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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第6章 ヴェネストリア解放戦
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第149話 ヴェネストリア解放戦⑧

フォルネウスが陸に引きずり出されたという報は少なからずブネを動揺させた。彼女は急ぎフォルネウスの元に助太刀に向かおうとするが……

 ストラータ城の会議室内で、ブネは柄にも無く落ち着かなさそうに右往左往していた。彼女がそうしているのは、突如海に出現したレーヴァテインがフォルネウスを陸に引き揚げたという、予想だにしなかった展開が起きていたからだった。


(おのれ!目撃していたレーヴァテインがまさかウァラクだったとは!何故その可能性を考えなかった?)


 ブネは思案している。秤にかけているのだ。司令塔として城に留まり状況把握に努めるべきか?ピンチに陥った仲間の元に駆け付けるべきか?


(いや、悩むまでもないことだ。手遅れにならぬ内にフォルネウスの元へと助太刀に向かおう……!)


 そうしてブネは室内より繋がるテラスの方へと向かって行く。歩きながら灰黒い翼を広げてゆく(服は背中が大きく空いているので破らずに翼を展開できる)。


 いくらフォルネウスを陸に揚げた状態でも、そこに他の将軍級(コマンダー)が合流してしまえば、ラグナレーク側の勝機は立ちどころに失われてしまうだろう。これは作戦立案にあたってヘイムダルが最も恐れていたことだった。そして駆け付ける可能性が最も高いと考えられたのが、隊の司令塔であり飛行能力を持つブネであった。


 その特に警戒していた事態にラグナレークの頭脳(ブレーン)が何も手を打っていないはずがなかった。まもなくブネの元には脅威が訪れる。



 ブネはテラスの窓を開けようと近づいたが、何か嫌な気配がして距離を取った。何かが高速で向かって来るのが見えた。


 それは白く大きな鳥だった。その上から何者かが物騒な槍を携えて勢いよく飛び込んで来た。窓ガラスは盛大に割れて部屋中に飛び散り、その招かれざる侵入者を受け入れた。背後には何故だか戦いの心得などなさそうな少年の姿もあった。


「ラグナレーク騎士団エインヘリヤル、第七部隊長フリーレ推参……!」


 巨大な槍を手にした金髪の女が、物々しい雰囲気を醸しながらそう言った。ブネは驚きを隠せない表情で突如現れた闖入者を見つめている。


(コイツは……!確かフリーレというラグナレークの隊長勢の一人だ。鋭敏極まる感覚はストラスの潜入にすら感付き、その恐るべき身体能力はデカラビアやエリゴスを単騎で圧倒したという)


 ブネは情けないことを自覚しながらも、身が硬直してすぐには動けなかった。まだフォルネウスもアロケルも片付いていないのだ。その情勢でラグナレーク側がさらに南のストラータ方面に攻めて来るとは思っていなかったし、それも敵将が単騎で城に乗り込んで来るとは予想だにしなかった(正確にはもう一人少年がいるが、ブネは一目見て彼は脅威ではないと判断した)。


 本来、手の込んだ自殺以外の何物でもない行動だろうと、ブネは思った。しかし相手はラグナレーク側で最も警戒すべき戦力である。ビフレスト防衛戦での戦いの様子はブネも聞き及んでいて、彼女はフリーレこそが七隊長の中で最も警戒すべき相手であろうと認識していた。


 ただそれでも、あくまで人間にしては、という但し書き付きの認識であった。脅威とまでは認識していなかった。


 ところが、どうだ?今ブネは目の前の人間に呆気に取られている。それは何もいきなり城に飛び込んでこられたことに驚いているわけではない。物騒な気迫に気圧されているわけでもない。これまでの戦いぶりを見るに、ラグナレーク側は勝機の薄い無謀な戦術は取らないだろう。自殺行為にしか思えない行動にフリーレは従事しているが、その背景には彼女の仲間たちが、フリーレならばやってくれると、そう信じて送り出して来た事情があるはずであった。


 そのことが、相手を警戒していながらも、どこか危機感が欠如していたブネに、実感という裏打ちで以て初めて恐怖感を抱かせていたのだ。


 上述のような事情もあったので、当然初めはフリーレが先手を取った。グングニールを携えたまま勢いよく床を駆けると、跳びかかってブネに斬りかかる。ブネは後ろの露出した腰辺りから、三体の細長い龍のようなものを出現させると、攻撃をいなしつつフリーレから距離を取った。


 そして獰猛に唸る龍を動かしながらブネは再びフリーレに向き直るのだが、果たして彼女はこの短時間で何度驚かれされただろうか。


 フリーレはブネに向き直るどころか、最初の飛び掛かりの勢いのまま部屋の外に飛び出すとそのまま城内に姿を消してしまった。少年も迷いなく彼女の後ろを付いていったので、会議室は再びブネ独りだけの空間へと戻った。


(どういうことだ?何故私との戦いを放棄する?)


 ブネは敵に機先を制されたことへの屈辱と、敵の行動の不可解さに頭を抱える思いであった。


 ◇


 ストラータ城内の通路をフリーレとヴィーザルは疾走している。


「なあフリーレ。あのブネって奴、どうしてすぐに倒さないんだ?」


 ヴィーザルはひどく落ち着いていた。元々図太い性格なのか、深い悲しみを経験したからこそ並大抵のことでは動じなくなったのか、付き合いの浅いフリーレには知る由もない。

 それでもこの状況下でよく怯えすくんだ様子にならぬものだと、フリーレは幾許か感心しながら話し始める。


「ここで私がすべきことは三つある。ブネをフォルネウスの元へ行かせないこと。ゆくゆくはブネを倒すこと。そして、なるべく時間を稼いでからブネを倒すことだ」


 単騎で敵陣の真っただ中に乗り込んでいるだけでも無謀極まるのに、さらに敵との決着をできるだけ勿体ぶるのがフリーレの任務であった。ヴィーザルは、こんな無理難題でも彼女ならばできてしまうのだろうなと思いつつ、何故そのようなことをするのかに疑問を抱く。


「ブネをフォルネウスの元へ行かせたくないってのは分かるけど、なんでブネをとっととやっつけないのさ?」

「これはヘイムダルの提案だ。エリゴスの情報によると、皇帝の眷属同士は神力の繋がりのようなものがあるらしくてな、エリゴスはデカラビアたちが倒された時に遥か遠くからでもその繋がりがぷっつりと途絶えるのを感じたらしい。つまり奴らは遠く離れていても、仲間が殺されたらそれが感覚ですぐに分かってしまうんだ」

「……!もしかしてブネをすぐに倒さないのは、フォルネウスが仲間の死に気付くとまずいから……?」

「察しが良いな。エリゴスが言うには、フォルネウスは深淵部隊で最も手強く、そして最も感情の起伏が激しいのだそうだ。ただでさえ強大な敵が、仲間の死を知って暴走してしまったら、こちらの勝率も危うくなるかもしれない。だから私はできるだけブネの始末を勿体ぶる必要があり、フォルネウスにはその間に逆転不可能なところまで追い込まれてもらうのだ」


 説明しながら走っていると、行く手にはブネ隊の兵士たちが四人程立ちはだかっていた。翼を生やし仮面をかぶった人間に似た背格好だ。


 侵入者め!

 容赦しないぞ!


 彼らは口々に叫び、槍を構えるが、フリーレはまったく減速せずに走り続ける。兵たちがたじろいでいる内に、フリーレはすれ違いざまに次々と斬撃を浴びせて彼らを斬り払った。一人だけ斬撃の餌食にならずに済んだ兵がいたが、彼は攻撃をいなされた挙句蹴り倒されて地面に伏した。


 そしてフリーレは昏倒させた兵に近づくと、とどめをさすのではなく、あろうことか翼を片方だけ引きちぎった。兵士が絶叫を上げる。そして彼女は、傍らの既に絶命した兵士の槍を拾い上げると、それをヴィーザルの足元近くに放り投げた。


 翼を捥がれた兵士はよろよろと立ち上がる。兵士は腕を組んで物見面となったフリーレと、神妙な顔つきで槍を構えたヴィーザルに挟まれるような立ち位置にあった。これがどういう状況か、兵士にもヴィーザルにもすぐに理解できた。


「ヴィーザル。倒してみろ」


 フリーレは素っ気なく、ぽつりと言った。その声には少年への期待も、兵士への憐憫もあまり感じなかった。ヴィーザルは静かに頷くと、必死で槍を振るい兵士に猛然と襲いかかった。


 戦いを知らぬ少年が勝てるはずもなかったのだが、ヴィーザルはかなりの攻勢を見せていた。彼は決死の覚悟でここまで来ているし、なにより兵士は既に戦意を喪失していた。翼を捥がれて機動力を失い、痛みで思考が麻痺していたし、自分が勝利したとて逃亡したとて背後の金髪の蛮族が決して見逃してはくれないだろうから。


 兵士は途中で命を諦めたかのように、突如戦いの動きが鈍った。そこを見逃さず、ヴィーザルは胸元に鋭い突きをお見舞いして敵を絶命させた。


 これはヴィーザルにとって初めて経験した殺しであり、初めて戦場で立てた功績であった。フリーレはとくに感慨もなさそうに、見事だと、一言だけそう言って歩き出した。

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