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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第6章 ヴェネストリア解放戦
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第152話 ヴェネストリア解放戦⑪

フリーレとヴィーザルを探して、ブネは部下たちに城中を捜索させていた。二人は食糧貯蔵庫に潜んで時間稼ぎをする。

 ストラータ城内ではブネ隊の兵士たちが忙しなく走り回っている。突如襲来し城内に行方を眩ませた敵将フリーレと謎の少年。彼らの居所は依然として捉えられていなかった。居所どころか目論見すら看破できていない。ブネは内心焦る気持ちを感じながら、部下たちに城内の捜索を命じていた。


 一方、フリーレとヴィーザルは城内三階の食糧貯蔵庫に姿を潜めていた。備蓄庫代わりに使われている小部屋は城内に複数存在し、此処はその内の一つにすぎない。城内で遭遇した敵兵はすべて始末して来たし、遺体の場所も適宜移動させ攪乱しながら逃げて来た。手がかりでもなければ即座にこの場所を捕捉することは難しく、見つかるまでにある程度の時間は稼げる算段であった。


 薄暗い食糧貯蔵庫の中で、フリーレはもそもそとハムやチーズを食い散らかしている。ヴィーザルは、彼の体にしてみれば大振りな槍を抱えた状態で壁にもたれながら座り込み、緊張感の欠片も無く食事を続けるフリーレに半ば呆れた視線を送っていた。


「……よくこんな状況下で食事ができるね」

「食える内に食っておくべきだ。お前もどうだ?」


 そう言ってフリーレは、乱雑にスライスしたハムとチーズを少年に渡した。彼はそれを突っぱねることも捨て置くこともなく、素直に食べ始める。


 これもまた強さの秘訣かもしれないと、そう思ったからだ。


 食べながらヴィーザルがぽつりと言った。


「ねえ、フリーレはどうしてそんなに強いの?」

「……どうしてか。どうしてだろうな」


 此処ではない、どこか遠くに想いを馳せるような眼をする。


「別に私は最初から強かったワケではない。お前と同じくらいの頃はきっと弱かっただろう」

「まあ、そりゃそうだよね」

「私が生きて来た荒野では、弱い存在は死んで当たり前だった。だが私は死にたくなかった。生き延びる為にできることは何でもやって来た。その結果が今ここにあるにすぎない。換言すれば、私は強いのではなく、強くならざるを得なかっただけなんだろう」


 聞いていて、強くなろうと思って実際に強くなれるのであれば、それは結局元から強かったと言えるのではないだろうかとヴィーザルは思った。自分がどれだけ死ぬ気で精進したとして、とてもこの孤高にして強靭なる存在に肩を並べられるとは思えなかったからだ。


 それとも本当に昔の彼女は、今の自分とさして変わらない強さでしかなく、現在の強さはあらゆる苦難を乗り越えてきた果てに得たものなのだろうか?乗り越えさえすれば、誰しもが手にし得る強さなのだろうか?いや、そもそもがあれだけの強さを得られる程の苦難を、誰しもが乗り越えられるわけではないだろう。


 一つだけ確実に言えることは、乗り越えようとしない限り、どんな苦難であれ乗り越えることはできないということだ。


 そんなことを考えている内に、いつの間にかフリーレが貯蔵庫出入口の扉を睨み据え、警戒の態勢を取っていることにヴィーザルは気が付いた。


 潜めた声で尋ねる。


(どうかしたの?)

(扉の前に兵が数人ほど集まっているな。我々が中にいやしないか、様子を伺っているようだ)

(よく分かるね)

(気配である程度はな。というか奴ら、足音を消しきれておらん。素人だ)


 フリーレは足音を立てないように、実に精密な動きで緩やかに扉の方に近づく。そして一呼吸置いてから、木製の扉を内側から蹴破り勢いよく部屋から飛び出した。


 そもそも怪しむ止まりで中に敵が潜んでいるという確証まで至れていなかったので、突如飛び出して来た敵の姿にブネ隊の兵士たちは肝が冷える思いがした。驚きで硬直している内に、フリーレは眼にも止まらぬ動きで駆け回りながら、兵士を次々と斬り払っていく。そして何時かと同じように、最後の一人だけあえて残して、兵を貯蔵庫内に蹴り入れた。


 扉を閉めて、そこに寄りかかるようにして立ち塞がる。起き上がった兵の眼前には、神妙な顔つきで槍を構えた少年の姿がある。兵は自分がどういう状況に置かれたかを理解して、己が槍を構え直した。


「今度はハンデ抜きでやってみろ、ヴィーザル」


 フリーレは腕を組み、物見面で言う。ヴィーザルは槍を振り上げて挑みかかった。しかし特段消耗もしていない兵士を圧倒するには及ばず、すぐに彼は防戦一方になった。


 助太刀すべきかとフリーレは考えたが、それが杞憂であったことに気付かされる。


 ヴィーザルはこのまま馬鹿正直に攻め続けていても埒が明かないことを悟ると、即座に距離を取り、備蓄の食糧が入った小樽を投げつけるという地の利を生かした戦い方を取り始める。何度か投擲を受けて、兵士に付け入る隙が生まれると、ヴィーザルは一気呵成に床を蹴って駆け出し、兵士の胴に深々と槍を突き立てた。


 兵士が呻き声を上げながら昏倒する。何のハンデもなしに、独力で彼は敵兵の撃破を果たしてみせたのだ。


 決着が付き緊張の糸が切れたからか、ヴィーザルは床にへたり込むと息を切らし始めた。遅れてやって来た焦燥感とも、達成感からの安堵とも取れる息づかいであった。


 フリーレにしてみれば、もはや昔の記憶はおぼろげで、つぶさに思い出すことはできない。だが自分は元から強かったわけではないはずだと認識しているし、非力ながらも脅威を己が力で乗り越えんとする目の前の少年に、どこか既視感のようなものを感じていた。


 ヴィーザルの戦いぶりは、忘却の果てに追いやられたかつての自分の姿を想起させ、その懐かしさ故に彼女の仏頂面にもやんわりと柔和の色が溶け出していた。


 少し待ってから、フリーレは少年に手を差し伸べて立ち上がらせる。


「大丈夫そうか?」

「ハァハァ、なんとかね」

「この場所はもう奴らに捕捉されてしまった。長居はしない方がいいだろう」

「うん、そうだね。行こうフリーレ!」


 二人は貯蔵庫を出ると再び城内を駆け回る。今度はどこに潜もうか。それとも潜む以外の手段を取るべきか。


 フリーレがそんなことを思案していると、通路に見慣れぬ姿を見る。背中から白い翼を生やしてフリフリの衣装に身を包んだ可愛らしい出で立ち。様子を伺うようにして兵士の亡骸を眺めている。

 フリーレは一目見てそれが特異な存在であることに気が付いた。そして口元を不穏に歪ませた。

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