第4話 猫
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「京子。病院の事なんだけど、雪峰さんは平日なら来ていいよって言ってたよ」
「平日かあ。――私、今平日はバイトしてるんだよね。夏休みまで待って」
「わかった。そう伝えとくね」
「行けない代わりと言っちゃアレだけど、これあげる」
京子からクッキーの包みをもらった。
「お菓子か。たぶん間に合ってると思うんだけど……」
「あら、そう? じゃあ、どうしようかしら。――これでもあげるわ」
京子はカバンから一冊の本を出した。
「『星の王子さま』?」
「うん。面白いわよ」
「ふーん。確か本は少なかったと思う。これ、ありがたくもらって行くね」
「よろしく伝えといてね」
「うん」
僕は放課後、また病院へ向かった。
「はい、これ。僕の友達から。面白いってよ」
「へえー。星の王子さまね。有名だけど、読んだことはなかったから、助かるわ」
「さて、今日は何する?」
「そうね。また夢を見させてよ」
「いいよ。どんなのがいい? 鮮明にイメージできるといいんだけど」
「猫になりたいなあ」
「猫になるだけ? 猫になって何がしたい?」
「優しいおばあちゃんに愛されたいなあ。膝の上で寝たい」
「ふーん。わかった。やってみるよ」
「よろしくねー」
僕は再び雪峰さんの額に手を触れて祈る。
私の体は猫になっていた。猫になって住宅地を歩いていた。道に白い線が見える。この光ってる道を行けばいいのかな。
行くと一軒の日本家屋があった。裏庭の茂みから入って縁の下へ行って鳴く。
「ニャー!」
「――はーい」
奥から優しそうなおばあちゃんが出て来た。
「今、ごはんをあげますからねえ」
おばあちゃんの手からごはんを食べた。
ぴょいと正座しているおばあちゃんの膝の上に乗った。何だか眠気がしてきてあくびをした。おばあちゃんは優しく背中を撫でてくれた。
すやすやと眠っているうちに陽が射してきた。
「お昼寝にちょうどいいわねえ。日も射してきて、あたたかいわねえ」
まるでお日様とおばあちゃんと一体になったかのような感覚になる。何だか幸せだ。
やがて時は過ぎて日は落ちた。
大きなあくびを一つして、おばあちゃんにありがとうと、優しくしてくれてありがとうと一鳴きして、おばあちゃんの瞳を覗き込んだ。
その瞳はとても澄んでいて、ずっと見ていると、この世界にはこの人だけ居ればいいとさえ思えてしまった。
おばあちゃんは立ち上がり、電気をつけた。その光に視界が白んでいく。
もう時間なのかな。
「それじゃあ猫ちゃん、また明日ね」
「ニャー」
また明日ね。そう人の言葉で返せたらどれだけ良かったか。小さな後悔と大きなありがとうを胸に、夢は終わった。
「――ねえ、何だか最後、悲しい気持ちになったんだけど。楽しい夢って言ったよね。私、抗議します」
「ごめん。僕が見せられる夢はイメージが主なんだ。心の内容まではまだ決められないんだ」
「ふーん。それって練習したら上手になるものなの?」
「うん。おばあちゃんからはそう聞いてるよ」
「なら、もっと私で練習してください。これは命令です」
「うん、わかった。一応、妹でも練習してるんだけどね」
「へえ。ならもっと上手くなりなさい」
雪峰さんはベッドシーツを口元まで上げて少し拗ねたように言うのだった。
「うん。次は楽しい夢を見させられるように頑張るね」
「はい、これ。あげる」
「おっと。……メロン?」
「私じゃ食べきれないから」
「そっか。ありがとう」
「そういえば直井くんはどうしてここに来るの? ご家族が入院されてるの?」
「うん。おばあちゃんがちょっとね」
「そっか。じゃ、それ、おばあちゃんと食べなよ」
「そうするよ。ありがとうね。じゃ、また」
「うん、またね」
僕は雪峰さんの病室を出て、祖母の病室へ向かった。
「おばあちゃん。来たよ」
「あら悟。ようこそ。あらまあ、メロンなんか持ってどうしたの?」
「うん、もらったんだ。一緒に食べよう」
僕はメロンを切り分けた。
「ねえ、おばあちゃん。楽しい夢を見させるにはどうしたらいいかな?」
「簡単だよ。楽しかったことを思い出してごらん。その時に感じていた気持ちで夢を作るんだよ」
「楽しかったことかあ。――バスケと卓球とゲームしか思いつかないなあ」
「ほら、もっとあるでしょう? 海から見た夕日が綺麗だったとかさ」
「そういう感じか。華厳の滝を見た時とか虹を見た時とか、楽しかったかな」
「そういう時の想いを基にして作るんだよ」
「うん。ちょっと雪音で頑張ってみるね」
「頑張りなさいね。夢見の魔法で人を助けてあげるんだよ」
「うん。ちょうど助けたい人が同じ病院に居る」
「そうかい。面白いこともあるもんだね」
その後、僕とおばあちゃんはメロンをつついいて過ごした。
「またおいでね」
「うん」
僕は家へ帰った。
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