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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第7章 暗闇に星を結びし者達
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第187話 暗闇に星を結びし者達

ついに邪神エリスとの最終決戦が始まった。負の感情に飲まれそうになりながらも、彼らは暗闇に希望という光を結ぶ。

 掛け声の後、最終決戦の火蓋が切られた。


 エリスはその長い腕を振り上げて、彼らを薙ぎ払おうとする。ラヴィアは四聖剣の玄武形態でそれを防ぐと共にすかさず青龍形態で腕を切断する。

 間髪入れずにもう片方の腕が振られた。白虎形態で素早く反対サイドに移動し玄武で防御、そして青龍で切断する。


 今度は脚の攻撃が来るのか、両腕を失ったエリスは脚を動かし始める。ところがラヴィアは白虎形態に切り替えた四聖剣で上空に昇ると、そこから推進力を変じて急転直下でエリスに向かい、青龍で胴体をばっさりと切断するに至った。


 今までならここで終わっていたかもしれない。だが多少の手応えこそあれども、エリスから感じる邪悪な力の奔流は依然として健在である。


 突如、切断されたエリスの肉体がドロドロと崩れ始めた。そしてつむじ風に引き寄せられる木の葉のようにして部屋の中央に集まり始める。五人は警戒して構える。


 直後、炸裂音と共に不気味な人間の頭部が大量に辺りに散らばった。その人間の頭は髪が無く白っぽい体色で、怒り、嘆き、叫び、苦悶、驚愕、呆然といった様々な表情を浮かべていた。まるで蜘蛛のように、直接頭から腕や脚がめちゃくちゃに生え始めた。


 一同は驚きで立ち尽くす。散らばった大量の頭部は腕や脚をガサガサと動かして、大挙して彼らに襲い掛かった。おのおの武器を振り回して身を守りつつ、一匹一匹と着実に打ち払っていく。


(……!)


 ユンファは迫り来る頭部に対応し切れていなかった。死角から彼女に喰らい付かんと襲い来る影が飛び出す。それをパンサンが強引に割って入って彼女を守った。


「大丈夫か?ユンファ!」

「あ、ありがとうございます!パンサンさん!」


 それでもユンファはいつになく力強く戦っていた。今までの自分ならばこんな状況、逃げ出したくてたまらなかっただろう。けれども自分は覚悟を決めてここまで来た。仲間達から幾度も勇気をもらった。ユンファはその痩身に見合わず、力強く槍を振るい続ける。


「やあああああ!」


 少し離れたところでは、フォンインとメイファも互いを庇い合うようにして戦っている。フォンインは華麗に矛で襲い来る頭部を撃墜する。


「すごい光景だなあ……地獄なんてものがあるのならこんなかんじなのかな?」

「無駄口叩いている暇なんて無いんじゃありませんの?」


 決して無駄ではない。阿鼻叫喚の中でも、普段と変わらぬ調子を続ける。それもまた強さの秘訣だろう。


「いいや、これでいいんだよ。鬼気迫る顔でガタガタ震えてろっての?飲まれたら終わりなんだよ、きっと」

「それもそうですわね」


 皇女もまた心を乱さぬよう努めながら、跳びかかる頭を偃月刀で叩き落した。


 当座は凌ぎつつあった。しかしまだまだ散らばった頭が辺り一面に蠢いている。


「皆さん!部屋の隅の方に!」


 ラヴィアが部屋の一角にたむろする頭を始末すると、大きく叫んだ。四人は一目散にそこに集まる。五人は壁を背に、残りの頭に向かい合う恰好となる。


 そこからラヴィアは四聖剣を朱雀形態に変じた。そして扇を力強く仰ぐと、残りの頭は一網打尽に吹き飛ばされて壁に叩き付けられた。さらにダメ押しとばかりに爆炎を叩き付ける。壁はひしゃげながら崩れ散り、エリスの頭部たちも巻き込まれていった。




 しばし静寂に包まれるが、終わった気はまるでしていない。上空にはいよいよ巨大な女性の上半身のようなものが形成され始めた。黒紫色で、頭部と脚部はまだない。始めに胴体だけが出現して、徐々に両腕が作られ始める。


 ニュクスの覚醒が続いている以上、エリスがまだ滅んでいないことは明白だった。注意深く辺りを見回す。やがて先ほどと同じように、ドロドロになったエリスの肉体が部屋の中央に集まり始めた。


 集まった肉体は長く引き延ばされ、さながら百足(むかで)のような姿で地に付いた。蛇のように鎌首をもたげる頭部には表情は無く、真っ黒い単眼だけが空虚な視線を送っている。髪は触手のように蠢いている。

 長い胴体には随所に人間の表情が浮かんでいる。怒る顔、嘆く顔、叫ぶ顔、苦痛に歪む顔に驚きに目を見開く顔、呆然とした顔に醜悪に嘲る顔、作り物のように無機的で空虚な顔……ありとあらゆる負の感情を引き連れた表情が浮き上がっている。

 胴体の流れに沿うように、人間の腕や脚がめちゃくちゃに生えている。びっしりと並んだ百足の脚を彷彿とさせた。腕はまるで救いを求めるように蠢いており、脚もどこかへ逃げ出そうとしているかのように(せわ)しく揺れている。


 それは紛れもなく、人間の負の感情そのものだった――


 五人は負けてはならぬと、飲まれてはならぬと心に言い聞かせる。しかし突如として、膨大な真っ黒い霧がエリスから発生した。五人はたまらずそれに巻き込まれた。


 これは瘴気というか、エリスが発する膨大な負のエネルギーかもしれなかった。


「なんだ……!?これは……!?」

「これはもしかして、エリスの負の感情……?ううっ!」


 突如、ユンファが呻いてうずくまった。パンサンは弾かれたようにして駆け付ける。


「どうしたユンファ!」

「…………もう、もう止めましょう。諦めましょうよぉ……!こんな強大な存在に勝てるワケないじゃないですかぁ……」


 ユンファの目からは先ほどまでの覚悟の色がさっぱり消え失せていた。虎に睨まれ、ぶるぶると震える小動物のように、完全に戦意を喪失した顔だった。


「今までなんとかなってきたのも運が良かっただけ……どれだけ私たちが頑張ったところで、すべて無意味なんです。もうこれ以上苦しい思いなんてしたくないです!このまま死んでしまえたら、どれだけ楽か……」


 そこにパンサンが力強く、高らかな音を立ててユンファの頬を(はた)いた。ユンファの目に光が戻った。


「目は覚めたか?ユンファ」

「……ありがとうございます、パンサンさん。何故私はあのようなことを言ったのでしょうか?自分で自分を許せません」


 立ち上がり、槍を構える。毅然とエリスに向かっていく。


「せっかくラヴィア様に救って頂いた命を投げ捨てるなどあり得ません!昔の私はすべてを諦めていました。お腹が空いてひもじくて、家族や友人もバタバタと死んで、生きていても辛いだけでした。こんなに苦しい思いをするぐらいなら早く息を引き取りたい、そう願い続ける日々でした。ですが、私は今希望を胸に此処に居ます。教えられたのです、闇のように暗い未来にも一縷の光はあるのだと……!私はそれを掴み取ります!必ず光り輝く未来に至れると”信”じます……!」


 そう言って力強くエリスに槍を差し込んだ。

 上空に広がる無明の闇に、白い光が瞬いた――



「ぐっ……!」


 今度はパンサンが片膝を付いた。ユンファが駆け寄る。


「パンサンさん!大丈夫ですか?」

「…………ハハハ、ここでこんなに頑張って何の意味があるというんだ?エリスは人間の負の感情そのもの……つまり倒したところで、いずれは再び(よみがえ)る存在なんだろう」


 彼は力なく槍を置き、光の無い瞳で床を見つめ続けている。いつもの熱い様子はどこにもなく、消沈してしまっている。


「人間は愚かな存在だ。人が人である限り、エリスはまた生まれ来る。ここで命を張って何の意味がある……!どうせ再び滅亡に瀕する時が訪れるだけだというのに……!」


 そこにユンファが力強く、高らかな音を立ててパンサンの頬を叩いた。パンサンの目に光が戻った。


「目は覚めましたか?パンサンさん」

「……ナイスだ、ユンファ。俺としたことがどうかしていたな」


 立ち上がり、槍を構える。毅然とエリスに向かっていく。


「心こそが人間の真価だ。それは強くもあり、弱くもある。俺たちは心の弱さを克服しなくてはいけない。心の弱い人間はえてして己の内面ばかりに囚われる。辛い、悲しい、苦しい、羨ましい……自分だけで世界を完結させてしまうと足りないところばかりが目に付く。当然だ、世界は決して一人だけでは完結しない。もっと大きなものへと目を向け、足りないものは互いに補い合っていけばいいんだ……!それこそが”智”であり、文化や文明をも育むのだ……!」


 そう言って力強くエリスに槍を差し込んだ。

 上空に広がる無明の闇に、紅い光が瞬いた――



(大丈夫そうですわね、お二人とも)


 メイファは心配げに二人の様子を伺っていた。持ち直したようで安堵の息を吐く。

 そこで視界の先に、矛を手放し、床に手を付いて座り込むフォンインの姿を見る。


(……!)


「ああもう、無理無理、無理だよ。だいたいコレさ、人間の内面から生まれ出て来たものなんだよねえ?こんなの生み出しちゃうような奴らをさぁ、命を張って救う価値なんてあるのかなぁ……?」


 まるで現実逃避するかのように、闇に塗られた空を仰いでいる。いつもの飄々とした空気は消え失せ、ただただやさぐれた空気ばかりを醸していた。


「いつかアンドロクタシアが言った通りだよ。エリスを倒したって、どうせまたくだらないことで人間は争い始めるんだ。それは未来永劫終わらない。そして再びエリスが生まれる。意味ないじゃんこんなの、無駄無駄、もう帰ろーよ」


「目をお覚ましなさい!」


 メイファが急速に駆け出したかと思えば、跳び上がってフォンインに思い切り両脚からの蹴りをかました。彼は呻きながら、思い切り吹き飛んだ。蹴られた場所を押さえながら苦悶の顔で身を起こす。


「ちょっとぉ!いくらなんでも、ドロップキックはないんじゃないの!?ねえっ!」

「……目、覚めましたか?」


 ドヤ顔で返すメイファ。フォンインの目には光が戻っている。


「……ああ、バッチリだよ!」


 立ち上がり、矛を構える。毅然とエリスに向かっていく。


「嫌だよね、争ったり罵り合ったり、そんなのが続いていくのはさ。僕はうんざりするほどそれを見てきたよ。どうせなら逆が良いよね。傷つけ合うんじゃあなく、助け合うんだ。助けられたら助け返す。玄武も言ってなかったっけ?結局それがより良き社会を作る上で一番大切なことだって。僕はこれまで見て来た社会とは逆の、”義”で溢れる社会を作りたい……!」


 そう言って力強くエリスを矛で斬り払った。

 上空に広がる無明の闇に、碧い光が瞬いた――



「ううっ……!」


(……!今度はメイファか……!)


 フォンインはメイファに向かって行く。そして仲間たちがそうしていたように、自分も彼女の頬を叩いて正気に戻そうとした。後で怒られるかもしれないなあ、などと要らぬことを考えながら。


 ところが、メイファは

「はあっ!」

 と叫びながら自身の両頬を力一杯叩くのだった。


 フォンインは驚きで手を止める。メイファはほっぺたを紅くしたまま、フォンインの方を向く。


「……あら、どうしましたの?フォンインさん」

「い、いや、なんでも」


 メイファの精神力に引き気味で返すフォンイン。メイファの目には光が戻っている。


「ふふふ、邪神ふぜいが、わたくしを篭絡しようなどと良い度胸ですわね!ようやく訪れた世直しの機会、棒に振ってなるものですか!」


 偃月刀を構えながら、毅然とエリスに向かっていく。


「わたくしの生きて来た社会はアーテーによって腐敗させられていました。客観的な情報ばかりに踊らされ、心をないがしろにした人ばかりでしたわ。でも人間というのは、もっと素晴らしく尊いものであるとわたくしは思います……!それにはまず己を高めること!そして相手を認めて尊重してゆくこと!それこそが真っ当な人間道であり、誠の”礼”なのです……!」


 そう言って力強くエリスを偃月刀で斬り払った。

 上空に広がる無明の闇に、桃色の光が瞬いた――



 四人は見た。


 あれほど強靭な精神で皆を率いてきた存在――ラヴィアがうずくまって項垂れていた。

 そして彼女の口からは、普段の彼女であればおよそ出るはずのないであろう後ろ向きな言葉が垂れ流される。


「はあ……なんで私、こんなとこに居るんだろう?ついこの前まではお屋敷暮らしだったのに、いつの間にか盗賊に成り下がり、挙句の果てにはこんな命のかかった戦いを幾度も幾度も……私は別にこの国の出身でもなんでもないんですよ?いっそ投げ出したいですよ、もう……」


 ぶつぶつと陰惨な声音で嘆き続ける。そんな彼女を正気に戻すべく、仲間たちは力の限り声を上げる。


「ラヴィア様!闇に飲まれないでください!貴女は気高く強い御方です!」

「ラヴィア!意志を強く持て!お前ならばこれくらいの闇、なんてことはないはずだ!」

「ラヴィア!しっかりして!いつもの調子に戻ってよ!」

「ラヴィア様!貴女様にはそのような姿は似つかわしくありません!毅然と立ち向かう姿こそふさわしいですわ……!」


 やがてエリスが長い胴体を持ち上げて、ラヴィアを叩き潰そうとする。しかしラヴィアはうずくまった姿勢から素早くこれを躱すと、エリスの胴体に力強く棍の一撃を入れた。


「……ご心配には及びませんよ、皆さん」


 そして棍を床に突き、腹の底から叫んだ。


「今私が口走っていたことは、ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと!最初から!思っていたことですからね!」


「……」

「……」

「……」

「……」


 四人は一様に、いつものラヴィアだなと思った。


 ブンブンと棍を振り回して、エリスに叩き込んでいく。


「なんでですか!?なんでこんなことになってるんですか!?王都から連れ去らわれて、盗賊に成り下がったかと思えば、今度は姫なんて呼ばれて……怪物と戦う羽目になって……何度も何度も死にそうになって……!私はただ帰りたかっただけなのに……!あの人の隣に戻りたかっただけなのに……!」


 これまでの鬱憤を晴らすように連撃は勢いを増していく。


「上等ですよ、こんちくしょう!思えばマグナさんも自分には全然関係の無いことでも首を突っ込むような御方でした。彼を敬愛するならば、私も()くあらんとします!覚悟しなさい、エリス!メイウェイ!私は闇を取り除き、この国の未来に光を戻してみせます……!」


 そう言って力強くエリスに鋭い突きを叩きこんだ。

 上空に広がる無明の闇に、黒い光が瞬いた――




「何故だ……?何故お前たちはそれほど人を想いやれる?何故それほど人を信じられる?お前たちも見てきたはずだろう……!浅ましく愚かな人間の姿を……!それこそが人間の正体だというのに」


 メイウェイが忌々しそうにつぶやく。いつの間にか彼は上空に向かって掲げていた腕を下ろしている。もしかしたら、既に呪文の詠唱は終わってしまったのかもしれない。


 上空に浮かぶ巨大な上半身は、その両腕が完全に形成されつつあった。


「あるものか……!明るい未来など、あのような愚物どもにもたらせるはずがない……!」

「できますよ、きっと」

「何?」

「光と闇が表裏一体であるように、人の心にはきっと美しさと愚かしさが同居しているんだと思います。そして分かりますか?光が強い程に、落ちる陰は深く濃いものになってゆきます……」


 ラヴィアは訴えかけるようにメイウェイの瞳を見る。


「メイウェイさん、貴方の心は何故それほど深い闇に囚われてしまったのですか?元々はこの世界を、人間を心から愛していたのではないですか?」

「……!」


 メイウェイの表情はどこかうろたえるような色を帯びた。


「思い出してください、貴方の大好きだった景色を――忘れないでください、貴方の大好きだった人を――見つけてあげてください、自分の心の美しい場所を――――貴方の中にもあったはずです、世界と人を愛し慈しむ”(おもいやり)”の心が――!」


「黙れ……!黙れ……!余は、余は……」


 メイウェイは額を押さえて呻いている。


 遠い昔の記憶が想起されてゆく。

 忘れていた?いや、意地になって思い出そうとしてこなかっただけかもしれない。

 風そよぐ美しき祖国の景色……優しく微笑むかつて愛した(ひと)……そして、彼女は(シン)族の兵に殺された。


 メイウェイは悪夢にうなされながら起きた時のような、どこか憔悴した目でラヴィアを見る。


「くくく……だがもう遅いぞ、(シン)族の姫君よ。どれだけ言葉を重ねようとも、既に時は満ちた……!ニュクス覚醒の儀式は完遂したのだ……!見るがいい、上空に浮かぶ無明の闇を……!」


(……大丈夫、まだ間に合う。ニュクスは覚醒し切っていない。頭も下半身もまだ出て来ていないのだから。そしてエリスをさらに弱めれば覚醒を遅らせることができる……!)


 ラヴィアは気付いていた。


 戦闘開始当初に比べて、エリスから放たれる邪悪な気が着実に弱まっていた。そのことがニュクスの覚醒を想定外に遅らせていた。


 何故そのようになっているのかは、なんとはなしに察しは付いている――四聖剣だ。かつて青龍はこう言っていた、これは”五常の剣”と呼ばれる(シン)族に伝わる剣で、神聖なる力を蓄えられる代物だと。


 ラヴィアたち五人の心の光が剣を媒介にして拡散し、エリスの闇を弱らせていた。彼らの陽の気が集まって、エリスの陰の気を押していた。


(あともう一息だ――)


 ラヴィアは懐に手を入れる。彼女には秘策があった。取り出されたそれは、翠玉色の勾玉の付いた首飾りであった。


 これこそラヴィアが、四聖剣を疲れることなく振り回せていた真因であった。


(八尺瓊勾玉……!ようやく気付きました。今までこれがあったから、四聖剣を使っていてもへたばることがなかったんですね……といいますかこれ、首に提げなくても効果あったんですね)


 首飾りの紐で後ろ髪を結わく。長い黒髪がポニーテールにまとめられて、風に揺れる。


 ラヴィアは思い出していた。暴君フェグリナはかつてこの八尺瓊勾玉を用いて、草薙剣を限界を越えた出力で放っていた。彼女はそれを再現しようとしていた。


 四聖剣を青龍形態に変ずる。そしてそれを高く掲げた後、力一杯エリスに向かって叩き下ろした。八尺瓊勾玉が光り輝き、剣も輝きを帯びたかのように見えた。


 ラヴィアの強烈な斬撃により、エリスはばっさりと胴体を切断されて床に倒れた。光に焼け焦げていくかのように肉体が崩れ始める。


「エリスが……!だが、もう遅いのだ……!既にニュクスは……」


 メイウェイがそう言った時だった。

 空に浮かんだ五つの光が、突如互いに結びついて五芒星を成した。


 ――途端に光に満ちた。

 夜だというのに、まるで空は昼間のように明るく照らされた。降り注ぐ光の中で覚醒しかかっていたニュクスも、床に倒れ伏したエリスもボロボロと肉体を崩壊させていった。


 一同は空を仰ぎ見る。

 そこには美しく輝く大きな鳥が、金色の光を振り撒きながら優雅に空を飛んでいた。


「……」

「あれが、鳳凰様……」

「……美しい」

「……なんか、泣けてきちゃったよ僕」

「……神々しいに尽きますわね」


 五人は戦いの最中であることも忘れて、その神聖な存在に見惚れていた。


 いや、戦いは終わっていた。エリスもニュクスもすっかり消え失せてしまっていた。

 メイウェイは茫然と、空を飛ぶ鳳凰を見上げている。


「――なんと、なんと美しい、光か」


 彼の目を一筋の涙が伝った。

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