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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第6章 ヴェネストリア解放戦
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第154話 ヴェネストリア解放戦⑬

フォルネウスをエリゴスたちに任せたフレイは、レーヴァテインを操縦してアミーの元へ向かう。アミーは強烈な火炎を操り迎え撃つ。

 エリゴスがフォルネウスと対峙し、フリーレがストラータ城内に隠れ潜んでいるのと同じ頃、レーヴァテインはある地点を目指して飛行を続けていた。ヴェネルーサの港町近郊から南西方向、そこはパラータ平野の中心付近であり、ハルファスがストラータ――ヴェネルーサ間の”ゲート”を設置した場所でもあった。


 ヴェネストリア連邦最南端の国、リゼロッタ王国を根城とするアミー隊はこのゲートを用いて主戦場近くにまで駆け付けていた。仮に陸路を徒歩で行進していたら一週間近くは掛かる距離を一瞬で移動していた。

 主戦場とは、すなわちパラータ平野のラグナレーク拠点と、西から迫るアロケル隊が衝突しようとしている場面を指している。そこをアミー隊は背後から迫り、ラグナレーク勢を挟撃に晒そうとしているのだ。


 しかしその目論見は既にラグナレーク側にも知れている。ヴェネルーサの港町で、フギンとムニンはトールたちへの伝言を果たした後、拠点への帰還の際にアミー隊の位置をも捕捉していたのだ。



 フレイはレーヴァテインを駆り、アミー隊と対峙するべく先を急いでいた。拠点が焼き払われた後では元も子もなく、そうなる前に対応する必要があった。フォルネウスをエリゴスたちに任せられたのはまったく幸運であった。


(ここまではヘイムダルの作戦通りだ。初めに全力でフォルネウスを討つように見せかけるべく、大規模に東に向けて進軍開始、アロケルとアミーをおびき寄せることに成功した。その後港町まで行っていたトール、ヘイムダルを含めて全軍一斉退却。フォルネウスの油断を誘い、奴を陸に引き揚げることにも成功した。だがレーヴァテインにはフォルネウスの引き揚げ以外にもやるべきことがまだ残っている……!)


 此度の(いくさ)を制する作戦はレーヴァテインの機動力あってこそのものであった。フォルネウスにあのまま壊されていたらすべてが元の木阿弥であったのだ。ここからレーヴァテインは、その真価を存分に発揮する。


(それにしてもロベール・マルローという鍛冶の神は素晴らしい技量の持ち主だ。レーヴァテインの飛行速度のみならず操縦性も大幅に向上しているし、おまけに空中で急停止するホバーリング機能まで搭載している。地味にこの機能がなければ、今回の作戦は成り立たなかったかもしれぬ)


 フレイがそのように考えている内に、やがて目的地が見えてきた。そこは平野を実に良く見渡せる断崖の上であり、そこには紅の衣装に身を包んだ魔法使い(よう)の出で立ちがずらりと並んでいる。

 中心付近には痩身の老人がいて、その消え失せそうな儚げな見た目に反して溢れんばかりの魔力の(ほとばし)りを感じた。


(あれがアミーか!深淵部隊の魔法担当にして強力な火術を操る者!)


 空中で急停止する。アミーは突如飛来した巨大な飛行物体に、平静を崩すことなく視線を向けた。


「ほう……アレがラグナレーク王国秘蔵の神器、レーヴァテインとやらじゃな。しかしフォルネウスを陸に引き揚げたかと思えば、それをほっぽり出してなにゆえこちらへ?」


 アミーには疑問であった。まだフォルネウスは倒れていない。ラグナレーク勢はフォルネウス打倒にこそ重きを置いていた。そしてその頼みの綱こそがレーヴァテインだったのではないか?


「レーヴァテイン以外にあのフォルネウスを倒しうる戦力があるのか?ともかくレーヴァテインに関しては現状フォルネウスでなく、儂らへの邪魔立てを優先してきたということか。お前たち、向かえ討つ準備をするぞい」


 アミーが声を掛けると、周囲の炎魔術師(ファイアキャスター)たちは一斉に両手をかざして魔力陣を展開させた。空中に無数の火球が出現していく。


 しかしレーヴァテインも黙って焼き払われるのを待っているわけではなかった。フレイヤが開いた操縦席から飛び出すと、首元の神器に手をかざして再び水のマナを発動させる。

 たゆたう水のようにしなやかに踊りながら、それに付随して青を基調としたドレス姿に変わっていく。


「ブリーシンガメン、モード:(ヴァッサ)!」


 水のマナを解放させた姿となったフレイヤは、上空に巨大な水塊(すいかい)を生み出した。敵が慌てふためく(いとま)も与えずに、これを幾つもの槍に変形させつつ豪雨のように降り注がせた。


「水よ!鋭利な鉾となりて、我が敵を貫け!」


 降り注ぐ水の槍は無色透明ながらも、真下の大地を真紅に染め上げた。もはや立っている炎魔術師(ファイアキャスター)は一人としていなかった。


 ……ただ一人、アミーだけが燃え盛る炎の肉体を露わにして悠然と屹立していた。その異常なまでの高温で、水の槍は彼に届く前にすべて蒸発してしまったようであった。


 フレイヤはアミーが健在であることを認識すると、今度は物量で対応しようと考えた。炎魔術師(ファイアキャスター)はすべて倒れているので最早水のマナの余力を考える必要はない。


「水よ!怒涛となりて、我が敵を押し流せ!」


 空中に先ほどよりもさらに大きな水塊を出現させると、それは砕け散りながら急速落下し地上付近で収束、凄まじい奔流となってアミーを巻き込んでいった。


 しかし突如として爆発したかのような勢いで膨大な水蒸気が発生した。


 怒涛の去りし後フレイヤは驚いた。アミーの燃え盛る体は、依然として健在であった。あの量の水流でさえも彼にはまったく届かずに蒸発してしまったのだと悟る。


(まさかノーダメージとはな)

(ええ。ですが兵士級(ウォリアー)は全滅しました。戦果としては充分なはずです)


 兄妹は目配せで会話する。そしてフレイヤは元の姿に戻る。水のマナは使い果たし、アミーにはまるでダメージを与えられていなかったが、二人は慌てていなかった。元よりアミーについては倒せるに越したことはない程度の認識であり、アミー以外の戦力を削ぐことができた時点でここに来た目的は達成していた。

 こうなれば拠点の後方に関してはアミーにさえ気を付けていれば良く、挟撃という状況に持ち込むことは敵にしてみれば随分と難易度が上がっていた。


「……水のマナが尽きたようじゃな。では今度はこちらからいかせてもらうぞい!」


 アミーは邪悪に笑いながら魔力陣を展開、頭上に巨大な火炎を出現させるとそれを爆発させ、炎の濁流に変えてレーヴァテインを飲み込んだ。しかし今度はアミーが驚く。レーヴァテインも、搭乗している二人もまったくの無傷であった。


「なんじゃと?」


 見ればフレイヤの首元、ブリーシンガメンの赤色の宝石部分が光り輝いている。自分の発生させた炎が、火のマナとして吸収されたことを悟る。


「ほお、やりよるな。この程度の火力では吸収され切ってしまうか」


 分析しつつも余裕を崩さないアミー。先ほどの炎でも随分と手加減していたものだったらしい。


「じゃがここまでじゃな。水のマナをお前さん方は使い切っておるし、火のマナならいくら溜めたところで儂には通用せん。それにこの世に無限の力なぞ存在しない……そのブリーシンガメンという神器、儂の炎をいくらでも際限なく吸収できるわけではないとみた」


 アミーの分析はすべて実情に即している。だが二人にはもうアミーにこだわるつもりがない。


「ええ、おっしゃる通りですよ。ですから我々はもう退却します」


 フレイヤはそう言って、兄に目配せする。フレイは操縦桿を動かすとレーヴァテインの機体方向を転換、一気に北西方向へと進み出した。


「Auf Wiedersehen!」


 そんな別れの言葉を残しながらレーヴァテインはみるみる内に遠ざかっていった。アミーはてっきり自分を倒しに来ているのだとばかり思っていたから、事態を理解するのには時間を要した。


(……何故退却を始める?儂を倒しに来たのではなかったのか?まさか、奴らの狙いは……!)


 しかし気づいたところで、後の祭りであった。


 ◇


 その頃アロケル隊は、ラグナレーク拠点のかなり近くにまで迫っており、拠点内はさすがにピリピリとした空気が充満し始めていた。


 千にも満たない拠点の残存勢力が数万規模の敵勢に晒されれば、当然ひとたまりもない。しかし何かが空を裂く音が聞こえ始めると、兵たちは期待を込めた眼差しを空に向けた。トールもヘイムダルも同じようにして空を仰ぎ見る。


 ――頼みの綱であるレーヴァテインが拠点への帰還を果たしていた。それも大量のアミーのマナを持ち帰って!


(ブリーシンガメンの赤い部分が光り輝いている……どうやら上手くいったようですね)

 作戦が上手く行っていることを認識し、ヘイムダルはほくそ笑んだ。


(あれはレーヴァテインか?まだフォルネウスを倒していないはずだが、何故こっちに戻って来た?)

 アロケルは前方の空に現れた巨大な飛行物体を訝し気に見上げる。


 それは彼らの頭上で静止したかと思えば、操縦席からフレイヤが踊り出てブリーシンガメンの赤い宝石部分を強く明滅させた。激しく燃える炎を思わせる力強い動きと共に、フレイヤは真紅のドレス姿に変貌した。


「ブリーシンガメン、モード:(フランメ)!」


 そして彼女は上空に両腕をかざした。先ほどまさにアミーがやっていたような、特大の火炎が大空を覆うように出現した。


「おお!久しぶりに見るな、火のマナを展開させている姿は!」

「まあ一番溜めるのが難しいマナですからね」

「それにかなりの威力じゃねえか?」

「当然ですよ。あのアミーの放つ炎のマナをありったけ貰って来て、それを全力で解放しようとしているのですから。おそらく我々が知る、今までのブリーシンガメンを上回る超威力の攻撃と化すでしょう」


 トールとヘイムダルの会話の様子からも、事態がラグナレーク側に優位に傾きつつあることが伺えた。

 やがてフレイヤは上空に出現させた燃え盛る莫大な火炎を、土砂降りの雨の如くに地上に叩き降ろした。


「炎よ!豪雨の如くに降り注ぎ、我が敵を焼き尽くせ!」

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