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God:Rebirth(ゴッドリバース)  作者: 荒月仰
第1章 ラグナレークの夜明け
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第12話 深き森の中で

ガルダンの襲撃によりマグナ達とはぐれたフリーレとラヴィア。野盗と貴族、二人は森の中で同じ時を過ごす。

 ラグナレーク王国の北部、晴れやかな青空を稲妻が轟音を立てて走っていく。投擲したグングニールに掴まったフリーレが空中を高速飛行している。


「む、しまったな、ついうっかりグングニールで脱出してしまった」


 これでは何かにぶつかるまで止まれない。どうしたものかと思案していると、(くう)を切る風音の中、叫び声が紛れていることに気付く。


「ひゃあああああああああああああああああああっ!!!」


 ラヴィア・クローヴィアがそこにいた。


 ラヴィアは馬車の中でフリーレのそばでリュックの整理をしていた。そのリュックの紐がグングニールに巻き付いてしまったので、リュックを持っていたラヴィアも空中へと打ち上げられてしまったのだ。


 今、ラヴィアは落ちまいとフリーレの体にひっしとしがみついている。


「……何をしているんだ、お前は」


「リュ、リュックの紐が、か、からまってぇ」


 ラヴィアは顔面蒼白で生きた心地がしていない悲愴な眼をしている。眼からは涙が溢れ、口からは涎もこぼれ、ひどく崩れた表情をしていた。


「フ、フ、フリーレさん!こ、これ、いつになったら止まるんですか!」


「無論、ぶつかるまでだ」


「ええーーーーーっ!!」


 ラヴィアの眼の色が絶望に染まっていく。対して、フリーレは普段となんら変わらない、ひどく落ち着いた表情のままだった。眼下の街並みが、森が、高速で視界の後ろへと流れていく。空気の流れは猛風となり、二人の髪を、服を、激しくはためかせる。そんなひと時が数秒程続いたのち、二人の眼前にはひと際大きな山嶺が姿を現した。


「しめた、山だぞ」


 フリーレはとっさにラヴィアを抱え上げ、もう片方の手でグングニールを掴みつつ両脚を掛け、自分たちは岩壁にぶつからないような体勢を作り上げた。グングニールを盾に岩壁にぶつかり、停止するつもりであった。


 グングニールの穂先が岩壁にぶつかる。轟音が鳴る。ガラガラと崩れる瓦礫の中、フリーレはラヴィアを庇うように抱きしめると、そのまま二人して真っ逆さまに山中の森へと墜落していった。


 ◇


「うーん……」


 深い森の中、鳥の少し不気味なさえずりと、川のせせらぎのような音が聞こえてくる。そんな朧気な感覚の中で、ラヴィアは目を覚ました。


「ここは……?」

「気が付いたか」


 ラヴィアは驚いた。フリーレがラヴィアに膝枕をしていたのだ。彼女はラヴィアの耳元でいつもと変わらない、愛想のないきっぱりとした声音でささやく。


「外傷がないことは確認している、少し休んだら出発するぞ」

「は、はい……」


 ラヴィアは辺りを見渡した。深い森の中にある湖畔のほとりだった。フリーレの傍ではたき火が燃えている。たき火には魚が数匹、枝に突き刺さった状態で焼かれていた。既に骨だけになった魚も何匹かたき火の近くに散乱していた。フリーレが湖畔で捕まえて食べていたのだろう。


 そういえば今はもう昼過ぎの時間だろうか。馬車で停泊していた村を出発する際にとった朝食以来、ロクに食事をしていなかった。


 ラヴィアの腹の虫が鳴る。フリーレは焼けている魚を一匹、ラヴィアに渡す。塩すらつけていない、美味いかどうかもわからない得体のしれない魚。貴族令嬢ラヴィア・クローヴィアは、深い森の中で、およそ調理と呼べるレベルの処置もされていない魚にかぶりついた。



 ラヴィアが一匹、フリーレが残り全ての魚を平らげると、二人は火を消して森の中を歩き始めた。自分たちがどの方角から来たかもわからないので、あてどなく歩いてみるしかなかった。湖畔から流出する川伝いに歩いていく。


 いつの間にか夕暮れが近づいてきたかと思えば、程なくして星々が空を埋め尽くした。やがて煌めく星々は夜明けの光の中で消えていく。ラグナレークの陽の光は森の中を鬱蒼と照らし、次第に朽葉色に染まって黄昏が訪れる。それが三回ほど繰り返された。


 フリーレは魚を獲ったり、食べられそうな野草や木の実を集めたり、遭遇した鳥や獣を狩ったりして、食料を調達しながら進んでいく。その動作は実にこなれていて、こんな状況下でもラヴィアは妙な安心感を覚え始めていた。もっとも、集めた食料はそのまま齧るか、焼いただけの調理とはいえないレベルのものであり、肉の処理も繊細には程遠く、ラヴィアの口に合うことはなかった。


 それでもラヴィアはこの深き森の中で、フリーレという人物の生き様をしっかと見届けたような気分になった。ずっと荒野で、文明の外で暮らしてきた人間……そんな人間の生活に自分が同居していることに、とまどいの中にもどこか言いようのない新鮮さを感じていた。

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