#3 人生の転機は突然に。
そのあとの事を話そう。
俺がうっぷうんを晴らすように冒険者が嫌い嫌いと言い続けたからか、冒険者で賑わっていた酒場からは人が減って行った。あの時何もできなかった冒険者はよっぽどバツが悪かったのだろう。
今店内には常連の客数人と、伸びたまま目を覚まさない銀翼の翼の三人だけになっている。
こいつらにはかなり強めに打撃を入れたからまだまだ目を覚ますことはないだろう。
「坊主。本当にありがとうな。」
おっちゃんは、そう言いながら俺の手を握りながら何度もペコペコと頭を下げている。
俺にはこれ以上に恩があるのでこんなにかしこまられるのは困るのだが。
「おっちゃん頭を上げてくれよ。これでもおっちゃんに受けた恩の十分の一も返せてないって。」
「そんなことねえ!娘よりも大切なもんなんてねえんだよ!。」
その助けた娘のシェリーはというと女将さんと一緒に店内の片付けをしている。あんなに怖い思いをした後だというのに何事もなかったかのように振る舞えるのには感心しかない。
今も泣き顔のおっちゃんと普段と変わらぬ顔をしている女性仁ふたりを見ると女性の強さをひしひし感じるな。
「お兄さんは随分強いんだね。」
突然話しかけられ驚きながら振り返るとカウンター席に座る常連客の一人だった。
フードを深く被り顔がよく見えないが声から女性である事はわかる。
グラス片手に話しかけてくる仕草にはどこか風格というか、威厳というかそういったものが備わっている。
「いや、そんな事ないですよ。まだまだ世の中には上はいますからね。確実に一人は知っていますしね。」
「謙虚は美徳ではあるが謙遜のし過ぎは醜いものだ。しかし、お兄さんの言葉からは強い確信を感じるからあながち謙遜のし過ぎというわけでもなさそうだね。」
そう言いながらその女性は俺の空になったグラスに酒を注ぐ。
「先ほどの戦いに。」
そう言われてしまえば、俺にこの酒を断る理由は無い。師匠からも、女性からの酒は断るなと教えられたし。
ぐいっと一息に飲み干すとかなり度数が高かったのか胸あたりが熱くなる。
「いい酒でしょう。このお酒が置いてあるのは帝都ひろしとも言えど数少ないんですよ。さて、あなたのことをお姫様がお待ちですよ。あまり女の子を待たせないようにね。」
そう言われ、厨房の方へ振り向くとシェリーが何とも言えない表情でこちらの様子を伺っていた。
店内の片付けも終え話かけるかどうか迷っているのだろう。
「お姉さん。ありがとうござ・・・・・」
感謝のお礼を言おうとカウンターの女性の方へ振り返った時には既にそこに姿はなくカウンターにからのグラスと金貨が一枚置いてあるだけだった。
彼女の素性も何もわからないままだったがまた縁があればどこかで出会うだろう。
「ロイ。ちょっといい?」
そんなことを考えていると先ほど目のあったシェリーが話しかけてきた。
「ん?ああ。それよりも怪我とかはないか?随分強く引っ張られていたように見えたけど。」
「うん。それは平気。ロイが助けてくれたから。」
「それは何よりだ。これで俺の受けた恩の少しでも返せればいいんだけどね。」
「返すどころか次はこっちが返す番になっちゃったよ。」
そう言ってシェリーは可憐な笑を浮かべる。
この笑顔を守れたのなら刀を抜いた価値が有るってもんだ。
「それでね。ロイに相談があるの。」
「なに?できる限りの手伝いは任せてくれ。」
「ここはちょっと暑いから外の空気でも吸いにいかない?」
場所を変えないといけないほど重大な話なのか少しドキドキするがシェリーに促されるままに外のデッキスペースに腰掛ける。
「それで相談ってのは?」
「あのね、もしよかったらなんだけど、ロイにはこれからも一緒にいて欲しいの!」
シェリーはそう言うと恥ずかしそうに顔を覆い「言っちゃった。」と小声で漏らしている。
これは告白か?しかし早とちりはよくない。良くないぞ俺。シェリーとは帝都に来てからほとんど毎日顔を合わせているし、仲はいいだろう。しかし惚れる要因はあっただろうか。先ほどの一件はそれほどのインパクトがあったかもしれないがそれはあくまで吊り橋効果だろう。あれだけで判断するのはよくない。
師匠にも「女の思わせぶりな発言には気をつけろ。自惚れは恥ずかしいだけだし、それ以外の時も大抵裏があるもんだ。」と教えられているのだ。冷静に判断せねば。
例えば一目惚れの可能性もあるかもしれないが。いやそれはないだろう。俺自身見てくれはそう悪くはないだろうが一目惚れされるようなほどに整ってはいない。
よしここは真意について素直に聞くのが一番だろう。
決して俺が意気地なしというわけじゃない・・・多分・・・
コンマ一秒にも満たない時間で思考を終え、俺はシェリーに直接聞くという結論を導き出した。
「ごめん。もうちょっと詳しく話を聞かせてくれない?それだけだと直ぐに答えはだせないよ。」
我ながら完璧な回答だろう。そう言うとシェリーは「そうだよね。」とつぶやき俺の方に向き直り言葉を続けた。
「ううん。こっちも言葉足らずだったから。説明するとね、ウチって実は結構こういう事が起きるんだー。それでね、お父さんとお母さんに相談してロイにこれから用心棒としてウチで住み込みで働いてもらいたいなって思ったの。特に今日はいつもよりも危なかったからお父さんなんか気が気じゃないみたいで・・・」
俺はシェリーの言葉を聞きながら、猛火亭の大変さに同情しながらも調子に乗って自惚れなくて良かったという感情の方が強かった。
「俺でよければ任せてくれ。」
そう答えるとシェリーの顔は晴れやかになり「じゃあ決定!お父さんたちに伝えてくるね!」と言うと店の扉に手をかけた。
「・・・じなし。」
「なんかいったか?」
「なんでもないよ!とにかくありがとうね!」
最後に何かつぶやいていた気がしたのだがよく聞き取れなかった。
とにかく俺はこれでようやく帝都に住むことができるようになったのだ。




