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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第6章 ヴェネストリア解放戦
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第158話 ヴェネストリア解放戦⑰

ブネの死がフォルネウスに伝わり、恐れていた事態が発生する。暴走するフォルネウスにとどめを刺すべく、エリゴスは決死の奮闘をみせる。

 海と化した平野でフォルネウスの巨体が沈みゆく。周囲が鮮血の赤に染まっている。エリゴスは裸のまま水上で、ウァラクは元の姿に戻って空中で様子を伺っていた。


 やがて平野を満たしていた海水の水位が下がり始めた。空も次第に晴れていく。


(……!水が引き始めたましたワ!むりやり海に変えていた平野が元の姿に戻っていく……!フォルネウスが弱っているんですワ!)


 ウァラクは眼下の様子を喜色を帯びた瞳で見つめていた。


 すっかり元の草むらや土が露わになると、ぐったりと横たわるフォルネウスを目にする。二人は油断せずに身構える。これしきで終わる相手ではないはずだった。


 程なくしてフォルネウスは怒りの咆哮を上げながらその巨体を起こし、眼前のエリゴスとウァラクにギロリと睨みを効かせた。


「ウガアアアアアアアアアッ!!テメエら、調子に乗りやがってっ!ここまで俺を不快にさせたのはテメエらが初めてだ!上等だよ、ぶっ殺してやる!凄惨に殴殺してやる!」


 フォルネウスの激しい怒りの形相にウァラクは恐怖した。エリゴスも気持ちは同じであったが、同時に気付いてもいた。今やフォルネウスには余裕がなくなっている。確かに自分たちは奴を追い詰めているのだ、という実感も同時に感じていた。


 あともう一息だ。

 武器を構えて攻め立てる準備をする。


 しかしエリゴスが飛び出すより早くに、フォルネウスの様子がおかしくなり始める。頭を抱えながら項垂(うなだ)れ、深い絶望に沈んでいくような眼をした。


「……っ!!なんだこりゃっ!?……ブネ!?」


「……!!」


 エリゴスとウァラクはすぐに状況を察した。

 フリーレがブネを始末したのだろう。


 どうせならフォルネウスが絶命するまで勿体ぶってもらいたくもあったが、ここまで追い詰めるタイミングまで引き延ばしてくれただけでも上出来だった。


 だがフォルネウスが未だ息絶えていない以上、油断は禁物であった。予想通りなら、これよりフォルネウスは手の付けられない更なる怪物(モンスター)と化す!


「……ブネが死んだ……のか?……嘘だろ……?」

 その哀し気な様子は、絶望の深淵に潜む闇で塗りたくったようだ。


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……!!!」


 フォルネウスはしばらくうわ言のように呟き続けていた。

 エリゴスは今が攻めるチャンスかとも思ったが、そうこうしている内にフォルネウスは(おもて)を上げて二人を睨み付ける、今日一番の怒号を伴って。


「っっっっっっっっっテメエらァァァァァッッッ!!!!よくも……よくも俺の同胞をっ……!!仲間をっ……!!殺してくれたなぁっ!!絶対に許さねえっ!!ぶっ殺してやらぁっ!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!」


 フォルネウスはまるで暴走機関車のように飛び出した。


 それは負傷しているとは到底思えないほどの力強さと勢いであった。いや手負いの獣ほど手強いように、負傷しているからこそというのもあったかもしれない。


 エリゴスはウァラクをかばうようにして、たまらずその巨体に轢かれて吹き飛ばされてしまった。


「……っ!エリゴスっ!」


 地面をバウンドするボールのように転げ回る。流血しながら苦し気に立ち上がる。


 眼前にはもはや忘我状態と成り果てたフォルネウスが迫っていた。繰り出される力強い爪撃を咄嗟にハルバードで受け止める。しかし勢いを殺しきれずに彼女は武器ごと吹き飛ばされた。


 攻撃の苛烈さが戦い始めた頃に比べて段違いであった。これこそがラグナレーク側が危惧していた状況であり、フリーレがブネの始末を勿体ぶって時間稼ぎをしていた理由なのだ。


 この暴走状態の怪物には、例え陸上でも勝ち目は薄い。でもあと少し……あと少しなのだ。


 エリゴスはハルバードを拾い上げると、負けじと挑みかかる。恐怖を消し去るように、己を鼓舞するように咆哮を上げる。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 そして暴走したフォルネウスと必死なエリゴスの壮絶なせめぎ合いが繰り広げられた。時間にしては数分程度だっただろう。それでもウァラクは、もう何十分もこの鬼気迫る状況を見ていたような気がしてきた。


 エリゴスはすっかり半死半生であった。攻撃を躱すのに精一杯でなかなか攻め手に回れない。躱しきれないことも多く、彼女はみるみる内に満身創痍に成り果てた。血塗れでほとんど体力も尽き果て、もはや気力のみで立っていた。


 そのあまりにも壮絶な姿に、傍観しているウァラクはいつの間にか目に涙を溜めていた。


「エリゴス!もう……もう()めましょう!!」


 気付けば震える声で叫んでしまっていた。


「フォルネウスも相当に消耗していますっ!あの状態なら、海に逃げられたって態勢を整え直して向かえばきっと討伐できますワ!このままでは……このままでは貴女が死んでしまいますワヨ!?」


「ダメだっ!!!」


 消え入りそうな様相とは裏腹に、力強い声音で叫ぶ。


「それではダメなのだ!自分では成し遂げられないから、退()いて他の誰かに協力を仰ぐ。それでは先遣部隊だった頃と何も変わらないではないか!私は……私は己の力のみで乗り越えてみせるのだっ!」


 ハルバードを迫り来るフォルネウスに向けて突き付ける。


「それが死線を越えるということ、生きるということですよね……?お頭……」


 ぽつりと呟いた後、彼女も駆け出していく。


 それがどういうことだったのかはよく分からない。

 彼女の秘めたる戦いの才が目覚めたのか、それとも血を流し過ぎたが故の思考回路の暴走なのか、臨死体験が成せる錯覚なのか、とにかくエリゴスには途端にフォルネウスの動きがスローモーションのように見えた。それは一瞬のことであったが、彼女は辛くもフォルネウスの攻撃を躱すとそのまま腕に飛び乗った。一目散に腕を駆け上がっていって、頭部にまで辿り着く。


 突然のことにフォルネウスの反応は遅れていた。エリゴスはその武骨なハルバードを高く高く掲げると、既に二撃喰らわせている箇所……延髄部分に三度目の打撃を渾身の力を込めて叩き込んだ。


 フォルネウスはかつてない絶叫を上げた。それは水平線の向こうにまで届かんばかりだった。やがてフォルネウスの肉体はおびただしい流血と共に大いに脱力していき、地響きを立てて昏倒した。


 エリゴスも墜落して地に伏した。ウァラクは涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま駆け寄り、比較にならない程に血と傷でぐちゃぐちゃになったエリゴスを抱きかかえる。


「エリゴス……本当に、本当によく頑張りましたワネ……」


 彼女を抱えたまま翼を広げて宙に飛び上がる。


 フォルネウスは既に絶命していた。ウァラクにはそれを確かめる余裕はなかったが、仮に生きていたとしてもあれほど負傷させていれば問題はなかっただろう。


 ウァラクは腕の中で泥のように眠る勇敢なる戦士を救う為に、全速力で空を駆けて往った。

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