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2 森とお屋敷

扉の外は森のようだった。


そういえば私は森の木の根元に居たって言われたのだ。

知っているような知らないような木々が沢山有る。


「ここは森の小屋なんだ。」


それはそうか。6畳位の部屋の三面に窓のような物があったし、寝具的なものもなかったし。住んでいないよね。


あ、これ、ベニテングダケ?


ふと、見たことがあるキノコを見つけた。


「何見てるの?何かあった?」

「これ、このキノコ知っているものに似ています」


私はキノコを指差した。


「あー、これは毒があって食べられないよ」

「はい。私の知っているこのキノコも毒キノコで食べられません」


フフフと笑いながら辺りを見回す。


森の小屋にベニテングダケ。まるでお伽噺のようだ。

子供の頃読んだ絵本の挿し絵にそっくりな光景だった。


「リリーは食べられない物に興味があるの?」

「あ、いえ、お話に出てくる光景にそっくりだと思ったんです」

「あれが?」

「はい」


ルーは不思議そうな顔をして首をかしげるようにしていた。



森には他にも知っているものにそっくりなものが沢山あった。

そのものだと断定できないけど、知っているものがあるというのは安心する。


大きな松ぼっくり、ドングリ、モミジバフウの実、無性に拾いたくなる。

子供か!って、良く突っ込まれてたっけ。


少し歩いて森を抜けるとそこには大きなお屋敷があった。


いや、まだ森の中かな。

回りは木々がいっぱいだし、大分開けてはいるけど他の家は見えないし。


イメージでいうなら、避暑地の別荘のような?ログハウスって感じじゃないけど、都会に建っている家の感じでもない。


えーと、なんだっけ、そうだ、ヴィラだ。

お金持ちの豪華な別荘という感じの建物だ。


「ここが僕の家だよ」

「大きいお家ですね。」

「そうかい?」


笑顔のルーは私を招き入れる。

ドアの前で止まるとドアが開く。


「おかえりなさいませ」


執事のような人がドアを開けてくれた。


流石、大きいお家。

ドアなんて自分で開けるものじゃないって感じかなぁ?


つい先程小屋でドアを開けて出会ったことを思いだし首を振る。


自分で開けることもあるか。


「ただいま。彼女はリリー。しばらく滞在するよ。▽△□◇▽の様子はどう?」


あの聞き取れなかったのは妹さんの名前かなぁ。


「はじめまして。リリーです。」


百合香と名乗るべきか迷ったけど、紹介された名前で挨拶した。


「ご丁寧にありがとうございます。私は執事のようなことをしているハヤトです。」

「ハヤトさん?」

「はい、そうですが、どうかされましたか?」


名前が聞き取れる?


「あ、彼も異世界から来たんだよ」

「え!?」


話してみると、共通項は多いけど、微妙に世界観がずれていた。

言語はそのまんま日本語で、歴史認識が異なる世界。

そしてここは私の知る世界ではないようだった。


「そろそろ家に入らないかい?」

「あ、はい」


いつまでも入り口で話していても仕方がない。


「どうぞこちらへ」


案内されるまま入り口の奥に有る階段を上がり、ついていった 。

ハヤトは複数の女性に声をかけ、私のことを頼んでいた。


私はメイドさんのような女性に話しかけられた。


「△○□※◇○▽▽○▽▽△※□」


あれ?またわからない。

彼女は一生懸命何か話しているが言葉がわからない。


「ごめんなさい。言葉がわかりません」


すると彼女はハッとした顔をした後、何処かへ行ってしまった。


悪いことしたかなぁ。

さっさとわからないと言うべきだったかなぁ。


ドアの前で途方にくれていると、先程の彼女と一緒にルーがやって来た。


「ごめん、ごめん、これかけて」


ルーは私にクリーム色の玉がついたペンダントをかけた。


「もう大丈夫ですか?旦那様。こちらのお嬢様のお名前は何とおっしゃるのですか?」

「彼女はリリー。面倒見てくれる?」

「かしこまりました。」


翻訳システム!?すごいなこのペンダント。


私は目を見張った。


「リリー様、お世話させていただくマーサと申します。何でもおっしゃってください」

「は、はい、お願いします!」


私は勢い良く頭を下げた。

ルーもマーサもニコニコしていた。


マーサに部屋に案内され、ティーテーブルの椅子に着席すると紅茶のような物を出された。


「リリー様はもしかして異世界からお越しですか?」

「そうみたいです」

「それはさぞ心細いことでしょう。私に何でもおっしゃってください。知っている限りお答えします」


力強いマーサの言葉に、ふと気が緩んだのか涙がこぼれた。


「ありがとう。頼りにしまs・・・」


最後まで声にならなかった。


「だ、大丈夫ですか?何処か痛いですか?」


マーサが心配そうにこちらを見ている


「ううん、どこも痛くないです。もう帰れないのかなと思ったら急に・・・」


年甲斐もなく泣いてしまった。

マーサは綺麗なハンカチを差し出したあと、ずっと私の肩をさすってくれていた。


少しして私が落ち着くと


「食べ物の好き嫌いや注意することはありますか?」


と、聞かれた。

がしかし、まだ何も食べたことはないし、物が同じかどうかもわからない。

私は考えたあげく、そのまま答えることにした。


「私の居た世界と食べ物が同じものとしてですが、鶏肉が好きです。アレルギーの為に海老と蟹が食べられません。」


異世界に来たなら食べられるようになれば良いのにと思いながら答えると


「アレルギーとはなんですか?」


あ、アレルギーの概念はないのかな。

何と言うべきか。


「その人にだけ毒になるものです」

「そんなことがあるのですね!」


伝わったようだ。良かった。


「鳥も、海老も、蟹もわかります。多分同じものです。ハヤトさんはアレルギー有りませんでしたけど、食べ物は同じって言ってました」


あーなるほど。先人が居るから理解が早いのね。

先程ハヤトさんに聞いた感じだと、ハヤトさんが居た世界は明治か大正か、そのくらいの世界観だった。

あの頃にアレルギーの概念はないのかもね。


「ハヤトさんと話しますか?」


考え込んでいたせいで気を使わせてしまったみたい。


「落ち着いてから話してみます。ありがとう。」

「それでは、何かございましたら何時でもお声がけください」

「はい」

「失礼します」


マーサが退室し部屋に一人になった。


見回すと結構広い室内は、ホテルのスイートルーム?と言わんばかりの豪華な部屋だった。

ここから見えるドアが三つ。

ひとつは出入り口。先程マーサが退室したドア。

ひとつは寝室だった。大きめなベッドがあった。

もうひとつ、開いてみると大きめの机がある書斎のような部屋だった。


書斎のような部屋の本棚に有る本を開いてみたが、当然読めなかった。

見たこともない文字だった。

地球の文字だって全てを知っている訳ではないけれど、とりあえず知らない文字だ。


わかっていたのに、何処かまだ期待していたのかもしれない。


異世界転生とか、異世界転移とかの物語は沢山読んだけど、異世界に来てこんなにウジウジしているのは私だけかもしれない。

みんなどうして強くいられるんだろう。


残してきた家族のことが思い出される。

息子は元気かな。心配してるかな。

私は失踪者なのかな?死亡者なのかな?

一人考え込んだ。



書斎のような部屋を出ると、お茶を飲んだテーブルから見えなかったドアを見つけた。

中に入ってみるとシャワールーム?と、トイレだった。


時代考証的に、私が居た地球と変わらない気がする。


部屋の中を探検した私は先程のティーテーブルに戻ってきた。

残っていたお茶を飲もうとしたところ、


「失礼します」


ドアの外からマーサが声をかけてきた。


「はい、どうぞ」


部屋に入ってきたマーサはあわてて


「新しいお茶をお入れします」


と、ポットを持ち上げた。


「いえいえ大丈夫です。冷たいのも美味しかったです」

「左様ですか?遠慮なさらないでくださいね。」

「何かありましたか?」

「お夕食のご案内に参りました」

「ありがとうございます」

「メインダイニングと、お部屋と、どちらで召し上がりますか?」


どちらが良いだろう?

マナーとか有るのかしら?


「メインダイニングで食事するのは誰と誰ですか?」

「ご主人様とハヤトさんと、リリー様さえ宜しければ私もご一緒いたします」

「あれ?妹さんがいらっしゃるのでは?」

「ミューゼェニア様もご一緒で宜しいのですか?」

「宜しいも何も、3歳は同席しないものなのですか?」

「いえ、普段はご一緒ですが、来客が有るときは別にされていらっしゃいます。」

「なら、是非皆さんとご一緒させてください」

「かしこまりました」


マーサは礼をすると下がっていった。

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