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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第9章 アタナシアの真実
221/270

第221話 旅路の果てに立ちはだかる者

ついに正義の神が大地の神に対峙する。マグナはドゥーマに、正義のあるべき姿を説く。

 ドゥーマは不可解、といった目でマグナを見据えた。


「答え?人間どもに身の程を自覚させる以外の方法があるとでもいうの?」

「たしかに人は愚かな存在だ。お前の言う通り、欲というものが人を狂わせる。もし人が欲というものを捨て、虫けらの如くに慎ましく生きたなら、ほとんどの問題は解決するのかもしれない」

「そうでしょうそうでしょう?私のしていることはねぇ、正義の神、アンタにだって益の有ることなのよぅ。私はアンタにはできないやり方で世界平和を実現しようとしているだけなのだから」

「……だがお前と違って、俺は人間の欲望というものをそこまで悲観していない」


 (うそぶ)くドゥーマに、毅然と己の想いを伝える。


「何ですって?」

「長い旅の中で、俺は色んなことを学んだよ。嬉しいことも悲しいことも、そこに真に無駄なものは一つとしてなかった。もしも無駄だと思えるなら、そういう側面にばかり固執して物を見ているからだ」

「へぇ、私の視野が狭いとでも言いたいの?」

「欲だって必要だからあるんだろう。食欲や睡眠欲は個体を維持する為に、性欲は種族全体を維持する為にも不可欠だ」

「それはただの本能でしょう!それだけしかない動物はとても高尚な存在よ!人間という下等で無様な生き物は、それに加えて醜悪な欲望を数えきれないほど持つ……!」

「そうだな……でもそれが人間だ。それこそが人間性であり、多様性なんだ」


 マグナの瞳は揺るがない。

 彼はひっくり返ったヒノモトを見回した後、言葉を続ける。


「ドゥーマ、知っているか?このヒノモトの民は、地上の世界を知らない。この浮島が世界のすべてだと思い込んで生きている。この狭い島の中で誰もが素朴な暮らしを送っている。奪い合う物も争う相手もいない、とても平和な社会だ」

「素晴らしい社会じゃない」

「だが俺はヒノモトの民を見て、彼らが生きながらに死んでいるように感じたよ」

「平和な社会だというのに死んでいるの?つまり人というものは、争ってこそだと言いたいワケ?正義の神らしからぬ発言ねぇ」

「違う、そう感じたのは、”人間性”が死んでいるからだ。彼らはただそうあるようにしか仕向けられていない。人の真価とは何だ?俺は”心”だと思う。それが抑制されている社会は、例え平和であっても人間社会としては出来損ないだ!」


 彼は力強く拳を振り上げる。語りはいつの間にか熱弁へと変わっていた。


「そして心の尊さは、人間というものの良さは、何かきっかけがなければ気付けないだろう。俺自身がそうであったように……悩みと苦しみの中で人はもがき続け、そして当たり前だったはずの命や日常の尊さを思い知るんだ。大きな脅威の前では、人は支え合って励まし合い、知恵も出し合える。喜びも悲しみも分かちあえる。そんな風に良くも悪くも、心が溌剌(はつらつ)としている社会の方がずっと人間らしい」

「でも欲がある限り、人間どもは際限なく争い続けるわよぅ?アンタはそれすらも含めて、それが有るべき姿だと言っているのね?」

「……ある程度は仕方がないだろう。人間性とは多様性だ――心を豊かに持てば個に繋がり、個とは差異であり、それは意見や立場の相違をもたらす。人が人である限り、争いを完全になくすなんてできやしないだろう。だが俺は人が人でなくなることを望んじゃいないし、お前のように争いを根絶しようとすれば平和と引き換えに人間性を喪失するだけだ」


 ここで、彼は空を見上げた。

 そして次のように宣言した。


「だから正義とは争いをなくす為にあるんじゃない、人間性を守る為にあるべきなんだ……!それは心の豊かさと言い換えてもいい。どんな綺麗事で飾ってみせても、それが脅かされる社会を俺は認めない」

「人間性……それが愚かしさだと、私は言っているのよぅ。結局アンタは正義の神ともあろうものが、戦乱に満ちた世を希求しているのねぇ?」

「心こそが人間の真価だと言っても、当然野放しにすればお前の言う通りに社会は乱れる。それを防ぐ為にこそ正義はあるべきだ。ここでやり方が問題になってくる。単純に争わせないようにするだけなら力で抑えつければいい。だがそれじゃダメなんだ」

「心は生かす……争いはなくす……そんな都合の良い方法があるとでも?」

「簡単なことさ。”目の前の誰かを思いやる”……たったそれだけでいい。心が大切だとは言ったが自分の心の為に、誰かの心を踏みにじっちゃならないんだ。落ち込み挫けそうなら励ましてやればいい、傷つき脅かされそうになっているなら守ってやればいい。別に上手くやれるかどうかは関係ない。誰かの心に、命に、寄り添ってやる姿勢が大切なんだ」


 ――心の中には今までの旅で経験してきたことが去来していた。


 人の命を踏みにじっていたハレイケルやフェグリナに怒りを覚えたこと。

 悪党でこそあれ、生きることに必死なフリーレを嫌いになれなかったこと。

 フランチャイカでの失敗は、後先もよく考えず人々の暮らしを壊したからであったこと。

 傷心をハンドマッサージで癒してもらったこと。

 闇夜に光る星々に想いを馳せるのは、きっと心有る人間なればこそであること。

 物語のドラマとは、人生とは、すなわち命の煌めきであること。


「心が有るから人は悲しむ。しかし心が有るから人は尊い何かを生み出してゆける。そんな人の有るべき姿を、守ってやるのが真の正義なんだ。力でねじ伏せるだけのお前のやり方を、俺は認めない!ドゥーマ!」


「もういいわぁ……話を聞いてみれば、現実離れした理想論ばかり。やはり正義の神とは無意義な神ねぇ」


「そうだな、正義の神なんてのは居なくてもいい存在だ。極論だが、すべての人間が目の前の誰かの心に寄り添ってやれたなら、法や掟なんかなくっても世界はある程度平和になるだろう。俺なんかいなくても世界がそうあれたらいい、なんて思っている……」


 ドゥーマの体を包むように、大量の土砂が巻き上がる。

 マグナは後方に距離を空けながら、言葉を続ける。


「……だが現実はそう簡単に上手くいくもんじゃない。だから俺はまだ倒れるワケにはいかないし、お前に世界を壊させるワケにもいかない」


 マグナの姿が、漆黒の鎧に変わる。

 眼前には、頭と一対の腕を付けた巨大な”丘”が(そび)えていた。


 ドゥーマが大地を装甲として纏った姿――大地重鎧(テューポーン)である。ヒノモトに存在する土や岩石は地上に比べればずっと少ないので、アーツが対峙した時と比較して遥かに小規模であった。山というより、丘という表現の方が実情に適しているが、それでも人間からしてみれば規格外の大きさであることには変わりない。


【お前の言うことは、人間すべてがお前のようにまともでなければ成り立たない……!人間というものを買い被っているからこそ出てくる、お粗末な意見だ……!】


「お前こそ、俺を買い被っているな。俺は全然、正義の神なんて器じゃなかった。人助けだってしたくてしていたワケじゃない。所詮暴れることに理由が欲しかっただけさ……俺はそこいらのゴロツキや犯罪者くずれとは違うんだぞと、そう自分に言い聞かせていただけだったのさ」


 マグナはじっと手を見て、拳を握る。

 闇の中でようやく掴んだか細い光――その手ごたえを確かめるかのように。


 そして、眼前にはだかる高い壁を見上げた。


「そんな俺でもこの旅の中で変わることができた。きっと他の誰にでもできるはずなんだ……そして旅路の果てに立ちはだかるお前に、俺のすべてをぶつけてやる」


 マグナとドゥーマが対峙する地点からだいぶ離れたところに、トリエネは退避していた。肩にはヤクモを背負っている。ヤクモを安全な場所に降ろすと、彼女はマグナたちの方に視線を戻した。


 大地の神と、正義の神の激突が今に始まらんとしている。

 彼女は懐から黒っぽい宝石のようなものを取り出して、ぐっと握り締める。


 宝石が赤く明滅を始めると、トリエネは声高に叫んだ。


「”時”が来たよ!マルロー!」


 ◇


 ――タカマガハラ、ヤクモとマグナが監視室を飛び出した直後。


「どうしてマルローの声が聞こえるの?」

「お前の持っているその宝石みてーなのは、俺が作った神器なんだよ。二つ一組で、遠く離れた相手とも音声や映像のやり取りができる」

「いつの間にこんなもの……」


 言っていて思い至った。ヒノモトに向かう直前、裏世界の隠しアジトでマルローに尻を撫でられていた時のことだ。


「あーーっ!あの時、どさくさに紛れて服のポケットに入れたのね!」

「へへへ、ご名答!ずっと掛けてたんだがなかなか繋がらなくてな。ようやく今繋がったんだよ」

「それは、多分コトシロ……ヒノモトの防衛システムが無効になったからだと思う」

「ヒノモト?たしかアタナシアの別名だっけか」

「ええと、あの浮島の本当の名前がそれで……というかアタナシアっていうのはこの世界自体の名前で……ご、ごめん!今は長々と話している時間はないの!ドゥーマの奴が迫っているみたいだから」


 トリエネの声音から、事態の性急さをマルローも理解した。しかし既に彼も状況を認識している。


「だろーな。ドゥーマが亜空間から戻った後、アーツを相手にしこたま暴れて、ついさっきバジュラとかいう奴に乗って飛び立ったらしいからよ」

「え、アーツは大丈夫なの!?」

「途中で退却したからちゃんと生きてるさ。どーも疲労困憊みたいだけどな」

「そう、よかった……」


 安堵の息を吐くトリエネ。

 一呼吸待って、マルローはいつになく真剣味のある声音で切り出す。


「一つ聞きてえ、何か勝算はできたか?」

「ううん、正直全然。ヒノモトの首長さんが協力はしてくれるみたいだけど」

「そうかー。トリエネ知っているか?俺の座右の銘は、”備えあれば憂いなし”なんだぜ」

「なにそれ」

「フランチャイカで革命活動してた時だってそうだった。悪い状況を想定して予め手を打っておくんだよ。それが功を奏したことなんて幾らでもあった。俺なー、想定してたんだよ、アタナシアに着いても特にドゥーマへの対抗手段が得られなかった場合をよ。だからお前の服にそいつを潜り込ませておいたんだ」


 トリエネは手にした宝石のような神器を、じっと見つめながら疑問を呈する。


「この遠隔でお話しできる神器が、ドゥーマへの対抗手段になるの?」

「世界を自称するだけあって、アイツの力は伊達じゃねえ。俺は思ったんだよ、アイツを倒すにはそれこそ世界を味方に付ける必要があるんじゃないかって」

「世界って……世界中の人間ってこと?」

「神は”信心”が多いほど強くなるモンらしいぜ。んなモン面倒くさくて気にしてない奴の方が多いみたいだけどな……だがマグナは正義の神だ、その影響をきっとモロに受ける」


 マルローの言葉を聞き、トリエネは彼の真意に気づき始める。


「世界全体がマグナのことを応援すれば、ドゥーマを倒せるかもしれないってコト?でもどうやって……」

「その神器は、俺が込めた神力の流れで交信している。そしてちょうど隣にいるんだよ……世界中に神力を張り巡らせている眼鏡の女神様がよォ」


 現在は音声のみで通話を行っている。

 その為トリエネには見えていないが、マルローはちらっと隣に目配せをした。彼が横たわるベッドの傍らには、灰色のスーツに眼鏡を掛けた褐色の美人――アリーア・クロイゼルファンが立っている。


 アリーアは、マルローに近づいて自身も会話に参加してくる。


「どうも、ご紹介に与かった眼鏡の女神よ」

「そ、その声はアリーア?」

「トリエネ、聞いて頂戴。今マルローに、この神器と私の神力の波長を合わせてもらっているの。これが完了すれば、今トリエネが居る場所の映像をマルローの方で受信し、それを更に私が張り巡らせている神力のネットワークで世界中に届けられるのよ」

「……!」


 ここでいよいよ、トリエネにも勝利のビジョンのようなものが見えてきた。圧倒的な力を持つ大地の神に、正義の神が打ち勝つビジョンを。


 アリーアは知の神アテーナの能力で、世界中の人間を自身の”眼”として、日夜情報収集を行っている。それはすなわち、世界中に彼女の神力が及んでいるということなのだ。あのドゥーマでさえも参考にしようと思った程に、彼女の力もまた世界規模の影響を持つ能力なのである。


「波長の調整はもうまもなく完了するぜ。アリーアちゃんをねっとりしっぽり入念に観察してっからなぁ」

「ちょっと!アリーアに変なことしてないでしょうね!?」

「大丈夫よ、トリエネ。彼はなんだかんだ真面目でいい人よ。超が付くほど軽薄だけどね」

「へへっ、そんな褒めんなよ。照れるぜ」


 トリエネとアリーアは二人して、褒めてなどいないと心の中で呟いた。遠く離れた場所に居ながら、二人の表情は完全にシンクロしていた。


 しかしトリエネはすぐに表情を戻す。そしていつの間にか緊張が顔から溶け落ちていることに気が付いた。ちゃっかりと用意しておいてくれた勝算、いつもと変わらぬ砕けた調子……


 彼には見えないが、いや見えていないからこそだろうか、トリエネは感謝を(たた)えた満面の笑みで告げる。


「ありがとっマルロー!私見えてきたよ。自分が何をするべきか……」

「そうかい……”時”が来たらまた連絡くれや。そいつは強く握ると、もう一方に対して通信を開始するからな」

「分かった!マルロー、アリーア……私、世界を救って来るよ!待っててね!」


 宝石を素早く服の内側にしまい込むと、彼女は颯爽とその場を後にした。


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 マグナとドゥーマの攻防がいよいよ始まった。

 それを遠くで見やりながら、トリエネは開始の合図を告げた。


 連絡を受けたマルローは、隣のアリーアに目配せをする。彼女はこくりと頷くと、彼の至近距離にまで近づく。そして隣り合いながら、二人で神器に触れる。


 トリエネが手にしていた方の神器が、輝きながら天に昇った。

 ヒノモトからマルローへ、マルローからアリーアを介し、映像が世界中へと届けられる。


 ブリスタルも、ラグナレークも、フランチャイカも、ポルッカも。

 ヴェネストリアも、神聖ミハイルも、五色(ウースー)も、アレクサンドロスも。


 世界中の空に、大地の神と正義の神が激突する光景が浮かび上がった。


 ――なんだあれは?黒い鎧の男が、動く山と戦っている?

 ――な、何が起こっているの?

 ――すさまじい土砂崩れ、まるで天変地異だ

 ――知ってるぞ!アレは正義の神だ!

 ――あの動く山は間違いない、私たちをこんな目に遭わせた大地の神……


 声は、ひとところで沸き上がったのではない。

 世界中の各所で同時多発的に起きていた。


 トリエネは颯爽と高台まで移動して、自身の姿が映る位置取りをする。

 そして決意の眼差しで、世界の人々へと語り掛け始めた。


『皆様!今、世界の最果てで、正義の神と大地の神が戦いを始めています!怒りに満ちた大地の神を、正義の神が諫めようとしているのです!』


 烈しい戦いを背景に突如映り込んだ若い女性を、人々は固唾を飲んで見つめる。


『大地の神の怒りの原因は、私たち人間にあります。私たちが命や、生きるという根源的なことを軽んじ、目先の欲にかまけてばかりいたから……でも正義の神は、人間はまだ捨てたものではないと考えています!大地の神に壊されようとしている世界を必死に止めようとしているのです!』


 普段の子供っぽさが嘘のようであった。

 彼女は今まさに、神の代弁者として全世界にその意思を伝えていた。


『お願いします!誰しもが笑って暮らせる世界の為、輝ける明日を迎える為にも……皆様の力をお貸しください!正義の神に祈りを……皆様の希望をお届けください!』


 演説を終えると、トリエネは胸に両手を添えて目を閉じ祈り始める。

 人々はしばらく呆然と立ち尽くすばかりだった。


 或る時、一人が彼女と同じようにして正義の神に祈り始めた。そこから連鎖するようにして祈りは周囲に波及してゆく。そんな光景が全世界で繰り広げられた。


 上辺の違いはあっても、誰しもが心の奥底で真に願っていることはそう変わらない――世界はやがて、一つとなる。


 神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!

 神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!

 神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!神よ!


(マグナ……どうか頑張ってくれ。奴はアースガルズを壊滅させた、許してなるものか。必ずや正義の名の下に裁きを下してくれ……!)

(マグナさん……マルローさんと共に革命派閥を率いた貴方が、今度は世界を変える為に……ハハハ、やはり貴方はすごい御方だ)

(あの人……もしかしてどこかで見たことがある?あの日見た演劇で、暗い闇夜に光をもたらすような生き様を見せてくれた人……今度は世界に光を灯そうというのね)

(マグナさん……ありがとう、私に声を取り戻してくれて。今度は私のお父さんの故郷(ふるさと)を、そして世界を守ろうとしてくれているんだよね……応援してるから、どうか負けないで)

(正義の神よ……愛する帝国臣民は大地の神の暴虐に傷つきました。ですがわたくしは諦めません。必ずや帝国の輝ける未来を取り戻してみせます。どうか勝利を……そして父上の無念を晴らしてください!)


(マグナさん……アースガルズで貴方と別れてから随分と経ちました。貴方もまた様々な出逢いと別れ、戦いを経て更に大きな存在になってしまわれたのでしょう。まだ貴方の隣に戻る願いは果たされていませんが、それでも心は常に共に有ったつもりです……世界の為に戦う貴方へ!私の全霊の想いを!)



 マグナは烈しい土砂崩れや砂嵐を掻い潜り、腕の形に寄り集まった岩石を躱してゆく。ちゃきちゃきと鎧の音が鳴る。それを掻き消すようにまたしても周囲の地面が崩れる。


 眼前に聳える脅威は、まさしく天変地異であった。


 しかしどうしたことだろう?彼にはもはや恐怖も気後れもない。世界を賭けた戦いの最中(さなか)とは思えないほどに、すっきりとした心持ちでいた。


 彼は正義の神として、人の有るべき姿に、正義とはどうあるべきかについて彼なりに結論付けた。無論、絶対的に正しいものではないだろう。そんなものはこの世のどこにも無い。

 重要なのは思考すること――悩み苦しみ考え抜き、その上でそこに到達したという背景そのものなのだ。それ自体に尊さがあり、結論に豊穣なる光を宿す。


 彼の神としての格を押し上げる!


 ドゥーマは気が付いた。逃げ惑うばかりだった矮小な存在であるはずの正義の神から、爆発的な強い神力を感じ始めた。


【何……?何が起こっているというの……?】


「ドゥーマ……お前は大地という物理的な神の頂点だ。一方俺は正義という概念的な神。そして正義とは(あまね)くすべての人間の為にあるべきものだ……俺はお前とは対極のベクトルで、世界全体に影響しうる存在だったんだ。見せてやる、正義の神の本当の力をな」


 ドゥーマは我が目を疑った。

 マグナの体から表出するように、途方もなく巨大な人型の光が浮かび上がった。

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