第117話 カレーを求めて三千里①
視点は演劇練習中のマグナたちから皇帝リドルディフィードに移る。彼はある物を手に入れる為に、偵察部隊にブリスタル王国を探らせていた。
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ここからマグナたちは、しばらく演劇の練習と劇団員たちとの打ち合わせに奔走することになる。その間、アレクサンドロス大帝国にてちょっとした動きがあったのでそちらに視点を移す。
アレクサンドロス大帝国。
帝都カウバルに聳える荘厳な城に、皇帝リドルディフィードの姿があった。彼はとある部下の報告を受ける為に玉座に座って待機していた。
皇帝の左右にはそれぞれ美しい女性の姿がある。右側の女性はチョコレートブラウンのウェーブのかかった髪で、背丈は女性の平均よりも若干高い。服は水商売の女性を思わせる露出度ある紅い装い。
対して左側の女性はダークグレイのショートカットで、背は低めだが豊満な体つきをしていた。服は暗めで地味で、華やかさに欠けている。
皇帝リドルディフィードは戦の神アレースの能力で作り出した世界最強の軍団――魔軍を従えている。魔軍は全部で十八個の師団から構成されており、二人は第7師団”妖艶部隊”のメンバーであった。各師団には雑兵である兵士級が平均して五万人ほど属しており、それを四人の将軍級が率いている(ちなみに兵士級が何人所属しているかは部隊によってかなり差異がある)。二人の女性はどちらも将軍級である。
右の女性の名はグレモリー、左の女性の名はシトリーといった。
「……」
「うふふ♪」
二人はともに、両手を下ろした状態で立っている。グレモリーは恥ずかしさといたたまれなさが入り混じった表情、反面シトリーは恍惚とした表情を浮かべていた。
見れば皇帝は何やら忙しなく、手を動かし続けている。その両腕は片方がグレモリーの胸に、もう片方がシトリーの胸に伸びていた。
「……リド様、おっぱい揉みすぎじゃない?」
「フハハハハハ!何故胸を揉むのか?それはそこに胸があるからだ!」
「……いや、意味分かんないし。もう仕方ないなー」
「あん♪リド様、素敵です」
グレモリーは半ば呆れた様子を見せながらも、どこかまんざらでもなさそうな様子であった。一方シトリーは皇帝の指使いにずっと恍惚としている。
そんな痴態の繰り広げられる玉座に近づいて来る姿があった。無表情で背丈は低く、ターコイズの髪は身長よりも遥かに長い。しかし髪は引きずっているのではなく、不思議な力で宙に靡いている。衣装は水をイメージした清廉な色合いで、ひらひらとした作りだった。
彼女はウェパルといい、彼女もまた将軍級である。
「リド様、お仕事終わったよ。褒めて」
ウェパルは抑揚の無い声音で言うと、そのまま玉座に座する皇帝の膝に腰を掛ける。身長が低いので宙に浮いた両脚をパタパタと動かす。
「そうか。使用人たちの統率と運営、今日はお前の担当だったな。ご苦労だったなウェパルよ」
「ん、なでなでして……リド様」
「悪いがウェパルよ、見ての通りだが俺の両手は今非常に忙しい。また後にしてくれるか」
驚くべきことに、ウェパルが現れてから今に至るまで、皇帝は片時も乳を揉む手を止めていなかった。
それを受けて、ウェパルはいそいそと上半身を開け始める。
「ん、リド様。おっぱいならここにもある」
ウェパルの乳房はグレモリーとシトリーに比べると、なんとも慎ましいものであった。身長相応であった。
「すまんなウェパルよ。俺の両手が言うことを聞いてくれない。あとで揉みしだいてやるから、しばらく待っていてくれ」
「ん、分かった」
ウェパルはそう言うと、胸を開けた状態のまま背後にもたれて、皇帝に寄りかかった状態でくつろぎ始めてしまった。
皇帝は両脇の女性の胸を揉み続け、膝の上には胸を開けた小柄な女性。
そんな痴態に溜息を吐きながら、うんざりしたような様子で近づく影が一つ。
明るく輝くハニーゴールドの長い髪をツインテールに束ね、その上にヘッドドレスを付けている。衣装はクラシカルなメイド服であった。
現れたのは妖艶部隊に属する将軍級の最後の一人、名をフォカロルといった。
「アンタら、真昼間から玉座で何やってんのよ?馬鹿じゃないの?」
フォカロルは、先の三人に比べてかなり毒舌であった。
「いやー、リド様揉み過ぎ!さすがに胸が痛くなってきたよ。ほらフォカロルおいで、代わってあげるから」
「はあ?嫌に決まってんでしょ」
自分と立ち位置を交代しようとしてくるグレモリーを、フォカロルは冷たく一蹴した。そこに膝の上のウェパルが一言。
「ん、ウェパル知ってる。フォカロルは仲間外れにされると、後で拗ねる」
「はあ?んなわけないでしょ!」
「あとリド様のこともなんだかんだ大好き」
「この……!」
フォカロルがウェパルの頬をぐにぃと引っ張っていると、グレモリーが近づいて来て無理矢理に立ち位置を交代させた。
「へー、じゃあ後で拗ねちゃわないように、フォカロルもリド様にいっぱい愛してもらいましょうね!」
「あ!ちょ、グレモリー!私はいいっての!」
フォカロルは先ほどまでグレモリーが居た場所(すなわち皇帝の右側)に強制的に立たされる。そして皇帝は絶えず指を動かし続けていたので、フォカロルはすぐさま胸を揉みしだかれる羽目になった。羞恥で顔を歪める。
「む?急にボリュームがなくなったな……と思えばフォカロルではないか!フハハハハハ、いつの間にかグレモリーと入れ替わっていたか!」
妖艶部隊四人の将軍級は、大別するとグレモリーとシトリーが巨乳、ウェパルとフォカロルは貧乳である。
「うむうむ、揉みごたえはないが、この指がすぐあばらに届く感じ……これはこれで……」
「馬鹿っ!!」
執着甚だしく指を動かす皇帝の頬を、フォカロルは高らかな音を立てて叩いた。
◇
「大丈夫?リド様」
ウェパルは皇帝の膝に座ったまま、彼の頬をよしよししている。
頬を叩かれたリドルディフィードは怒って……いるはずなどなかった。むしろこうでなくてはなと、喜んですらいた。当然だ、フォカロルはそもそもあのように振る舞うよう作られているのだから。
(ふふふ、やはり古典的なツンデレもなかなか良いものだ。俺は欲張りだからな。俺の為のハーレムである第7師団”妖艶部隊”……その将軍級は四人とも別々のデレ属性として作成した。グレモリーはデレデレ属性、フォカロルはツンデレ属性、ウェパルはクーデレ属性、シトリーはヤンデレ属性だ)
皇帝は頬を擦られながら実に気持ちの悪い笑みを浮かべていた。しかし顔の造作自体は整っているので、一応絵にはなっている。
「もう!フォカロル本気で引っ叩いたでしょ。リド様大丈夫?」
「フォカロルさん……ふふふ、覚悟はできてますよねぇ?」
心配気な顔をするグレモリーと、丁寧口調ながらも不穏な声音で言うシトリー。
しかし二人とも本気で怒っているワケではなかった。フォカロルもなんだかんだと言いながら、皇帝のことを好いていることを二人は知っている。
「なによ、こんな変態にいきなりこんなことされたら、誰だってこうなるでしょ?」
フォカロルもまた本気で立腹しているワケではないことが見て取れた。
「リド様、まだ?」
「フハハハハハ!待たせたなウェパルよ。ちょうど手が空いたのでな、今度はお前の番だ」
「うん、優しくしてね……」
そして皇帝は今度はウェパルの慎ましやかな胸を揉み始める。
その時であった。
皇帝の脳内に突如遠隔思念が届く。報告の為本日参上するはずの、第15師団”偵察部隊”ストラスからであった。
【リドルディフィード様、第15師団”偵察部隊”ストラス、ただ今カウバル城に帰還を果たしております。玉座の間の前まで来ておりますが、お目通り叶いますでしょうか?】
【構わん、入れ】
玉座の間の扉がゆっくりと開き始める。その間、ウェパルが自分で胸を隠そうともしないので、フォカロルが仕方なしに彼女の衣服を直して、皇帝の膝から降ろした。
やがて茶色の大きな翼を生やした老紳士然とした男が入って来た。玉座の前まで来ると、片膝を付いて平伏する。
「リドルディフィード様。ご命令通りブリスタル王国に潜入し、調査を行って参りました」
「ほう!では報告を聞こうか」
期待を込めてストラスを見る。ここ数日は女たちと遊び惚けていたので、遠隔思念でストラスからの報告はまったく受け付けていなかったのだ。
やがてストラスが口を開いた。
「残念ながら、主様が探すようお命じになった”カレー粉”なるものは、ブリスタル王国のどこにも存在しておりませんでした」
「な、なんだとおおおおおおおおお!!!」
報告を聞いた皇帝は痺れたように玉座から撥ねあがると、そのままがっくりと膝を着いてうなだれてしまった。




