう言っていた。それは彼女なりの信頼の現れだった。マグナという男がよく考えて決めたことであれば、それでよいだろうと思っていた。それにアタナシア内部のことはあくまで内部の者たちで決めていくべきだとも思っている。


 マグナはしばし考えた後、周囲に向かって呼びかけた。


「悪いがここからはとても重要な話をしなくてはいけない。この会議室に残るのは座席に着いている十二名と白明団のメンバーだけとしよう。それ以外の者は会議室の外で待機していてくれないか」


 とりわけ真剣な表情で周囲に目線を送った。

 付き人や兵士たちは話を掴めていないような表情をしていたが、やがてそそくさとその場から立ち去っていった。


 会議室に指名された者だけが残ったことを確認すると、マグナは話を切り出す。


「リドルディフィードという男が驚異的な力を持っている理由――それを説明する為にはあの男がどういう存在なのかを説明する必要がある。そしてそれを理解するには、この世界の正体について知らなくてはいけない」


「世界の正体……?」とメレーナ。


「これからする話は民間人に知られれば要らぬ混乱を招く恐れがある。悪いが他言無用で頼む。白明団の面々は既にトリエネから聞いていることだろうがな。それでは聞いてくれ、この世界の正体を――」


 マグナはヒノモトの地で知った世界の正体について共有した。


 この世界がアタナシアと呼ばれる仮想世界――要は作り物の世界であること。

 過ぎ去りし神々と呼ばれるこの世界の創造主たちは、世界の外側で暮らすただの人間にすぎないこと。

 彼らは自分たちの世界を良くするために、人間というものを研究するべくこの世界を造ったこと。

 実験目的で意図的に神の力や神器を振り撒き、世界に混乱を引き起こしていること。

 皇帝リドルディフィードの中には外側の人間の意識が入り込んでおり、その上で管理者から特別な力を付与されていること。

 隣に居るヤクモも、ヒノモトと呼ばれる隔絶された実験領域の管理者であったこと。


 マグナとヤクモは勿論、白明団のメンバーもトリエネから既に聞いていたことであったので、この場でこれを初めて知るのは各国の元首たちのみであった。彼らはみな驚きに満ちた表情でマグナの言葉を聞いていた。そのようなことがあるものか、と誰もが叫びたくてたまらなそうであった。


「……」

「信じられん」

「そのようなことが」

「まさか」


 誰もが口々に同じようなことを呟き、驚き果てるばかりであった。しかし正義の神の真剣な表情と声音から、それが決して冗談や妄言ではないことが感じられた。


 そして今この場に居る外側の存在――ヤクモには不審に満ちた視線が向けられる。


「ふふ、私たちが憎いかね?」

 腕を組みながら不敵に、試すように返した。


 視線を向けた者たちはしばらく押し黙っていた。


「まあ、当然の感情だろう。お前たちは皆……いや、この世界のすべての人間が我らの為に苦しむべく生まれてきたのだと、そう言っているのだからな。気に入らなく思うのが道理だろう」


「それもそうだね。でも僕は少し違う意見かな」


 口を挟んできたのはマルクスだ。


「結局同じなんだろう?外側の人間も、僕たち内側の人間も」

「ほう、同じとは?」

「悩みと苦しみの中でもがきながら生きているという点では、外側と内側できっと差はないんだろう。でなければ実験の意味がない。自分たちを救うためにこそ、君たちはこの世界と僕たちを作って、同じように苦しませているんだろう。ともすれば明確に恨む相手が居る分、僕たちの方がマシと言えるかもしれないね」

「くくく、言ってくれる。だがお前の言う通りだ。我らの世界もまた様々な艱難辛苦に見舞われているのだし、我らの世界がどのようにして始まったかは誰も真実を知ることがないのだ――」


 そこで話は一区切りした。

 席に着く各々が、この衝撃的な真実をなんとか受け入れようとしている。


 皆が落ち着き始めた頃、再び外に追い出した付き人や兵士たちを呼び戻し、次なる議題へと移る。次に話すべくはアレクサンドロス大帝国とどのようにして事を構えるかであった。

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