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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第10章 終末の戦い
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第228話 終末の戦い①

ヴェネストリア連邦中で始まった武具の暴走。それに加えて更なる敵勢の襲来が告げられる。

「……なんてこった」

「全土で武器の暴走だけでなく、北部各所で正体不明の大部隊……おまけに東のマッカドニア方面からは大軍団が進軍中、ですか」


 トールとフレイヤ、二人の隊長は頭を抱えていた。

 どうしたものかと悩みながら、体ばかりは目まぐるしく動き続けて武器たちと戦い続ける。


 勿論、ラグナレーク王国も復興作業に従事するばかりでなく、アレクサンドロス側の動静についてはさんざん調査をしていた。そして目立った動きを確認できないまま今日に至っている。


 復興作業は、同時に次なる戦に向けての軍備増強も兼ねており、そういうわけで様々な武器や防具がヴェネストリア領内に入り込んでいた。それらの一部が暴れ出している状況なのだ。

 予め気付くのは無理な話だった。ビフロンスの能力で命を持った物体は、彼の合図があるまでは眠りについており、持ち込まれる際は正真正銘単なる武具であった。


 結果としてラグナレーク勢はまんまと虚を突かれた。

 ヴェネストリア全土での武具の反乱……これだけでも大混乱であったのに、そこにダメ押しとばかりに正体不明の大部隊の出現と、東からの大進軍。いくら歴戦の二人でも、狼狽せざるを得ない事態だった。


「……トール、どうしましょう?」

「北に東、いずれもなんとかしなくちゃいけねえが、それ以前にこの武器どもの暴走を止めないとな……しかしこうも数が多くっちゃなぁ!」


 トールは叫びながら、ミョルニルを投擲して宙に浮かぶ剣を一網打尽にした。しかし武具の襲撃はいまだ終わる気配を見せない。


 そこに安全な武具で武装した第一、第六部隊の隊員が大勢駆け付けた。雄叫びを上げながら槍を振るい、戦闘を始めてゆく。


「お、お前ら……!」


「行ってください!トール隊長、フレイヤ隊長!」

「リゼロッタ王国内で暴れている武器たちは、我らでなんとか押し留めてみせます!」

「地元の兵たちも力を貸してくれています!我々にお任せを!」


 勇猛果敢に、槍で宙に浮かぶ鎧を打ち付けた。命を持った武具はあまり耐久性は高くないのか、ボロボロに破損して墜落し、それきり動かなくなってしまった。


「行きましょう、トール。フギンから送られた映像では雑兵の姿しか見えませんでしたが、きっと将クラスが何人も来ていることでしょう」

「……そうだな。分かった!お前ら、この武器どもの相手は任せたぜっ!」


 トールは叫ぶと、ミョルニルを手にしたまま港の方に向けて走り始めた。フレイヤは追従すると共に、その足取りから彼がどのように動こうとしているかを把握する。


「トール、我らは海から東に向かうのですね?」

「そうだ。このリゼロッタ王国は半島の南端に当たる場所だからな。わざわざ陸路で北上して向かうよりは、こっちの方が早くマッカドニアとの国境沿いに辿り着けるはずだ」


 ヴェネストリア連邦は、ユクイラト大陸南西部に位置する半島状の地域である。

 半島の根本にあたるのが北東のヴェネルーサと北西のアンドローナ。半島中部がストラータ。リゼロッタは半島南端部にあたる為、陸路ではもっともマッカドニア(ヴェネルーサの更に東)まで時間がかかる。


「ですがアレクサンドロスには海戦に特化した部隊もあると聞きます。大丈夫でしょうか?」

「リゼロッタの地元兵の報告だと、今のところ領海内には不審な存在は見られないそうだ。領海から出ないルートを取れば問題ないだろうよ……!」




 一方、こちらはストラータの城下町。

 神器グングニールを振り回し、街を疾走しつつ武器と戦うフリーレ。同じようにして戦うディルクたち第七部隊員。やがてハルバードを手にしたエリゴスも駆け付けた。


「お頭!ご無事ですか!」

「大丈夫だ。しかし妙な状況だな、剣や鎧がまるで意思を持ったかのように襲い掛かってくる」

「これは暗躍部隊のビフロンスの能力です!しかし疑問ですね、これほど大規模に展開できるような能力ではなかったはず……」


 そこにウァラクが黒い翼をはためかせてやって来る。


「おそらくアンドラスの能力ですワ!ビフロンスが生み出した命を持った武具を、アイツが大量に複製したんですのヨ!」

「ここまで大量に複製できるとは聞いていないぞ!ウァラク!」

「わ、わたくしも知りませんでしたワ。まさかヴェネストリア全土に行き渡らせられる程に、大量の複製ができるなんて……アイツっていっつもやる気なさそうにしてますシ……」


 話している内に、次から次へと武器が迫って来る。フリーレとエリゴスは戦いながら言葉を交わす。


「それにフギンが伝えた情報……おそらく暗躍部隊と聖空部隊の力を借りて、第14師団”幽冥部隊”の将軍級(コマンダー)がヴェネストリアに入り込んでいるかと思われます」

「幽冥部隊……たしか冥府に干渉できる部隊、だったか?」

「はいお頭、彼らは戦死者を不死族(アンデッド)として呼び出すことができます。平野部に突如現れたという部隊はおそらく先の戦いで壊滅したアロケルの隊、海沿いの方はフォルネウスの隊でしょう」

「それは、じきにアロケルやフォルネウスも復活するということか?」

「師団長のムルムルが直々に動いているのであれば、それも時間の問題かと」


 幽冥部隊はかなり特殊な部隊であり、固定の兵士級(ウォリアー)というものが存在しない。戦力は戦死者を不死族(アンデッド)にすることで現地で賄うのである。幽冥部隊の将軍級(コマンダー)全員がこの不死族(アンデッド)召喚の能力を有している。


 これは冥府と呼ばれる死者の世界に干渉し、魂を連れ戻すことで実現する。しかし必ず成功するものでもなく、成功率や生み出される不死族(アンデッド)の強さは、将軍級(コマンダー)それぞれの実力や運勢にも左右される。師団長のムルムルがもっともこれに秀でた能力を有していた。


「……それは厄介だな。そもそも不死族(アンデッド)とはなんだ?」

「簡単に言えば冥府から魂を連れ戻されて、むりやりこの世に復活させられた存在ですね。既に生きていない存在なのでその肉体には血が通っていませんし、痛みも感じません。それに再現度が高ければ、生前通りの強さを発揮します」


 それはともすれば、痛みに屈することすらなくなったブネやフォルネウスが、再び立ちはだかるかもしれない可能性を意味していた。


「もしこの状況で、再びブネやフォルネウスに復活されでもしたら、今度こそおしまいだろうな」

「ですがお頭、不死族(アンデッド)には一つだけ明確な弱点があります」

「なんだ?」

「それは日光です。この世ならざる存在は太陽の光がかき消すのです。復活したのがブネでもフォルネウスでも、陽の光を浴びれば消え去ります!今回の襲撃がこうして夜間に実行されているのも、幽冥部隊を動かすつもりだったから、というのが理由の一つとしてあるのでしょう」


 エリゴスがそう言った頃、遠くからディルクの威勢のいい声が聞こえてきた。


「ならお頭、迷う必要はないですぜ!この武器たちや不死族(アンデッド)とかいうのは俺たちに任せて、お頭はマッカドニア方面に向かってください!大軍団が迫っているってンでしょう!?」


 戦斧をぶんぶん振り回しながら叫んでいる。


「それで大丈夫か、お前たち」


「この武器ども、数は多いが一体一体はたいしたことねえ!」

不死族(アンデッド)とかいうのもお天道様が倒してくれるってんなら問題ねぇ!ヤバくなったら朝まで逃げてりゃいい!」

「俺たちゃ、乱戦にも逃げ惑うのにも慣れっこだからなぁ!」

 アベル、ケヴィン、ラルフの声が続いた。


 エリゴスも目の前の武具を叩き落した後、フリーレの方を向いて言う。


「私も賛成です。頼みの綱であるお頭にはマッカドニア方面に向かって頂いた方がよいかと思います。聖空部隊が総出なら、アレが動き出しているでしょうから。であれば大軍団が送られて来るはずですので、一般兵だけではとても太刀打ちできません。お頭ほどの一騎当千の(つわもの)が何人も結集しなくては」

「……なるほど。では私はマッカドニア方面に向かうとしよう。距離的に、ヴェネルーサで活動しているバルドルとヘイムダルも駆け付けられるだろうしな」


 フリーレは、両名が死亡していることをまだ知らない。

 彼女はそのままに、高く指笛を吹き鳴らした。やがてドカドカと荒々しい足音と共に、四対八脚の巨大馬がやって来る。スレイプニルだ。ロキなき今、この巨大馬をもっとも乗りこなせるのは彼女であった。


 グングニールを背負うと、跳び上がってスレイプニルに騎乗する。鐙に足を掛け、手綱を握り締める。隣ではエリゴスがいつか見た巨大な骨馬を呼び出して、同じように騎乗していた。


「第七、第五部隊の兵士たちよ!この場はお前たちに任せたぞ!私はこれより東のマッカドニア方面に向かう!」


 フリーレの勇ましい声に、兵士たちは激しい(とき)を以て返した。負けてなるものか、という意地を感じた。フリーレの取り巻きたちは皆一様に、「お頭!頑張って下せえ!」「お頭!御武運を!」などと似たようなことを口々に叫んだ。


 やがてスレイプニルがいななきの後、力強く地を蹴って走りだした。エリゴスの骨馬と、翼をはためかせたウァラクも追従する。彼女らは瞬く間にストラータの城下町から飛び出すと、そのまま北東のヴェネルーサ方向、その更に先にあるマッカドニアとの国境沿いを目指して走り出した。


 ◇


 ヴェネルーサの港町。

 ビフロンスとアンドラスは相変わらず高台に突っ立ったまま、眼下の港町の様子を眺めていた。


「ゲヒッゲヒッ、おやおや結構粘りますねえ。わたくしの武器たちが随分と壊されてしまっております」

「あちゃー、どうやらボクの複製の能力、たくさん複製できるのは分かったけどその分オリジナルから相当劣化しちゃうみたいっすね」


 アンドラスがあまり深刻そうでない声音で、頭をボリボリ搔きながら言った。


「どーします?もうあの武器たち、数しか長所がない存在に成り果ててますケド」

「ゲヒッゲヒッ、問題ございませんよ。我ら暗躍部隊の仕事は混乱を起こすことそのものですからね。あの武器たちだけですべて済ませられるとは元より思っておりませんので」


 その時、港町から悲鳴が轟いた。見れば腐敗したような見た目の半魚人が、槍を手に市中を闊歩している。


「ご覧なさい。武器だけでなく、不死族(アンデッド)として復活したフォルネウス兵も加勢し始めております。幽冥部隊が上手くやってくれているのでしょう。まあ我々の仕事は既に完了しておりますので、あとは高みの見物と参りましょう、ゲヒッゲヒッ」


 そこにヒタヒタと忍び寄るような足音が聞こえた。

 彼らが振り返ると、そこにはタキシードを着込んだガチョウのような男が立っている。


「ゲヒッゲヒッ、おやおや、噂をすればその幽冥部隊のご登場ですね。イポス、貴方でしたか」

「ふん、相変わらず不愉快な声であるな、ビフロンスよ」


 イポスと呼ばれた男は尊大な声音で、ガチョウの顔に生やした髭を撫でている。


「まったくアンドレアルフスは乗り心地がいまいちなのである。我は移動だけでくたびれてしまったぞ」

「ゲヒッゲヒッ、ご苦労様です。ちなみにアンドレアルフスはセーレと共に、今度は獣将部隊の輸送に移ったそうですよ」

「あやつに大所帯で乗り込むなど想像したくもないのである」


 嘆息気にイポスは零した。

 混乱に包まれた港町を見回しながら、今度はビフロンスが切り出す。


「ところでイポス、フォルネウスを復活させてしまえば話が早いのでは?街を高波にでも晒せば、簡単に兵や住民どもを殺し尽くせるでしょう、ゲヒッゲヒッ」

「実を言うとだな、あやつ呼びかけても応答せんのだよ。ちなみにアンドローナの方でアロケルの復活を試みているガミジンも同じ状況のようである」

「ゲヒッゲヒッ、なんとまあ難儀なことでございますネ」

「であるからして、ムルムルが直々に冥府に乗り込んで交渉を行う予定である。あやつ以外ではこうして現世から呼びかけるのが関の山であるからな」


 イポスはひとしきり港町を見渡したあと、張り合いのなさそうな声で続けた。


「……しかし深淵部隊の将軍級(コマンダー)をわざわざ復活させる必要もなさそうであるな。命を持った武具と大量の不死族(アンデッド)で、街は混乱の極み。おまけに数少ない隊長勢はわざわざ死地に向かっているようであるからな」

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