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第3話 魔法

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「それで、おばあちゃんは枕の下に敷くって言ってたよ」

「えっ、そうか。なら、それ用のものを書いたのに。アレはあくまでも観賞用だからなあ。――よし。今から一つ描こうか。待ってろ」

 そう言っておじいちゃんは書道具で一筆描き始めた。

「何これ」

「これはフトマニ図じゃな。それの龍体文字バージョンじゃよ。これなら枕の下に敷いてもバッチリじゃろう」

「ふーん。効果は迷信?」

「迷信かどうかは使ってみなけりゃ分からん。さっ、持ってっておくれ」

「うん」

 おじいちゃんはフトマニ図をラミネート加工して持たせてくれた。明日の放課後、またおばあちゃんの所へ行こう。そしてついでに雪峰さんの所にも行って京子と友達になってくれるかどうかも聞いてみなくちゃな。


「おばあちゃん、また来たよー」

「おう。よく来たねえ」

 僕は懐からフトマニ図を取り出した。

「はい。これ、おじいちゃんから。フトマニ図って言うんだ。枕の下に敷くならこっちね」

「うん? またあの人はわけの分からんものを……。まあいい。分かったよ。今、枕の下に敷いてるやつ――フキニだっけ――はどうすればいい?」

「おじいちゃんは観賞用だって言ってたから眺めればいいんじゃないかな。ついでに音読すると良いらしい」

「ふーん。せっかく悟がふりがなを振ってくれたんだからね。じゃあこれから毎日音読することにするよ」

「うん。それで、ところでおばあちゃん――――魔法のことなんだけど」

「萩尾家の夢見の魔法のことだね。どうしたんだい?」

「久しぶりに見させてくれないかな、何か」

「うん、そうだね。何が良い?」

「また鳥になる夢がいいなあ」

「わかった。こっちへ来て。――さあ、目を閉じてごらん」

 僕はおばあちゃんのベッドへ上半身を倒し軽く寝そべって、おばあちゃんに顔を向けた。おばあちゃんは僕の額に手を置いて祈るように目を閉じた。

「――さあ、おやすみ」

 僕はやがて夢の世界へと誘われた。


 気がついたら僕の身体は鳥になっていて、空を飛んでいた。僕は今、鳥の群れの中に居る。前の鳥を見るとかもめが飛んでいた。改めて自分の身体を見ると、僕もかもめだった。

 かもめの群れは黄金こがね色の雲の下、太陽を目がけて飛んでいた。

 太陽の光線が一番の先頭のかもめに当たる。そのかもめは全身が白色から徐々に黄金おうごん色に変わっていった。黄金のかもめだ。そう思っていたら、先頭からオセロの黒を白に変えるように、順番に後ろの方まで、全身を黄金に染めていく。どうしてあんなことができるんだろう? そう思っていたら突然、肌で分かってしまった。自分が黄金のかもめになる方法が。鳥肌が立った。それは心一つなのだ。心の使い方で体が変わる。そう思っているうちに僕の番が来て、僕は周りのかもめと共に共鳴するように黄金のかもめに成り変わった。

 次はどうするんだろうということも分かった。

 僕たちはあの太陽の心の世界を目指して飛んでいるんだ。

 群れのすべてのかもめが黄金に変わった時、心も一つになって、何でもできると思えた。そうだ。僕らはあの太陽の抱いている世界まで一っ飛びするんだ。

 散らばったおはじきを一つの所に集めるようにして集中して、僕らは飛んだ。

 気づくと眼前には砂浜と海と、沈むオレンジの太陽があった。僕らは砂浜に降り立って沈む夕日を見ていた。やがて景色が茜色に染まって、その赤色以外何も見えなくなった。


 気づくと僕は夢から覚めていた。

「ありがとう、おばあちゃん。今回の夢は何だか不思議だった。かもめが次元上昇するような感じで……」

「うん。『かもめのジョナサン』っていう本があってね。それを私なりにオマージュしてみたのさ」

「そっか。――――ねえ、おばあちゃん。僕にもあんな鮮明な夢を見させることができるかな?」

「ああ、もちろん。夢の景色を鮮明にイメージすることだよ。雪音ちゃんで練習してみな」

「わかった。雪音には結局、夢見の魔法は使えないの?」

「夢見の魔法の素質は十才までに開かれる。雪音ちゃんはちょうど十才だね。今年開かれなければ、使えないね」

「そっか。うん、今日はありがとうね。久しぶりに夢を見られて良かったよ」

「うん。このフトマニもありがとうね。またおいでね」

 僕はおばあちゃんに「さよなら」をして病室を後にした。


 僕はスロープで降りて雪峰さんの病室に着いた。

「どうぞ」

「やあ、また会ったね」

「直井くんだ。ようこそ。――お菓子食べる?」

「うん、そうだね。一口いただこうかな」

「ねえ、聞いて聞いて。昨日、小学校の時の友達が久しぶりに会いに来てくれたんだ――」

 僕は雪峰さんの話を聞き、他愛もない話をしていた。僕はふいに「悩み事はないの?」と聞いた。

「最近の悩み事かあ。ずっと同じ夢を見るんだよねえ」

「夢? それって、どんな夢?」

「えっとねー。私が死んじゃって棺桶の中に私の体があってね、私の家族が私の体を見て悲しむんだ。悲しむ必要は無いよって言うんだけど、どうもこちらの声は届いていないみたいなんだよね。それで延々と皆が私のために泣くのを黙って見ているしかない夢。――私、嫌なんだ。人に、自分のせいで悲しまれるのって」

「泣いてもらえるだけマシだよ。大切に思われてるって事なんだから」

「あはは。そうかもねー」

 僕の心の中をおばあちゃんの一言が響いていた。

――夢見の魔法は困っている人が居たら使ってあげなさい。夢を見させることしか能にない魔法だけどね。それでも救われるときは救われるんだ。

 僕は夢見の魔法が使える。僕の見せる夢で雪峰さんが同じ夢から解放されるなら、使うべきだ。僕は意を決して言う。

「――ねえ、僕が魔法を使えるって言ったらどうする?」

「えっ、使えるの? 何々。氷系?」

「残念ながら氷系の魔法ではないんだけど。……夢見の魔法って言ってね。好きな夢を見させられるんだ。雪峰さんはどんな夢が見たい?」

「夢ねえ。何でもいいけど、とりあえず、今度同じ夢を見たら笑えるように、そんな夢が見たいな」

「うーん。難しいな。どうしたら笑える?」

「――棺桶の中の私のお尻から延々と菊の花が出て来たり、頭上から遺書が降ってきて、そこに『泣く奴はみんなバカばっか。泣いてないで上見て笑え。私はそこにいる』って書かれてたりとか……」

「ふむふむ。とりあえずその路線で行ってみようか」

「よっしゃ、バッチコーイ!」

「じゃあ、寝そべって目を閉じて」

「アイアーイ」

 雪峰さんはベッドに寝そべって目を閉じた。その光景があまりにも無防備だったので僕は――鼻をつまんだ。

「ふがっ! 何? これが魔法?」

「ごめんごめん。違うよ。今から本番やるね」

「うん。えへへ」

 雪峰さんはまた目を閉じた。僕は額に手を当てて祈るように目を瞑り、雪峰さんに見せる夢の内容を鮮明にイメージし始めた。


 気づくと私は夢を見ていた。

 まただ。また葬式の夢だ。みんなが私のことを見て悲しんでいる。私は人が悲しむのを見るのが一番イヤだ。このまま夢はまた同じ結果を出すのだろうか?

 すると突然、空中からヒラヒラと一枚の紙が落ちてきた。それには遺書と書かれていた。みんなは驚いてそれを見る。遺書を開くと大きな字でこう書かれていた。


  みんな泣く奴はバカばっか。私の体を見て泣いて何が楽しいの。私はそこには居ないよ? 上を見て笑いなよ。そこに私は居るから。


 泣いていた兄の聡は涙をぬぐい、上を見上げた。遺書は手から手へと渡り、やがて上を向く人が増えた。

 すると突然、葬式場のスピーカーがハウリングした。直井くんに出番だよと言われた気がした。

「アーアー。メーデー。マイクテスト、マイクテスト。――――皆さん、お聞きください。私は死にました。以上。私はそこの肉体ではありません。なのでこれ以上悲しまないように。――――死人に口ありでごめんね☆」

 死んだはずの私の声を、スピーカーから聞いた皆はポカーンとしながらも、新しい死の形を受け容れて、果たして泣く人は一人も居なくなった。

「皆さん、笑顔でお幸せに。それではまたどこかで」

 チーンと鈴が鳴った。

 みんなは上を向いて笑って合掌した。

 お尻からは密やかに菊の花が出続けていた。

 映画のフィルムが終わるように映像が途切れて夢は終わった。


「――何だか変な夢だったね」

「ごめん。僕の力不足だったかもしれない」

「ううん、いいの。気が晴れたから」

「そっか。よかった」

「ねえ。直井くんはいつもどんな夢を見るの?」

「見ないよ。全く。――夢見の魔法が使えるようになると、代償に夢を見なくなるんだ」

「そうなんだね。それはそれで安眠だね」

「夢を見るのが懐かしいと思うことがあるんだ」

「直井くんはもう一生夢を見ることはできないの?」

「いや、できるよ。僕のおばあちゃんも夢見の魔法が使えてね。たまに見させてもらうんだ」

「へえ。――ねえ、また夢を見させてよ。今度は楽しいやつをさ」

「うん、わかった」

 僕は雪峰さんから飲み物をもらって一口飲んだ。

「あ。一応、魔法のことは他言無用でね」

「アイアイ。了解でありますー」

「あ、それと一つ聞きたいことがあったんだ。僕の友達と会ってくれる? そしてその子と友達になってくれる? きっと楽しい話ができると思うんだ」

「私は構わないよ、平日であればね」

「わかった。平日だね。そう伝えとくよ」

「ところで――ジャーン、ドーン! 直井少年、これをやろう」

 出て来たのは囲碁と黒ひげ危機一発だった。

「将棋なら出来るんだけどなあ。まあいいや」

 僕と雪峰さんは時間が来るまで遊びに集中したのだった。


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