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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第5章 会議は踊り歌いて進む
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第126話 カレーを求めて三千里⑩

バハムートを追って死屍累々の森へとたどり着いたラヴィアたち。そこに元凶のシトリーが姿を現すが……

「ハアッ、ハアッ……」


 ラヴィアと付き添いの男たちは全力で森の中を疾走して、アリクたちの居る場所を目指していた。その間猛烈な突風に巻かれた。上空を見ると、バハムートが墜落してゆくのが見えた。


「バハムートが!」

「何が起こっているんだ!?」

「急ぎましょう、皆さん!」


 やがてアリクたちが待機場所にしていた辺りへとたどり着いた。木々が鬱蒼と生い茂る場所。ラヴィアは驚きで声を失った。団員たちが皆、血を流して息絶えている。

 ラヴィアをとくに混乱させたのはそれが何者かに襲われたというよりは、同士討ちで壊滅したようにしか見えないことだった。死体がニ、三人ごとに、折り重なるようにまとまって倒れている。相手の腹に短剣を刺したまま息絶えている死体もあった。


「……!これは、何が起こっているんですか?」


 ラヴィアは慌てながらも周囲を冷静に観察する。突如背後から諍いの声が聞こえた。


「お前ムカつくんだよ!そんなに姉御に気に入られたいのか!」

「うるせえ!嫉妬してんじゃねえよ!」

「いいや、姉御が一番気に入っているのは俺なんだよ、お前らはしゃしゃり出て来るんじゃねえ!」


 何やら買い出しに付き添っていた男三人が、感情を剥き出しにして口喧嘩をしていた。初めこそ只の口喧嘩であった。しかし、それは急に容赦の無い殺し合いに発展した。


 男の一人が短剣を抜くと、もう一人の胸に力一杯差し込んだ。刺された方は悲鳴を上げて倒れる。最後の一人はその様子を見て恐れおののくどころか感情をヒートアップさせた。


「てめえ!そこまでやって、姉御に気に入られてえか!現実を知れ!姉御が一番好きなのは俺なんだよ!」

「身の程を知れ、サンピン野郎!前から気に入らなかったんだよお前!フカしやがってよぉ!」


 振りかざした短剣を、蹴りで跳ね飛ばされる。その後取っ組み合いの喧嘩が始まってしまった。いや、殺し合いであった。勝敗を白黒つけることが目的には見えず、相手が絶命するまで止まりそうにない。


「皆さん!何をしているんですか!止めて……」



 そう言いかけた時だった。恐ろしい気配が近づいて来るのを感じた。ラヴィアは咄嗟に気配のした方から遠ざかると、木々の背後の目立たないところに身を隠した。


 この惨状の元凶、シトリーが姿を現していた。


「あ、こんなところにまだ生き残りがいたんだね」


 そう言うとシトリーは、片腕をぐにょぐにょした黒い触手のような形に変える。触手は針のように鋭利に伸びると、男たちの胸を貫通していった。まるで部屋に出没した羽虫が退治されるかの如くに、男たちはたやすく葬られた。


 シトリーは断末魔の声、命が消えて肉体が力尽きていく感覚に恍惚としていたが、不意に遠くの方へと視線を移した。


「……あれ?まだ生きている人間の気配がするなあ?」


(……!)


 シトリーは串刺しにしていた男たちに興味を無くして投げ捨てると、周囲をキョロキョロと伺い始めた。ラヴィアは気が気でなかった。それでも努めて冷静に気配を消して、物音を立てないよう神経を使った。冷や汗が流れる。時間の流れが急激に鈍化したように感じる。


「ねえー、いるんなら出て来てよぉ、この人たちと同じ場所に送ってあげるからさぁ」


 周囲に向けて呼びかけるが、当然ラヴィアは反応を返さない。シトリーは近くに誰かがいるらしいことまでは感づいているが、どこに居るのかまでは把握できていないようだった。


(絶対に、絶対に見つかるワケにはいかない……!アイツは紛れもない人外。私独りでは間違いなく勝てません)


 それに先ほどのバハムートの墜落を見るに、仲間らしき存在が他にもいるらしいことは伺えた。状況は絶望的だった。見つかることは即ち死であった。


「おーい、おーい、出て来てくださーい。殺しますよー?」


 シトリーは痺れを切らしたように声を掛け続ける。およそ二か月に(わた)る盗賊生活の中で、ラヴィアは気配の消し方や身のこなしといったものを習熟させていた。それにハイランから教わっていた隙を見つける技術は、その習得の過程で相手の気配にも鋭敏になっていく。シトリーの接近に一早く気づけたのもその為であり、盗賊生活の中でラヴィアはこの技術に何度も助けられた。


 ラヴィアは今、(おの)が持てる技術のすべてを総動員して、シトリーに見つかるまいとしていた。シトリーはいつまでたってもラヴィアを見つけられず、見当違いな場所をうろうろしている。


「おかしいなあ、気のせいなのかなあ?でも確かにちょっぴり気配がしたんだけどなあ。これだけ身を隠すのが上手で、私の能力で感情を暴走させてもいないなんて、生き残られたら絶対にリドルディフィード様の邪魔になっちゃうよ」


(リドルディフィード?確かアレクサンドロス大帝国の皇帝でしたか。彼は戦の神アレースの能力で生み出した怪物で世界最大規模の軍団を作り上げていると、そう聞いています。その手の者でしたか、道理で化け物同然の気配なワケです)


 そして盗賊団が壊滅している状況にも納得がいった(さすがに何故リドルディフィードの眷属がこんなところにいるのかまでは分からなかったが)。あの女には感情を暴走させる能力があり、男たちはそのせいで殺し合いを始めてしまったのだ。


 ラヴィアが疑問に感じたのは、何故自分だけ彼女の能力の影響がないのかという点である。彼女はかつてミアネイラと対峙した時の台詞を思い出していた。


-------------------------------------

「本当ならアンタも、こいつらみたいにかしずくはずだったのよ」


「え?」


「でもアンタの頭の中は覗けなかった。私はね、ちょっとした閲覧や書き換えなら近づくだけでもできるの。でもアンタにはできなかった。そのうざったい感じ……噂の正義の神の加護でもあるの?」

-------------------------------------


(そうか!私にはマグナさんの加護がある。だからアイツの能力の影響を受けていないんですね)


 ラヴィアはマグナに感謝すると共に、絶対に生きて帰らねばと思った。アースガルズで彼と袂を分かってから随分と時間が経っていた。こんなところで死ぬわけにはいかなかった。


 シトリーの能力が通用せずとも、現状のラヴィアには打開策がなかった。相手が諦めてくれることを待つしかなかった。冷や汗を流しながら、必死に気配を殺すことに努めた。



「もー見つからないなあ……どこにいるんだろ?」


「あ、いた!おーいシトリー!」


 何者かが飛んでやって来たようであった。チョコレートブラウンの長い髪に紅い露出度のある服。背中には黒い翼を生やしている。


「うわー、また派手にやったわね……」


 周囲に転がる男たちの死骸を見てそう言った。


「グレモリー?どうしたの?」

「リド様を見つけたの。もう落ち着かせたからシトリーにも知らせようと思って」


 彼女の言葉を聞いて、シトリーの表情が豹変した。


「ええ!そんな!リド様が情けなく泣き喚いているところをよしよししてあげたかったのに!もう慰め終わっちゃったんですかあ!?」


 グイグイ詰め寄るシトリーにグレモリーは後ずさった。主様大好きのシトリーに対する配慮が足りなかったな、とグレモリーは今更ながら思った。


「ずるいずるい!グレモリーばっかりずるいよぉ!」

「いや、慰めたのは私っていうか、フォカロルなんだけどね」

「そんな……私がリド様をあの手この手で慰めて差し上げたかったのに……」

「あ、でもリド様まだ少しグズってたから、今ならまだ間に合うかもよ?」

「ホント!?ホントに!?」


 シトリーの顔が輝いた。そしてグレモリーは彼女の体を抱え上げると空高く飛翔した。


「次にリド様が情けなく泣き喚いた時は、一番によしよしするのは私ですからね!」

「はいはい、分かったわよシトリー」

「絶対ですよ!フォカロルにもそう伝えておいてくださいね!」


 そんなやりとりをしている内に、眷属二人は遠く空の彼方に消えていった。



 ラヴィアは遠巻きに脅威が去ったのを確認した。見逃してもらえた?忘れられた?実態は定かではないが、シトリーにとっては敬愛する主様を慰めることの方がよほど大事であったのだ。


 彼女はおそるおそる木陰から姿を現した。先ほどまで生きた心地のしなかったラヴィアだが、次なる感情が襲い来る。


 かつて笑いあった仲間たちがそこかしこで屍と化して転がっていた。ラヴィアは泣き出してしまいたい気持ちをこらえながら歩を進める。


 やがて焚き火の跡がある場所へとたどり着いた。そこでは大勢の物言わぬ仲間たちの姿が目に入る。傷だらけで息絶えているアリク・ハルジャを見つけると、ラヴィアはとうとう膝から崩れ落ちてしまった。


「そんな、アリクさん……」


 頬を大粒の涙が伝い落ちるのを感じた。


「……お頭ぁ」


 ラヴィアは盗賊生活も悪くはないと思っていた。別に盗賊が好きなワケではない。ただ、イフリート盗賊団は好きだった。


 屋敷の人や両親が死んだ時はここまで悲しくはなかった。彼女にとって、彼らはもはや自分を束縛する存在でしかなかったからだ。

 ところがアリクたちの死は存外に悲しかった。彼女は自由に憧れていた。そしてイフリート盗賊団は、彼女に自由な暮らしを謳歌することの素晴らしさを教えてくれていた。


 ラヴィアは人生で初めて、声を上げて泣くことを経験した。

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