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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第6章 ヴェネストリア解放戦
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第145話 ヴェネストリア解放戦④

フォルネウスはラグナレークとヴェネルーサの仲をこじれさせるべく、港町に急襲し市民に危害を加えようとする。しかし上陸したフォルネウス兵はどこを見回しても市民を見つけられない。

 緊急会議の明くる日、フォルネウスは自領であるヴェネルーサ王国へと戻っていた。この国は西側がアンドローナ王国に隣接しており、海に面した土地があるのは東側だ。国名をそのまま冠した港町――ヴェネルーサが最大の人口を擁する都市として沿岸に存在していた。そしてフォルネウス隊の拠点も、この港町の沖合にあった。


 陸から遠く隔たった深い海の底にフォルネウスの姿があった。しかしその姿は、先の会議の時のものではない。巨大な怪獣のような出で立ちに変貌していた。口は大きく裂けて不揃いの牙が並び、巨大な尾を海中に揺蕩(たゆた)わせている。周囲には多数の半魚族(マーマン)の姿があるが、フォルネウスとの比較で豆粒のように小さく見えた。


「偵察部隊の情報によると、ラグナレーク兵はヴェネルーサ南西部のパラータ平野で、拠点づくりを完遂しつつあるらしい」


 巨大な珊瑚の椅子に腰掛けながら、フォルネウスが呟く。


「目的は俺たちフォルネウス隊の打倒、そしてヴェネルーサ市民の解放だろう。だがあの平野から港町にたどり着くまでに二日はかかるはずだ。奴らが辿り着く前に、俺たちは先手を打つとしようや」


 周囲の部下に笑いかける。部下たちは皆一様に、これから人間を縊り殺す様を想像して悦に入った。フォルネウスは不敵に口元を歪めると、珊瑚の椅子から浮き上がり、豪快な水音を立てながら泳ぎ始める。部下たちもそれに続いた。


 彼らは大海を渡り、一日とかからずにヴェネルーサの港町へと辿り着いた。


 いつの間にか夜になっていた。フォルネウスは海上に姿を現す。街には光が見えなかったが、彼は気にも留めなかった。


「さあ上陸だ、お前たち!ラグナレークの連中が来る前に港の奴らを人質にするんだよ。抵抗するなら殺したっていい。ラグナレークはこれから先、一緒に戦う戦力が欲しいから、まずヴェネストリア州を攻めたんだろう。ここで港の奴らを殺すなり、人質にするなりすれば、戦いを不利にできるばかりか仲をこじれさせられるってモンよ」


 彼の指示の下、フォルネウス兵は次々と港に上陸し、徘徊を始める。しかし夜とはいえ妙に静かであった。歩けど歩けど彼らは一人の人間も見かけない。扉を破壊し家に押し入っても、ただの一人も見つけられない。


【フォルネウス様!駄目です、港の人間はどこにもいません!】

【なんだと!もっとよく探せ!】


 部下からの遠隔思念に憤るフォルネウス。そして流石に街の様子がおかしいことに気付き始めた。彼は遠く沖合から、その違和感の正体を探ろうと神経を集中させるが、己で理解する前に異変が始まった。


 フォルネウス兵が一人、また一人と次々に倒れていく。

 その断末魔が遠隔思念を通して伝わって来る。


【なんだ!?何が起こっている!?】


 部下たちが正体不明の攻撃に晒されていることにさしものフォルネウスも幾ばくか動揺した。状況を理解しようと、神経を研ぎ澄ませる。


 ひゅんひゅんと空を裂く音が次々と……これは弓矢か!


【しかし明かりも見えない。夜でこれほど正確な狙撃を何処から?】


 その際、死に際の部下から情報がもたらされる。


【フォルネウス様!高台です!高台に奴ら避難しています!そこから弓で俺たちを……ぎゃあ!】


 高台?


 街の高所を見つめてみる。夜だのに明かりは見えない。されど鳴り止まぬ弓矢の音と、部下たちの断末魔が確かな脅威の存在を知らしめた。


 ◇


「いいですよ、その調子です。落ち着いてよく狙ってください」

 黒帽子にグレイの長い髪、エインヘリヤル第二部隊長ヘイムダルが、街の高台からヴェネルーサ市民の男たちに指示を出していた。


 両腕には弦楽器状態のギャラルホルンが抱えられ、静かな旋律を奏でている。これは”静寂の夜想曲(ノクターン)”と呼ばれる彼の演奏目の一つ。弦楽器形態は敵に対して影響ある音を出すのだが、これは注意力を過度に散漫にする効果があった。

 そして男たちが夜の闇の中で、抜群の腕前で敵を射ることができるのは、フォルネウス兵が上陸する前に”闘いの行進曲(マーチ)”で身体能力を向上させておいたからに他ならない(味方に作用する管楽器形態での演奏目で、味方の身体能力を強化する)。視力も強化されるのか、彼らは抜群に夜目が効いていた。


 やるぞやるぞ!みんな!

 一年ぶりの雪辱のチャンスだ!

 俺たちの街をあの化け物どもから取り返すんだ!


 男たちの士気の高い声が聞こえてくる。ヘイムダルの指示の下、矢を射続けているのはヴェネルーサ市民の男たちであった。彼らはヘイムダルの呼びかけに協力を申し出、女子供を更なる高台に逃がした後でこうしてフォルネウス隊の戦力を削ぐべく戦ってくれていた。


 巧みな指使いで楽器を鳴らし続けるヘイムダルの元へ、バンダナを巻いた精悍な男性が近づいて来る。第一部隊長トールである。


「今のところ上手く行ってんな、お前の作戦」

「喜ぶにはいくらなんでも早すぎですよ、トール」


 ヘイムダルは嘆息交じりに呟く。


「今回の作戦はまだまだ序の口。以後も抜かりなく参りましょう」

「分かってるさ!それにしてもスレイプニルってのはすげえよなあ。一日もかからずにパラータ平野からこの港町まで辿り着けたんだからな!」


 トールはご満悦といった表情で背後に目をやる。そこには八本脚の巨大馬が不気味ないななきをして、首をもたげていた。


 そう、彼らエインヘリヤルがフォルネウスたちを出し抜けた理由。その一つが神獣スレイプニルの存在だった。


 スレイプニルは尋常ではない脚力を有し、千里の道も一日で走破するという伝説がある。通常なら二日近くかかったであろうヴェネルーサ南西部のパラータ平野から東の港町までの道程を、一日かからずに走り切った。そうしてトールとヘイムダルは、フォルネウス隊に先んじて港の高台に陣取ることができたのだ。


 トールはスレイプニルの雄々しい姿をひとしきり眺めた後、今度は西方の空を仰いだ。彼らがフォルネウス隊を出し抜けた二つ目の理由、それが無事に拠点に戻れたかとの心配の視線であった。


 その二つ目とは二羽の神鳥、フギンとムニンのことである。


 彼らは空を飛べるだけでなく、ムニンが人の思念をキャッチして記憶し、フギンが周囲の人間の脳に直接送り込んで伝達するという、メッセンジャーの役割を持っている。戦場(いくさば)において非常に有用な能力であることは、今更言うまでもない。


 その二羽が港町を飛びまわり、ヘイムダルのメッセージをヴェネルーサ市民に伝達していたのであった。スレイプニルが駆け付けるよりも早いタイミングである。そして向かう際にはフリーレがフギンに乗っていたので、目障りな偵察兵は道中で始末しており、そのためフギンの伝達したメッセージについては敵側にまったく知られていなかった。


【突然のご連絡申し訳ございません。我々はラグナレーク王国騎士団の戦闘部隊エインヘリヤル。私の名はヘイムダルと申します。我々は今現在ヴェネルーサ領を侵攻中であります。フォルネウス隊も迎え撃つべく戦闘準備をしていることでしょう。フォルネウスが我々への牽制に、貴方がたに危害を加える可能性があります。しかし我々の精鋭は早馬にて、本日中にこの港町に到着する見込みです。今の内に人々を避難させてください。波の攻撃が来るかもしれません、より高台へと逃げていくのがよいでしょう。そして、決してこれは強制ではありませんが、もし我々に協力して共に戦ってくれるという方がいらっしゃいましたら、是非ともお声がけください。苦難の一年の締め括りに派手に雪辱を果たすのはいかがでしょう?我々ラグナレークは必ずや、このヴェネストリアの解放を実現するつもりでいますが、いかんせん戦力が乏しい。貴方がたの……貴方がたの勇気が必要なのです!】

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