第8話 女だったのね
その後、毎日沙織の所へ通い、とりとめもない話をして、たまに夢見の魔法を使ったりして、そんな感じで時は過ぎ去って行った。そうして悟は夏休みに入った。
――そういえば、京子は夏休みになれば、病院へ行けると言ってたなあ。電話して誘ってみるか。
悟は自宅の電話から京子の家へかける。
「――もしもし。……ああ、おばさん、お久しぶりです。京子さんはいらっしゃいますか」
京子の母にそう言って、しばらく待つと、京子が電話に出た。
「何々? 自宅の方にかけてくるなんて珍しいじゃん。何かあった?」
「いや。特に何もないんだけど、なんとなくね。――それでさ、京子。今日は一緒に病院に行ける?」
「うん、行けるわよ。何、おばあちゃんのお見舞い?」
「うん、それもあるんだけど。前言ってた雪峰さん。雪峰さんに会わせたくってさ。友達になってあげると嬉しいんだけど」
「わかったわ。いいわよ。――それじゃあ、どこで待ち合わせる?」
「じゃあ……」
悟達は待ち合わせ場所と時間を決めて、一緒に病院へ行った。
病院へ着くと京子は言った。
「そういえば初めてかもしれないわね。おばあちゃんが入院したって聞いてから、でもろくにお見舞いに来てあげることもできなかったし。――それで、どっちの方を先に行くの?」
「おばあちゃんの方」
「了解」
二人は受付を済ませて悟のおばあちゃんの所へ行った。
「まあ! 京子ちゃん、久しぶりねえ。こんなに大きくなっちゃって」
「ごぶさたしてます、おばあちゃん。――でも私、そんなに大きくなりましたっけ?」
「ほら、言わなくてもわかるでしょ? ボンキュッボンになっちゃってまあ」
「もう、おばあちゃんったら……」
京子は少し恥ずかしくなった。
「おばあちゃん。同性とはいえ、セクハラじゃないの?」
悟はツッコミを入れた。
「細かい事はいいのよ。アッハッハ!」
おばあちゃんは病人らしからぬ元気さで笑った。
その後、三人で語った。京子と悟の学校での話。おばあちゃんの病状の話。いろいろした。そして語り尽くしたのでお開きとなった。
「それじゃあ二人共、またいらっしゃいね」
「はーい。また来ます」
「うん。またね」
そうして京子と悟の二人はおばあちゃんの病室を後にした。時間はお昼になっていた。
病院の廊下で悟はボソッと言った。
「お昼ご飯、どうしようか?」
すると京子はリュックから包みを取り出した。
「任せて。お弁当作ってきたんだ。一緒に食べましょ」
ニコッと笑う京子。
「ありがとう。気が回るね、京子は。それじゃ屋上で食べようか」
「うん」
二人は夏の涼しい風が吹く病院の屋上で昼食を摂った。
そうして二人は雪峰さんの病室へ向かった。
道中で京子が聞く。
「その雪峰さんってどういう子?」
「かわいい子だよ。――あと、名家のお嬢様だって言ってたかな」
「ふーん。そうじゃなくって、性格的な事は?」
「うーん……。人に心配されるのが嫌だみたいなことを言ってたね。優しい人だと思うよ。あと、人を笑わせるのが好きなところもあると思う」
「へえ。そんな感じの人なんだね」
そう話してる内に着いた。
病室に入った二人は雪峰さんに話しかける。彼女は読書中だった。
「やあ、雪峰さん。僕の友達を連れて来たよ」
「うん? ああ、直井くん、こんにちは。そちらの女の子は?」
「こんにちは。初めまして。私、三泉京子といいます。悟とは幼馴染で長い付き合いをしているの。よろしくね」
「よろしく。――悟ねえ?」
「ん? 何か変なこと言ったかしら」
「いえ、別に。仲が良いのねと思って」
「まあね。――あっ! その本、『星の王子さま』だね?」
「うん。これ、もらい物なんだ。直井くんの友達から貰ったんだけど……」
「あっ。それ私」
「へえ。てっきり男の子の友達からかと思っていたわ。でもありがとう。この本、少し面白いわ。今、バオバブの木が危ないって所」
「そうでしょう? 私のお気に入りなんだ。楽しんでくれると嬉しいわ」
悟は口を開いた。
「それで二人は友達になれそう?」
京子と沙織は首をひねった。
沙織が言った。
「どうかしらね? ――ちょっと二人だけにしれくれるかしら、直井くん?」
「二人だけ? その方が会話が弾む?」
「ええ」
沙織がそう言うので、悟は一階の自販機まで一人で散歩しに行く事にした。
悟が病室を出ると、すぐに沙織は口を開いた。
「京子さん? あなたは直井くんと下の名前で呼び合ってるの?」
「うん? まあね。十年来の付き合いになるかしら。私たち、幼馴染なのよ」
「へえ……。ずいぶんと仲のよろしい事で」
「雪峰さんも悟と仲良いんじゃないの?」
「まあ、ここ最近はね。でも十年には勝てないかもしれないわ」
「あはは。十年って言っても、特に特別な事はないから、濃度としては薄いわね」
「へえ、そうなのね。――――ところで、京子さんは、悟くんのこと、好き?」
「うーん、普通かな。嫌いじゃないわ」
「二人は付き合ってるの?」
「まっさかー! そんな事ないわよ? ただの友達」
「そっか。私と一緒ね。クスッ」
「あっ。やっと笑ったわね。フフッ」
二人がそうやって笑い合っていると、悟が帰って来た。
「あれ? 二人とも、笑い合ってる。もうそんなに仲よくなったの?」
「ええ、まあね」
口を揃えて答える女の子二人。
その後、三人は学校の話などをして盛り上がった。黒ひげ危機一発もやった。
そしてお開きになった後、沙織は本を眺めながら、物思いに耽るのだった。