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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第9章 アタナシアの真実
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第219話 八雲立つ

ヒノモトでドゥーマとの対峙を果たす一行。ヤクモは管理者権限を行使して、自身に強力な神の力を付与し挑む。

 ヒノモトの地上部――アシハラ辺境の森に降り立つ影が二つあった。


 一つは巨大な翼と尾を生やした巨人のような出で立ち。

 もう一つはスーツを着込んだ濃紺の髪の女性。


「ありがとバジュラ。ようやく辿り着いたわねぇ、感無量だわぁ」

「へっ、人使いの荒い奴だ。しかしここがアタナシアだってのか?なーんもねえところだな」


 バジュラとドゥーマは、不敵な笑みを浮かべながら辺りを見回している。


「さてと、正義の神とトリエネは何処にいるのかしらねぇ。この私を差し置いて先に来ているはずだけど」


 そこで視界の端に動く影を認めた。

 動物か何かとも思ったが、それが人間の子供であることが分かる。粗末な服を着た少女だった。近くには木の実が入った籠が置かれている。森の中で食糧の採集をしていたのだろう。


「あっ……あっ……」


 少女は恐怖に竦んでいる。未知の存在との遭遇……それも凶悪な人相の女性と、見上げる程に大きな巨人の組み合わせだったのだから無理もないことだった。


「……どうする、ドゥーマ?」

「殺っちゃっていいんじゃないの。なーんも知らなさそうな小娘だもの」


 ドゥーマは草むしりのような手軽さで、住民の始末を命じた。


「そうかよ」


 バジュラは縮こまる少女を、たやすく残酷な爪牙にかけようとする。

 ――しかしその時だった。遠くから鎖が飛んで来た。鎖の先端の尖頭器がバジュラの腕に突き刺さった。


「ぐうっ……!」


「そこまでだ」


 右腕のみを鎧化させ鎖を射出したマグナ、次いでヤクモとトリエネが彼らの前に立ちはだかった。


 バジュラは鎖を掴もうとするが、その前にマグナが素早く引き戻した。その間ヤクモが少女をかばうような位置取りをする。


「ヤ……ヤクモ様……」

「無事か?今の内に早く村へと戻るがいい」


 命を救われた少女はヨタヨタと転びそうになりながらも、その場を後にした。ヤクモはそれを背中で見届けながら、眼前の招かれざる侵入者に険しい視線を向けた。


「お前がドゥーマだな?地上で暴虐の限りを尽くす大地の神……!よく分からん巨人も一緒に居るようだが」


「お初にお目にかかるわぁ。この世界の創造主よ……!」


 ドゥーマの発言に、ヤクモたちはピクッとなった。

 やはり知っている……!ガイアを名乗る外側の人間から、どの程度の情報を聞いているかは定かでない。しかし、やはりドゥーマはこの地がどういう場所なのかをある程度把握しているようだった。


「暴虐だなんて失礼ねぇ。アンタがたが生み出してほっぽり出したどうしようもない世界を、私は頑張って叩き直そうとしているだけなのに」

「叩き直すだと?馬鹿も休み休み言え。マグナとトリエネからお前のことは聞いている。貴様のやっていることは尊大な理由を付けただけの虐殺に過ぎぬ。まあ、かの国らしいとは思うがな」


 ヤクモはこぼすように言うと、天空に向かって腕を掲げた。


「ヒノモトを土足で踏み荒らす不届き者めが……!お前たちには天罰を与えるとしよう。せっかくここまで来てくれたところ悪いが、お前たちにはこの地に踏み入ったことを後悔してもらおうか」


 突如として、大空に脈動のようなものが走る。


「天空の神”ウーラノス”!そしてすべての神々を統べる存在”ゼウス”よ!我に力を与えよ!」


 その時、突如青空から稲妻が迸ってヤクモに向かって落ちた。

 ドゥーマとバジュラは余裕の笑みで見つめている。反面マグナとトリエネの方が目を丸くして驚いていた。


 ヤクモは管理者権限を行使していた。

 彼女は”タカマガハラ”を通し、自身への特別な力の付与を命じたのだ。


 ヤクモの背に一対のファンネルが浮かんだかと思えば、そこから白く輝く翼が生える。そして手には光輝く弓、もう片方の手には同じように輝く矢が握られた。


「覚悟せよ、招かれざる闖入者よ。お前たちに引導を渡してくれよう」

「天空……!へぇ……!」


 ドゥーマは驚きとも、高揚とも取れる表情を浮かべた。海の次は天空か、と思った。


 ヤクモは間髪入れずに、弓を構えて矢を当てがう。ところがどうしたことだろう、彼女はすぐに構えた弓を下ろしてしまった。手にしていた矢はいつの間にか消えている。


「あら、どうしたの?攻撃するつもりじゃなかったのかしら」

「案ずるな、もう終わっている」


 ヤクモの言葉の意味を理解しきれないままに、突然隣のバジュラが音を立てて倒れ伏した。見れば全身に光り輝く矢が、数えきれない程に突き刺さっている。彼の皮膚は並みの刃物ではまったくダメージにならない程に頑強なものだ。それをたやすく突き破っていた。


 バジュラは既に絶命していた。

 圧倒的な貫通力――しかし驚く点はそこだけではない。


 見ればドゥーマの周囲には、折れた光り輝く矢が大量に散らばっていたのだ。バジュラも、ドゥーマも、あの僅かなひと時で数えきれないほどの矢撃に晒されたのだ。


(これは……あの一瞬でこれだけの矢を射ったというの?)


 さしものドゥーマも驚いた顔をしていた。

 正義の神の眷属が生み出した亜空間に、アーツの海の力、そしてヤクモの天空の力。ドゥーマはここ数日、今までに比して随分と驚かされることが多くなったと我ながら感じた。


「ふむ、どうやらお前は何か猛烈に硬い膜のようなものを纏っているようだな。なるほど大地の力で疑似鉱物を生み出し、色素を操作することであたかも何も纏っていないように見せかけているわけか。考えたな」


 一方ヤクモは冷静に、ドゥーマだけがノーダメージである理由を分析していた。


「ウーラノスは亜光速での攻撃を可能にする。実際の光の速度には遠く及ばないが、音速を遥かに超越する速度……ちょっとした攻撃でもとてつもない威力を発揮するのだ。しかし貴様の防御膜を打ち破るには、弓矢程度の威力では足らんようだな」

「そうよ、私の地殻膜はその名の通り地殻の強度と厚みを再現している。大地を穿つほどの威力でなければ、私にダメージは与えられないわよぅ」

「なるほどな、なればもっと威力の高い攻撃をするまでだ」


 ヤクモはそう言って翼をはためかせて浮き上がる。空に浮かぶ彼女の手には大きな光り輝く槍が生み出される。


「亜光速での突撃……これに耐えられるかどうか試してやるとしよう……!」


 この時、ヤクモは言葉の威勢の良さとは裏腹に、実際にはかなり慎重になっていた。

 亜光速での槍撃はとてつもない威力となる――もし狙いが逸れ、地面にぶち当たりでもしたらヒノモト自体が危ういかもしれない。ヒノモト内部では環境維持のための重要な機器群が稼働している。何かあればヒノモトの保全どころではない、管理権限サーバに問題が生じた場合は世界全体に影響を及ぼすだろう。


 ならば上から下に向かうように狙うのではなく、下から上に向かうように狙ってみてはどうだろうと考えるかもしれない。しかしこの場合に狙いが逸れた場合、亜光速での突撃だ、大きくこの場からの離脱を果たしてしまうこととなり、その間ドゥーマに致命的な隙を与えてしまうのだ。


 ヤクモにとってウーラノスは初めて行使する神の力であり、突撃の狙いが逸れた場合にどの程度ヒノモトから遠ざかってしまうかはまったく予測ができないことだった。離れてしまったらまた亜光速で戻ればいいと思うかもしれないが、それで誤ってヒノモトにぶち当たりでもしたら目も当てられない。かといって普通に翼をはためかせて舞い戻るのではかなりの時間を要してしまうだろう。


 亜光速での突撃は非常に強力な一撃となろう。それこそ、ドゥーマの地殻膜ですらあっさりと打ち破れるであろう程に。しかし上述したようなリスクが付きまとうので、ヤクモはとにかく慎重にならざるを得なかったのだ。


 ――そして、亜光速という束の間の攻撃の為に、要してしまった冗長な準備時間。時間にしてみれば十秒あったかどうかだろう。しかしドゥーマは既に次なる一手を打っていた。


「こ、これは……!」

「わ、ナニ!?ナニ!?」


 見ればマグナとトリエネが何やら慌てふためいている。空に浮かんでいるヤクモは気付くのが幾ばくか遅れたが、どうやらヒノモト全体が激しく震動しているようだった。


「この浮島……上陸する時に見ていた限りだと側面や底面は岩石で覆われているのよねぇ。私の能力は土や砂、岩石の操作だもの。ひっくり返した方が戦いやすそうよねぇ……!」


「なんだと!」


 思えばヒノモトは、かつては地上の一部であった。

 二千年以上も昔に地上と隔絶させるまでは大地の一部であったのだ!


 ガイアの力によって、浮島がみるみる傾いていく。やがてアシハラという人の住処は、完全にその天地の有り様を逆転させ、人、家屋、家畜、森林、河川……あらゆるものを天空に晒した。

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