第2話 友達
翌日、僕は高校へ行った。
「おはよう」
僕はクラス内の友達に声をかけた。
「よっ、悟」
「おはよう、悟」
幼馴染の女の子でポニーテールの三泉京子が僕に問いかけてきた。
「悟。おばあちゃんの様子はどうだった?」
「いつもと変わらなかったっよ。まだ時間がかかるかもね。――いつも遊びの誘いを断ってごめんね、京子」
「ううん、いいのよ別に。いつも通りで安心したわ」
「そういや今日は国語の小テストだっけか?」
「ああ、そうだったね。範囲どの辺だっけ、健太?」
僕は友達の三草健太に聞いた。
「ページ33から35だな」
「ありがとう」
教科書のページを繰って――ふむ、どれどれ――と考えているときに京子が口を開いた。
「ねえねえ、今日の放課後、久しぶりに遊びに行かない?」
「おっ、いいねえ。悟はどうだ?」
「そうだね。いいと思うよ」
「やった! じゃあ決まりね。今日はダコールにしよう」
僕の住む町の隣駅には「ダコール」というカラオケとボーリングとバッティングセンターが一つになった施設がある。
「小テストの前に、勉強の話をしないで遊びの話をするのはどうかと思うな」
僕は優等生っぽいことを言った。
「バッキャロ。遊びが待ってるって分ったら本気出して勉強できるんだろうが!」
健太が力説した。
「そういうもんかね?」
馬の鼻先のニンジンというやつか。
「私は昨日のうちに勉強終わらせといたから関係ないわね」
僕と健太は、京子に出そうな所を聞いて勉強した。
そして無事に小テストを終え、放課後がやってきた。僕たちは歩いて駅に向かい、電車で隣駅に行き、そこからまた歩いてダコールに着いた。
「まずはバッティングから行こうぜ」
「おー」
「さんせー」
三人でバッティングセンターに来た。球速が一番速い所には先客が居た。僕と京子は端の球速の遅い所へ、健太は中速の所へ行った。
僕はバットを構えて思う。
――今日こそはヒットを打ちたいな。
一球目の球は空ぶった。二球目の球も空ぶった。三球目は果たして、やっとバットに当たったが、鈍い音がして変な方向へ飛んで行った。その後も鳴かず飛ばずだった。唯一良いなと思った球はピッチャーの頭らへんに飛んで行った。現実だったらピッチャーに捕られてアウトだ。バッティングセンターに来て毎回思うのは、自分には野球の才能は無いということだった。
僕はバッティングをすぐに止めて、隣の京子の所へ行った。
甲高い音を立ててボールが良く飛んで行く。
「――いつも思うけど、京子は野球部でもないのに野球が上手いね」
「こんなもん、シュっと来たらスッと振ってカキーンよ」
「はいはい。そうですか」
いつもの分からない説明だった。きっと感覚派なんだろう。
その後も、京子の揺れるポニーテールを見て過ごした。
さっきからすごい数のホームランを打つ人が居るなと思ったら、それは健太ではなく、一番速い所で打ってる人だった。
「なあ悟。お前、ちょっと聞いてこいよ。どうやったらあなたみたいに上手くなれますかってな」
「うーん。それもそうだね」
僕はホームランを連発している人の所へ行って話しかけた。
「――あの、すみません! ちょっとお時間よろしいですか?」
男性は一時停止ボタンを押してこちらに振り返った。
「ん? 何だね」
「どうしたらあなたみたいに野球が上手くなりますか?」
「ふむ。簡単だよ。ボールが来たら、その一瞬を見極めてバットを思い切りよく振る。結局はそのシンプルな答えになるな」
「はあ」
京子と同じだ。この人も感覚的で、アドバイスが全く参考にならない。
「ありがとうございます。まあ、なんとかやってみます」
「うむ。頑張りたまえ」
僕は健太たちの所へ戻った。
「何だって? 悟でも上手くなれそうか?」
「京子と同じ。ちょっと難しそうだね」
「そうか……」
「なら移動する?」
京子の提案を受け入れて僕たちは次はボーリング場に来た。
「――よっしゃ! スペア」
「ふふん。ストライクだ」
僕は野球の時とは打って変わって、ボーリングには才能を少し感じる。
「あー。一本残ったわ」
僕たちは同じくらいの力量でゲームを楽しんでいった。
「――それで、この前おばあちゃんを見舞いに行った時の話なんだけど、雪峰さんっていう女の子と知り合ったんだ」
「へえ。かわいい子?」
「かわいいと思うよ」
「いいわね」
「京子も会う? 友達になってあげると、きっと喜ぶと思うんだ」
「その子が会っても良いって言うならね」
「わかった。今度聞いてくるよ」
京子と雪峰さんが友達になったら、女の子同士で楽しい話もできると思うんだ。きっとそれは雪峰さんにとって良い事だと思う。
僕は――今度雪峰さんに予定を聞かなくちゃな――と思いながら、ダコールでの遊びを終えて、皆で帰路に着くのだった。